46 / 49
第二部
第15話 守りたい想い
しおりを挟む
ヒュートン侯爵夫人から悪い噂を聞いたコルネリアは、急いでレオンハルトにそのことを知らせた。
数日後、調査の結果を彼はコルネリアに話していた。
「コルネリア、悪い知らせだよ」
「では、やはり……」
「ああ、隣国であるミストラル国の第二王子、リスト・ニューラルは黒魔術師とのつながりがある」
噂が嘘であってほしいと願っていたコルネリアにとって、最悪の結果となった。
彼女は目を閉じて顔をしかめた後、はっと気づき、レオンハルトに問いかける。
「では、クリスティーナ様のご婚約は……!」
「それが、実はクリスティーナは今日ミストラル国へ出立する予定なんだ」
「今日っ!? 早く止めないとっ!」
「ああ、今ならぎりぎり間に合うかもしれない。王宮ではなく直接港へ急ごう!」
「はいっ!」
大事な友であるクリスティーナの危機、そして国家の一大事に繋がる今回の事件。
コルネリアとレオンハルトは馬車を走らせて、国の玄関口であるフリュート港へと急いだ──
馬車の中ではまだ着かないのか、と落ち着かない様子で窓を何度も眺めるコルネリア。
そんな彼女の手をそっとレオンハルトが握った。
「レオンハルト様……」
「大丈夫、僕がいる。絶対にクリスティーナを救い出す」
「……私もお力添えいたします」
レオンハルトの手を自らの額につけると、そのまま目を閉じて彼女の安全を祈る。
(どうか、ご無事でいてください。クリスティーナ様……!)
そうして彼女の無事を祈った瞬間、ひどく照れた様子で彼女を想っている”彼”のことを思い出す。
「このこと、リュディー様は……!?」
「調査をしたのも、私に調査結果を知らせてくれたのも彼だ」
「では、ご存じなのですね?」
「ああ」
レオンハルトに第二王子の黒い噂、証拠を渡した時はいつもの彼のように冷静で落ち着いていた。
いいのか、と問いかけるも、私にはどうすることもできないと一言告げて去っていったのだ。
(リュディー……お前はそれでいいのか? 本当に)
レオンハルト自身もクリスティーナを密かに慕う彼のことが心配でならなかった。
どうにか彼らを救いたい──
コルネリアもレオンハルトも、考えていることは同じだった。
馬を必死に走らせてなんとか港についた二人は、馬車の扉を勢いよく開けて飛び出る。
港にはすでに豪華客船が止まっており、大勢の人が集まっていた。
「レオンハルト様っ!!」
「ああっ!!」
視線の先にはクリスティーナがちょうど、第二王子リストと思われる男性の手を取るところが映る。
婚約するめでたい二人を取り囲み、言わっている群衆に向かってコルネリアは叫んだ。
「クリスティーナ様っ!!! 行ってはなりませんっ!!!」
「コルネリア!? それに、レオンハルトまで……」
彼女は呼びかけに応じて足を止めるが、リストは何かを察知したようにクリスティーナの腕を無理矢理引いて船に乗ろうとする。
「まずいっ!」
船の中に入られてしまいそのまま出向すると、彼女はもうミストラル国の人間になってしまう。
そうなれば彼女を連れ戻すことは容易ではない。
コルネリアとレオンハルトは必死に駆け寄るが、二人はすでに可動橋に差し掛かり、間に合わない。
(ダメ……間に合わない……!)
