魔法が教えてくれたこと

すいかちゃん

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第四話

王子様は魔法使い

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高1の坂城亜美は、教室のカレンダーを見ては溜め息を吐いた。学園祭まで、あと1週間しかない。
「ええっ。恭子、高橋くんと踊るのっ」
「羨ましいっ」
遠くから、わざとらしい大声が聞こえてくる。亜美は、うんざりした面持ちで声の方を見た。そこには、高校生でありながらモデルとして活躍している宮村恭子がいた。今の亜美にとっては、一番会いたくない人物だ。
(学園祭なんて、大嫌い)
通りかかった廊下に貼られたポスター。そこには、ダンスパーティーが開かれる事が書いてある。だが、女子は男子にエスコートされなければ、踊る事さえできないのだ。本来なら、亜美は彼氏と踊るはずだった。
(尚稀のバカ)
中学生の頃から付き合っていたのに、高校に入った途端、コロッと恭子の誘惑に負けた。
(私なんて、誰も誘ってくれないよね)
放課後の校舎の片隅で、亜美はそれでも1人でステップを踏んだ。こんな事をしても無駄なのに。それでも、ステップを踏み続けた。
「え?」
人の気配を感じて振り向けば、1人の少年が亜美の真似をして踊っている。
(だ、誰?小学生、だよね?それに、金髪?外人なのかな)
黒いマントを羽織って踊る姿は、まるで魔法使いのようだった。ふと少年と目が合う。
「こんにちは」
少年がペコリと頭を下げる。
「こ、こんにちは」
思わず亜美も挨拶をした。
「おねえさんが、僕のパートナーですね?」
少年は、マントを広げると優雅に挨拶をした。その足は、宙に浮いている。亜美は、思わず両手で口を塞いだ。
「うそっ。う、浮いてる?」
「僕は、魔法使い見習いのアート。おねえさんの願いを1つだけ叶えてあげるよ」
アートの説明によると、アートは近々魔法使いの試験を受けるらしい。合格のためには、パートナーである人間の願いを叶える事。
亜美は、悩みに悩んだ。こんな子供だましを信じる年ではない。でも・・・。
「ダンスパーティーで、私と踊ってくれる素敵な男性が欲しいっ」
気がつけば叫んでいた。アートがどんぐりのような大きな瞳をパチパチとする。
「それが、おねえさんの願い?」
「そ、そうよ。悪い?私だって、1度ぐらいお姫様の気分を味わってみたいの」
亜美だって、わかっている。もし、ここがゲームの世界なら間違いなく自分は脇キャラだ。だけど、人生の中で1度ぐらいスポットライトを浴びてもいいではないか。
「わかったよ。ダンズパーティーの日を楽しみにしててね」
ニッコリ笑ったアートは、ホウキに跨がり飛んでいった。亜美は、その姿を呆然と見送った。
「今の、夢、だよね」
そうに決まってる。亜美は、この日の事は忘れようと決めた。

当日。女の子達は、それぞれ精一杯のおしゃれをして男子を待っている。
亜美は、壁の花となり唇を噛み締めた。目の前では、尚稀と恭子が仲良く踊っていた。恭子の勝ち誇ったような笑顔が癪に障る。
(やっぱり、くるんじゃなかった)
亜美が俯いた瞬間。周囲がざわついた。だが、今の亜美にはもうどうだってよかった。コツコツと靴音が響き、誰かが亜美の前で止まる。
「お待たせ。亜美」
名前を呼ばれて、顔を上げるとそこには金髪の美少年がいた。
まるで、乙女ゲームに出てくるようなイケメン。
戸惑う亜美の手を握り、王子様は華麗にステップを踏む。
「あ、あのっ」
「約束したでしょ?おねぇさん」
王子様がウィンクする。
「あなた、アートなのっ?でも、その姿は・・・」
昨日までは子供だったのに、今では18歳ぐらいだ。
「魔法で大人になったんだ」
アートと寄り添って踊る亜美に、周囲の視線が集まる。恥ずかしくて下を向けば、アートの指が優しく顔を上げさせた。
「おねぇさん。笑った方が、かわいいよ」
「・・・生意気」
亜美が軽く睨めば、アートが笑う。
亜美は、トクンットクンッと胸が高鳴るのを感じた。
(お姫様になったみたい)
恭子と尚稀がジッとこちらを見てる。だが、その事さえどうでも良かった。
「そろそろ、限界」
アートが囁く。亜美は、思わずギュッと指に力を入れた。
「ありがとう。アート」
泣きそうな表情で顔を上げれば、アートにキスされた。
「バイバイ、おねえさん」
会場が暗くなり、一瞬の隙にアートは消えた。亜美は、新しい恋に踏み出せる気がした。








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