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第三話

だんだん好きになっていく

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護の演技は、日に日に良くなっていった。監督や女性スタッフから誉められる事も多くあり、雑誌のインタビューも増えていった。
「撮影していくなかで、吉川さんの演技がすごく艶っぽくなったって評判ですよ」
記者の質問に、護は照れ笑いを浮かべた。
「そう見えるなら、きっと共演の藤村くんのおかげですよ。彼って、本当に妖精なのかもしれませんね」
護のインタビューが載った記事は、瞬く間に売れた。当初、イメージが違うとネットでは騒がれていたが、それもおさまってきた。
何もかも、尚人のおかげだと護は思っていた。
「あ…っ、は…っ」
ギシッギシッとベッドが軋む度に、尚人が背中をのけぞらせ甘い声を上げる。見慣れた自身の部屋。いつも寝ているベッドの上で、護は尚人を抱いていた。時おりキスをしながら、狂おしく腰を進める。ゴムをしていても、尚人の熱さを感じる。キュウッと締め付けられ、護は腰をブルッと震わせた。
「かなり、うまくなりましたね」
ハァハァと息を整えながら、尚人が微笑む。汗で濡れた額が、行為の激しさを物語っている。
「なぁ。本当に、こんな事をして、いいのか?」
護が心配そうに聞く。2人は、恋人ではない。なのに、最近では日を開けずにセックスをしている。
「この体勢で言われても、説得力がないですけどね」
尚人はクスッと笑うと、護の逞しい胸板を両手で押した。
「満足したなら、早く僕の中から出てください」
言われて、護は慌てて腰を引いた。微かな余韻に、尚人が心地良さそうに溜め息を吐く。
「気にしないでください。元々、性別には拘らないタイプなんです」
ニッコリ笑う顔は、アイドルのそれだった。本心を隠してる、嘘の笑顔だった。
「シャワー、借りますね」
素肌にガウンだけ羽織っていく尚人に、護は妙にズキッとした。もしかしたら、尚人は男とセックスする事に慣れているのだろうか。確かに、尚人とこういう関係になってからは演技の質が変わった。これまで、男と愛し合う事は絵空事と思っていたけれどそうではなくなった。
尚人の温もりが残るシーツに顔を埋め、護は複雑な気持ちになった。
突然現れた妖精に恋をしたサラリーマン。護も、いきなり急接近してきた尚人を好きになりそうだった。

撮影は、クライマックスを迎えた。
妖精は、自分がいる事でサラリーマンが次第に衰弱していく事を憂いた。そして、何も言わずにサラリーマンの前を去る事を決める。という、物語のラストシーンだ。
(今日のクランクアップで、尚人とは会う事がないんだな)
妖精が去っていくように、尚人もまた護から去っていくのだ。そう考えると、護は一瞬一瞬が愛おしくなった。
護の前で、尚人はいろんな表情を見せてくれた。アイドルとは思えない素顔も見せてくれた。
(もう、会えないんだな)
そう思うと、胸の奥が締め付けられる。
銀色のウィッグと水色のカラコンをつけた尚人は、まさに妖精のような美しさだった。白い肌には殆ど筋肉はなく、男か女かさえわからなくなる。内側から発光しているのかというぐらい、その裸体は輝いて見えた。
「離したくない。ずっと、俺の側にいてくれ」
セリフを言いながら、護は自分の本心だと思った。尚人に側にいて欲しい。いつの間にか、好きになってしまった。離せないほどに…。
「私も、あなたの側にいたい」
それは、台本にないセリフだった。尚人の瞳が潤む。
「でも、あなたにはもっと幸せになって欲しい」
尚人の腕が護の首を引き寄せる。
「さようなら」
尚人の唇が重なった。護は、そのキスに応えた。台本にはないというのに、誰も何も言わなかった。ただジッと2人のキスシーンを見ていた。
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