コルネリアが唇を噛みしめたその時、群衆から抜け出した一人の人物がリストの腕を蹴り飛ばした。
「──っ!!」
ひるんだ腕を振り払い、その人物はクリスティーナの腕を引いて自らの後ろに下がらせる。
彼女は自分の腕を引いて守るようにして背に隠した彼の名を呟いた。
「リュディー……」
「遅くなってしまい、申し訳ございません。クリスティーナ様」
クリスティーナを守るようにしっかりと手を繋ぎながら、ゆっくりと陸の方へと足を向ける。
「くそっ!! 王女を奪えっ!!」
リストの叫びに呼応するかのように、船の中から凄まじい数の衛兵がリュディーとクリスティーナを襲う。
気づけば陸にいたミストラル国の人間からも追い詰められており、まさに挟み撃ちとなっていた。
リュディーはちらりと双方の敵を見遣ると、クリスティーナに囁く。
「クリスティーナ様、私から離れぬよう」
「でも、こんなに囲まれてちゃ……」
「大丈夫です、あなたは必ず命に代えても守ります」
「リュディー……」
リュディーはナイフを手に向かってきた敵をひらりと交わすと、その手を上から手刀で殴りつける。
そのまま回し蹴りをして相手をもう一人の敵にぶつけると、二人まとめて海に突き落とす。
「クリスティーナ様、十秒後に陸のほうへ走ってください! 彼らが助けてくれます」
「──っ!」
リュディーの言う”彼ら”を視認すると、クリスティーナは心の中で刻を刻む。
(一、二、三……)
その間にリュディーは迫りくる敵を一人ずつ倒していく。
相手から奪ったナイフを使って牽制すると、彼は繋いでいた手を離して彼女の背中を押した。
「今ですっ!」
クリスティーナはリュディーの開いてくれた脱出路をひたすら走って陸を目指す。
息を切らしながら走った先には、ちょうど船の元にたどり着いたコルネリアとレオンハルトがいた。
「コルネリアっ!!」
「クリスティーナ様っ!!」
抱きしめ合った二人を守るようにレオンハルトが剣を抜く。
敵が次々に襲いかかるも、騎士団長であった彼に敵うはずもなくあっけなく散らされていった。
「くそっ!! いいっ! 撤退するぞっ!」
「させませんよ」
リストのもとにたどり着くと、彼を陸のほうへと一気に蹴り倒す。
蹴られた衝撃でそのまま陸まで転がり落ちた彼は、痛みで顔を歪める。
「タダで帰すわけないじゃないですか、まだ話は終わりませんよ」
リュディーは怒りで刺すような視線でリストへ向けた──
数日後、調査の結果を彼はコルネリアに話していた。
「コルネリア、悪い知らせだよ」
「では、やはり……」
「ああ、隣国であるミストラル国の第二王子、リスト・ニューラルは黒魔術師とのつながりがある」
噂が嘘であってほしいと願っていたコルネリアにとって、最悪の結果となった。
彼女は目を閉じて顔をしかめた後、はっと気づき、レオンハルトに問いかける。
「では、クリスティーナ様のご婚約は……!」
「それが、実はクリスティーナは今日ミストラル国へ出立する予定なんだ」
「今日っ!? 早く止めないとっ!」
「ああ、今ならぎりぎり間に合うかもしれない。王宮ではなく直接港へ急ごう!」
「はいっ!」
大事な友であるクリスティーナの危機、そして国家の一大事に繋がる今回の事件。
コルネリアとレオンハルトは馬車を走らせて、国の玄関口であるフリュート港へと急いだ──
馬車の中ではまだ着かないのか、と落ち着かない様子で窓を何度も眺めるコルネリア。
そんな彼女の手をそっとレオンハルトが握った。
「レオンハルト様……」
「大丈夫、僕がいる。絶対にクリスティーナを救い出す」
「……私もお力添えいたします」
レオンハルトの手を自らの額につけると、そのまま目を閉じて彼女の安全を祈る。
(どうか、ご無事でいてください。クリスティーナ様……!)
そうして彼女の無事を祈った瞬間、ひどく照れた様子で彼女を想っている”彼”のことを思い出す。
「このこと、リュディー様は……!?」
「調査をしたのも、私に調査結果を知らせてくれたのも彼だ」
「では、ご存じなのですね?」
「ああ」
レオンハルトに第二王子の黒い噂、証拠を渡した時はいつもの彼のように冷静で落ち着いていた。
いいのか、と問いかけるも、私にはどうすることもできないと一言告げて去っていったのだ。
(リュディー……お前はそれでいいのか? 本当に)
レオンハルト自身もクリスティーナを密かに慕う彼のことが心配でならなかった。
どうにか彼らを救いたい──
コルネリアもレオンハルトも、考えていることは同じだった。
馬を必死に走らせてなんとか港についた二人は、馬車の扉を勢いよく開けて飛び出る。
港にはすでに豪華客船が止まっており、大勢の人が集まっていた。
「レオンハルト様っ!!」
「ああっ!!」
視線の先にはクリスティーナがちょうど、第二王子リストと思われる男性の手を取るところが映る。
婚約するめでたい二人を取り囲み、言わっている群衆に向かってコルネリアは叫んだ。
「クリスティーナ様っ!!! 行ってはなりませんっ!!!」
「コルネリア!? それに、レオンハルトまで……」
彼女は呼びかけに応じて足を止めるが、リストは何かを察知したようにクリスティーナの腕を無理矢理引いて船に乗ろうとする。
「まずいっ!」
船の中に入られてしまいそのまま出向すると、彼女はもうミストラル国の人間になってしまう。
そうなれば彼女を連れ戻すことは容易ではない。
コルネリアとレオンハルトは必死に駆け寄るが、二人はすでに可動橋に差し掛かり、間に合わない。
(ダメ……間に合わない……!)
コルネリアが唇を噛みしめたその時、群衆から抜け出した一人の人物がリストの腕を蹴り飛ばした。
「──っ!!」
ひるんだ腕を振り払い、その人物はクリスティーナの腕を引いて自らの後ろに下がらせる。
彼女は自分の腕を引いて守るようにして背に隠した彼の名を呟いた。
「リュディー……」
「遅くなってしまい、申し訳ございません。クリスティーナ様」
クリスティーナを守るようにしっかりと手を繋ぎながら、ゆっくりと陸の方へと足を向ける。
「くそっ!! 王女を奪えっ!!」
リストの叫びに呼応するかのように、船の中から凄まじい数の衛兵がリュディーとクリスティーナを襲う。
気づけば陸にいたミストラル国の人間からも追い詰められており、まさに挟み撃ちとなっていた。
リュディーはちらりと双方の敵を見遣ると、クリスティーナに囁く。
「クリスティーナ様、私から離れぬよう」
「でも、こんなに囲まれてちゃ……」
「大丈夫です、あなたは必ず命に代えても守ります」
「リュディー……」
リュディーはナイフを手に向かってきた敵をひらりと交わすと、その手を上から手刀で殴りつける。
そのまま回し蹴りをして相手をもう一人の敵にぶつけると、二人まとめて海に突き落とす。
「クリスティーナ様、十秒後に陸のほうへ走ってください! 彼らが助けてくれます」
「──っ!」
リュディーの言う”彼ら”を視認すると、クリスティーナは心の中で刻を刻む。
(一、二、三……)
その間にリュディーは迫りくる敵を一人ずつ倒していく。
相手から奪ったナイフを使って牽制すると、彼は繋いでいた手を離して彼女の背中を押した。
「今ですっ!」
クリスティーナはリュディーの開いてくれた脱出路をひたすら走って陸を目指す。
息を切らしながら走った先には、ちょうど船の元にたどり着いたコルネリアとレオンハルトがいた。
「コルネリアっ!!」
「クリスティーナ様っ!!」
抱きしめ合った二人を守るようにレオンハルトが剣を抜く。
敵が次々に襲いかかるも、騎士団長であった彼に敵うはずもなくあっけなく散らされていった。
「くそっ!! いいっ! 撤退するぞっ!」
「させませんよ」
リストのもとにたどり着くと、彼を陸のほうへと一気に蹴り倒す。
蹴られた衝撃でそのまま陸まで転がり落ちた彼は、痛みで顔を歪める。
「タダで帰すわけないじゃないですか、まだ話は終わりませんよ」
リュディーは怒りで刺すような視線でリストへ向けた──
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
565
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる