君へと続いている道

すいかちゃん

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ずっと、側にいたい

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「マジかよ」
大久保柊斗は、古びた無人駅の前で呆然と立ち尽くしていた。駅前というのは、普通は華やかな商店街があったりコンビニがあったりするものだ。だが、この小さな駅の前にあるのは郵便局とバス停だけ。人も歩いていないため、まるで廃墟のような光景に見える。金髪にカラコン、ピアスという出で立ちをしている柊斗はかなり浮いていた。
「帰りてぇ」
柊斗は、自分がとんでもない所に来てしまったと途方にくれた。
「あんのクソ親父っ」
ここにはいない父親に悪態をつくものの、どうする事もできない。何せ、片道切符しか持っていなかったのだから。柊斗は、取り敢えず周囲を見渡した。
「確か、ナントカ温泉の看板があるって言ってたよな」
だが、いくら目を凝らしても看板らしきものなど何もない。柊斗は、しばらくウロウロしてやがて地べたに座り込んだ。
「どうなってんだよ」
あるのは、ただ長い一本道と広い野っぱら。公衆電話すらない。
(なんで俺が、こんなところに・・・)
本来なら、こんなところには頼まれても来ない。だが、父親の命令に逆らう事ができなかった。
柊斗は、昔から父親が嫌いだった。万年平社員のくせして、言うことだけは偉そうだ。ああはなりたくないと、柊斗はずっと思っていた。高校に入ってから、そんな父親に反抗するように髪を染めたりピアスを開けるようになった。父親が苦い顔をする度に、心の中で『勝った』と変な優越感に浸っていた。校則違反を何度も繰り返し、その度に母親が学校に呼び出された。柊斗の事で悩む両親の姿を、柊斗は他人事のように眺めていた。
だが、そんな考えは甘かった。夏休みの1ヶ月間。柊斗は、父親の知人の家へ預けられる事になったのだ。断れば家から放り出すと言うため、柊斗は仕方なく従った。だが、柊斗はこれまでの人生を変えようなんて、1ミリも思ってはいない。誰も好き好んで楽しい毎日を捨てる奴なんていない。家族のためにひたすら働くだけなんて、真っ平ごめんだ。柊斗は、自分の為だけに人生を使うと決めた。
「ん?」
自転車に乗った少年が、遠くから向かってくる。確か、迎えが来ると聞いていた。
(もしかして、あれが迎えなのか?)
予想通り、少年は柊斗の前で自転車を止めた。
「あんたが、大久保柊斗?」
いきなりの呼び捨てに、柊斗は内心ムッとしながらも頷いた。
「オレは、佐久間夏。よろしくな」
小麦色に焼けた肌に、真珠のように眩しい白い歯。夏は、健康優良児そのものだった。
(俺とは絶対に合わないな)
それが夏への第一印象だった。
おそらく1度も染めた事がないであろう、黒々とした髪に健康的に焼けた肌。猫のように大きくて少しつり上がった瞳が、とても印象的だった。
夏は柊斗の金色に染めた髪を珍しそうに眺めたり、持っている荷物にかなり興味を示した。
「なぁ。耳に穴なんか開けて、痛くないのか?」
真顔で聞かれて、柊斗は思わずプッと吹き出した。
「面白いな、お前」
数分もたたないうちに、同い年の少年達はそれなりに打ち解けていた。それは、夏の気さくな性格ゆえだろう。
夏は、初対面の柊斗に対してとても自然に接してくれた。まるで、昔からの友人のように。
「うわっ。もっと静かに漕げよ、夏っ」
「あはははははははっ。これぐらい平気だ」
自転車の荷台に乗って、デコボコ道をひたすら走るという経験は都会暮らしの柊斗にはかなり厳しかった。必死に夏の腰に掴まりバランスをとる。
「しっかし、お前。本当に17か?なんでそんなデケェんだよっ」
「柊斗がチビなだけだろ」
170センチしかない柊斗は、ムッと唇を尖らせる。夏は、見た目だけでも180センチ以上はありそうだ。
「なぁ。いつになったら着くんだ?」
「うーん、あと1時間ぐらいかな」
「いっ、1時間っ?」
柊斗は、グッタリと夏の広い背中に顔を押し付けた。不思議と、そこからは太陽のような匂いがした。

「よく来たね」
父親の友人である佐久間和夫は、とても気さくで優しかった。柊斗に対しても、まるで親戚の子のように迎えてくれて、かなりリラックスした気持ちになれた。
「卓とは、中学からの付き合いだね」
「そうなんですか。親父にも友達いたんだ」
素直な感想を述べれば、和夫が声を声を上げて笑う。
「確かに、友達は少なかったな」
「でしょう?」
「柊斗くん。自分の家だと思って寛いでね」
和夫の妻である夏葉が、大盛りのご飯を出しながら言う。
「ありがとうございます!」
柊斗は、思ったより快適な空間にご満悦だった。

「オレと同じ部屋でいいか?」柊斗は、2階にある夏の部屋を一緒に使わせてもらう事になった。
「つまんない部屋だろ?」
確かに、夏の部屋は簡素で退屈そうだった。テレビやマンガもない。あるのは、海や空の写真集と壁に貼られた家族との写真。それだけだ。
(ま、悪そうな奴じゃないからいいか)
その夜。柊斗はこっそり外に出て、友人の槇と長電話していた。夏は柊斗と話したそうにしていたが、無視する事にした。夏は確かにいい奴だが、面白い奴ではないのは確かだ。携帯電話を持っていないため、夏はSNSの事も知らないし最近の流行りにも疎い。正直、何を話したらいいのかわからなかった。携帯電話を持っていれば、離れている友人といつでも繋がる事ができる。寂しいなんて感じる事はないと思っていた。
〈へぇ。親父さん、けっこう厳しいね〉
槇は、友人の中でも特に親しかった。アウトドアを趣味にしていて、今年は一緒にキャンプに行く約束をしていた。
「だろ?全く、どうしょうもねーよな。でも、なんかマジっぽくてさ。ごめんな、キャンプの約束してたのに」
〈いーって、いーって。適当な奴誘って行くからさ。じゃな〉
あっさり切られた通話に、柊斗はなぜか寂しさを感じた。もっと、残念がってくれると思っていた。あんなに一緒にキャンプの話で盛り上がっていたのに。あっさり他の奴と行くなんて。
他の友人に電話やメールをしたが、どれも反応は同じようなものだった。柊斗も、元々はそういうドライな関係を好んでいた。気が合った奴と盛り上がればそれで良かった。それなのに、なぜか柊斗の胸の中には孤独感があった。

