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第13話

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「はい、今日の練習はここまでよ! よく頑張ったわね」
「(ありがとうございました!)」

 エリー先生に深くお辞儀をしてお礼を言うと、いつものようにエリー先生をお見送りします。
 その時、今日はエリー先生が何かを思い出したように、「あっ!」と言うと、私に話しかけました。

「そうそう、クリスタが練習が終わったらダイニングに来るようにって言ってたわ」
「(ふんふん)」

 ダイニングに……あ、もうお昼の時間ですね。
 エリー先生に改めてお礼を言うと、私は見送りのあとにダイニングへと向かいました。


「──っ!!!」
 ダイニングに足を踏み入れたその瞬間、いきなり大きな声が聞こえてきて私は身体をびくりとさせました。

「お誕生日おめでとうございます!!!!」

 クリスタの声を筆頭に、他のメイドさんや執事さんも私にお祝いの言葉をくださいます。

「ローゼ、お誕生日おめでとう。こっちにおいで」

 私は戸惑いながらも呼ばれた通りお兄さまのほうへと向かいました。
 そこにはテーブル一面にたくさんのお料理やケーキが並べられています。
 素敵……でもお誕生日とは一体? そういえば私は自分のお誕生日を知りません。

「驚かせたかな? 実は君の本当の誕生日はわからないけれど、修道院にきた日付が資料にあってね。それが今日なんだ。だから今日をローゼの誕生日にしようと思うんだけど、どうかな?」

 私はあまりにも驚きの連続できょろきょろとしてはお兄さまをみて、またきょろきょろしてお兄さまをみての繰り返しをしてしまいます。

「これはみんなからのローゼへのお祝い、そしていつも頑張っているご褒美だよ」
「…………」

 もしかして、これを私に、ということでしょうか?
 私は自分自身をさしながらそのようにお兄さまに聞いてみます。

「ああ、そうだよ。全部ローゼの好きなだけ食べていいんだよ」

 なんてことでしょう……。
 こんな恵まれたこと、いいのでしょうか。

 私はお兄さまに差し出されたケーキを一口食べると、そのお皿をテーブルにおいて皆さんに向かってお辞儀をしました。

「(皆さん、本当にありがとうございます!!)」

 声に出せませんは気持ちは届いたようで皆さん笑顔でもう一度拍手をしてくださいます。
 お兄さまは隣から頭をなでなでしてくださいました。

 ああ、こんなに温かい環境が世の中にはあるのですね。



◇◆◇



 誕生日のお祝いをしていただいた夜、二回目となる社交界の参加のためにバーデン伯爵家へと向かっていました。
 今回はご当主ではなく、いわゆるご令嬢やご令息などの若い方々のパーティーだそうです。
 なので、お父さまは参加せずにお兄さまと私の二人で参加をすることになりました。

「今日もなるべく近くにはいるから、もし困ったことがあったらすぐに声をかけていいからね」
「(こくこく)」

 会場についてウェルカムドリンクをいただきますが、私はまだお酒が飲めないのでノンアルコールのものです。
 お兄さまがお酒を飲んでいるのを見て、早く私も飲んでみたいなと思いました。

「まあ、ローゼマリー様。先日のパーティーではお招きいただきありがとうございました」
「(こちらこそありがとうございました)」

「ローゼマリー様はどのようなドレスも似合いますわね!」
「(そんなっ! みなさまのほうがお綺麗です!)」

「ローゼマリー様、ぜひ僕ともお話を!」
「(ええ、ぜひ!)」

 皆さんたくさん声をかけてくださいます。
 やはり公爵家の令嬢というだけで皆の興味を引くのでしょうか。
 それとも前に言われたように、皆様思惑があって私にお話されているのでしょうか。
 いずれにしてもこんなにお話をしましょうと言われたことがなくて、頭が爆発してしまいそうです。


 しばらく皆さんとお話していたら、お兄さまが近くにいないことに気づきました。
 あれ、どちらに行かれたのでしょうか。
 なんとなく知らない場所に一人というのは不安で、お兄さまの影を探してしまいます。

 すると、バルコニーのほうにお兄さまの姿を見かけて私はそちらに向かって歩いていきました。

「(お兄さまっ!)」

 バルコニーに出る寸前で声が聞こえてきました。

「ラルス様、好きです」

 え……?
 私は気づかなかったのです、柱の陰に隠れて見えなかった女性の姿に。

 その女性はそう言いながら、お兄さまの胸へと飛び込みました。

「ユーリア」

 お兄さまがその女性の名前を呼ぶのを聞いた瞬間に、私は気づけは振り返って走り出してしまっていました。

「ローゼッ!」

 私のことを呼ぶ声が聞こえた気がしましたが、私は夢中になってパーティー会場を飛び出して走ります。

 そうだ、当たり前だ。そんなわけない。そんなわけないんです。あんな素敵なお兄さまに恋人がいないなんてあるわけないんです。


 私の初恋は誕生日に儚くも散ってしまったのです──
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