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第一章
第六話「見せかけ婚約」
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「…………はあ?!」
結月は思わず大きな声を出した。
「なっ! お前! 朔様に向かってなんて口の利き方をっ!」
赤く濃い服を着た、小柄な男の子が顔をあげ、声を荒らげた。
それを聞いた凛がすぐさま制止した。
「蓮人、控えなさい」
「──っ! 申し訳ございません……」
ばつが悪そうに小声で蓮人と呼ばれたその男の子が発言する。
静まったのを確認し、朔様と呼ばれたその男が言葉を発した。
「もちろん本当の婚約者ではない。見せかけだ。”やつ”をおびき出すための」
「”やつ”……?」
私の疑問に返答がかえってきたのは、私の真正面からではなく横からだった。
「それでは、朱羅をおびき出すための罠を張るということですか?」
朱羅と呼ばれたその人物が”やつ”なのだと気づくまで、結月は数秒かかった。
「数年”やつ”を探したが、”あれ”以降姿を見せぬまま。もはや、涼風を使うしかあるまい」
その場が静寂に包まれた。
結月は自分の置かれた立場がもはやわからなくなっていた。
端を発したのは、黒髪の長髪の男だった。
「朔様、それではこの娘を危険にさらすことになってもよろしいのですか?」
結月と朔以外の全員が、それを聞きたかったかのような同意の空気が流れた。
「構わん。死なせるほど、この綾城も一条も軟弱ではない」
「かしこまりました。それでは、兵の数や配置など再度検討し、宮廷の守りを固めます」
黒い髪の男があげた頭を再度下げ、すぐさま返答を返した。
結月はようやくそこで『自分の身が危なくなる提案をされた』ことに気づいた。
「あの……私、危険な目にあうのでしょうか……?」
結月は率直に朔に向かって聞いた。
「さっきの言葉を聞いていなかったのか? 綾城も一条も軟弱ではないといったはずだが」
「死なないことは保障されていましたが、それ以外はなにも保障されていないような……。あと、婚約者になるのとその”やつ”や危険が結びつかないのですが……」
朔がため息をつき、言葉を返した。
「どうやら俺の婚約者は頭が悪いらしい」
「なっ! っていうかもうわからないことだらけなのですが! もっとわかりやすく説明してくれますか?!」
結月は自分だけ置いてけぼりを食らったように理解できないことに嫌気がさし、ついに声を荒らげた。
「お前っ! 朔様に向かってなんてことをっ!」
「まあ、待ちなさい。私が話します」
再び結月に食って掛かる蓮人を制止して、凛が話し始めた。
「きちんと話していませんでしたね。彼は一条朔様。一条家のご当主であらせられます」
「──っ! 一条家の……ご当主……」
結月はとたんに理解した。一条家といえば、綾城を治める一族。
先代の一条家当主の時哉様が亡くなられてから、若いご子息が継いだと結月は聞いていたが、まさか彼だったとは思いもよらなかった。
まわりのこの場にいた男たちが敬い、話す様子も理解できた。
「そして、民衆は気づいていませんが、私たち人間は妖魔の存在に脅かされています」
「よう……ま……?」
「その妖魔の勢いが昨今増しています。その主たる要因が『涼風家の滅亡』と『朱羅の台頭』です」
「……? 待ってください、なぜそこで涼風家が……」
一呼吸置き、凛は言葉を発した。
「涼風家は『イグの行使者』の最も強い血筋の一つ。そして、その強大なイグの力を使っておこなっていたのが『妖魔退治』です」
「──っ!」
「つまり、涼風家の本当の役割は『妖魔を抑止すること』」
「そんなこと……お父様もお母様も一言も……」
「言っていなかったのでしょうね」
凛が話しているところで朔が口を開いた。
「涼風家は朱羅に襲われ、滅亡した」
結月は思わず大きな声を出した。
「なっ! お前! 朔様に向かってなんて口の利き方をっ!」
赤く濃い服を着た、小柄な男の子が顔をあげ、声を荒らげた。
それを聞いた凛がすぐさま制止した。
「蓮人、控えなさい」
「──っ! 申し訳ございません……」
ばつが悪そうに小声で蓮人と呼ばれたその男の子が発言する。
静まったのを確認し、朔様と呼ばれたその男が言葉を発した。
「もちろん本当の婚約者ではない。見せかけだ。”やつ”をおびき出すための」
「”やつ”……?」
私の疑問に返答がかえってきたのは、私の真正面からではなく横からだった。
「それでは、朱羅をおびき出すための罠を張るということですか?」
朱羅と呼ばれたその人物が”やつ”なのだと気づくまで、結月は数秒かかった。
「数年”やつ”を探したが、”あれ”以降姿を見せぬまま。もはや、涼風を使うしかあるまい」
その場が静寂に包まれた。
結月は自分の置かれた立場がもはやわからなくなっていた。
端を発したのは、黒髪の長髪の男だった。
「朔様、それではこの娘を危険にさらすことになってもよろしいのですか?」
結月と朔以外の全員が、それを聞きたかったかのような同意の空気が流れた。
「構わん。死なせるほど、この綾城も一条も軟弱ではない」
「かしこまりました。それでは、兵の数や配置など再度検討し、宮廷の守りを固めます」
黒い髪の男があげた頭を再度下げ、すぐさま返答を返した。
結月はようやくそこで『自分の身が危なくなる提案をされた』ことに気づいた。
「あの……私、危険な目にあうのでしょうか……?」
結月は率直に朔に向かって聞いた。
「さっきの言葉を聞いていなかったのか? 綾城も一条も軟弱ではないといったはずだが」
「死なないことは保障されていましたが、それ以外はなにも保障されていないような……。あと、婚約者になるのとその”やつ”や危険が結びつかないのですが……」
朔がため息をつき、言葉を返した。
「どうやら俺の婚約者は頭が悪いらしい」
「なっ! っていうかもうわからないことだらけなのですが! もっとわかりやすく説明してくれますか?!」
結月は自分だけ置いてけぼりを食らったように理解できないことに嫌気がさし、ついに声を荒らげた。
「お前っ! 朔様に向かってなんてことをっ!」
「まあ、待ちなさい。私が話します」
再び結月に食って掛かる蓮人を制止して、凛が話し始めた。
「きちんと話していませんでしたね。彼は一条朔様。一条家のご当主であらせられます」
「──っ! 一条家の……ご当主……」
結月はとたんに理解した。一条家といえば、綾城を治める一族。
先代の一条家当主の時哉様が亡くなられてから、若いご子息が継いだと結月は聞いていたが、まさか彼だったとは思いもよらなかった。
まわりのこの場にいた男たちが敬い、話す様子も理解できた。
「そして、民衆は気づいていませんが、私たち人間は妖魔の存在に脅かされています」
「よう……ま……?」
「その妖魔の勢いが昨今増しています。その主たる要因が『涼風家の滅亡』と『朱羅の台頭』です」
「……? 待ってください、なぜそこで涼風家が……」
一呼吸置き、凛は言葉を発した。
「涼風家は『イグの行使者』の最も強い血筋の一つ。そして、その強大なイグの力を使っておこなっていたのが『妖魔退治』です」
「──っ!」
「つまり、涼風家の本当の役割は『妖魔を抑止すること』」
「そんなこと……お父様もお母様も一言も……」
「言っていなかったのでしょうね」
凛が話しているところで朔が口を開いた。
「涼風家は朱羅に襲われ、滅亡した」
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