田舎での生活は、数日もたてば意外と面白かった。驚く事に、夏は高校に行っていない。小学校と中学校はあるのだが、高校はないらしい。
「え?1人だけ?」
「うん。小学校も中学校も、オレ1人だけだった。だから、同年代の友達っていないんだ」
その代わり、夏は村の殆どの人と顔見知りだ。歩けば、誰かしら声をかけてくれる。
「村、出たくないのか?」
「うん。オレ、この村が大好きなんだ」
そう言って笑った夏は、ちょっとだけ大人っぽく見えた。
(田舎もいいもんだな)
スローライフという言葉が少し前に流行ったが、こういう事なのかと思った。
コンビニもカラオケも何もない所だが、都会では経験できない事もあった。この日も、柊斗は夏に誘われて夜空を見上げていた。真っ黒だと思っていた夜空は、実はそうではなかった。無数に煌めく星々が、まるで宝石のように煌めいている。
「すごいっ。手が届きそうだっ」
ピョンピョンと跳び跳ねる柊斗に、夏が声を上げて笑った。夏は星座にも詳しくて、柊斗に見方を教えてくれた。
「もうこんな時間か」
腕時計を見た夏が眉をしかめる。時刻は夜の10時になろうとしていた。
「そろそろ帰ろう。遅くなる」
「いーじゃん。もうちょっとだけ。夏は真面目だな」
深夜まで外出していた柊斗にとって、これぐらいの時間を遅いとは言わない。両親からはうるさく咎められたが、ほっておいてほしいと思っていた。
「なんか、吸い込まれそうだなぁ」
草原に大の字になった柊斗が言えば、夏も同意してくれた。
プラネタリウムとは違う天然の星空は、柊斗にはまるでSF映画を観ているような気分だった。
不意に、ある疑問が浮かぶ。
「なぁ。親父もこの村に来てたのか?」
ポツリと柊斗が尋ねる。この村の事も、夏の事も父親は何も言わなかった。ただ、父親は何度か日曜日に家を空けていた。仕事なのか、遊びなのかも言わなかった。
「卓さん?よく来てたよ」
夏が懐かしそうに目を細める。
「オレに自転車を教えてくれたり、物置の修理も手伝ってくれたんだ」
「マジかよっ」
柊斗が知っている卓は、難しそうな顔でいつも新聞やパソコンとにらめっこしているだけだ。
「卓さん、将来は小さなカフェを経営したいんだってさ」
「なんだよ、それ。聞いてないぞ、そんな話。何で、教えてくれなかったんだ?」
「卓さんが言ってないんじゃなくて、柊斗が聞いてないんじゃないのか?」
夏の言葉に、柊斗は何も言い返せなかった。確かに、父親が帰ってくるとわざと顔を合わさないようにしていた。父親が話しかけてくると、音楽を聴いているふりをして逃げていた。姉も、兄も同じだった。父親の事を知らなかったのではない。知ろうともしなかったのだ。
「柊斗の事は、卓さんからいつも聞いてたんだ。それで、仲良くなりたいってずっと思っていた」
「どうせ、俺の悪口でも言ってたんだろ?」
言えば、夏が静かに首を横に振る。
「とっても素直でまっすぐな奴だって言ってた。意地っ張りだけど、根は優しいからきっと仲良くなれるって。本当に、その通りだった」
夏が、不意にマジな顔で柊斗を見つめる。夜空のようにキラキラした瞳に見つめられ、柊斗はなぜかドキドキした。
「なんだよ、それ」
柊斗は、胸の高鳴りを誤魔化すように顔を逸らした。逸らしても、夏が自分を見つめているのを感じる。
「あっ、やべぇ」
柊斗はハッとして、慌ててスマホをチェックした。そこには、槇を含めて数人の友人からメールの着信があった。
「早く返信しないと・・・っ」
青ざめて返信する柊斗を見て、夏がキョトンとする。
「大袈裟だな。まるで、世界が終わるみたいだ」
夏の言葉に、柊斗はキッと睨みつけた。
「お前に何がわかるんだよっ」
ずっと心の隅に追いやったモヤモヤが止められなかった。
「お前がこんな所に誘うから悪いんだろっ。どうしてくれんだよっ、これでダチと仲が悪くなったらっ。夏のせいだからなっ」
柊斗が大声で叫ぶと、夏が笑顔をなくした。柊斗は、自分が言ってはいけない言葉を言ってしまった事に気がついた。
「くそっ」
「柊斗っ。夜道は危ないっ」
「うるせぇっ。ついてくんなっ」
走り出せば、夏の声が追いかけてくる。とにかく、今はその声から逃げたかった。夏を傷つけたかったわけじゃない。なのに、抑えていたイライラを思わずぶつけてしまった。柊斗は、夏に合わせる顔がなかった。
どこをどう走ったのかなんて、もう柊斗にもわからなかった。気がついたら、草が生い茂る山道に立っていて、上を見上げても星空さえ見えない。夏に何度も言われていた。山道は複雑だから、決して1人では入っちゃいけないと。
「ど、どうしよう」
来た道を戻ろうにも、どこから来たかさえわからない。もし道を間違えてたら?もし、野性動物に遭遇したら?柊斗は、今更ながら自分がとんでもない所にいるのだと知った。だが、携帯電話を持っている事に気がつき安堵した。
「そ、そうだ。槇に電話しよ」
アウトドアを趣味としている槇だったら、こういう時にヒントをくれるはずだ。コール5回目でやっと出た槇に、柊斗は急いで今の状況を説明した。ところが、返ってきた言葉は予想もしないものだった。
〈はぁ?こっちのメール無視したくせに、助けてくれっていうのか?ふざけんなよっ〉
「ごめんっ。俺が悪かったよっ。なぁ、頼むよ。俺、このままじゃ帰れないんだよっ」
〈知るか。緊急通報を使えばいいだろっ。お前とは、もうダチじゃねーから〉
「槇っ」
〈サ・ヨ・ウ・ナ・ラッ〉
プツッと一方的に切られた通話。かけ直したが、もう繋がる事はなかった。槇以外の友人も同じだった。すぐに返信しなかった柊斗を責めるだけで、誰も柊斗の言葉を聞いてはくれなかったのだ。両親に連絡をしたが、なかなか繋がらなかった。もしかすると、旅行にでも行っているのかもしれない。佐久間家の番号は知らないから、教える事もできない。古い機種のため、緊急通報機能はないのだ。
冷静さを失っている柊斗は、何をしたらいいかもわからなかった。
「返信しなかっただけでこうなるのかよっ」
柊斗は、まるで世界でたった1人になったような気がした。でも、皆を責められない。自分にも覚えがあった。友達が風呂に入っていて返信をくれなかった事があったのだ。その事に激怒した柊斗は、彼が何度も謝ってくれたのに許さなかった。今思えば、なんてバカな事をしたのだろう。あんなにいつも一緒に遊んでいたのに。あんなに、楽しかったのに。きっと、その時の彼もこんな気持ちだったのだろう。置いていかれたような寂しさを感じていたのだ。
ふと、夏の泣きそうな顔が浮かんだ。夏は何も悪くない。勝手に怒って、嫉妬して、八つ当たりしてしまった。きっと呆れられた。夏は帰ろうって言ってくれたのに。引き留めたのは、自分なのに。柊斗は、踞って泣いた。このまま、夏に嫌われたと思ったら、怖くて怖くて仕方なかった。とにかく、夏に会いたくてたまらなかった。
「柊斗っ。どこだっ、柊斗っ」
ガサガサという大きな音と共に、夏の声が聞こえてくる。
「夏っ」
声がする方に走れば、ハァハァと大きく胸を上下させている夏がいた。柊斗は、夏に抱きつくと大声で泣いた。なぜ涙が出るのかわからなかったが、とにかく涙が出て仕方なかった。
夏が何かを囁いてから唇を塞ぐ。柊斗は、キスされた驚きに唖然とした。
「ど、して・・・」
涙も拭わず柊斗が尋ねると、夏が切ないような苦しいような顔をした。
「・・・ごめん」
苦しいぐらい抱き締められて、柊斗はまた涙がこぼれた。夏の体温を、嫌だとは思わなかった。キスをされた事も、なぜか嫌だとは思わなかった。なぜ、夏が謝るのかわからなかった。
「帰ろう。父さん達も心配してる」
差し出された手を見ると、擦りむいて怪我をしているのが見えた。
「どうしたんだっ?」
夏は、ああと笑った。
「あんまり慌ててたから転んだんだ。情けないだろ?自転車はパンクするしで焦ったよ。柊斗、靴は?」
言われて、柊斗は自分が片方裸足なのに気がついた。
「片方、脱げたみたいだ」
言えば、夏がすぐにおんぶしてくれた。
「いいよ。夏、怪我してるのに」
「平気平気。裸足じゃ歩けないだろ」
夏は、なにも言わなかった。身勝手な柊斗を、責める事さえしない。怪我はないかとか、お腹は空いていないかとか、柊斗の事ばかり心配してくれる。そんな夏に、柊斗は目頭を熱くした。
「さっきのキス、本気か?」
「・・・本気だよ」
夏は、少し間をあけてから大きく頷いた。迷いのない、綺麗な声だった。
「俺、男だぞ?」
「知ってる。一緒に風呂にも入ったからな」
夏が笑う。だが、笑い声はすぐに止まった。
「初めて柊斗を見た時から、ずっと好きだったんだ」
「駅で会った時から?」
「違うよ。初めて見たのは、5年ぐらい前だった。卓さんが写真で見せてくれたんだ。最初は、女の子かと思った」
確かに、その頃の柊斗は髪も長かったからよく女の子に間違えられた。
「写真の中の柊斗に、気がついたら恋をしていたんだ。柊斗が男だとわかっても、その気持ちは変わらなかった。卓さんに会う度に、柊斗の話をねだったんだ」
「実物に会って、ガッカリしたろ?」
よく周囲から言われた。黙っていれば可愛いのにと。
「逆だよ。もっと好きになった。柊斗といるだけで、楽しくてドキドキした」
夏の言葉に、柊斗は頬が熱くなるのを止められなかった。
(俺。変だ)
男に告白されて嬉しいなんて、あり得ないと思った。だが、嬉しくて仕方ないのだ。
柊斗は、自分の鼓動の音が夏に聞こえないようにと祈った。
それから、夏と毎日遊んだ。海で魚をとったり、山でキャンプをしたり。それはそれは楽しい日々だった。だが、あっという間に夏休みは終わりに近づいた。
夏が、島で一番夕陽が綺麗な場所へと連れていってくれた。
「すっげー、まるで絵みたいだな」
「だろ?」
振り向いた夏の笑顔に、柊斗はドキドキした。あの日以来、夏は何も言わない。キスもしてこない。だから、柊斗は夏にからかわれたのではないかと思っていた。
「夏」
「え?」
背が高い夏に届くように、思いっきり背伸びをした。ぶつかるようなキスをすれば、夏が真っ赤になる。
「柊・・・斗?」
「俺が好きなんだろっ。だったら、どうして何もしてこないんだよっ。いつも、隣に寝てて、なんで何もしてこないんだよっ」
真っ赤になって捲し立てれば、長く太い腕がすぐに抱き締めてくれた。広い胸に抱き締められると、不思議なぐらい安心できた。
「・・・しても、いいの?」
健康な男子で、思春期まっしぐらなのだ。恋しい相手と同じ空間にいて、何もしたくないわけじゃない。
「いいに決まってるだろっ」
それは、照れ屋な柊斗なりの精一杯の告白だった。

虫の音だけが聞こえる深夜。
柊斗は、布団の上で全裸の夏と抱き締め合った。女の子とは違う感触に、妙に緊張した。
「なんか、恥ずかしいな」
「そうだな」
夏が照れたように笑う。互いに、熱い下半身にはあえて気づかないふりをした。
啄むような口づけを繰り返し、指を互いの肌に滑らせた。
「あ・・・っ、夏・・・っ。そこは、まだ早いって・・・っ」
膨らみを握られ、柊斗は小さく声を上げた。だが、夏は指の動きをますます早めてきた。先端がヌルヌルしてくる。柊斗は背中を逸らせると、自分の指を噛んで声を抑えた。そして、あっという間に夏の指を濡らす。
「バカ・・・ッ、心の準備ぐらい、させろよ・・・っ」
「ごめん。余裕、ないんだ」
夏がいつもとは違う声で囁く。そして、何度も好きだと告げられた。
「夏っ、恥ずかしい・・・よぉっ」
自分でも見た事がない場所を大きく広げられ、指を何本も入れられている。気持ちいいような、もどかしいような変な気分が柊斗を襲った。
「もう少し、もう少しだから」
夏は、じっくりと時間をかけて、柊斗の固い蕾をほぐしていく。性の知識が乏しいながらも、手探りで繋がろうとしていた。
玉のような汗が、夏の額から柊斗の胸へとポタポタと落ちる。
「夏、もう、いいよ。辛いだろ?」
腿に当たる夏の股間は、はち切れんばかりに熱く高ぶっている。深呼吸をしながら柊斗が言えば、夏の喉がゴクリと鳴った。
「優しくする。絶対に、傷をつけたりしないから、俺を嫌いにならないで」
夏の言葉に、柊斗は何度も頷いた。あんな大きなもの、楽に入る訳がない。でも、痛くてもいい。夏と1つになれるなら。
柊斗は目を閉じて、夏の全てを感じた。

家に帰った柊斗は、槇達とはつるまなくなった。その代わり、家族との会話が増えた。
今まで反発してきたのがバカバカしくなるぐらい、卓とは話が弾んだ。
「あの村はな、父さんの逃げ場所なんだ」
それは、初めて聞く父親の弱音だった。会社で理不尽な怒りを感じても、不満を溜め込んでも家族には言えない。そんな時に、あの村に行くのだそうだ。
「お前にも、あの村の良さを知ってほしかったんだ」
「・・・うん」
柊斗は、金髪もピアスもやめる事にした。将来、やりたい事も決まった。
秋休み。柊斗は、なにもないあの村に自分から向かった。遠くから、夏が自転車を漕いでくるのが見える。
「またデカくなりやがったな、アイツ」
満面の笑顔で手を振る夏に、柊斗も大きく手を振った。言葉を交わさなくても、夏の気持ちはわかった。
柊斗は、夏へと続く道をゆっくりと歩き出した。携帯電話の電源は、もちろんオフにしたままで。自転車を降りてきた夏が、柊斗を抱き上げる。
「会いたかった」
キラキラ輝く瞳に、柊斗は目を細めた。
「夏。俺、高校卒業したらこの村に来るよ」
「え?」
「ずっと、お前の側にいる」
そう言って、柊斗はチュッと夏の鼻にキスをした。それは、考えに考え抜いた結果だった。何もない村じゃない。ここには、大好きな夏がいる。
「嬉しい。嬉しくて、どうしたらいいかわからない」
溢れる気持ちを押さえられないというように、夏がそのまま激しくキスをしてくる。田舎で良かったと思いながら、柊斗はそのキスに応えた。






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