46 / 56
第二部
第15話 守りたい想い
しおりを挟む
ヒュートン侯爵夫人から悪い噂を聞いたコルネリアは、急いでレオンハルトにそのことを知らせた。
数日後、調査の結果を彼はコルネリアに話していた。
「コルネリア、悪い知らせだよ」
「では、やはり……」
「ああ、隣国であるミストラル国の第二王子、リスト・ニューラルは黒魔術師とのつながりがある」
噂が嘘であってほしいと願っていたコルネリアにとって、最悪の結果となった。
彼女は目を閉じて顔をしかめた後、はっと気づき、レオンハルトに問いかける。
「では、クリスティーナ様のご婚約は……!」
「それが、実はクリスティーナは今日ミストラル国へ出立する予定なんだ」
「今日っ!? 早く止めないとっ!」
「ああ、今ならぎりぎり間に合うかもしれない。王宮ではなく直接港へ急ごう!」
「はいっ!」
大事な友であるクリスティーナの危機、そして国家の一大事に繋がる今回の事件。
コルネリアとレオンハルトは馬車を走らせて、国の玄関口であるフリュート港へと急いだ──
馬車の中ではまだ着かないのか、と落ち着かない様子で窓を何度も眺めるコルネリア。
そんな彼女の手をそっとレオンハルトが握った。
「レオンハルト様……」
「大丈夫、僕がいる。絶対にクリスティーナを救い出す」
「……私もお力添えいたします」
レオンハルトの手を自らの額につけると、そのまま目を閉じて彼女の安全を祈る。
(どうか、ご無事でいてください。クリスティーナ様……!)
そうして彼女の無事を祈った瞬間、ひどく照れた様子で彼女を想っている”彼”のことを思い出す。
「このこと、リュディー様は……!?」
「調査をしたのも、私に調査結果を知らせてくれたのも彼だ」
「では、ご存じなのですね?」
「ああ」
レオンハルトに第二王子の黒い噂、証拠を渡した時はいつもの彼のように冷静で落ち着いていた。
いいのか、と問いかけるも、私にはどうすることもできないと一言告げて去っていったのだ。
(リュディー……お前はそれでいいのか? 本当に)
レオンハルト自身もクリスティーナを密かに慕う彼のことが心配でならなかった。
どうにか彼らを救いたい──
コルネリアもレオンハルトも、考えていることは同じだった。
馬を必死に走らせてなんとか港についた二人は、馬車の扉を勢いよく開けて飛び出る。
港にはすでに豪華客船が止まっており、大勢の人が集まっていた。
「レオンハルト様っ!!」
「ああっ!!」
視線の先にはクリスティーナがちょうど、第二王子リストと思われる男性の手を取るところが映る。
婚約するめでたい二人を取り囲み、言わっている群衆に向かってコルネリアは叫んだ。
「クリスティーナ様っ!!! 行ってはなりませんっ!!!」
「コルネリア!? それに、レオンハルトまで……」
彼女は呼びかけに応じて足を止めるが、リストは何かを察知したようにクリスティーナの腕を無理矢理引いて船に乗ろうとする。
「まずいっ!」
船の中に入られてしまいそのまま出向すると、彼女はもうミストラル国の人間になってしまう。
そうなれば彼女を連れ戻すことは容易ではない。
コルネリアとレオンハルトは必死に駆け寄るが、二人はすでに可動橋に差し掛かり、間に合わない。
(ダメ……間に合わない……!)
コルネリアが唇を噛みしめたその時、群衆から抜け出した一人の人物がリストの腕を蹴り飛ばした。
「──っ!!」
ひるんだ腕を振り払い、その人物はクリスティーナの腕を引いて自らの後ろに下がらせる。
彼女は自分の腕を引いて守るようにして背に隠した彼の名を呟いた。
「リュディー……」
「遅くなってしまい、申し訳ございません。クリスティーナ様」
クリスティーナを守るようにしっかりと手を繋ぎながら、ゆっくりと陸の方へと足を向ける。
「くそっ!! 王女を奪えっ!!」
リストの叫びに呼応するかのように、船の中から凄まじい数の衛兵がリュディーとクリスティーナを襲う。
気づけば陸にいたミストラル国の人間からも追い詰められており、まさに挟み撃ちとなっていた。
リュディーはちらりと双方の敵を見遣ると、クリスティーナに囁く。
「クリスティーナ様、私から離れぬよう」
「でも、こんなに囲まれてちゃ……」
「大丈夫です、あなたは必ず命に代えても守ります」
「リュディー……」
リュディーはナイフを手に向かってきた敵をひらりと交わすと、その手を上から手刀で殴りつける。
そのまま回し蹴りをして相手をもう一人の敵にぶつけると、二人まとめて海に突き落とす。
「クリスティーナ様、十秒後に陸のほうへ走ってください! 彼らが助けてくれます」
「──っ!」
リュディーの言う”彼ら”を視認すると、クリスティーナは心の中で刻を刻む。
(一、二、三……)
その間にリュディーは迫りくる敵を一人ずつ倒していく。
相手から奪ったナイフを使って牽制すると、彼は繋いでいた手を離して彼女の背中を押した。
「今ですっ!」
クリスティーナはリュディーの開いてくれた脱出路をひたすら走って陸を目指す。
息を切らしながら走った先には、ちょうど船の元にたどり着いたコルネリアとレオンハルトがいた。
「コルネリアっ!!」
「クリスティーナ様っ!!」
抱きしめ合った二人を守るようにレオンハルトが剣を抜く。
敵が次々に襲いかかるも、騎士団長であった彼に敵うはずもなくあっけなく散らされていった。
「くそっ!! いいっ! 撤退するぞっ!」
「させませんよ」
リストのもとにたどり着くと、彼を陸のほうへと一気に蹴り倒す。
蹴られた衝撃でそのまま陸まで転がり落ちた彼は、痛みで顔を歪める。
「タダで帰すわけないじゃないですか、まだ話は終わりませんよ」
リュディーは怒りで刺すような視線でリストへ向けた──
数日後、調査の結果を彼はコルネリアに話していた。
「コルネリア、悪い知らせだよ」
「では、やはり……」
「ああ、隣国であるミストラル国の第二王子、リスト・ニューラルは黒魔術師とのつながりがある」
噂が嘘であってほしいと願っていたコルネリアにとって、最悪の結果となった。
彼女は目を閉じて顔をしかめた後、はっと気づき、レオンハルトに問いかける。
「では、クリスティーナ様のご婚約は……!」
「それが、実はクリスティーナは今日ミストラル国へ出立する予定なんだ」
「今日っ!? 早く止めないとっ!」
「ああ、今ならぎりぎり間に合うかもしれない。王宮ではなく直接港へ急ごう!」
「はいっ!」
大事な友であるクリスティーナの危機、そして国家の一大事に繋がる今回の事件。
コルネリアとレオンハルトは馬車を走らせて、国の玄関口であるフリュート港へと急いだ──
馬車の中ではまだ着かないのか、と落ち着かない様子で窓を何度も眺めるコルネリア。
そんな彼女の手をそっとレオンハルトが握った。
「レオンハルト様……」
「大丈夫、僕がいる。絶対にクリスティーナを救い出す」
「……私もお力添えいたします」
レオンハルトの手を自らの額につけると、そのまま目を閉じて彼女の安全を祈る。
(どうか、ご無事でいてください。クリスティーナ様……!)
そうして彼女の無事を祈った瞬間、ひどく照れた様子で彼女を想っている”彼”のことを思い出す。
「このこと、リュディー様は……!?」
「調査をしたのも、私に調査結果を知らせてくれたのも彼だ」
「では、ご存じなのですね?」
「ああ」
レオンハルトに第二王子の黒い噂、証拠を渡した時はいつもの彼のように冷静で落ち着いていた。
いいのか、と問いかけるも、私にはどうすることもできないと一言告げて去っていったのだ。
(リュディー……お前はそれでいいのか? 本当に)
レオンハルト自身もクリスティーナを密かに慕う彼のことが心配でならなかった。
どうにか彼らを救いたい──
コルネリアもレオンハルトも、考えていることは同じだった。
馬を必死に走らせてなんとか港についた二人は、馬車の扉を勢いよく開けて飛び出る。
港にはすでに豪華客船が止まっており、大勢の人が集まっていた。
「レオンハルト様っ!!」
「ああっ!!」
視線の先にはクリスティーナがちょうど、第二王子リストと思われる男性の手を取るところが映る。
婚約するめでたい二人を取り囲み、言わっている群衆に向かってコルネリアは叫んだ。
「クリスティーナ様っ!!! 行ってはなりませんっ!!!」
「コルネリア!? それに、レオンハルトまで……」
彼女は呼びかけに応じて足を止めるが、リストは何かを察知したようにクリスティーナの腕を無理矢理引いて船に乗ろうとする。
「まずいっ!」
船の中に入られてしまいそのまま出向すると、彼女はもうミストラル国の人間になってしまう。
そうなれば彼女を連れ戻すことは容易ではない。
コルネリアとレオンハルトは必死に駆け寄るが、二人はすでに可動橋に差し掛かり、間に合わない。
(ダメ……間に合わない……!)
