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第一部
第24話 王女様とのお茶会
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コルネリアが自分の育った教会と孤児院から戻り、数日のこと。
彼女は王女であるクリスティーナと会っていた。
王宮でのダンスパーティーで挨拶をして以来、何度か手紙のやり取りをして二人は親交を深めていた。
ついにクリスティーナの休みが取れたため、コルネリアが王宮の庭園にお邪魔するという形でアフタヌーンティーを楽しんでいる。
「どう? レオンハルトはあなたを大切にしているかしら?」
「大切……というのは、私からはわからない部分はあるのですが、大変良くして頂いております」
「そう、ならよかった。昔はあれでも引っ込み思案で、なんていうか寂しがり屋でずっと私にくっついてたのよ」
「え? そうなのですか?」
今の彼からは想像ができない姿に、コルネリアは思わず驚いてしまう。
クッキーをパクリと食べて、優雅に紅茶を飲むと、クリスティーナは指を絡めてその上にちょこんと顎を乗せると、昔を思い出すように語る。
「人よりも身体が大きいのに、怖がり。雷に驚いて本棚の隙間から出られなくなったり、あとは国王の姿にびくびくしてたわね」
「国王に、ですか?」
「そう、お父様はがたいが良くて、それでいて鋭い目に髭を蓄えて……そんな見た目だからレオンハルトは怖がってた」
昔のその怖がっている様子を思い出したのか、ふふっと口元に手を当ててクリスティーナは上品に笑う。
国王の姿を見たことがないコルネリアの中では、昔どこかの童話で見た地獄の大王のようなそんな姿を想像してぶるっと震えた。
(確かに、そんな姿だったら恐ろしいかも……)
実のところ確かに国王は髭も立派に蓄えており、そこらの成人男性よりもはるかに背も高くてがたいも良い。
だが、娘のクリスティーナを始め、子供や小さく可愛いものには滅法弱く、可愛がりたい気持ちが溢れ出てしまうのだが、それが「圧」となって相手に伝わり、その気持ちを知っている娘以外からの大概の子供たちからは逃げられてしまう。
レオンハルトも例外でなく、特に国王が可愛がっていたのだが、どうしても彼の臆病で怖がりな性格と合わず、相いれなかった。
子供の頃の彼に逃げられてしまうたび、宰相に慰められるほど落ち込んでいた。
まあ、そんなことは知らないレオンハルトだから、なんとなく今も少し恐れる気持ちが抜けていないことに、国王はこっそり傷ついていた……。
「お父様が不憫というか、レオンハルトの気持ちもわからなくもないというか」
「切ないすれ違いですね……」
コルネリアは紅茶を一口飲んで、手前にあったサンドウィッチをつまむ。
この卵のサンドウィッチがコルネリアの好物で、ついつい手が伸びてしまう。
人の行動に敏いクリスティーナはそれを即座に見抜き、近くに控えていたメイドに追加のたまごサンドを持って来るように伝えた。
追加のたまごサンドが届いた頃、クリスティーナは気になっていた二人の関係について聞いてみた。
「レオンハルトは愛情をきちんと伝えてくれる?」
「ダンスパーティーの日に、その、好きって言ってくださって……」
それを聞いて少しにやりとしたクリスティーナ。
彼がそこまで真っすぐに気持ちを伝えられるようになったことに、嬉しさを感じており、そしてそれを恥ずかしそうに語る目の前の彼女の様子を見ても、うまくいっているのだなと思った。
紅茶を飲みながらじーっとクリスティーナは段々顔が赤くなる彼女の様子を見つめる。
ああ、彼女もまた恋をしているんだな。
そう思い、さらにそれを恐らく意図的に伝えずにコルネリア自身に気づかせようとしているであろうここにいない彼の意思も汲み取り、クリスティーナは黙って見守ることにした。
「ねえ、コルネリア」
「は、はい」
「あなたは今幸せ?」
その言葉にコルネリアは自信を持って答えた。
「はい、幸せです。こうしてクリスティーナ様とお話ができて、そして、何よりレオンハルト様の傍にいられて、私は幸せです」
「そう」
その言葉に安心したようにふっと微笑むと、また二人は和やかな雰囲気でお茶を始めた──
◇◆◇
クリスティーナとのお茶会を終えたコルネリアは、夕方頃にヴァイス邸へと戻っていた。
ディナーまでは時間があるためいつものように本を読もうと、本棚のほうへ向かって歩いていく。
夕日が差し込み、本棚の前にいる彼女にあたたかさをもたらしている。
「これは、もう読んでしまったし……」
コルネリアはかなり読書のペースが速く、自分の部屋にある本はある程度読んでしまっていた。
なので、数日前にレオンハルトからいくつか本をまとめて借りてきていたのだが、それを思い出してそのコーナーにある本を取ってパラパラとめくる。
その中で一冊可愛らしいリボンが飾りにある赤い本があったため、それが目について取り上げる。
「これは……」
どんな本なのだろうと目を通すと、それは童話のようだった。
思わず好奇心を刺激されたコルネリアはじっとそれを見つめる。
なぜか既視感を覚えたその本はよく思い出すと、シスター長に昔読んでもらった絵本だったのだ。
「確か、これって……」
ふと目を落としたページの中で一際輝いて目に入ってきた言葉があった。
『恋』
その言葉をきっかけにコルネリアの中でたくさんの感情が渦巻き出した。
そして最後にレオンハルトの笑顔と、好きと言われたときの表情、そして声がこだまする。
