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第一部

第11話 次期公爵様のお仕事

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 ソフィは手紙でジルに招待を受けてルノアール邸に来ていた。

「いらっしゃいませ、ソフィ様」

「クロードさん、ごきげんよう」

 そういってシクラメンピンクのスカートの裾を持ち、丁寧なカーテシーで挨拶をする。
 すると、ジル専属執事であるクロードは申し訳なさそうにジルがラウンジに来られないことを告げる。

「申し訳ございません、ジル様は急遽の仕事対応にて少し遅れてラウンジにいらっしゃいます」

「ええ、こちらは急いでいないのでラウンジで待たせていただくことはできますか?」

「もちろんでございます。すぐにダージリンティーをご用意いたします。こちらにどうぞ」

 そういって、赤いふわふわの生地でできたソファに、クロードは案内する。
 一礼すると、クロードは紅茶の用意のためにその場を離れた。


(相変わらずここは落ち着くわね)

 ソフィが幼い頃から両家で食事会やお茶会を開催していたこともあり、ソフィはよくラウンジも訪れていた。
 ルノアール公爵家は国有数の財産や領地があるにも関わらず、華美な装いをせず家もシンプルなものを好んでいた。
 そこが下級貴族たちからも領民からも慕われる理由の一つになっていた。

(ジルも次期公爵様だものね……いつも私に会いに来てくれていたけれど本当はとっても忙しいのよね……)


 ソフィが物思いに耽っていると、クロードが紅茶を持って戻ってきた。

「お待たせいたしました、ダージリンティーをお持ちしましたのでどうぞ」

「ええ、ありがとう、クロードさん」

 慣れた手つきで紅茶をテーブルに置くと、クロードはジルから頼まれていた仕事のために静かにその場を後にした。


 ソフィの細い指がティーカップをそっと持ち上げる。

(美味しいわ……お仕事をしているジルってみたことないわね……)

 紅茶を飲みながら、ソフィの中でジルの仕事姿を見てみたいという好奇心が沸いてきた。

(ジルの部屋って確かこのすぐ近くよね……)

 「邪魔になるかもしれない」という思いと「仕事姿をみたい」という思いが交錯し、結果、後者が勝った。
 ソフィはジルの部屋を目指して広く、長い廊下を進む。


 しばらく歩いていると、両開きの大きめのドアが見えてきた。

(ここね)

 ソフィはドアノブのそっと手をかけると、中を伺うようにゆっくりと開く。


(…………あ、机にジルがいるわね)

 ドアの隙間から見える部屋の中には、ブラウンの執務机に座るジルが見える。

(真剣なまなざし……私に向けてくれる優しい笑顔とはちょっと違う……)

 いつもソフィに向ける優しい表情ではなく、真剣かつ、きりっとした表情でテキパキと仕事をこなすジル。
 領内から届く手紙の処理や各契約書のチェックなどをおこなっている。

(これがお仕事のジル……私には見せないジルの姿……)

 ソフィは優しさで溢れるジルや、時折見せる甘くちょっぴり大人なジルの姿とはまた違う様子を、魅力的に感じていた。


「ソフィ、そこにいないで入っておいで」

「──っ!」

 ジルは執務をしながらも、ソフィの存在に気づいていた。
 入室を促されたソフィは申し訳なさそうにドアを開けて、身体を小さくしながら入る。


「ごめんなさい、お邪魔になってしまって」

「大丈夫だよ。ごめんね、すぐに終わらせるから本棚の本で好きなものを探してみていてほしい」


 ソフィは言われた通りに本棚の前に立つと、気になる本を探す。
 そこでソフィはあることに気づく。

(あら……うちにある本と同じ本がいくつもあるわね……)

 ソフィの自室にある本がいくつもそこには並んでいた。
 その中の一つを手に取ると、ソフィは窓際の椅子に座り本を開く。

 そよ風が心地よくソフィ身体にあたり、本を読む手が進む。
 いつの間にか集中して読んでいるソフィに、仕事を終えたジルが近づく。


「お待たせ」

「──っ!!」

 ジルはソフィの肩と首に腕を回して、後ろから優しく抱きしめる。
 ソフィはその様子に驚き、身体をびくんと跳ねさせる。

「仕事終わったご褒美ちょうだい……」

 そういってジルはソフィの唇に指をなぞらせる。
 一気に顔を赤らめるソフィを見て、ジルはくすっと笑う。

「冗談だよ」

「もうっ! からかわないでよ」

 頬を膨らませてジルの胸をこつんと叩くソフィ。

「あはは、ごめんごめん」

「もう……今日は何か用事だったの? 来てほしいって手紙で来るから」

「ああ、実はお礼をさせてほしいんだ」

「お礼……?」

「この前の看病のお礼さ」
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