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第一章

双子の僕らは恋人同士です

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「アキ…ッ。もうやめようっ」
「しーっ。そんなに動いたら、父さん達にバレちゃうぞ」
囁きに、和広は慌てて動きを止めた。
時刻は真夜中の1時。両親は既に寝ているが、父親はやたらと音に敏感なのだ。もし今ドアを開けられたら、和広と明広は家族ではいられなくなる。
二段ベッドの上で、双子の兄弟は重なり合うように寝ていた。うつ伏せになった兄の和広は、尻だけを高く上げた状態で固まっている。弟の明広は、そんな兄の恥態を楽しそうに眺めていた。
(電気、点ければよかったな)
左右に広げた尻の間を見つめて、明広は残念そうに眉を寄せた。まだ舌と指しか入れた事がない和広の秘密の蕾。まだどんな色なのかさえ明広は知らない。明るい中での行為を、和広が嫌がるからだ。
(早く、入れてぇ)
明広は躊躇う事なく舌を差し込み、和広の前を指で擦る。たちまちくぐもった和広の悲鳴が響いた。明広はわざと音を立てながら舌を抜き差しする。
「アキ…ッ、やめてよ…っ」
「ダーメ。またあの上野と話したろ」
責めるように言えば、キュッと肛門が閉まった。中に指を入れていた明広が、構わずそのまま奥を抉る。
「…っ、あっ」
「オレ以外に笑顔を見せるなって言ったろ。特に上野には」
クイックイッと指先を曲げる。そこが弱い事を知っていて…。既に3回もイッている和広は、そんな簡単な刺激にさえ陥落した。明広の指が濡れる。
「カズは、オレだけのものなんだから」
激しい連続射精に、和広の意識は飛んでいるようだ。その身体を明広が強く抱き締める。そして、昂った自身を和広の尻の割れ目へと差し込んだ。
激しく腰を揺すり、明広も絶頂を迎える。明日の朝には、シーツを洗濯機に入れておかなくては…。
「いい加減にしろよっ。アキ」
新しいパジャマに着替えた和広が、頬を膨らませて怒る。大学から帰宅してから、ずっと不機嫌だった明広。風呂上がりに強引にベッドに引き込まれ、あっという間に行為が始まった。明広が不機嫌な原因。それは、和広が上野教授の手伝いをしているためだ。
「どうして上野教授をそんなに嫌うの?」
和広の疑問に、明広はハァと溜め息を吐く。そして、先ほどまでの艶っぽさが失せた兄の鼻を指先で軽く摘まむ。
「鈍感」
「え?」
「あいつはカズに気がある。何かあったらどうする?」
明広が真面目な顔で言えば、和広がプッと吹き出した。
「そんなわけないだろ。上野教授は既婚者だよ」
「だからって安心できねーだろ」
「ハイハイ」
明広の心配を余所に、和広は下段のベッドにさっさと潜り込んだ。ほどなくしてスヤスヤという規則正しい寝息が聞こえる。明広はチッと舌打ちをすると、眠れない夜を過ごした。

和広と明広は、幼い頃からずっと一緒だった。内気でおとなしい兄の和広は、常に学年トップという秀才。弟の明広は、勝ち気でスポーツでは負け知らず。互いを補い合いながら2人は生きてきた。恋心を意識したのは、明広が先だった。きっかけは、中学の修学旅行。眠る和広に無性にキスしたくなった事だ。元々、世間体とかモラルとか考えた事もなかった明広は割りと自然にその想いを受け入れた。が、和広は違う。口説くのに2年はかかった。
(最後は泣き落としだったけどな)
眠る和広の髪を、明広が優しくすく。丸みを帯びた頬や、小さくて愛らしい鼻。紅も引いてないのに紅い唇。鏡を見ているように同じ顔の和広が、明広には違って見える。自分なんかよりも、和広は綺麗だ。顔も身体も、心も。何もかも。他の誰にも渡さないと、明広は誓ったのだ。
(上野の奴っ)
上野智明。近代芸術家として数多くの作品を世に出している。その繊細なタッチと多彩な色合い、更には斬新な演出。国内外の賞を総なめにしている。和広は昔から上野のファンだった。志望大学をK大学にしたのも、上野が教授をしているからだ。おまけに、今では上野のアシスタントのような事をしている。
(知らねーぞ)
明広は、和広の唇に掠めるようなキスをすると隣に潜った。

「和広。昨夜、どうかしたの?」
椅子に座った瞬間。母親が不思議そうな顔をして聞く。和広は内心ギクリとしながらも、なんとか平静を装った。
「何が?」
聞けば、母親がムッと唇を尖らせた。今年で45歳になるが、どこか子供っぽい。
「なんかギシギシ音がしてたわよ?明広とケンカでもしてたの?」
「違うよ。ストレッチしてたんだ」
和広の苦しい言い訳を、母親はすんなりと納得したようだ。
「そう。ならいいわ」
和広はホウッと溜め息を吐いた。
(もっと気を付けなきゃ)
何も知らない両親の顔を、和広はまともに見れない。もし明広と何をしていたのかを知ったら、両親はどんな顔をするのだろうか。明広とは、どうなってしまうのだろうか。
(後悔はしてない)
弱気になる自分を、和広は心の中で叱咤した。明広から好きだと言われた時、間違っているとわかっていながら嬉しかった。和広にとって、明広は特別な存在だ。離れていては生きていけないほど。
(本当は、きっと僕の方がアキを好きなんだ)
嫉妬深い明広の方が、一見すると執着が激しいように感じる。だが、本当は和広の方が明広を独占したいのだ。友達が多い和広。本当は、その全ての人に言いたい。明広は自分のものだと。
「ごちそうさま」
「あら。もう行くの?」
「うん。今日は上野教授の手伝いがあるんだ」
和広はリュックを背負うと、足早に自宅を出た。昨夜、明広が嫉妬してくれたのは実は嬉しかった。和広が上野の名前を出した日は、必ずといっていいほど行為が激しくなる。胸元や下腹部に付けられたキスマークは、そのまま明広の愛情を表しているようだ。
(可愛いな。アキは)
全力で独占欲を示す明広。和広はクスッと笑うと、バス停へと急いで向かった。明広との関係は、決して許されない。同性同士というだけじゃない。2人は兄弟だ。恋人同士になった事さえ、誰にも言えない。それでも、好きな気持ちは抑えられないのだ。もし明広と一緒にいられなくなったら、和広の世界は白黒になってしまう。
(もし、最後までしたら、何か変わっちゃうのかな)
男同士がどうやって結ばれるかは知っている。だが、本当に気持ちいいのだろうか。もし明広が気持ちよくなれなかったら…。
(嫌われるの、かな)
ズキッと和広の胸が痛む。セックスをした後が想像つかない。女性ではない自分は、明広を満足させられるのだろうか。和広は、誰にも聞こえないように小さく溜め息を吐いた。


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