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第三章

第四十六話「恐怖」

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 結月は恐怖を感じた。
 自分自身の力の暴走を止められないかもしれないという思いがあったからだ。

 結月は恐怖を感じた。
 自分自身の力の出し方を忘れてしまったからだ。

 結月は恐怖を感じた。
 目の前にいる朔の姿をする敵に傷一つつけられないことに──


 結月は双剣を振るい、幾度となく相手を攻撃しようとするが、その攻撃は全て相手の持つ刀に吸い寄せられる。
 瀬那も同じく、攻撃全てが敵の刃へ向かい、傷一つつけることが叶わない。

「これだけ攻撃しているのにどうして……!」

(おかしい……一つも攻撃が身体に当たらない……)

 結月と瀬那は当たらない攻撃を打ち続けるのみだった。
 すると、その様子をみて魁が微笑みながら口を開いた。

「当たぬ、お前たちの攻撃は……。その魔夜はお前たちの主人である一条朔の魂の成分から作り出された立派な【分身体】。お前たちに一条朔への忠誠がある限り、攻撃は当たらぬ」

「──っ!」

 結月と瀬那はその言葉に息を飲んだ。
 朔の魂をこのような形で悪用されることに、はらわたが煮えくり返る思いだった。

「朔様の分身体……」

「あとは任せたぞ、魔夜」

「……」

 無言で結月と瀬那に攻撃を振るう魔夜。
 結月は受け身をとることしかできなくなっていた。

 攻撃ができない結月を瀬那が結界で守る。

「結月ちゃん、これはちょっとまずいんじゃない?」

「はい、厄介です」

「朔様の姿をされている以上、俺たちの攻撃があたらない」

「ええ、おそらく私たち自身の中にある朔様への【思い】がある限り、魔夜に攻撃はあたりません。それどころか魔夜はおそらく攻撃を吸収しています」

「じゃあ、攻撃するたびに……」

「はい、強くなる可能性すらあります」


 魔夜が瘴気をまとい、一気に刀を振り下ろす。
 その攻撃で瀬那の張った結界にひびが入る。
 壊れる寸前で二人はそれぞれ飛び退いた。

 魔夜は結月を狙って、刀を振るう。

(攻撃はひどく単調。だけど、単純に力が強い。それにこちらから攻撃をすれば私たちの【思い】に反応してさらに強くなられる)

 刃と刃がまじりあい、甲高い声が森に響く。
 結月は攻勢に出ることができず、相手の攻撃を受け流すことしかできないでいた。

 一方瀬那も同じく、相手の刃を打ち払うことと、結界で守ることしかできない。

 二人は完全に勝機を見いだせないでいた──


(考えろ、集中しろ)

 結月は攻撃を受け流しながら必死に打開策を見出そうとする。
 しかし、防戦一方の状態にも限界がきていた。

「──っ!」

「結月ちゃん!」

 相手の攻撃が結月の右肩を襲う。
 急いで飛び退くがかなりの深手を負った結月。

(──っ! どうすればいい……)

 朔の姿を悪用されていることへの怒りと何もできない悔しさが結月を襲っていた──
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