ああ、もしかして、これって……。
コルネリアは自分が恋をしているのだと気づいた──
彼女は王女であるクリスティーナと会っていた。
王宮でのダンスパーティーで挨拶をして以来、何度か手紙のやり取りをして二人は親交を深めていた。
ついにクリスティーナの休みが取れたため、コルネリアが王宮の庭園にお邪魔するという形でアフタヌーンティーを楽しんでいる。
「どう? レオンハルトはあなたを大切にしているかしら?」
「大切……というのは、私からはわからない部分はあるのですが、大変良くして頂いております」
「そう、ならよかった。昔はあれでも引っ込み思案で、なんていうか寂しがり屋でずっと私にくっついてたのよ」
「え? そうなのですか?」
今の彼からは想像ができない姿に、コルネリアは思わず驚いてしまう。
クッキーをパクリと食べて、優雅に紅茶を飲むと、クリスティーナは指を絡めてその上にちょこんと顎を乗せると、昔を思い出すように語る。
「人よりも身体が大きいのに、怖がり。雷に驚いて本棚の隙間から出られなくなったり、あとは国王の姿にびくびくしてたわね」
「国王に、ですか?」
「そう、お父様はがたいが良くて、それでいて鋭い目に髭を蓄えて……そんな見た目だからレオンハルトは怖がってた」
昔のその怖がっている様子を思い出したのか、ふふっと口元に手を当ててクリスティーナは上品に笑う。
国王の姿を見たことがないコルネリアの中では、昔どこかの童話で見た地獄の大王のようなそんな姿を想像してぶるっと震えた。
(確かに、そんな姿だったら恐ろしいかも……)
実のところ確かに国王は髭も立派に蓄えており、そこらの成人男性よりもはるかに背も高くてがたいも良い。
だが、娘のクリスティーナを始め、子供や小さく可愛いものには滅法弱く、可愛がりたい気持ちが溢れ出てしまうのだが、それが「圧」となって相手に伝わり、その気持ちを知っている娘以外からの大概の子供たちからは逃げられてしまう。
レオンハルトも例外でなく、特に国王が可愛がっていたのだが、どうしても彼の臆病で怖がりな性格と合わず、相いれなかった。
子供の頃の彼に逃げられてしまうたび、宰相に慰められるほど落ち込んでいた。
まあ、そんなことは知らないレオンハルトだから、なんとなく今も少し恐れる気持ちが抜けていないことに、国王はこっそり傷ついていた……。
「お父様が不憫というか、レオンハルトの気持ちもわからなくもないというか」
「切ないすれ違いですね……」
コルネリアは紅茶を一口飲んで、手前にあったサンドウィッチをつまむ。
この卵のサンドウィッチがコルネリアの好物で、ついつい手が伸びてしまう。
人の行動に敏いクリスティーナはそれを即座に見抜き、近くに控えていたメイドに追加のたまごサンドを持って来るように伝えた。
追加のたまごサンドが届いた頃、クリスティーナは気になっていた二人の関係について聞いてみた。
「レオンハルトは愛情をきちんと伝えてくれる?」
「ダンスパーティーの日に、その、好きって言ってくださって……」
それを聞いて少しにやりとしたクリスティーナ。
彼がそこまで真っすぐに気持ちを伝えられるようになったことに、嬉しさを感じており、そしてそれを恥ずかしそうに語る目の前の彼女の様子を見ても、うまくいっているのだなと思った。
紅茶を飲みながらじーっとクリスティーナは段々顔が赤くなる彼女の様子を見つめる。
ああ、彼女もまた恋をしているんだな。
そう思い、さらにそれを恐らく意図的に伝えずにコルネリア自身に気づかせようとしているであろうここにいない彼の意思も汲み取り、クリスティーナは黙って見守ることにした。
「ねえ、コルネリア」
「は、はい」
「あなたは今幸せ?」
その言葉にコルネリアは自信を持って答えた。
「はい、幸せです。こうしてクリスティーナ様とお話ができて、そして、何よりレオンハルト様の傍にいられて、私は幸せです」
「そう」
その言葉に安心したようにふっと微笑むと、また二人は和やかな雰囲気でお茶を始めた──
◇◆◇
クリスティーナとのお茶会を終えたコルネリアは、夕方頃にヴァイス邸へと戻っていた。
ディナーまでは時間があるためいつものように本を読もうと、本棚のほうへ向かって歩いていく。
夕日が差し込み、本棚の前にいる彼女にあたたかさをもたらしている。
「これは、もう読んでしまったし……」
コルネリアはかなり読書のペースが速く、自分の部屋にある本はある程度読んでしまっていた。
なので、数日前にレオンハルトからいくつか本をまとめて借りてきていたのだが、それを思い出してそのコーナーにある本を取ってパラパラとめくる。
その中で一冊可愛らしいリボンが飾りにある赤い本があったため、それが目について取り上げる。
「これは……」
どんな本なのだろうと目を通すと、それは童話のようだった。
思わず好奇心を刺激されたコルネリアはじっとそれを見つめる。
なぜか既視感を覚えたその本はよく思い出すと、シスター長に昔読んでもらった絵本だったのだ。
「確か、これって……」
ふと目を落としたページの中で一際輝いて目に入ってきた言葉があった。
『恋』
その言葉をきっかけにコルネリアの中でたくさんの感情が渦巻き出した。
そして最後にレオンハルトの笑顔と、好きと言われたときの表情、そして声がこだまする。
ああ、もしかして、これって……。
コルネリアは自分が恋をしているのだと気づいた──
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