コルネリアが唇を噛みしめたその時、群衆から抜け出した一人の人物がリストの腕を蹴り飛ばした。
「──っ!!」
ひるんだ腕を振り払い、その人物はクリスティーナの腕を引いて自らの後ろに下がらせる。
彼女は自分の腕を引いて守るようにして背に隠した彼の名を呟いた。
「リュディー……」
「遅くなってしまい、申し訳ございません。クリスティーナ様」
クリスティーナを守るようにしっかりと手を繋ぎながら、ゆっくりと陸の方へと足を向ける。
「くそっ!! 王女を奪えっ!!」
リストの叫びに呼応するかのように、船の中から凄まじい数の衛兵がリュディーとクリスティーナを襲う。
気づけば陸にいたミストラル国の人間からも追い詰められており、まさに挟み撃ちとなっていた。
リュディーはちらりと双方の敵を見遣ると、クリスティーナに囁く。
「クリスティーナ様、私から離れぬよう」
「でも、こんなに囲まれてちゃ……」
「大丈夫です、あなたは必ず命に代えても守ります」
「リュディー……」
リュディーはナイフを手に向かってきた敵をひらりと交わすと、その手を上から手刀で殴りつける。
そのまま回し蹴りをして相手をもう一人の敵にぶつけると、二人まとめて海に突き落とす。
「クリスティーナ様、十秒後に陸のほうへ走ってください! 彼らが助けてくれます」
「──っ!」
リュディーの言う”彼ら”を視認すると、クリスティーナは心の中で刻を刻む。
(一、二、三……)
その間にリュディーは迫りくる敵を一人ずつ倒していく。
相手から奪ったナイフを使って牽制すると、彼は繋いでいた手を離して彼女の背中を押した。
「今ですっ!」
クリスティーナはリュディーの開いてくれた脱出路をひたすら走って陸を目指す。
息を切らしながら走った先には、ちょうど船の元にたどり着いたコルネリアとレオンハルトがいた。
「コルネリアっ!!」
「クリスティーナ様っ!!」
抱きしめ合った二人を守るようにレオンハルトが剣を抜く。
敵が次々に襲いかかるも、騎士団長であった彼に敵うはずもなくあっけなく散らされていった。
「くそっ!! いいっ! 撤退するぞっ!」
「させませんよ」
リストのもとにたどり着くと、彼を陸のほうへと一気に蹴り倒す。
蹴られた衝撃でそのまま陸まで転がり落ちた彼は、痛みで顔を歪める。
「タダで帰すわけないじゃないですか、まだ話は終わりませんよ」
リュディーは怒りで刺すような視線でリストへ向けた──
4
お気に入りに追加
586
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす
みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み)
R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。
“巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について”
“モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語”
に続く続編となります。
色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。
ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。
そして、そこで知った真実とは?
やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。
相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。
宜しくお願いします。
冷酷非情の雷帝に嫁ぎます~妹の身代わりとして婚約者を押し付けられましたが、実は優しい男でした~
平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは落ちこぼれと蔑まれながらも、希望だった魔法学校で奨学生として入学することができた。
ある日、妹のノエルが雷帝と恐れられるライトニング侯爵と婚約することになった。
ライトニング侯爵と結ばれたくないノエルは父に頼み、身代わりとしてフィーナを差し出すことにする。
保身第一な父、ワガママな妹と縁を切りたかったフィーナはこれを了承し、婚約者のもとへと嫁ぐ。
周りから恐れられているライトニング侯爵をフィーナは怖がらず、普通に妻として接する。
そんなフィーナの献身に始めは心を閉ざしていたライトニング侯爵は心を開いていく。
そしていつの間にか二人はラブラブになり、子宝にも恵まれ、ますます幸せになるのだった。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
「お前はもう不要だ」と婚約破棄された聖女は隣国の騎士団長に拾われ、溺愛されます
平山和人
恋愛
聖女のソフィアは民を癒すべく日々頑張っていたが、新たな聖女が現れたことで不要となり、王子から婚約破棄された挙句、国から追放されることになった。
途方に暮れるソフィアは魔物に襲われるが、隣国の騎士団長であるエドワードに助けられる。
その際、エドワードの怪我を治癒したことにより、ソフィアは騎士団の治癒係として働くことになった。
次第にエドワードに惹かれていくが、ただの治癒係と騎士団長では釣り合わないと諦めていたが、エドワードから告白され、二人は結婚することになった。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる