12 / 32
第一部
第12話 伯爵令嬢様の可愛いお願い
しおりを挟む
「ソフィ、本当にこれでよかったのかい?」
「ええ」
ソフィとジルの目の前には豪華なアフタヌーンティーセットが並べられている。
ルノアール邸の庭園にあるガゼボにて、二人はお茶会を開いていた。
「でもなんで『ジルの好きなものを一緒に食べたい』って言ってきたんだい?」
「だって、ジルっていつも私の好きなことばかりに付き合ってくれるでしょう? だから、今日は私がジルの好きなものに付き合うの! それで、一緒に美味しいもの食べたいな~って」
ソフィの細く白い指が、気恥ずかしそうにティーカップの持ち手をなでる。
ジルはくすっと笑ってソフィに微笑みながら告げる。
「ソフィらしい優しいお願いだ」
そういってジルは好物のタルトケーキを口に入れる。
それを見たソフィも同じものを取り一口食べると、口いっぱいに広がるいちごの甘酸っぱさに、顔がほころぶ。
「美味しい……」
「ああ」
紅茶を一口飲むと、ジルはいいことを思いついたというような顔でソフィを見つめる。
少し意地悪そうに笑うと、ジルのサファイアブルーの瞳が、ソフィを捕らえた。
「ん……」
ジルはソフィを見つめながら、自らの口を大きく開けてアピールをする。
「──っ!」
ソフィは瞬時にそれが「あ~ん」を要求されていると気づき、真っ赤になって照れる。
「ソフィ、お・ね・が・い!」
ジルは甘えたような声でソフィに「あ~ん」を促す。
ソフィは覚悟を決めて、口をぎゅっと結びながら恥ずかしそうにジルの口にケーキを持っていく。
「ん……美味しい……」
ジルは満面の笑みでソフィを見つめると、今度は自分のフォークでケーキを持つ。
そのフォークをソフィの口元に運んでいく。
「え……私も……?」
「そうだよ、今度はソフィの番」
恥ずかしさから唇を震わせながら口をゆっくりゆっくり開くソフィ。
ジルはその動作に合わせてゆっくりとソフィの口にケーキを運ぶ。
「美味しいかい?」
「……恥ずかしくて味がわからないわ」
ジルはくすっと笑いながら、頬杖をついてソフィに告げる。
「まだソフィには早かったかな?」
「……練習しておくわ」
「お願いだから僕とだけにしてくれると助かるな」
そういってジルはもう一度紅茶を飲んだ。
「そういえば、ジルの本棚にある本って私の部屋にあるものとよく似てるわよね」
先ほどジルの部屋で気づいた疑問をソフィはぶつけてみる。
「ああ……気づいた?」
「ええ、あまりにも似てるけど、ジルってそもそもあんなに本を読んだかしら?」
すると、ジルは気恥ずかしそうに目を逸らしながらソフィに告げる。
「実は君が本が好きだから一緒に話したいと思って、子供の頃父上に頼んで買ってもらったんだよ」
「え……」
ジルの口から意外な理由が飛び出し、ソフィは驚く。
「ソフィと少しでも同じ気持ちになりたくて……」
ジルは恥ずかしさを隠すように紅茶を一口飲むと、椅子から立ってソフィから顔を逸らした。
(なんて嬉しいことを言ってくれるのかしら……)
ソフィもジルと同じように椅子から立ち上がると、ジルのもとに近づき両手でジルの手を握る。
「──っ!」
ふいをつかれたジルはソフィのほうを驚いて見つめる。
そこにはとても優しく可愛らしい笑顔のソフィがいた。
「ありがとう、ジル」
「ああ……その笑顔を見れただけで僕も幸せだよ」
二人はその後もしばらく幼い頃の話に花を咲かせていた──
◇◆◇
「失礼いたします」
「クロードか、入れ」
夜で暗い部屋に明かりがぼうっと執務机のあたりだけ照らされている。
クロードが一礼すると、そのまま仕事をするジルのもとへと向かう。
「ご依頼があった件、調べてまいりました」
ジルは手紙を書く手を止め、机の前に姿勢よく立つクロードのほうを見た。
クロードはジルの目を見ながら淡々と告げる。
「やはり、ソフィ様の婚約解消はエミール様からの強引なものでした」
「……そうか」
その後もクロードは婚約解消の仔細、そしてその後のエミールの動向を伝える。
「エミール……ソフィを傷つけた罪、その身をもって贖ってもらうぞ」
ジルは静かに怒りを表し、持っていたペンを片手でへし折った。
ペンについたインクが、床に飛び散った──
「ええ」
ソフィとジルの目の前には豪華なアフタヌーンティーセットが並べられている。
ルノアール邸の庭園にあるガゼボにて、二人はお茶会を開いていた。
「でもなんで『ジルの好きなものを一緒に食べたい』って言ってきたんだい?」
「だって、ジルっていつも私の好きなことばかりに付き合ってくれるでしょう? だから、今日は私がジルの好きなものに付き合うの! それで、一緒に美味しいもの食べたいな~って」
ソフィの細く白い指が、気恥ずかしそうにティーカップの持ち手をなでる。
ジルはくすっと笑ってソフィに微笑みながら告げる。
「ソフィらしい優しいお願いだ」
そういってジルは好物のタルトケーキを口に入れる。
それを見たソフィも同じものを取り一口食べると、口いっぱいに広がるいちごの甘酸っぱさに、顔がほころぶ。
「美味しい……」
「ああ」
紅茶を一口飲むと、ジルはいいことを思いついたというような顔でソフィを見つめる。
少し意地悪そうに笑うと、ジルのサファイアブルーの瞳が、ソフィを捕らえた。
「ん……」
ジルはソフィを見つめながら、自らの口を大きく開けてアピールをする。
「──っ!」
ソフィは瞬時にそれが「あ~ん」を要求されていると気づき、真っ赤になって照れる。
「ソフィ、お・ね・が・い!」
ジルは甘えたような声でソフィに「あ~ん」を促す。
ソフィは覚悟を決めて、口をぎゅっと結びながら恥ずかしそうにジルの口にケーキを持っていく。
「ん……美味しい……」
ジルは満面の笑みでソフィを見つめると、今度は自分のフォークでケーキを持つ。
そのフォークをソフィの口元に運んでいく。
「え……私も……?」
「そうだよ、今度はソフィの番」
恥ずかしさから唇を震わせながら口をゆっくりゆっくり開くソフィ。
ジルはその動作に合わせてゆっくりとソフィの口にケーキを運ぶ。
「美味しいかい?」
「……恥ずかしくて味がわからないわ」
ジルはくすっと笑いながら、頬杖をついてソフィに告げる。
「まだソフィには早かったかな?」
「……練習しておくわ」
「お願いだから僕とだけにしてくれると助かるな」
そういってジルはもう一度紅茶を飲んだ。
「そういえば、ジルの本棚にある本って私の部屋にあるものとよく似てるわよね」
先ほどジルの部屋で気づいた疑問をソフィはぶつけてみる。
「ああ……気づいた?」
「ええ、あまりにも似てるけど、ジルってそもそもあんなに本を読んだかしら?」
すると、ジルは気恥ずかしそうに目を逸らしながらソフィに告げる。
「実は君が本が好きだから一緒に話したいと思って、子供の頃父上に頼んで買ってもらったんだよ」
「え……」
ジルの口から意外な理由が飛び出し、ソフィは驚く。
「ソフィと少しでも同じ気持ちになりたくて……」
ジルは恥ずかしさを隠すように紅茶を一口飲むと、椅子から立ってソフィから顔を逸らした。
(なんて嬉しいことを言ってくれるのかしら……)
ソフィもジルと同じように椅子から立ち上がると、ジルのもとに近づき両手でジルの手を握る。
「──っ!」
ふいをつかれたジルはソフィのほうを驚いて見つめる。
そこにはとても優しく可愛らしい笑顔のソフィがいた。
「ありがとう、ジル」
「ああ……その笑顔を見れただけで僕も幸せだよ」
二人はその後もしばらく幼い頃の話に花を咲かせていた──
◇◆◇
「失礼いたします」
「クロードか、入れ」
夜で暗い部屋に明かりがぼうっと執務机のあたりだけ照らされている。
クロードが一礼すると、そのまま仕事をするジルのもとへと向かう。
「ご依頼があった件、調べてまいりました」
ジルは手紙を書く手を止め、机の前に姿勢よく立つクロードのほうを見た。
クロードはジルの目を見ながら淡々と告げる。
「やはり、ソフィ様の婚約解消はエミール様からの強引なものでした」
「……そうか」
その後もクロードは婚約解消の仔細、そしてその後のエミールの動向を伝える。
「エミール……ソフィを傷つけた罪、その身をもって贖ってもらうぞ」
ジルは静かに怒りを表し、持っていたペンを片手でへし折った。
ペンについたインクが、床に飛び散った──
7
お気に入りに追加
574
あなたにおすすめの小説
たった一度の浮気ぐらいでガタガタ騒ぐな、と婚約破棄されそうな私は、馬オタクな隣国第二王子の溺愛対象らしいです。
弓はあと
恋愛
「たった一度の浮気ぐらいでガタガタ騒ぐな」婚約者から投げられた言葉。
浮気を許す事ができない心の狭い私とは婚約破棄だという。
婚約破棄を受け入れたいけれど、それを親に伝えたらきっと「この役立たず」と罵られ家を追い出されてしまう。
そんな私に手を差し伸べてくれたのは、皆から馬オタクで残念な美丈夫と噂されている隣国の第二王子だった――
※物語の後半は視点変更が多いです。
※浮気の表現があるので、念のためR15にしています。詳細な描写はありません。
※短めのお話です。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません、ご注意ください。
※設定ゆるめ、ご都合主義です。鉄道やオタクの歴史等は現実と異なっています。
婚約者を奪われて前世の記憶を思い出したので色々と何か企みます
まや
恋愛
アメリアは婚約者に婚約解消してくれと言われた。その理由は身に覚えがない従姉妹エレナに対する虐めだった。
アメリアは婚約破棄を言い渡されたショックにより前世の記憶を思い出した。前世の記憶からここは乙女ゲームの悪役令嬢の断罪イベントの最中だと言うことが分かった。
だけど身分剥奪されるのは嬉しくて思わず喜んでしまう。前世では15年間庶民として暮らしていたが親の事業が成功して金持ちになってしまって庶民に戻りたいと思っていたからだ。
その後、私は国外追放を言い渡され一人で生きていくことにーー。だけど負けっぱなしは嫌だから色々とアメリアは何か企む。
毎日三回更新。朝、昼、晩。
朝は8時、昼は13時、晩は20時となります。
(更新は落ち着き次第、毎日一回~二回にします。)
小説家になろう様でも投稿しております。
文章を書くのが下手なのでおかしな所があるかと思われます。何かございましたら感想にて教えて下さると有難いです。
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
【完結】マザコンな婚約者はいりません
たなまき
恋愛
伯爵令嬢シェリーは、婚約者である侯爵子息デューイと、その母親である侯爵夫人に長年虐げられてきた。
貴族学校に通うシェリーは、昼時の食堂でデューイに婚約破棄を告げられる。
その内容は、シェリーは自分の婚約者にふさわしくない、あらたな婚約者に子爵令嬢ヴィオラをむかえるというものだった。
デューイはヴィオラこそが次期侯爵夫人にふさわしいと言うが、その発言にシェリーは疑問を覚える。
デューイは侯爵家の跡継ぎではない。シェリーの家へ婿入りするための婚約だったはずだ。
だが、話を聞かないデューイにその発言の真意を確認することはできなかった。
婚約破棄によって、シェリーは人生に希望を抱きはじめる。
周囲の人々との関係にも変化があらわれる。
他サイトでも掲載しています。
彼と婚約破棄しろと言われましても困ります。なぜなら、彼は婚約者ではありませんから
水上
恋愛
「私は彼のことを心から愛しているの! 彼と婚約破棄して!」
「……はい?」
子爵令嬢である私、カトリー・ロンズデールは困惑していた。
だって、私と彼は婚約なんてしていないのだから。
「エリオット様と別れろって言っているの!」
彼女は下品に怒鳴りながら、ポケットから出したものを私に投げてきた。
そのせいで、私は怪我をしてしまった。
いきなり彼と別れろと言われても、それは無理な相談である。
だって、彼は──。
そして勘違いした彼女は、自身を破滅へと導く、とんでもない騒動を起こすのだった……。
※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
完結 妹がなんでも欲しがるので全部譲りました所
音爽(ネソウ)
恋愛
「姉様のものは全部欲しいの!」
「そう、わかったわ。全部あげる」
姉のものをなんでも欲しがる妹、親も年上の者は譲るべきとウルサイので譲った。
ならば年上の親から私が貰っても良いですよね?
(完結)「君を愛することはない」と言われました。夫に失恋した私は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は貧乏男爵家の四女アロイーズ。容姿にも自信がなかった私は、貴族令嬢として生きるよりは仕事を持って生きようとした。看護婦養成所に行き、看護婦となり介護の勉強もし、大きな病院に勤めたのだ。
「貴族のくせにそんな仕事に就いて・・・・・・嘆かわしい」
「看護師なんて貴族令嬢のやることじゃないわよね」
社交界ではそんな評価で、両親も私を冷めた目で見ていた。だから、私は舞踏会や夜会に出ることはなかった。その夜会に出る為に着るドレスだって高価すぎて、私には分不相応なものだったから。
それでも私はこの仕事にプライドを持って、それなりに充実した暮らしをしていた。けれどお父様はそんな私に最近、お見合い話をいくつも持ってくる。
「お前は見栄えは良くないが、取り柄ができて良かったなぁ。実はマロン公爵家から結婚の申し込みがきている」
「公爵家からですか? なにかのお間違いでしょう?」
「いいや。マロン公爵の父上で後妻を希望なのだ」
「その方のお歳はいくつですか?」
「えっと。まぁ年齢は70歳ぐらいだが、まだ若々しい方だし・・・・・・」
私にくる結婚の釣書は、息子に爵位を譲った老貴族ばかりになった。無償で介護をするための嫁が欲しいだけなのは想像できる。なので私は一生、独身でいいと思っていた。
ところが、ドビュッシー伯爵家の麗しい次男クレマンス様から結婚を申し込まれて・・・・・・
看護婦養成所や介護師養成所などあります。看護婦はこの異世界では貴族令嬢がする仕事ではないと思われています。医学的にはある程度発達した異世界ですが、魔女や聖獣も存在します。青空独自のゆるふわ設定異世界。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる