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第一話
好きになってはいけないのに・・・
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和哉が男娼として売られたのは、わずか11歳の頃だった。最初は、幼いため客をとるような事はしていない。男娼達の世話をしたり、店の掃除をするのが和哉の仕事だった。男娼達はみんな優しく、和哉にとっては兄のような存在だった。15歳の誕生日の夜。初めて男に抱かれた。相手はかなりの高齢で、和哉はよくわからないうちに純潔を奪われてしまった。逃げようとする身体を押さえつけられ、和哉は声が枯れるまで泣いた。
毎日のように男に抱かれるうちに、涙など出なくなっていた。
これが自分の仕事なのだと割り切るしかなかったのだ。
その日も、いつもと同じ毎日が繰り返されると思っていた。おもちゃのように抱かれるだけだと。だが、入ってきた客はかなり変わっていた。
「な・・・」
和哉を見るなり、その客は唖然とした表情で立ち尽くした。
(なんだ、コイツ)
それが和哉の第一印象だ。
年の頃は30代前半。きっちり整えられた黒髪と、スッと通った鼻筋。焦げ茶のスーツは、触らなくてもわかるほどの上質な生地。おそらくかなりの金持ちなのだろう。
「お客さん?するのかしないのか、はっきりしてくんねぇ?」
ジロジロと見られ、和哉はかなり不機嫌だった。苛立って声を荒げれば、男がハッと我に返ったように視線を彷徨わせる。
「す、すまない」
それから、周囲をキョロキョロと見回した。
(男を抱いた事がねーのか?ったく、オレは見世物じゃねーっつうの)
和哉には、あまり固定客はつかなかった。その理由は、その性格ゆえだ。顔立ちは美しいものの、口も態度も悪い。ほとんどの客が1回きりで来なくなるのだ。
(どいつもこいつも。あれだけ奉仕してやっても、すぐに来なくなる)
和哉は、自分の欠点を棚に上げてブツブツと文句を言った。と、それまでだんまりだった男がやっと口を開く。
「あの、君は本当に男なのか?」
「はぁ?あんた、オレをバカにしてんのか?ちゃんと付いているモンは付いてるよ。なんなら見るかい?」
和哉が赤い長襦袢を左右に開こうとすると、慌てて男が止めた。そして、思いもよらない事を言い出した。
「君を買いたいんだ」
「は?」
和哉には、もう訳がわからなかった。男かと聞いてみたり、抱きもしないで買うと言ってみたり。どうかしてるとしか思えなかった。話はあれよあれよと進み、和哉はこの風変わりな男に買われる事となった。その日のうちに、和哉は男の家へと連れて行かれる。
「僕の名前は、橘恭介。教師をしているんだ」
「へぇ。センセか」
案内されたのは、広い日本家屋だった。玄関を開ければ、小柄な老婆が音もなく迎え出る。
「トミさん。こちらは和哉さんだ」
トミと呼ばれた老婆は、和哉の顔を見るなり目を大きく見開いた。
「友華様っ」
「へ?」
袖を掴まれ、和哉が慌てて恭介を見上げる。
「違うよ。よく似てるけど、彼は男だ」
「男?この方が?まぁ」
なんとも不思議な会話だ。和哉はそのまま風呂に入れと言われた。用意されていたのは、女物の浴衣。
「なんか、変な奴に買われたな」
浴衣を着てとりあえず居間へ行くと、恭介とトミが再び顔を見合わせる。そして、この不可解な状況を説明してくれた。
「実は、僕はもうすぐ結婚をするんだ」
「結婚する奴が男を買うのか?」
「実は、花嫁がいなくなってしまったんだ」
恭介の話によると、相手は友華という女性で今年で18歳になる。茶屋の娘で気立てもよく、校長の紹介で交際へ発展したらしい。結婚も決まり、全てが順風満帆に思えた。ところが、式を挙げる事が決まった翌朝。友華が書き置きを残していなくなったのだ。綺麗な便箋には、『結婚式は中止にしてください』とだけ書かれていたらしい。
「今、彼女の家族が探してくれてる。きっと何か深い事情があるんだろう」
和哉は、なんとなく自分か買われた理由がわかってしまった。
「先に言っておくけど、オレには無理だからな」
和哉が立ち上がれば、恭介が全身で止めてくる。
「しばらくの間でいいんだっ。友華さんのふりをしてくれ」
「嫌だっ」
「頼むっ」
恭介がその場に土下座をすると、トミまでが土下座をした。和哉は戸惑ってしまった。
「やめろよっ。トミさんまで・・・っ」
「友華さんが戻ってきたら、君を自由にする。お金も用意しよう。頼む、助けてくれっ」
すがるように見上げられ、和哉は渋々頷いた。どっちみち、男娼として働かなくて済むのだ。ちょっと女の真似をすればいい。和哉はそう考えていた。
が、現実はそうそう甘くはなかった。
「和哉さん。もっと上品に振る舞ってください。足をもっと内股にしてっ」
トミの教育は、それはそれは厳しかった。立ち方から歩き方、更には水の飲み方まであれこれと注意された。特に、外を歩く時には歩幅まで咎められた。
「ったく。やってられっか」
風呂に入りながら、和哉が悪態をつく。確かに、男娼をしている時は女のような出で立ちをする。その方が男受けがいいのだ。だが、さすがに女性になりきれるとは思っていない。
だが、恭介との生活は悪くはなかった。
(あんな男もいるんだな)
育ちがいい奴というのは、どこか偉そうなものだ。だが、恭介は違った。恭介は、和哉を男娼だからといって蔑んだりはしない。
(・・・こんな風にされるのは、初めてだ)
恭介は、いつも和哉を対等に見てくれた。和哉は、恭介との生活に居心地の良さを感じていた。
(なんで、逃げたんだろう)
恭介は、見た目も人柄も問題ない。友華が逃げる理由は、どこにも見当たらないのだ。
「そろそろ出るか」
和哉が浴槽の中で立ち上がった瞬間。ガラッと引き戸が開く。
「え?」
「・・・あ」
そこには、全裸の恭介が立っていた。
「す、すまない。てっきり、誰もいないと・・・」
恭介が戸惑ったように視線をさ迷わせる。そして、和哉の胸元を見た瞬間。その表情を変えた。
「男娼の裸がそんなに珍しいか?なんなら、抱いてみる?」
和哉が意味深に唇を舐めて見せると、恭介は耳まで真っ赤になった。
「ぼ、僕はそんなつもりじゃ・・・っ」
「ジョーダンだよ、冗談。これだから、真面目な奴はつまんねー」
ケラケラ笑いながら、和哉は浴衣を羽織って浴室を出た。そして、誰もいない事を確認してスッと笑顔をした。そっと、胸元に指を置く。
(見られただろうか?)
そこには、和哉が過去に受けた古傷が残っている。できれば、恭介には知られたくなかった。知られたら、きっと今までとは何かが変わってしまう。それが、和哉には怖かった。恭介には、普通に接してほしかった。哀れみなどという感情を持ってほしくはなかったのだ。
恭介との暮らしは、和哉にとっては楽しいものだった。トミは厳しいが、とても優しくしてくれる。頭を撫でられると、田舎のばっちゃんを思い出した。トミが作るあったかい料理の数々は、和哉に人として生きる喜びを思い出させてくれた。
学校に行っていない和哉に、恭介は字を教えてくれた。お菓子を買ってくれたり、馬車にも乗せてくれた。何よりも、和哉に人を好きになるという経験をさせてくれた。そう。和哉は、恭介を好きになっていた。
初めて、自分から抱かれたいと思った。そんなの、無理に決まっているのに・・・。
(せめて、このまま側にいたい)
そんな事を思ってしまう自分を、和哉は心の中で叱咤した。好きになったって、無駄なのだ。恭介には、友華という婚約者がいる。彼女が帰ってきたら、自分はこの屋敷を出ていかなくてはならないのだ。だから、和哉はわざと恭介に冷たく接した。彼の事を好きになりたくなかったから。
「和哉。起きてるかい?」
ある夜。恭介が大福とお茶を持って部屋を訪ねてきた。
「大福だっ」
甘い物が大好きな和哉は、早速頬張った。上品な甘さで、口の中で蕩けるようだった。と、不意に恭介の手か浴衣にかかる。
「なんの真似だよ。抱きたくなったのか?」
恭介は、和哉が抵抗する前に浴衣を左右に開いた。右の乳首周辺には、古い痣がある。
「この痣は?」
それは、数個の火傷の跡だった。恭介の指が労るようにそっと撫でる。和哉は、大福を頬張ったままそっぽを向いた。
窓から差し込む月光が、室内を幻想的に照らし、沈黙が続いた。結局。和哉は観念して口を開いた。
「・・・初めての客にされたんだ。かなりの爺さんでさ、嫌がったら躾だとかなんとか言って、タバコを押し付けられたんだよ」
熱さと痛さで意識が遠退くなか、和哉は強引に身体を開かされた。快感なんて、そこにはなかった。
「同情なら、いらねーからな」
「なぜ、男娼なんかに?」
「なんかなんて言うなっ。これでも、誇りを持ってやってたんだっ」
和哉は、浴衣の襟を直すと恭介を睨み付けた。
「すまない。言葉が過ぎた」
恭介の謝罪に、和哉はフッと息を吐いた。
「・・・理由なら、わかるだろ?金のためだよ」
和哉は、家族を食べさせるために男娼になったのだ。和哉の父は腕のいい植木職人だったが、梯子から落ちて足に大怪我を負った。母親は、弟を生んだばかりだったというのに・・・。
「家族7人。生きていくのがやっとだった」
そんな時に、男娼館を営む夫婦が来て和哉を買いたいと言ってきた。でなければ、8歳の妹を女郎として売るとまで言われたのだ。幼い妹が、金持ちのおもちゃになるなんて耐えられなかった。それなら、自分が男に足を開く方が、ずっと楽だった。
「・・・そんな目で見るなよ」
和哉は、昔から同情されるのが苦手なのだ。自分の人生は、決して特別なものではない。生きていれば、逃げ出したくなるような事は当たり前にあるのだ。だから、同情なんてしてほしくなかった。
「あんたとオレとは、元々住む世界が違うんだよ」
和哉は、大福の礼を述べると布団に潜った。何か言いたそうな恭介の気配に、ギュッと目を閉じた。優しくされたら、きっとこの気持ちを押さえられない。
恭介は、襖を静かに閉めると小さくため息を吐いた。自室に戻ったが、和哉の事が気になって仕方がない。
(最近。変だな)
これまでは、友華の事ばかり考えていた。校長からの紹介で初めて彼女に会った時に、単純に(この人が僕の妻になるのか)ぐらいにしか考えてなかった。
個人的な愛情を抱いたわけではないが、嫌いでもなかった。彼女も、同じ考えだと思っていた。なぜ、自分の元から去ったのだろう。そればかりが気になっていた。結婚式が近づき、学校でその話題が出る度にビクビクしていた。花嫁に逃げられたなんて、誰にも言えなかった。だから、友華に似てる男娼がいると聞いた時には、藁をもすがる思いで出向いたのだ。せめて、形だけでも結婚式を挙げれば格好がつくと。
(僕は、自分の事しか考えてなかった)
友華との結婚もそうだ。校長の紹介を無下にできないという気持ちが強かった。友華が家出をしたと聞いた時には、世間体の事を考えていた。
(僕は、最低の人間だ)
和哉に対しても、どこか差別的な気持ちを持っていたのかもしれない。
男娼なんてするのは、『可哀想な人間だ』と思っていた。金で買って自由にしてやったと、心のどこかで優越感を感じていたのも事実だ。その薄っぺらい同情心は、きっと和哉には見抜かれている。そして、和哉の心を傷つけたのだろう。
(やっぱり、謝ろう)
そう思って和哉の部屋を訪れると、中からは小さな寝息が聞こえてきた。そっと中に入れば、和哉がスヤスヤ寝ている。はだけた浴衣を直してやりながら、こんな時間が永遠に続けばいいと願った。
(もしかして、僕は・・・)
恭介は芽生えた感情を慌ててかき消した。友華が戻ったら、和哉を自由にすると約束したのだ。恭介は、浴衣をめくり火傷の跡にそっと触れた。この傷を、嫌な過去と共に消してやりたかった。
(いつまでも、笑っていてほしい)
恭介は、好きだと心の中だけで呟いた。自分の気持ちを押し付けるのは、許されないと思ったのだ。それからも2人は他愛ない会話をして過ごした。トミはまるで兄弟みたいだと笑い、穏やかな時間が過ぎていった。
結局、友華が見つからないまま結婚式の日を迎えた。
(まさか、こんな姿をするなんて・・・)
白無垢に着替えた和哉がため息を吐く。白粉をつけた肌に、深紅の口紅がよく映えていた。
「すまない。こんな事になってしまって」
恭介が暗い顔で呟く。
「別に。これでオレは自由なんだから、たいした事ねーよ」
話し合いの結果。結婚式の後、数ヵ月たったら離婚するという筋書きになっている。離婚は世間体に悪いが、いつまでも周囲を騙せるものではない。
式は、呆気ないほどすぐに終わった。恭介は友人や教師仲間から酒を勧められ、かなり泥酔していた。式が終わってすぐにイビキをかいて寝ている。
「トミさん。後はオレがやるからいいよ」
酔った恭介を着替えさせ、なんとか布団に寝かせると、和哉はトミを休ませる事にした。
本来なら、今夜は初夜だ。
(本当なら、友華って人と過ごしてたんだな)
眠る恭介の表情を見つめて、和哉は胸元をギュッと押さえた。部屋の隅には、白無垢が飾られている。
(純白なんて、オレには似合わない)
さんざん男に抱かれた身体は、純潔からはほど遠かった。
離婚届けを出したら、和哉はこの屋敷を去るのだ。恭介のような男なら、きっとすぐに新しい花嫁は決まる。せめて、それまでは側にいようと和哉は心に決めた。振り向くと、いつの間に起きていたのか恭介がジッと見つめていた。
「び、びっくりした。起きたのか?今、水を・・・」
恭介は、何も言わず和哉の頬を優しく包み込んだ。
「綺麗だ」
うっとりと囁くように言った唇が、ゆっくりと近づいてくる。
「恭介。ダメ、だよ」
きっと友華と勘違いしている。和哉が逃げようとすれば、腕を引かれてそのまま布団に押し倒された。
「恭介・・・っ、違う・・・っ、オレは友華さんじゃない・・・って・・・」
襟を大きく左右に開かれ、肩や胸元が露になる。恭介は、頬を蒸気させたまま、華奢な身体を貪った。
「あ・・・っ」
和哉の唇から、甘い声が漏れる。強く乳首を吸われ、裾を割って手が入り込んでくる。太ももをまさぐられ、足の付け根を愛撫された。やがて、恭介自身が後ろに当てられる。
「うっ、あ・・・っ」
皮肉だが、抱かれる事に慣れた身体はすぐに恭介を奥まで受け入れた。和哉は、恭介の激しいリズムに甘い声を上げながらのけぞった。好きな男に抱かれたのは、初めてだと和哉は快感の中で感じた。
「好きだ・・・、和哉・・・・」
恭介の呟きに、和哉は貫かれたままの状態で硬直した。恭介の気持ちを知ってしまった。和哉は、泣きながら恭介の背中を抱き締めた。本来なら、嬉しいはずなのに。哀しくて仕方がなかった。
(オレが側にいたら、恭介は・・・)
深く口づけを交わしても、一緒に過ごす事はできない。
いっそ、身体だけの関係なら良かった。だったら、笑顔で別れられたのに。
和哉は、奥深くで恭介の愛を受け止めた。
結婚式の翌朝。恭介は、ぼんやりと布団の中で瞬きを繰り返していた。吐く息は酒臭く、起き上がるだけで億劫だった。昨夜行われた自身の結婚式では、苦手な日本酒をかなり飲まされた。来客が帰るまでは、なんとか気力で立っていたのだが、その後の記憶がほとんどない。
「ん?」
何気なく布団に手を置いた恭介は、やや寝具か乱れている事に気がついた。寝相はとてもいい方なので、布団が乱れるなんて事は希だ。そして、下半身に妙な違和感を感じる。
(あれ?これって、まさか)
男なら誰でも覚えがある感覚だ。不意に、ある映像が浮かぶ。それは、怯えたような表情をしている和哉の顔だ。はだけた胸元と、のけぞる・・・。
「まさか、まさか僕は彼を・・・?」
花嫁の身代わりとして男娼館から買ってきた和哉を、いつしか恭介は本気で好きになっていた。男だとわかっていても、ずっと側にいてほしかった。だが、これまで好きでもない男に抱かれ続けてきた和哉を、これ以上苦しめたくなかった。それに、理由はどうあれ、きっと和哉は恭介を軽蔑の眼差しで見つめる事だろう。恭介は、和哉を自分のものにするよりも、彼に自由になってほしかった。それなのに、もしかすると自分はひどい事をしたのかもしれない。まだフラフラする足元を叱咤し、恭介は居間へと向かった。そこには、驚いた顔の和哉がいた。
「おはよう。どうしたんだよ?そんなに急いで」
「いや、あの、トミさんは?」
「聞いてなかったのか?トミさん、しばらくは田舎に帰るって言ってたろ」
「そ、そっか。そうだったな」
食卓の上には、和哉が用意した朝御飯が並んでいる。見た目は、かなり個性的だった。
「味は大丈夫だからさ、どんどん食えよ」
茶碗にご飯をよそって和哉が笑う。
「・・・なんか、お粥みたいだな」
「ごめん。水の量間違えたみたいだ」
「味噌汁。味がないんだけど・・・」
「あっ。ダシ入れるの忘れてたっ」
「卵焼き。裏が真っ黒」
「タイミングがわからなくて・・・」
見た目同様、味もかなり個性的だった。
「・・・ごめん」
「謝る事はないよ。料理なんて、すぐに上達するさ」
何気なく言った言葉に、和哉が固まる。その気配に恭介も箸を止めた。しばらくしたら、恭介は役所に離婚届を出す。そうしたら、和哉はこの家を出るのだ。料理なんてうまくなったって、なんの意味もない。
「昨夜、僕は君に何もしなかったか?」
ポツリと恭介が尋ねる。
「何かって?ああ、酔っぱらった挙げ句にオレの足を踏んだ事か?」
沢庵をボリボリかじりながら和哉が言う。その表情は、いつも通りだった。
「僕は、その、君と・・・」
「センセ。寝ぼけて、オレの事を友華さんと勘違いしてたよ」
和哉が笑う。とても自然に。
「ほら。今日は大事な用事があるんだろ。急がないと」
和哉に急かされて、恭介は慌てて着替えに向かった。
(危ねー)
恭介が外出するのを待ってから、和哉はホッとため息を吐いた。本当は、立っているだけでやっとの状態だったのだ。着物を脱げば、胸元や鼠径部には恭介が付けた紅い痣が散らばっている。最奥はジンジンとして、昨夜の激しすぎる行為を思い出させた。
「ったく、酔っぱらいめ。力の加減知らねーのかよ」
文句を言いながらも、その口元は嬉しそうに綻んでいた。
乱暴に抱かれた身体は、今だ甘い余韻を残している。これまで、多くの男に抱かれてきたが、それは道具としてだ。愛されながら抱かれた事など、1度もなかった。だから、恭介が酔っていたとはいえ、自分の事を愛していると言ってくれた時は嬉しかった。肉体だけではなく、心が濡れるという感覚を初めて知った。
だが、男娼をしていた自分が恭介の側にいるのは、彼の為にならない事もよく知っていた。恭介は教師なのだ。万が一、花嫁が男だと知られたら、社会的にも追い詰められてしまう。
「ダメだよ、センセ。オレなんか選んじゃ」
なぜ、恭介が自分なんかに好意を持ってくれたのかはわからない。わからないが、恭介から離れた方がいい。
「一度でもあんたに抱かれたから、それでいいよ」
愛された記憶があれば、それだけでいい。これからも、その記憶だけで満たされる。和哉は、自分の寂しさに気づかないふりをした。
恭介と和哉は、穏やかな日々を過ごした。新妻は体調が優れない事にして、できるだけ人に会わないようにした。
「和哉。湯冷めするよ」
風呂上がりに縁側でぼんやりしていれば、恭介が薄手の上着をかけてくれる。
「ありがと」
傍らには、恭介が貸した本が置かれている。子供が読むような童話だが、漢字が苦手な和哉にはお気に入りだった。
「実はね、友華さんが見つかったよ」
「・・・そう、なんだ」
「だが、彼女と結婚する気はない」
和哉は月を睨むように見つめた。その身体を恭介が後ろから抱き締める。
「・・・なんだよ。センセ」
「和哉。僕は君を・・・」
「無理だよ」
和哉は、恭介の手を振り払うと自室へと逃げるように入った。恭介が、ドアの前で何かを言っていたが、耳を塞ぎ聞かなかった。
翌朝。和哉は、長い髪をなんの躊躇もなく短く切った。そして、男物の着物に身を包み屋敷を出た。恭介のために用意した朝食は自信作だ。
「料理の腕、やっと上がったのにな」
太陽がうっすらと周囲を照らす。和哉は、足早に駅へと向かった。駅には、早くから大勢の人がいた。和哉は、故郷までの切符を買うと汽車を待った。
(あ。あの駅員、客だった男だ。すっげー下手くそだったな。あ、あそこに座ってるのは変態オヤジだ)
和哉にとって、男娼だった頃の記憶は消しても消しきれない。だが、男娼をしていたから恭介に会えたのだ。そう思えば、嫌な過去も消えていく。和哉は、少ない荷物を片手に改札へと向った。と、腕が掴まれる。
「誰だっ」
振り向けば、息を切らして立っている恭介がいた。その目は、かなり怒っているようで、和哉は知らず緊張した。
「な、なんだよ。センセ」
和哉が尋ねても、恭介は何も言ってはくれなかった。そのままヒョイッと和哉を肩に担ぐと、駅を出た。
「何すんだよっ。離せっ、離せってば・・・っ」
和哉がどれだけ喚いても、周囲からは本気にはとられないようだ。通り過ぎる女性達に、クスクスと笑われる始末だ。結局、屋敷に戻るまで会話はなかった。
「なぜ黙って出ていこうとしたんだ」
「オレがいたら迷惑だろ?」
いつ男娼だった事がバレるかわからない。バレたら、困るのは恭介だ。
「僕は、あの夜。君を抱いた」
「そんな事するわけねーじゃん」
「愛してるとも言った」
「勘違いだよ」
「君も僕を好きだと言った」
「聞き間違いだよ」
恭介が一歩近づく毎に、和哉は一歩逃げた。だが、やがて後ろは壁となり逃げれなくなった。
ドンッと音がして、和哉は恭介が作った空間に閉じ込められる。
「僕は、君と結婚したい」
「気の迷いだよ」
「ずっと、このまま一緒にいたい」
「許される訳がないよ」
「離したくない」
「子供みたいな事言うなよっ」
「君を、愛してるんだ」
静かに重なる唇に、和哉は力が抜けた。こんな風に抱き締められたら、優しく口付けられたら、もう逆らえない。
その夜。和哉は再び白無垢姿となった。化粧もしていないが、恭介は綺麗だと言ってくれた。二人だけで三三九度を交わして、将来を誓い合った。誰も知らない、2人だけの結婚式だった。
交代で風呂に入り、2人は本当の「初夜」を迎えた。
「今度は乱暴にするなよ」
恭介が浴衣を脱がしてくれている間。和哉が照れ隠しのように口走る。
「わかっている。今度こそ、大事に抱く」
和哉の浴衣を全て脱がした恭介が、自身も裸になる。男の全裸なんて見慣れているのに、和哉はまともに恭介が見れなかった。
「明かり、消してくれよ」
「恥ずかしい?」
「・・・うん」
フッと暗くなった部屋が、和哉の甘い声で満たされるのは時間の問題だった。
「あっ・・・んっ、そんなに乳首ばっか弄んなよっ」
平らな胸に手を滑らせた恭介は、小さな突起の肌触りがえらく気に入ったらしく、しつこいぐらいに擦ってきた。そして、脇腹やヘソの横に舌を這わせる。やがて、和哉の下半身は反応し腹につくほどそそり立った。躊躇いがちに恭介の指が性器を握る。
「無理しなくていいよ、センセ。自分で、できるから」
和哉が上半身を起こそうとするのをやんわり止めて、恭介は緩やかに性器を刺激した。和哉は、泣きそうな顔でその愛撫を受け入れた。やがて、恭介の指がしっとりと濡れた。
「触られている時の和哉は、とっても可愛いね」
「や・・・っ、あっ、やめ・・・っ」
声をあげれば、すぐに唇で塞がれる。舌を絡めながら性器を擦られ、和哉は恭介の背中にしがみついた。もう2度と離れないように、ギュッと。
「和哉の全てに触れたい」
口付けの合間に恭介が囁く。そして、和哉の先端をやんわりと撫でた。それだけで、和哉は腰をビクビクさせてイッた。トロリと流れる精液を指で拭い、恭介は和哉の後ろへと指を伸ばす。硬く閉ざされた小さな蕾は、恭介の指をゆっくりと呑み込んでいった。
「んんっ、あっ、あっ」
指を奥へ進める度に、和哉が甘い声をあげる。その反応に、恭介は自分が間違えてなかったと知った。
「んっ。んんっ、あぁっ」
恭介が和哉の細くしなやかな足を肩に乗せ、ゆっくりと身体を重ねる。恭介の熱さが、和哉の体内に入り込む。
「和哉、僕の名前を呼んで」
「恭・・・介」
和哉が囁くように言うと、恭介が安心したように微笑んだ。濃密な初夜を2人は堪能した。
目を覚ますと、腕の中には裸の和哉がいた。スヤスヤと眠る顔に、たまらない安心感が心を満たす。
(僕のお嫁さん)
短くなった髪の手触りを楽しむ。
男である和哉を嫁にするのは、社会的に考えればおそらく受け入れてはもらえないだろう。堂々と生活する事さえ難しい事かもしれない。それでも、恭介は和哉と離れて暮らせないと思った。
「ん・・・」
腕の中で、ゆっくりと和哉が目を開ける。薄茶の瞳は、太陽の光を受けてまるで宝石のようだった。
「おはよう。和哉」
鼻先に唇を押し当てれば、和哉が頬を赤らめる。
「センセって、そんな顔しててけっこうスケベなんだな。何回するんだよ」
「自分でも、驚いてる」
これまで、恭介は性的な事にあまり興味はなかった。なのに、和哉を抱いた瞬間。それは間違いだと気がついた。
「毎日こうじゃ、オレの身がもたないよ」
「気を付ける」
「今日は、朝飯作れないぞ」
和哉がふてくされて言う。と、恭介の指が布団の中で動いた。
「わっ。やめろよっ」
「もう少し、良い事しよっか」
「あっ、ダメだって・・・っ、仕事、遅れる・・・っ、あっ、んっ」
初夜の翌朝は、かなり甘く濃密な時間となった。
毎日のように男に抱かれるうちに、涙など出なくなっていた。
これが自分の仕事なのだと割り切るしかなかったのだ。
その日も、いつもと同じ毎日が繰り返されると思っていた。おもちゃのように抱かれるだけだと。だが、入ってきた客はかなり変わっていた。
「な・・・」
和哉を見るなり、その客は唖然とした表情で立ち尽くした。
(なんだ、コイツ)
それが和哉の第一印象だ。
年の頃は30代前半。きっちり整えられた黒髪と、スッと通った鼻筋。焦げ茶のスーツは、触らなくてもわかるほどの上質な生地。おそらくかなりの金持ちなのだろう。
「お客さん?するのかしないのか、はっきりしてくんねぇ?」
ジロジロと見られ、和哉はかなり不機嫌だった。苛立って声を荒げれば、男がハッと我に返ったように視線を彷徨わせる。
「す、すまない」
それから、周囲をキョロキョロと見回した。
(男を抱いた事がねーのか?ったく、オレは見世物じゃねーっつうの)
和哉には、あまり固定客はつかなかった。その理由は、その性格ゆえだ。顔立ちは美しいものの、口も態度も悪い。ほとんどの客が1回きりで来なくなるのだ。
(どいつもこいつも。あれだけ奉仕してやっても、すぐに来なくなる)
和哉は、自分の欠点を棚に上げてブツブツと文句を言った。と、それまでだんまりだった男がやっと口を開く。
「あの、君は本当に男なのか?」
「はぁ?あんた、オレをバカにしてんのか?ちゃんと付いているモンは付いてるよ。なんなら見るかい?」
和哉が赤い長襦袢を左右に開こうとすると、慌てて男が止めた。そして、思いもよらない事を言い出した。
「君を買いたいんだ」
「は?」
和哉には、もう訳がわからなかった。男かと聞いてみたり、抱きもしないで買うと言ってみたり。どうかしてるとしか思えなかった。話はあれよあれよと進み、和哉はこの風変わりな男に買われる事となった。その日のうちに、和哉は男の家へと連れて行かれる。
「僕の名前は、橘恭介。教師をしているんだ」
「へぇ。センセか」
案内されたのは、広い日本家屋だった。玄関を開ければ、小柄な老婆が音もなく迎え出る。
「トミさん。こちらは和哉さんだ」
トミと呼ばれた老婆は、和哉の顔を見るなり目を大きく見開いた。
「友華様っ」
「へ?」
袖を掴まれ、和哉が慌てて恭介を見上げる。
「違うよ。よく似てるけど、彼は男だ」
「男?この方が?まぁ」
なんとも不思議な会話だ。和哉はそのまま風呂に入れと言われた。用意されていたのは、女物の浴衣。
「なんか、変な奴に買われたな」
浴衣を着てとりあえず居間へ行くと、恭介とトミが再び顔を見合わせる。そして、この不可解な状況を説明してくれた。
「実は、僕はもうすぐ結婚をするんだ」
「結婚する奴が男を買うのか?」
「実は、花嫁がいなくなってしまったんだ」
恭介の話によると、相手は友華という女性で今年で18歳になる。茶屋の娘で気立てもよく、校長の紹介で交際へ発展したらしい。結婚も決まり、全てが順風満帆に思えた。ところが、式を挙げる事が決まった翌朝。友華が書き置きを残していなくなったのだ。綺麗な便箋には、『結婚式は中止にしてください』とだけ書かれていたらしい。
「今、彼女の家族が探してくれてる。きっと何か深い事情があるんだろう」
和哉は、なんとなく自分か買われた理由がわかってしまった。
「先に言っておくけど、オレには無理だからな」
和哉が立ち上がれば、恭介が全身で止めてくる。
「しばらくの間でいいんだっ。友華さんのふりをしてくれ」
「嫌だっ」
「頼むっ」
恭介がその場に土下座をすると、トミまでが土下座をした。和哉は戸惑ってしまった。
「やめろよっ。トミさんまで・・・っ」
「友華さんが戻ってきたら、君を自由にする。お金も用意しよう。頼む、助けてくれっ」
すがるように見上げられ、和哉は渋々頷いた。どっちみち、男娼として働かなくて済むのだ。ちょっと女の真似をすればいい。和哉はそう考えていた。
が、現実はそうそう甘くはなかった。
「和哉さん。もっと上品に振る舞ってください。足をもっと内股にしてっ」
トミの教育は、それはそれは厳しかった。立ち方から歩き方、更には水の飲み方まであれこれと注意された。特に、外を歩く時には歩幅まで咎められた。
「ったく。やってられっか」
風呂に入りながら、和哉が悪態をつく。確かに、男娼をしている時は女のような出で立ちをする。その方が男受けがいいのだ。だが、さすがに女性になりきれるとは思っていない。
だが、恭介との生活は悪くはなかった。
(あんな男もいるんだな)
育ちがいい奴というのは、どこか偉そうなものだ。だが、恭介は違った。恭介は、和哉を男娼だからといって蔑んだりはしない。
(・・・こんな風にされるのは、初めてだ)
恭介は、いつも和哉を対等に見てくれた。和哉は、恭介との生活に居心地の良さを感じていた。
(なんで、逃げたんだろう)
恭介は、見た目も人柄も問題ない。友華が逃げる理由は、どこにも見当たらないのだ。
「そろそろ出るか」
和哉が浴槽の中で立ち上がった瞬間。ガラッと引き戸が開く。
「え?」
「・・・あ」
そこには、全裸の恭介が立っていた。
「す、すまない。てっきり、誰もいないと・・・」
恭介が戸惑ったように視線をさ迷わせる。そして、和哉の胸元を見た瞬間。その表情を変えた。
「男娼の裸がそんなに珍しいか?なんなら、抱いてみる?」
和哉が意味深に唇を舐めて見せると、恭介は耳まで真っ赤になった。
「ぼ、僕はそんなつもりじゃ・・・っ」
「ジョーダンだよ、冗談。これだから、真面目な奴はつまんねー」
ケラケラ笑いながら、和哉は浴衣を羽織って浴室を出た。そして、誰もいない事を確認してスッと笑顔をした。そっと、胸元に指を置く。
(見られただろうか?)
そこには、和哉が過去に受けた古傷が残っている。できれば、恭介には知られたくなかった。知られたら、きっと今までとは何かが変わってしまう。それが、和哉には怖かった。恭介には、普通に接してほしかった。哀れみなどという感情を持ってほしくはなかったのだ。
恭介との暮らしは、和哉にとっては楽しいものだった。トミは厳しいが、とても優しくしてくれる。頭を撫でられると、田舎のばっちゃんを思い出した。トミが作るあったかい料理の数々は、和哉に人として生きる喜びを思い出させてくれた。
学校に行っていない和哉に、恭介は字を教えてくれた。お菓子を買ってくれたり、馬車にも乗せてくれた。何よりも、和哉に人を好きになるという経験をさせてくれた。そう。和哉は、恭介を好きになっていた。
初めて、自分から抱かれたいと思った。そんなの、無理に決まっているのに・・・。
(せめて、このまま側にいたい)
そんな事を思ってしまう自分を、和哉は心の中で叱咤した。好きになったって、無駄なのだ。恭介には、友華という婚約者がいる。彼女が帰ってきたら、自分はこの屋敷を出ていかなくてはならないのだ。だから、和哉はわざと恭介に冷たく接した。彼の事を好きになりたくなかったから。
「和哉。起きてるかい?」
ある夜。恭介が大福とお茶を持って部屋を訪ねてきた。
「大福だっ」
甘い物が大好きな和哉は、早速頬張った。上品な甘さで、口の中で蕩けるようだった。と、不意に恭介の手か浴衣にかかる。
「なんの真似だよ。抱きたくなったのか?」
恭介は、和哉が抵抗する前に浴衣を左右に開いた。右の乳首周辺には、古い痣がある。
「この痣は?」
それは、数個の火傷の跡だった。恭介の指が労るようにそっと撫でる。和哉は、大福を頬張ったままそっぽを向いた。
窓から差し込む月光が、室内を幻想的に照らし、沈黙が続いた。結局。和哉は観念して口を開いた。
「・・・初めての客にされたんだ。かなりの爺さんでさ、嫌がったら躾だとかなんとか言って、タバコを押し付けられたんだよ」
熱さと痛さで意識が遠退くなか、和哉は強引に身体を開かされた。快感なんて、そこにはなかった。
「同情なら、いらねーからな」
「なぜ、男娼なんかに?」
「なんかなんて言うなっ。これでも、誇りを持ってやってたんだっ」
和哉は、浴衣の襟を直すと恭介を睨み付けた。
「すまない。言葉が過ぎた」
恭介の謝罪に、和哉はフッと息を吐いた。
「・・・理由なら、わかるだろ?金のためだよ」
和哉は、家族を食べさせるために男娼になったのだ。和哉の父は腕のいい植木職人だったが、梯子から落ちて足に大怪我を負った。母親は、弟を生んだばかりだったというのに・・・。
「家族7人。生きていくのがやっとだった」
そんな時に、男娼館を営む夫婦が来て和哉を買いたいと言ってきた。でなければ、8歳の妹を女郎として売るとまで言われたのだ。幼い妹が、金持ちのおもちゃになるなんて耐えられなかった。それなら、自分が男に足を開く方が、ずっと楽だった。
「・・・そんな目で見るなよ」
和哉は、昔から同情されるのが苦手なのだ。自分の人生は、決して特別なものではない。生きていれば、逃げ出したくなるような事は当たり前にあるのだ。だから、同情なんてしてほしくなかった。
「あんたとオレとは、元々住む世界が違うんだよ」
和哉は、大福の礼を述べると布団に潜った。何か言いたそうな恭介の気配に、ギュッと目を閉じた。優しくされたら、きっとこの気持ちを押さえられない。
恭介は、襖を静かに閉めると小さくため息を吐いた。自室に戻ったが、和哉の事が気になって仕方がない。
(最近。変だな)
これまでは、友華の事ばかり考えていた。校長からの紹介で初めて彼女に会った時に、単純に(この人が僕の妻になるのか)ぐらいにしか考えてなかった。
個人的な愛情を抱いたわけではないが、嫌いでもなかった。彼女も、同じ考えだと思っていた。なぜ、自分の元から去ったのだろう。そればかりが気になっていた。結婚式が近づき、学校でその話題が出る度にビクビクしていた。花嫁に逃げられたなんて、誰にも言えなかった。だから、友華に似てる男娼がいると聞いた時には、藁をもすがる思いで出向いたのだ。せめて、形だけでも結婚式を挙げれば格好がつくと。
(僕は、自分の事しか考えてなかった)
友華との結婚もそうだ。校長の紹介を無下にできないという気持ちが強かった。友華が家出をしたと聞いた時には、世間体の事を考えていた。
(僕は、最低の人間だ)
和哉に対しても、どこか差別的な気持ちを持っていたのかもしれない。
男娼なんてするのは、『可哀想な人間だ』と思っていた。金で買って自由にしてやったと、心のどこかで優越感を感じていたのも事実だ。その薄っぺらい同情心は、きっと和哉には見抜かれている。そして、和哉の心を傷つけたのだろう。
(やっぱり、謝ろう)
そう思って和哉の部屋を訪れると、中からは小さな寝息が聞こえてきた。そっと中に入れば、和哉がスヤスヤ寝ている。はだけた浴衣を直してやりながら、こんな時間が永遠に続けばいいと願った。
(もしかして、僕は・・・)
恭介は芽生えた感情を慌ててかき消した。友華が戻ったら、和哉を自由にすると約束したのだ。恭介は、浴衣をめくり火傷の跡にそっと触れた。この傷を、嫌な過去と共に消してやりたかった。
(いつまでも、笑っていてほしい)
恭介は、好きだと心の中だけで呟いた。自分の気持ちを押し付けるのは、許されないと思ったのだ。それからも2人は他愛ない会話をして過ごした。トミはまるで兄弟みたいだと笑い、穏やかな時間が過ぎていった。
結局、友華が見つからないまま結婚式の日を迎えた。
(まさか、こんな姿をするなんて・・・)
白無垢に着替えた和哉がため息を吐く。白粉をつけた肌に、深紅の口紅がよく映えていた。
「すまない。こんな事になってしまって」
恭介が暗い顔で呟く。
「別に。これでオレは自由なんだから、たいした事ねーよ」
話し合いの結果。結婚式の後、数ヵ月たったら離婚するという筋書きになっている。離婚は世間体に悪いが、いつまでも周囲を騙せるものではない。
式は、呆気ないほどすぐに終わった。恭介は友人や教師仲間から酒を勧められ、かなり泥酔していた。式が終わってすぐにイビキをかいて寝ている。
「トミさん。後はオレがやるからいいよ」
酔った恭介を着替えさせ、なんとか布団に寝かせると、和哉はトミを休ませる事にした。
本来なら、今夜は初夜だ。
(本当なら、友華って人と過ごしてたんだな)
眠る恭介の表情を見つめて、和哉は胸元をギュッと押さえた。部屋の隅には、白無垢が飾られている。
(純白なんて、オレには似合わない)
さんざん男に抱かれた身体は、純潔からはほど遠かった。
離婚届けを出したら、和哉はこの屋敷を去るのだ。恭介のような男なら、きっとすぐに新しい花嫁は決まる。せめて、それまでは側にいようと和哉は心に決めた。振り向くと、いつの間に起きていたのか恭介がジッと見つめていた。
「び、びっくりした。起きたのか?今、水を・・・」
恭介は、何も言わず和哉の頬を優しく包み込んだ。
「綺麗だ」
うっとりと囁くように言った唇が、ゆっくりと近づいてくる。
「恭介。ダメ、だよ」
きっと友華と勘違いしている。和哉が逃げようとすれば、腕を引かれてそのまま布団に押し倒された。
「恭介・・・っ、違う・・・っ、オレは友華さんじゃない・・・って・・・」
襟を大きく左右に開かれ、肩や胸元が露になる。恭介は、頬を蒸気させたまま、華奢な身体を貪った。
「あ・・・っ」
和哉の唇から、甘い声が漏れる。強く乳首を吸われ、裾を割って手が入り込んでくる。太ももをまさぐられ、足の付け根を愛撫された。やがて、恭介自身が後ろに当てられる。
「うっ、あ・・・っ」
皮肉だが、抱かれる事に慣れた身体はすぐに恭介を奥まで受け入れた。和哉は、恭介の激しいリズムに甘い声を上げながらのけぞった。好きな男に抱かれたのは、初めてだと和哉は快感の中で感じた。
「好きだ・・・、和哉・・・・」
恭介の呟きに、和哉は貫かれたままの状態で硬直した。恭介の気持ちを知ってしまった。和哉は、泣きながら恭介の背中を抱き締めた。本来なら、嬉しいはずなのに。哀しくて仕方がなかった。
(オレが側にいたら、恭介は・・・)
深く口づけを交わしても、一緒に過ごす事はできない。
いっそ、身体だけの関係なら良かった。だったら、笑顔で別れられたのに。
和哉は、奥深くで恭介の愛を受け止めた。
結婚式の翌朝。恭介は、ぼんやりと布団の中で瞬きを繰り返していた。吐く息は酒臭く、起き上がるだけで億劫だった。昨夜行われた自身の結婚式では、苦手な日本酒をかなり飲まされた。来客が帰るまでは、なんとか気力で立っていたのだが、その後の記憶がほとんどない。
「ん?」
何気なく布団に手を置いた恭介は、やや寝具か乱れている事に気がついた。寝相はとてもいい方なので、布団が乱れるなんて事は希だ。そして、下半身に妙な違和感を感じる。
(あれ?これって、まさか)
男なら誰でも覚えがある感覚だ。不意に、ある映像が浮かぶ。それは、怯えたような表情をしている和哉の顔だ。はだけた胸元と、のけぞる・・・。
「まさか、まさか僕は彼を・・・?」
花嫁の身代わりとして男娼館から買ってきた和哉を、いつしか恭介は本気で好きになっていた。男だとわかっていても、ずっと側にいてほしかった。だが、これまで好きでもない男に抱かれ続けてきた和哉を、これ以上苦しめたくなかった。それに、理由はどうあれ、きっと和哉は恭介を軽蔑の眼差しで見つめる事だろう。恭介は、和哉を自分のものにするよりも、彼に自由になってほしかった。それなのに、もしかすると自分はひどい事をしたのかもしれない。まだフラフラする足元を叱咤し、恭介は居間へと向かった。そこには、驚いた顔の和哉がいた。
「おはよう。どうしたんだよ?そんなに急いで」
「いや、あの、トミさんは?」
「聞いてなかったのか?トミさん、しばらくは田舎に帰るって言ってたろ」
「そ、そっか。そうだったな」
食卓の上には、和哉が用意した朝御飯が並んでいる。見た目は、かなり個性的だった。
「味は大丈夫だからさ、どんどん食えよ」
茶碗にご飯をよそって和哉が笑う。
「・・・なんか、お粥みたいだな」
「ごめん。水の量間違えたみたいだ」
「味噌汁。味がないんだけど・・・」
「あっ。ダシ入れるの忘れてたっ」
「卵焼き。裏が真っ黒」
「タイミングがわからなくて・・・」
見た目同様、味もかなり個性的だった。
「・・・ごめん」
「謝る事はないよ。料理なんて、すぐに上達するさ」
何気なく言った言葉に、和哉が固まる。その気配に恭介も箸を止めた。しばらくしたら、恭介は役所に離婚届を出す。そうしたら、和哉はこの家を出るのだ。料理なんてうまくなったって、なんの意味もない。
「昨夜、僕は君に何もしなかったか?」
ポツリと恭介が尋ねる。
「何かって?ああ、酔っぱらった挙げ句にオレの足を踏んだ事か?」
沢庵をボリボリかじりながら和哉が言う。その表情は、いつも通りだった。
「僕は、その、君と・・・」
「センセ。寝ぼけて、オレの事を友華さんと勘違いしてたよ」
和哉が笑う。とても自然に。
「ほら。今日は大事な用事があるんだろ。急がないと」
和哉に急かされて、恭介は慌てて着替えに向かった。
(危ねー)
恭介が外出するのを待ってから、和哉はホッとため息を吐いた。本当は、立っているだけでやっとの状態だったのだ。着物を脱げば、胸元や鼠径部には恭介が付けた紅い痣が散らばっている。最奥はジンジンとして、昨夜の激しすぎる行為を思い出させた。
「ったく、酔っぱらいめ。力の加減知らねーのかよ」
文句を言いながらも、その口元は嬉しそうに綻んでいた。
乱暴に抱かれた身体は、今だ甘い余韻を残している。これまで、多くの男に抱かれてきたが、それは道具としてだ。愛されながら抱かれた事など、1度もなかった。だから、恭介が酔っていたとはいえ、自分の事を愛していると言ってくれた時は嬉しかった。肉体だけではなく、心が濡れるという感覚を初めて知った。
だが、男娼をしていた自分が恭介の側にいるのは、彼の為にならない事もよく知っていた。恭介は教師なのだ。万が一、花嫁が男だと知られたら、社会的にも追い詰められてしまう。
「ダメだよ、センセ。オレなんか選んじゃ」
なぜ、恭介が自分なんかに好意を持ってくれたのかはわからない。わからないが、恭介から離れた方がいい。
「一度でもあんたに抱かれたから、それでいいよ」
愛された記憶があれば、それだけでいい。これからも、その記憶だけで満たされる。和哉は、自分の寂しさに気づかないふりをした。
恭介と和哉は、穏やかな日々を過ごした。新妻は体調が優れない事にして、できるだけ人に会わないようにした。
「和哉。湯冷めするよ」
風呂上がりに縁側でぼんやりしていれば、恭介が薄手の上着をかけてくれる。
「ありがと」
傍らには、恭介が貸した本が置かれている。子供が読むような童話だが、漢字が苦手な和哉にはお気に入りだった。
「実はね、友華さんが見つかったよ」
「・・・そう、なんだ」
「だが、彼女と結婚する気はない」
和哉は月を睨むように見つめた。その身体を恭介が後ろから抱き締める。
「・・・なんだよ。センセ」
「和哉。僕は君を・・・」
「無理だよ」
和哉は、恭介の手を振り払うと自室へと逃げるように入った。恭介が、ドアの前で何かを言っていたが、耳を塞ぎ聞かなかった。
翌朝。和哉は、長い髪をなんの躊躇もなく短く切った。そして、男物の着物に身を包み屋敷を出た。恭介のために用意した朝食は自信作だ。
「料理の腕、やっと上がったのにな」
太陽がうっすらと周囲を照らす。和哉は、足早に駅へと向かった。駅には、早くから大勢の人がいた。和哉は、故郷までの切符を買うと汽車を待った。
(あ。あの駅員、客だった男だ。すっげー下手くそだったな。あ、あそこに座ってるのは変態オヤジだ)
和哉にとって、男娼だった頃の記憶は消しても消しきれない。だが、男娼をしていたから恭介に会えたのだ。そう思えば、嫌な過去も消えていく。和哉は、少ない荷物を片手に改札へと向った。と、腕が掴まれる。
「誰だっ」
振り向けば、息を切らして立っている恭介がいた。その目は、かなり怒っているようで、和哉は知らず緊張した。
「な、なんだよ。センセ」
和哉が尋ねても、恭介は何も言ってはくれなかった。そのままヒョイッと和哉を肩に担ぐと、駅を出た。
「何すんだよっ。離せっ、離せってば・・・っ」
和哉がどれだけ喚いても、周囲からは本気にはとられないようだ。通り過ぎる女性達に、クスクスと笑われる始末だ。結局、屋敷に戻るまで会話はなかった。
「なぜ黙って出ていこうとしたんだ」
「オレがいたら迷惑だろ?」
いつ男娼だった事がバレるかわからない。バレたら、困るのは恭介だ。
「僕は、あの夜。君を抱いた」
「そんな事するわけねーじゃん」
「愛してるとも言った」
「勘違いだよ」
「君も僕を好きだと言った」
「聞き間違いだよ」
恭介が一歩近づく毎に、和哉は一歩逃げた。だが、やがて後ろは壁となり逃げれなくなった。
ドンッと音がして、和哉は恭介が作った空間に閉じ込められる。
「僕は、君と結婚したい」
「気の迷いだよ」
「ずっと、このまま一緒にいたい」
「許される訳がないよ」
「離したくない」
「子供みたいな事言うなよっ」
「君を、愛してるんだ」
静かに重なる唇に、和哉は力が抜けた。こんな風に抱き締められたら、優しく口付けられたら、もう逆らえない。
その夜。和哉は再び白無垢姿となった。化粧もしていないが、恭介は綺麗だと言ってくれた。二人だけで三三九度を交わして、将来を誓い合った。誰も知らない、2人だけの結婚式だった。
交代で風呂に入り、2人は本当の「初夜」を迎えた。
「今度は乱暴にするなよ」
恭介が浴衣を脱がしてくれている間。和哉が照れ隠しのように口走る。
「わかっている。今度こそ、大事に抱く」
和哉の浴衣を全て脱がした恭介が、自身も裸になる。男の全裸なんて見慣れているのに、和哉はまともに恭介が見れなかった。
「明かり、消してくれよ」
「恥ずかしい?」
「・・・うん」
フッと暗くなった部屋が、和哉の甘い声で満たされるのは時間の問題だった。
「あっ・・・んっ、そんなに乳首ばっか弄んなよっ」
平らな胸に手を滑らせた恭介は、小さな突起の肌触りがえらく気に入ったらしく、しつこいぐらいに擦ってきた。そして、脇腹やヘソの横に舌を這わせる。やがて、和哉の下半身は反応し腹につくほどそそり立った。躊躇いがちに恭介の指が性器を握る。
「無理しなくていいよ、センセ。自分で、できるから」
和哉が上半身を起こそうとするのをやんわり止めて、恭介は緩やかに性器を刺激した。和哉は、泣きそうな顔でその愛撫を受け入れた。やがて、恭介の指がしっとりと濡れた。
「触られている時の和哉は、とっても可愛いね」
「や・・・っ、あっ、やめ・・・っ」
声をあげれば、すぐに唇で塞がれる。舌を絡めながら性器を擦られ、和哉は恭介の背中にしがみついた。もう2度と離れないように、ギュッと。
「和哉の全てに触れたい」
口付けの合間に恭介が囁く。そして、和哉の先端をやんわりと撫でた。それだけで、和哉は腰をビクビクさせてイッた。トロリと流れる精液を指で拭い、恭介は和哉の後ろへと指を伸ばす。硬く閉ざされた小さな蕾は、恭介の指をゆっくりと呑み込んでいった。
「んんっ、あっ、あっ」
指を奥へ進める度に、和哉が甘い声をあげる。その反応に、恭介は自分が間違えてなかったと知った。
「んっ。んんっ、あぁっ」
恭介が和哉の細くしなやかな足を肩に乗せ、ゆっくりと身体を重ねる。恭介の熱さが、和哉の体内に入り込む。
「和哉、僕の名前を呼んで」
「恭・・・介」
和哉が囁くように言うと、恭介が安心したように微笑んだ。濃密な初夜を2人は堪能した。
目を覚ますと、腕の中には裸の和哉がいた。スヤスヤと眠る顔に、たまらない安心感が心を満たす。
(僕のお嫁さん)
短くなった髪の手触りを楽しむ。
男である和哉を嫁にするのは、社会的に考えればおそらく受け入れてはもらえないだろう。堂々と生活する事さえ難しい事かもしれない。それでも、恭介は和哉と離れて暮らせないと思った。
「ん・・・」
腕の中で、ゆっくりと和哉が目を開ける。薄茶の瞳は、太陽の光を受けてまるで宝石のようだった。
「おはよう。和哉」
鼻先に唇を押し当てれば、和哉が頬を赤らめる。
「センセって、そんな顔しててけっこうスケベなんだな。何回するんだよ」
「自分でも、驚いてる」
これまで、恭介は性的な事にあまり興味はなかった。なのに、和哉を抱いた瞬間。それは間違いだと気がついた。
「毎日こうじゃ、オレの身がもたないよ」
「気を付ける」
「今日は、朝飯作れないぞ」
和哉がふてくされて言う。と、恭介の指が布団の中で動いた。
「わっ。やめろよっ」
「もう少し、良い事しよっか」
「あっ、ダメだって・・・っ、仕事、遅れる・・・っ、あっ、んっ」
初夜の翌朝は、かなり甘く濃密な時間となった。
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