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第一部
第21話 僕の隣は君だけだから
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コルネリアの意思を確かめるためにレオンハルトは彼女がいる玄関口へと向かう。
「レオンハルト様っ?」
「コルネリア、挨拶も無事に済んだしそろそろ帰ろうか」
「……はい」
コルネリアは明らかに目を逸らしてしまい、レオンハルトの後をついていくのにいつもよりも距離をとってしまう。
そんな微妙な距離をレオンハルトも感じながら、帰りの馬車へと乗り込む。
「今日はうまく挨拶もできていたね」
「そうだといいのですが」
「…………」
「…………」
会話を交わすときこそコルネリアはレオンハルトのほうを見るが、すぐに目を逸らしてそのまま窓の外を眺めてしまう。
いくつか言葉を交わしても、はい、そうですね、そうだと思います、そのような言葉しかコルネリアからは出ず、言葉数も少ない。
やはり嫌われてしまったのかもしれない──
そんな不安が頭をよぎるレオンハルトだったが、彼女をよく観察しているとこれまでの感情がなかった時の彼女とは明らかに違う反応をしていた。
窓の外を眺めながらも、数分に一度自分のほうにちらっと視線を送っては、また窓のほうに慌てて視線を戻していることに気づく。
自分の何かが気になるのだろうか、とも思ったその時、バルコニーで交わしたクリスティーナとの言葉を思い出す。
『もう、あなたはいい加減その臆病な根を直しなさい』
(僕は何かを怖がっているのだろうか)
そう思いながらコルネリアのほうをじっと見つめてみる。
ああ、やはり愛らしい。
一緒に見に行って見繕ったドレスも、白を基調とした刺繍の映えるドレスも、今日のために下ろしたであろう花の髪飾りも、いつもより大人っぽくまとめられた髪も全て可愛い。
こんな姿、それこそ独り占めにしたい、とレオンハルトはそう思い、そして同時に気づいた。
(そうか、この気持ちを今まで抑えていたつもりだったけど、コルネリアも同じ気持ちなら……?)
クリスティーナの助言、そしてあのパーティー会場でのマリアとの会話でのコルネリアの行動と表情。
(コルネリアは僕のことが好きかもしれない)
そんな風に思うも、なんとなく自惚れかもしれないと一歩を踏み出せずにいた。
それでも考えれば考えるほど、コルネリアの仕草や行動、表情を思い出せば思い出すほどそのようにしか思えなかった。
レオンハルトはゆっくりとコルネリアのほうに視線を遣ると、ちょうど彼女もこちらを見ていたタイミングで、彼女は目を一瞬見開いてそしてすぐに逸らす。
これは期待してしまってもいいのか?とレオンハルトはそう思い、屋敷へと戻った──
◇◆◇
「おかえりなさいませ、レオンハルト様、コルネリア様」
「ただいま、テレーゼ」
すっかり夜になった頃、馬車はヴァイス邸へと無事につき、そしてテレーゼの出迎えを受けていた。
レオンハルトは執事と一言、二言話すと、テレーゼと話をするコルネリアの手をとった。
「レオンハルト様?」
「テレーゼ、少しコルネリアを借りてもいいかな?」
「奥様がよろしければ、わたくしは問題ございません」
「いいかい? コルネリア」
「……はい、大丈夫です」
そう言って二人は屋敷の中へと入ると、長い廊下を抜けてレオンハルトの部屋へと向かう。
パーティー衣装のまま二人は部屋に入ると、レオンハルトはドアをゆっくりと閉めた。
二人だけの空間になると、やはりどこかよそよそしい反応をするコルネリアを確認して、レオンハルトはそのまま彼女との距離を詰める。
「──っ!」
レオンハルトの予想通り、コルネリアは今までのように目を合わせずすぐさま一歩引く。
(何……? 感情が変、ぞわぞわする。レオンハルト様とずっと目を合わせられない)
コルネリアは自分自身に生まれた新しい感情に戸惑いを覚え、そしてそれをどう処理して良いかわからずにいた。
パーティー会場で見たあの光景が忘れられず、そしてレオンハルトを自分だけのものにしたいと思った。
(おこがましいですよね、レオンハルト様が他の人と話しているのが嫌なんて。なんでこんなことを思うの? なんで? どうして?)
自分自身の心の変化についていけずに、コルネリアは自分の心を乱す原因であるレオンハルトを避けてしまっていた。
彼を見るとドキドキして、そして感情が揺さぶられる。
自分だけを見つめてほしい、そんな風に思ってしまうことがどうしてかわからずにコルネリアは混乱していた。
「コルネリア」
「──っ!!」
名前を呼ばれただけでドキリとする、それどころか名前を呼ぶと同時に腕を掴まれて余計に心拍数が上がる。
顔が赤くなって、顔を逸らしてしまうコルネリアを見て、レオンハルトは確信した。
(これは嫌で避けているんじゃない、きっとこれは……)
レオンハルトはそこまで考えると、目を少しの間閉じて覚悟をすると、瞼を再び開いてコルネリアの目を見つめて言った。
「コルネリア、僕は君のことが好きだ」
「──っ!!」
「僕はずっと待つよ。だから、君は君の思うように行動すればいい。そして僕はこれから遠慮しない、覚悟して?」
コルネリアはその言葉に少しきょとんとしながら、黙って頷いた。
レオンハルトはいつものようにそっと彼女の頭にポンと手を置くと、優しく微笑んだ。
(コルネリア、恋はね。自分で気づかないと意味がないんだ。だからね、僕は今から君に意地悪をする。君が気づくまで、僕はそっと傍で見守る。ただ、君に真っ直ぐな愛を注ぎ続けながら……)
レオンハルトは自分の気持ちを押し付けたり、感情を無理矢理に教えることはしたくないと思った。
あくまで彼女が自分の気持ちに気づいて、そしてそれに気づいて混乱が収まるまで待つことにしたのだ。
(まあ、君を愛することは待ってって言っても待たないけどね)
夜の闇で美しく月が輝き、そしてその月明かりに二人は照らされていた──
「レオンハルト様っ?」
「コルネリア、挨拶も無事に済んだしそろそろ帰ろうか」
「……はい」
コルネリアは明らかに目を逸らしてしまい、レオンハルトの後をついていくのにいつもよりも距離をとってしまう。
そんな微妙な距離をレオンハルトも感じながら、帰りの馬車へと乗り込む。
「今日はうまく挨拶もできていたね」
「そうだといいのですが」
「…………」
「…………」
会話を交わすときこそコルネリアはレオンハルトのほうを見るが、すぐに目を逸らしてそのまま窓の外を眺めてしまう。
いくつか言葉を交わしても、はい、そうですね、そうだと思います、そのような言葉しかコルネリアからは出ず、言葉数も少ない。
やはり嫌われてしまったのかもしれない──
そんな不安が頭をよぎるレオンハルトだったが、彼女をよく観察しているとこれまでの感情がなかった時の彼女とは明らかに違う反応をしていた。
窓の外を眺めながらも、数分に一度自分のほうにちらっと視線を送っては、また窓のほうに慌てて視線を戻していることに気づく。
自分の何かが気になるのだろうか、とも思ったその時、バルコニーで交わしたクリスティーナとの言葉を思い出す。
『もう、あなたはいい加減その臆病な根を直しなさい』
(僕は何かを怖がっているのだろうか)
そう思いながらコルネリアのほうをじっと見つめてみる。
ああ、やはり愛らしい。
一緒に見に行って見繕ったドレスも、白を基調とした刺繍の映えるドレスも、今日のために下ろしたであろう花の髪飾りも、いつもより大人っぽくまとめられた髪も全て可愛い。
こんな姿、それこそ独り占めにしたい、とレオンハルトはそう思い、そして同時に気づいた。
(そうか、この気持ちを今まで抑えていたつもりだったけど、コルネリアも同じ気持ちなら……?)
クリスティーナの助言、そしてあのパーティー会場でのマリアとの会話でのコルネリアの行動と表情。
(コルネリアは僕のことが好きかもしれない)
そんな風に思うも、なんとなく自惚れかもしれないと一歩を踏み出せずにいた。
それでも考えれば考えるほど、コルネリアの仕草や行動、表情を思い出せば思い出すほどそのようにしか思えなかった。
レオンハルトはゆっくりとコルネリアのほうに視線を遣ると、ちょうど彼女もこちらを見ていたタイミングで、彼女は目を一瞬見開いてそしてすぐに逸らす。
これは期待してしまってもいいのか?とレオンハルトはそう思い、屋敷へと戻った──
◇◆◇
「おかえりなさいませ、レオンハルト様、コルネリア様」
「ただいま、テレーゼ」
すっかり夜になった頃、馬車はヴァイス邸へと無事につき、そしてテレーゼの出迎えを受けていた。
レオンハルトは執事と一言、二言話すと、テレーゼと話をするコルネリアの手をとった。
「レオンハルト様?」
「テレーゼ、少しコルネリアを借りてもいいかな?」
「奥様がよろしければ、わたくしは問題ございません」
「いいかい? コルネリア」
「……はい、大丈夫です」
そう言って二人は屋敷の中へと入ると、長い廊下を抜けてレオンハルトの部屋へと向かう。
パーティー衣装のまま二人は部屋に入ると、レオンハルトはドアをゆっくりと閉めた。
二人だけの空間になると、やはりどこかよそよそしい反応をするコルネリアを確認して、レオンハルトはそのまま彼女との距離を詰める。
「──っ!」
レオンハルトの予想通り、コルネリアは今までのように目を合わせずすぐさま一歩引く。
(何……? 感情が変、ぞわぞわする。レオンハルト様とずっと目を合わせられない)
コルネリアは自分自身に生まれた新しい感情に戸惑いを覚え、そしてそれをどう処理して良いかわからずにいた。
パーティー会場で見たあの光景が忘れられず、そしてレオンハルトを自分だけのものにしたいと思った。
(おこがましいですよね、レオンハルト様が他の人と話しているのが嫌なんて。なんでこんなことを思うの? なんで? どうして?)
自分自身の心の変化についていけずに、コルネリアは自分の心を乱す原因であるレオンハルトを避けてしまっていた。
彼を見るとドキドキして、そして感情が揺さぶられる。
自分だけを見つめてほしい、そんな風に思ってしまうことがどうしてかわからずにコルネリアは混乱していた。
「コルネリア」
「──っ!!」
名前を呼ばれただけでドキリとする、それどころか名前を呼ぶと同時に腕を掴まれて余計に心拍数が上がる。
顔が赤くなって、顔を逸らしてしまうコルネリアを見て、レオンハルトは確信した。
(これは嫌で避けているんじゃない、きっとこれは……)
レオンハルトはそこまで考えると、目を少しの間閉じて覚悟をすると、瞼を再び開いてコルネリアの目を見つめて言った。
「コルネリア、僕は君のことが好きだ」
「──っ!!」
「僕はずっと待つよ。だから、君は君の思うように行動すればいい。そして僕はこれから遠慮しない、覚悟して?」
コルネリアはその言葉に少しきょとんとしながら、黙って頷いた。
レオンハルトはいつものようにそっと彼女の頭にポンと手を置くと、優しく微笑んだ。
(コルネリア、恋はね。自分で気づかないと意味がないんだ。だからね、僕は今から君に意地悪をする。君が気づくまで、僕はそっと傍で見守る。ただ、君に真っ直ぐな愛を注ぎ続けながら……)
レオンハルトは自分の気持ちを押し付けたり、感情を無理矢理に教えることはしたくないと思った。
あくまで彼女が自分の気持ちに気づいて、そしてそれに気づいて混乱が収まるまで待つことにしたのだ。
(まあ、君を愛することは待ってって言っても待たないけどね)
夜の闇で美しく月が輝き、そしてその月明かりに二人は照らされていた──
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