魔族の王子は、聖なる勇者の愛を注がれる

すいかちゃん

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第二話

魔族の王子は、聖なる勇者を愛で包み込む

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魔族の王子であるバティストは、父親である王からある命令を受けた。それは、捕らえた聖なる勇者アロイスを汚せというものだった。
「我が息子ブラートが勇者によって汚された」
それは、魔族達にとっては屈辱の日だった。時期王と噂されたブラートが、あろう事か城内で勇者に凌辱されたのだ。そのおかけでブラートの魔力が失われた。
「今度は、我らが勇者を汚す番だ」
バティストは、王が何を考えているのか理解した。
「聖なる勇者は、1度でも汚れれば力は半減するだろう」
それが、魔族の王の意見だった。バティストは乗り気ではなかったが、命令には逆らえない。
「仰せのままに」
バティストは長く赤黒いマントを翻すと、地下牢へと向った。
(アロイス。確か、護りの勇者だったな)
勇者と言っても様々な特性がある。攻撃に優れた者と守備に強い者。数人の勇者がパーティーを組んで攻めてくる事もある。
(私は、ブラートのようにはならない)
勇者に陥落した情けない男を、バティストは兄とは認めていなかった。風の噂では封印の塔から逃げ出したそうだが、それも本当かわからない。
(どんな奴なんだ?)
バティストは直接アロイスを見た事はない。捕らえた者の話だと、仲間を逃がすために1人残ったとか。つまり、彼は仲間にも祖国にも見捨てられたのだ。現に、捕えて数カ月後経つというのに誰も彼を救いには来ない。
(ひどくマヌケな面をしているに違いない)
任務とはいえ、これからそんなマヌケ顔をした奴と交じらわなくてはならない。バティストは、憂鬱な面持ちで溜め息を吐いた。
(それにしても、大した愛国心だ)
アロイスは、いかなる交換条件にも応じなかった。祖国のため、仲間のために口を閉ざしている。
(俺だったら、さっさと応じるがな)
バティストには、祖国への愛など何もなかった。魔族の王子として生まれ、幼い頃から魔力を鍛えるためだけに日々を費やしてきた。それは、生き残るためだ。数多の兄弟達の中で、自分が一番優れていると示すためだ。国を守ろうなどという気持ちは、微塵も感じた事がない。
「バティスト様。いかがなさいましたか?」
見張り番は、いきなり現れたバティストに背筋を伸ばした。
「俺はこれからアロイスに用がある。しばらく離れていろ」
「はっ」
バティストは鍵を受け取ると、牢屋の中へと足を踏み入れた。歩みを進めると、やがて美しい歌声が聴こえてくる。その歌声を聴いた瞬間、バティストの心がざわめく。
(なんという美しい歌声)
バティストは、歌声に導かれるように奥へ奥へと進んだ。
(あれが、アロイス)
暗い地下牢の中、アロイスの周りだけ光り輝いているように見えた。足首まで伸びた銀色の長い髪に、キラキラと光る薄紫の瞳。小さく愛らしい唇は、まるで野イチゴのようだった。バティストは、時を忘れてその美しさに魅入った。彼を、これから汚さなくてはいけない。バティストの心に、ほんの僅かだが揺らぎが生まれる。
「誰です?」
アロイスの声が微かに震えている。
「俺はバティスト。この国の王子だ」
バティストが近づけば、アロイスが怯えた表情を浮かべ僅かに下がった。
「私に、なんの用ですか?」
本当に綺麗な声だった。いつまでも聞いていたい。そんな声だった。
「強がるな。仲間にも、祖国にも捨てられた奴が」
皮肉っぽく言えば、アロイスの表情が僅かに険しくなった。バティストは牢の中に入ると、アロイスへと鋭い眼差しを向ける。
「これから、お前を汚す。この意味がわかるな」
言えば、アロイスが僅かに身じろいだ。まるで、獲物を追い詰めた時のような気持ちだ。バティストは、自分がアロイスに対して欲情している事を自覚した。美しく汚れを知らない勇者。特に防御を司る勇者は、他者との性交を自ら禁じているという。
「たっぷり楽しめそうだ」
バティストは逃げようとするアロイスを強引に組み敷いた。そして、黒い鎖で両手を縛った。
「これで、お前は俺のものだ」

「あ・・・っ、はぁっ、あぁっ」
全裸にしたアロイスは、たまらなく艶めかしかった。白く柔らかな肌は、男である事さえ忘れそうだ。長い銀髪が手足に絡みつき、それが余計に艶かしくさせている。
「まさかとは思うが、自慰もした事がないのか?」
膝に跨がらせ、中心にそびえ立つ欲望の果実はとても敏感だった。バティストが指で先端を弾いただけで、アロイスは達してしまった。
「やめて・・・、ください。もう、ァァっ」
バティストは、自分の指だけで快楽に喘ぐアロイスに気持ちが揺らいだ。彼をこのまま汚したくない。この美しいまま、純潔のまま側に置きたい。そう考えるようになっていた。
「俺のものになれ。アロイス」
気が付いたら、バティストはアロイスに深く口づけていた。ピクッとアロイスの全身が震える。アロイスの唾液を飲み込んだ瞬間。バティストは、自身のエネルギーが満ちるのを感じた。が、同時にアロイスの身体からは力が抜けていく。
「アロイス?」
気がつけば、アロイスはバティストの腕の中で意識を失っていた。おそらく体力がないのだろう。
(これまでのどんな奴よりも美しい)
バティストは、アロイスの寝顔を見ながら何度も思った。
バティストは、毎日のようにいろんな男女と寝た。性欲を満たすのは、魔力の増加のためでもある。快楽で得たエネルギーは、即魔力と化すのだ。だから、バティストは魔力の強い者とだけ性交渉をしてきた。そこに恋慕の情などない。しかし、アロイスは違う。アロイスだったら、たとえ彼が無力だったとしても抱きたいと願ったろう。
(何を考えているんだ、俺は)
バティストは、アロイスへの情を捨てた。バティストは、アロイスを汚さなくてはならないのだ。
「狭いな」
誰にも許した事がないであろうアロイスの蕾は、とても狭かった。バティストが少し爪先を潜り込ませただけでアロイスは震え、苦しげに喘ぐ。その声に、バティストは動きを止めた。なぜかわからないが、心が痛い。
「今宵は、やめておこう」
なぜか、バティストはアロイスを抱けなかった。アロイスが痛みに泣き叫ぶ姿を、見たくないと思ってしまった。この感情の正体を、バティストは気がついてしまった。

「ほぉ。汚す事に成功したか」
バティストは、全裸のアロイスを抱きかかえ王に謁見した。黒いマントに包まれたその裸体には、これでもかというぐらい赤い痣が浮かんでいた。中には歯型も・・・。
「ですが、1度では完全に汚す事は出来ませんでした」
「なぜだ?」
「わかりません。ただ、力は半減しております」
王はバティストの腕の中で眠るアロイスをジッと見つめた。バティストの背中を冷たい汗が流れる。
「引き続き力を奪え」
「はっ」
バティストは、ホッと安堵しながらアロイスを抱き上げ自室へ向った。
「バティスト様が、聖なる勇者を汚したぞ」
「あいつは、もう勇者ではなくなった」
魔族達が大騒ぎする声を横目に、バティストは策を巡らせた。アロイスを守らなくてはならない。

「ここ、は?」
アロイスが目を覚ましたのは、3日後の事だった。全裸のままバティストの腕に抱かれている。
「バティストッ、あ・・・っ」
起き上がろうとすると、太い腕がすぐに阻止する。互いに全裸の状態に、アロイスはカタカタと震えた。その背中を、バティストの太い指が優しくなぞる。
「ジッとしてろ。何もしない」
漆黒の長い髪を煩わしそうにかきあげると、バティストが自身の腕にアロイスを抱き締めた。
アロイスは、自分の身に起きている状況がいまいち理解できていないようだ。
「これは、どういう事です?」
バティストは、アロイスのほっそりとした指を持ち上げ口づけた。まるで、騎士が姫君に忠誠を誓うように。
「さぁな」
バティストは、アロイスの唇を愛おしそうに見つめるとそっと重ねた。この3日間。バティストは、アロイスを抱き締めて眠った。そして、その答えを見つけた。
「俺にも、人を愛する気持ちがあったんだな」
「え?」
「これが、答えだ」
バティストがもう一度唇を重ねる。決して、舌を絡める事はしない。アロイスの力を奪うからだ。
「愛してる?あなたが、私を?」
アロイスは、バティストの気持ちに頬を染めた。そして、2人の奇妙な関係は始まった。
バティストは、毎夜のようにアロイスとベッドを共にした。だが、決して交わろうとはしない。互いに全裸で抱き締め合っても、何もしないのだ。
「なぜ、私を、汚さないのですか?」
アロイスが頬を染めながら尋ねる。この数日で、アロイスの心にも変化が起きていた。
「お前を、愛しているからだ」
魔族と交われば、もう聖なる力は戻らない。アロイスは、自身の身すら守れないのだ。バティストは、自身の性欲に逆らってでもアロイスを守りたかった。
だが、バティストがアロイスを汚していない事実は周囲に知られる事となった。なぜなら、アロイスの美しい髪が今だ漆黒に染まっていないとバティストの側近が暴露したからだ。
「なんの用ですか?兄上」
滅多に顔を合わせる事がない義兄のクレイグは、探るような視線をバティストに向けた。
「勇者殿の無様な姿を見ようと思ってな。毎晩、随分といい思いをしているようだな」
バティストは動揺を悟られないように冷静に振る舞った。だが、クレイグの次の言葉に表情を変えた。
「王の命令だ。明日、アロイスを連れてこい」
クレイグの勝ち誇った笑みに、バティストはギリッと唇を噛みしめるしかできなかった。
その夜。悩むバティストに、アロイスが優しく微笑んだ。
「どうぞ、私を汚してください」
一糸まとわぬ姿で両手を広げるアロイスは、慈愛に満ちていた。バティストが拒絶するように視線を外す。
「いけない。あなたを、汚せない」
アロイスは、そんなバティストに口づけた。深く。
「私が、汚されたいんです」
そして、アロイスは自らバティストの下半身へと身を沈めた。

まさか自分がこんな事をするなんて、アロイスは想像もしていなかった。バティストに見つめられながら、自分で後ろを弄るのはかなり抵抗があった。だが、こうしなければ、あまりにも太く大きなバティスト自身を受け入れる事はできなかったのだ。
(彼は、魔族なのに・・・)
だが、アロイスは後悔はしていない。聖なる力を失う事にも。バティストの愛を受け入れる事にも・・・。
祖国に裏切られた事は、アロイスにとっては大きなショックだった。孤独や寂しさに震える夜は、いつもバティストが抱き締めてくれた。彼なくしては、アロイスは生きられない。アロイスは、バティストの性器を舌で潤すと自身の硬く閉ざされた蕾へとゆっくり導いた。
「あっ、んっ、あっ、ぁああああああっ」
メリッ、メリッとバティストがアロイスの内部を犯す。アロイスの全身の毛が総毛立ち、華奢な背中がのけぞった。
「アロイスッ」
ガクッと崩れかけた身体を、バティストが受け止めてくれる。そして、体位を変えてアロイスを貫いた。
「あなたには、敵わない」
ハァハァと喘ぐアロイスの前を、バティストは緩やかに刺激した。
「あ・・・、うっ、はぁ・・・っ」
ビクッビクッと手の中で、アロイスの分身が震える。バティストは、自身を締め付けるアロイスの内部に目を細めた。
(離したくない・・・)
バティストは荒々しくアロイスを穿ち、己の精を注ぎ込んだ。やがて、美しいアロイスの白銀の髪は漆黒となった。アロイスは、もう聖なる勇者ではなかった。

結局。バティストは、アロイスを連れて国を出る事にした。力を失ったアロイスは、もう祖国には帰れない。だからといって、魔族の国でも安らぐ事ができない。
「バティスト。いいのですか?王子たるあなたが、こんな形で国を捨てるなんて」
馬に揺られながら、アロイスが困惑した表情を向ける。髪と瞳は漆黒となったが、その美しさは変わる事がなかった。
「構わない。あなたがいれば、それでいい」
バティストは、アロイスの小さな唇をそっと塞いだ。
「アロイスの好きな所で暮らそう。そうだ。人間の振りをして暮らすのも楽しそうだ」
なんのしがらみもなく、静かに暮らそうとバティストが囁く。アロイスは、その胸に顔を埋めると小さく頷いた。
2人の行方を知る者は、誰もいない。
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