22 / 56
第一部
第22話 生まれ育った場所への帰還(1)
しおりを挟む
レオンハルトに連れられてコルネリアは10数年ぶりに教会と孤児院にやってきていた。
「……」
懐かしいようなそうでないような、小さい頃の記憶がほとんどないコルネリアは不思議な感覚に陥る。
王国で一番有名で神聖な場所と言われているこの教会は、建物の大きさや敷地はそれほど大きくはない。
ここのシスターと王国の「贅沢は神聖さを失う」という方針の上で成り立っており、皆質素な生活を心がけている。
ただし、劣悪な環境というわけではなく、無駄に浪費をしないことを心がけて清い心を保ち続けるというもの。
コルネリアもその精神を知らず知らずのうちに引き継いでいた──
「おかえりなさい、コルネリア」
「……シスター?」
自分を呼ぶ声のほうへと身体を向けると、そこには自分がおぼろげにしか記憶がない、それでも聞き覚えがあって優しい雰囲気をまとったシスターがいた。
もう腰が曲がり始めており、立つのもかなり一苦労と言った様子のシスターは、それでもゆっくりとコルネリアのほうに歩みを進める。
コルネリアは直感的に彼女が自分を育ててくれた人だ、と気づいた。
「行っておいで」
「……はい」
レオンハルトに促されてコルネリアは、涙を流しながらこちらを向いて手を広げているシスターの元へと駆けだす。
再会を喜ぶ二人は十数年ぶりに会ったことでぎこちなさはあるものの、本能的に覚えている雰囲気が彼女ら時を昔に戻させる。
「コルネリア、会いたかったわ」
「私を育ててくださったシスターさんですよね、またお会いできてよかった」
「あなたが死んだと聞いた時、生きた心地がしなかったわ」
「心配をおかけしてしまい、申し訳ございません」
「いいのよ、こうしてまた会えたんだから」
皺の増えた目元に滲む涙を拭いながら、シスターはコルネリアの背中をポンポンとあやすように叩く。
それはコルネリアが幼い頃によくシスターにしてもらっていた動作で、意識として覚えてはいないが、身体はしっかり覚えていた。
ほっとして懐かしい心地を得たコルネリアは、自分よりも小さくなってしまったシスターの背中をさする。
そんな様子を少し離れた場所からレオンハルトは見つめている。
すると、そんな彼に近づき話し始めるもう一人のシスターがいた。
「レオンハルト様、お久しぶりでございます」
「おや、ニア様。コルネリアを連れてくるのが遅くなり、申し訳ございません」
「いえ、シスター長も喜んでおります」
コルネリアを育てていたシスターは、シスター長というここの責任者であり、子供たちの一番の「母」である。
そしてそんなシスター長を支えるシスターが、ニアであった。
ニアは30代後半に差し掛かっているが、ここではまだ若手の部類。
実際コルネリアがいた少し前にこの教会にやってきていた。
そんなニアはレオンハルトに声をかける。
「コルネリア……いえ、もうコルネリア様と呼んだほうがよいですね」
「いや、私は気にしないし、特にここ周辺で呼び名を咎める者はいないでしょう。それに彼女おそらく敬称はよしてほしいというはずですよ」
そうでしょうか、では……、とまだ少し遠慮がちに話を続けた。
「先日のお話通り、コルネリアには週に一度ほど孤児院の子供たちの面倒をみていただこうかと思っているのですが、よろしいでしょうか」
「ああ、シスター長やニア、それからコルネリアで話し合って決めてもらって構わないよ」
「かしこまりました。ちょうど小さな子供たちが孤児院に来たばかりで手が回っておらず……」
「今日もぜひコルネリアを案内していただけると助かります」
「ええ、もちろんです!」
そう言って軽くお辞儀をすると、ニアはコルネリアのほうへと向かった。
コルネリアに同じように話をしているようで、孤児院の場所やそこにいる子供たちについて軽く説明をしていた。
いつになく真剣な面持ちで、それでもシスター長やニアと再会できた喜びもあって、ふんふんとうなずきながら時折笑顔を見せている。
「よかった」
思わず、レオンハルトはそう呟いて交流を深めるコルネリアを眺めていた。
しかし、その様子を小さな影が礼拝堂の建物に隠れながら、にらみつけるように見つけていた──
「……」
懐かしいようなそうでないような、小さい頃の記憶がほとんどないコルネリアは不思議な感覚に陥る。
王国で一番有名で神聖な場所と言われているこの教会は、建物の大きさや敷地はそれほど大きくはない。
ここのシスターと王国の「贅沢は神聖さを失う」という方針の上で成り立っており、皆質素な生活を心がけている。
ただし、劣悪な環境というわけではなく、無駄に浪費をしないことを心がけて清い心を保ち続けるというもの。
コルネリアもその精神を知らず知らずのうちに引き継いでいた──
「おかえりなさい、コルネリア」
「……シスター?」
自分を呼ぶ声のほうへと身体を向けると、そこには自分がおぼろげにしか記憶がない、それでも聞き覚えがあって優しい雰囲気をまとったシスターがいた。
もう腰が曲がり始めており、立つのもかなり一苦労と言った様子のシスターは、それでもゆっくりとコルネリアのほうに歩みを進める。
コルネリアは直感的に彼女が自分を育ててくれた人だ、と気づいた。
「行っておいで」
「……はい」
レオンハルトに促されてコルネリアは、涙を流しながらこちらを向いて手を広げているシスターの元へと駆けだす。
再会を喜ぶ二人は十数年ぶりに会ったことでぎこちなさはあるものの、本能的に覚えている雰囲気が彼女ら時を昔に戻させる。
「コルネリア、会いたかったわ」
「私を育ててくださったシスターさんですよね、またお会いできてよかった」
「あなたが死んだと聞いた時、生きた心地がしなかったわ」
「心配をおかけしてしまい、申し訳ございません」
「いいのよ、こうしてまた会えたんだから」
皺の増えた目元に滲む涙を拭いながら、シスターはコルネリアの背中をポンポンとあやすように叩く。
それはコルネリアが幼い頃によくシスターにしてもらっていた動作で、意識として覚えてはいないが、身体はしっかり覚えていた。
ほっとして懐かしい心地を得たコルネリアは、自分よりも小さくなってしまったシスターの背中をさする。
そんな様子を少し離れた場所からレオンハルトは見つめている。
すると、そんな彼に近づき話し始めるもう一人のシスターがいた。
「レオンハルト様、お久しぶりでございます」
「おや、ニア様。コルネリアを連れてくるのが遅くなり、申し訳ございません」
「いえ、シスター長も喜んでおります」
コルネリアを育てていたシスターは、シスター長というここの責任者であり、子供たちの一番の「母」である。
そしてそんなシスター長を支えるシスターが、ニアであった。
ニアは30代後半に差し掛かっているが、ここではまだ若手の部類。
実際コルネリアがいた少し前にこの教会にやってきていた。
そんなニアはレオンハルトに声をかける。
「コルネリア……いえ、もうコルネリア様と呼んだほうがよいですね」
「いや、私は気にしないし、特にここ周辺で呼び名を咎める者はいないでしょう。それに彼女おそらく敬称はよしてほしいというはずですよ」
そうでしょうか、では……、とまだ少し遠慮がちに話を続けた。
「先日のお話通り、コルネリアには週に一度ほど孤児院の子供たちの面倒をみていただこうかと思っているのですが、よろしいでしょうか」
「ああ、シスター長やニア、それからコルネリアで話し合って決めてもらって構わないよ」
「かしこまりました。ちょうど小さな子供たちが孤児院に来たばかりで手が回っておらず……」
「今日もぜひコルネリアを案内していただけると助かります」
「ええ、もちろんです!」
そう言って軽くお辞儀をすると、ニアはコルネリアのほうへと向かった。
コルネリアに同じように話をしているようで、孤児院の場所やそこにいる子供たちについて軽く説明をしていた。
いつになく真剣な面持ちで、それでもシスター長やニアと再会できた喜びもあって、ふんふんとうなずきながら時折笑顔を見せている。
「よかった」
思わず、レオンハルトはそう呟いて交流を深めるコルネリアを眺めていた。
しかし、その様子を小さな影が礼拝堂の建物に隠れながら、にらみつけるように見つけていた──
4
お気に入りに追加
586
あなたにおすすめの小説
教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
海空里和
恋愛
王都にある果実店の果実飴は、連日行列の人気店。
そこで働く孤児院出身のエレノアは、聖女として教会からやりがい搾取されたあげく、あっさり捨てられた。大切な人を失い、働くことへの意義を失ったエレノア。しかし、果実飴の成功により、働き方改革に成功して、穏やかな日常を取り戻していた。
そこにやって来たのは、場違いなイケメン騎士。
「エレノア殿、迎えに来ました」
「はあ?」
それから毎日果実飴を買いにやって来る騎士。
果実飴が気に入ったのかと思ったその騎士、イザークは、実はエレノアとの結婚が目的で?!
これは、エレノアにだけ距離感がおかしいイザークと、失意にいながらも大切な物を取り返していくエレノアが、次第に心を通わせていくラブストーリー。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。
木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。
それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。
誰にも信じてもらえず、罵倒される。
そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。
実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。
彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。
故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。
彼はミレイナを快く受け入れてくれた。
こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。
そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。
しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。
むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる