1 / 2
第一話
雨宿りの夜
しおりを挟む
それは、見てはならない光景だった。
若旦那の部屋の前を通った手代の忠志は、僅かに開いている隙間を興味本位で覗いてしまった。すると、中からはくぐもった声が聞こえてくる。
(まさか、若旦那様の身にに何か…)
幼い頃から身体が弱かった若旦那の誠一郎。もしかすると体調を崩しているのではないかと、忠志が襖を開けようとした瞬間。
「あ…っ、んっ」
あまりにも艶めかしい声に、忠志は思わず指を止めた。そして、そっと中を覗いた忠志は瞳を大きく見開いた。そこでは、想像もしていなかった行為が行われていたのだ。
「ん…、ぁぁぅっ」
壁に背中を凭れされて座っている誠一郎は、両足を限界まで広げていた。着物ははだけ、乳首や太ももが露になっている。
「く…っ」
女性のように細い輪郭に、肩まで伸ばした黒髪。頬をバラ色に染めながら、誠一郎は自身の勃起した竿を熱心に擦っている。
(は、早く離れなくちゃ…っ)
口を手で押さえ、忠志はそっと障子を閉めようとした。誠一郎だって男なのだから、自慰ぐらいするだろう。動揺する自分にそう言い聞かせながら、忠志が襖を閉めようとした時。
「ただ…し…っ、あっ、好き…っ」
自身の名を呼びながら絶頂を迎えた誠一郎の姿から、忠志は目を離す事ができなかった。
(俺は、どうしたらいいんだろう)
誠一郎の淫らな姿と切なく縋るような声は、忠志の生活を変えた。誠一郎が自分を恋愛対象として見ているという事を、誠一郎は知ってしまったのだ。日頃の誠一郎が凛としていればしているほど、あの時の姿が蘇る。あの、美しくいやらしい姿を…。今宵も自分の名前を呟きながら、誠一郎は自慰をしているのだろうか。
(い、いかん。何を考えているんだ。誠一郎様は、俺が生涯を通して仕える存在。淫らな事を思ってはならない)
忠志が地元で有名な問屋『たちばな』に奉公に出されたのは、わずか6歳の頃だった。覚える仕事も多く、先輩方からの執拗な嫌がらせもあった。それでも耐えてこれたのは、大旦那様や奥さまからの期待を一身に浴びていたからだ。
「将来、お前が誠一郎を支えるんだぞ」
耳にタコができるぐらい言い聞かされた言葉。
数学の才に長けていた忠志は、大人でも難しい計算をあっさりとやってのけた。そろばんを弾くスピードで、忠志に勝てるものはいない。商才もあるらしく、橘夫妻は大いに期待してくれた。
「忠志。僕の部屋で一緒におやつを食べよう」
跡取りである誠一郎は身体が弱く、友達もいなかった。年が近いせいもあり、誠一郎は忠志によく懐いた。どこに行く時も一緒で、時には誠一郎をおんぶして木に登った事もあった。誠一郎の笑顔が、何よりも忠志には嬉しかった。幼いまま時が止まれば良かったと、忠志は何度も思った。成長していくにつれ、誠一郎の態度は変わってきた。忠志が話しかけても素っ気なく、目線を外される事もあった。
(やはり、使用人と主は対等にはなれない)
忠志は誠一郎との距離が離れていく事を感じていた。だが、実際は違った。誠一郎の態度が冷たくなったのは、ひとえに許されない恋心ゆえだったのだ。
(若旦那様・・・)
忠志は、いつしか誠一郎に対して邪な想いを抱くようになっていた。ほっそりとした肩を抱き締めたくなったり、薄く柔らかな唇の甘さを堪能したくなってしまった。それは、あってはならない気持ちだ。忠志は、仕事に没頭する事で誠一郎を諦めようとした。
だが、そんな時に誠一郎に縁談の話が舞い込んだ。二十歳を迎えたというのに、女性に興味を示さない誠一郎を両親が心配したのだ。
「容姿端麗で性格もいい。お前の妻に相応しいのは、彼女だけだ」
最初は断っていた誠一郎だが、結局は両親の意見に従った。トントン拍子に話は進み、婚礼の日にちが決まる。誠一郎への気持ちが恋だと自覚したばかりの忠志にとっては、あまりにも切ない失恋だった。
「忠志。挙式の前に、挨拶回りをしたいんだ」
「わかりました。お供致します」
挨拶回りをする誠一郎に付き添う事になった忠志は、冷静さを装いながらも内心は緊張していた。久しぶりの2人っきりという状況に、無意識に浮かれてしまいそうだった。
「若旦那。足元が危ないですよ」
不安定な場所で忠志が手を差し出せば、誠一郎が少しだけ驚いた顔をした。が、すぐに柔らかな笑みを浮かべる。
「ありがとう」
そっと重ねられた手は、細くて華奢で、まるでガラス細工のようだった。うっかりすると壊してしまいそうで、忠志は慎重に支えた。
「今日は、なんだか忠志がとても男っぽく見えるね」
誠一郎が以前と変わらぬ優しい微笑みを向けてくれる。ほっそりとした輪郭が、儚げな印象を抱かせる。忠志は、自分がいかに欲深いかを知った。見ているだけて十分ではないかと言い聞かせても、心が逆らうのだ。いけない事とわかっていながら、誠一郎を抱き締めたくなる。だが、許されるはずがない。たとえ、誠一郎の心が自分に向いていてもだ。
「若旦那。あの・・・」
これからも、こうして側にいたい。それだけでいい。そう伝えようとした矢先、大粒の雨が降り始めた。
「こちらへ」
忠志は誠一郎の手を引くと、まるで廃墟のような納屋へと逃げ込んだ。幸い、小さな薪ストーブが置かれている。
雨は激しさを増していき、初夏だというのにかなり肌寒かった。横では、誠一郎が小さなくしゃみを繰り返している。
「若旦那。早く着物を脱いでください」
濡れた衣服を着ているのはよくないと考え、忠志が誠一郎に言う。誠一郎はかなり戸惑っていたが、言われた通りに着物を脱いでいく。恥ずかしそうに1枚1枚脱いでいく度に、誠一郎の華奢な身体が露になってくる。忠志は慌てて後ろを向くと、誠一郎の裸体が目に入らないようにした。
「忠志も、脱いで」
全裸になった誠一郎が、忠志を背中から抱き締める。180センチの忠志に対して、誠一郎は160センチ程だ。腕が自然と腰に回される。
「わ、若旦那。お止めくださ・・・い・・・」
誠一郎の指が忠志の帯を解く。シュルッという音と共に、足元に紺色の帯が落ちた。
「顔が見たい」
懇願するような声に、忠志は正面を向いた。薄暗い中、白魚のような手が頬に添えられる。
「あの日。見たのだろう?」
「お、俺は何も・・・」
「お前に抱かれるのを、いつも想像していた」
誠一郎の手が忠志の指を握る。そのまま口に含まれ、舌が絡まる。
「・・・っ」
ゾクゾクッとした感触が忠志の背中を駆け抜けた。壁に追い詰められ、着物が左右に広げられる。誠一郎の視線がゆっくりと下へと下りた。
「・・・感じてくれるんだね?」
嬉しそうに囁くと、誠一郎がスッとひざまずいた。そして、まさかと思った時には美しい唇に陰茎が根本まで入っていた。声にならない叫びを上げ、忠志が腰を震わす。
「いけません・・・っ、若旦那っ。そんな事を・・・っ」
だが、あまりの気持ちよさに忠志は抵抗しきれなかった。グッと掴んだ髪を、無意識に引き寄せる。その事によって、誠一郎の喉元まで先端が入った。
「ふ・・・、うっ・・・」
頬を蒸気させながら、誠一郎が熱心にしゃぶる。その舌使いは巧みで、忠志はあっという間に追い詰められた。
「あ・・・っ、んっ」
チラッと薄目を開ければ、誠一郎が美味しそうに自身を頬張っている。舌を動かす度に、白くて小さな尻が左右に揺れた。まるで、その柔らかさや甘さを教えるように。
「早く。お前の味を教えてくれ」
誠一郎の歯が、先端をハムハムと何度も甘噛みする。その刺激に、忠志は呆気なく果ててしまった。
「ずっと、お前が好きだった」
ズルズルと床に座り込んだ忠志の膝に、誠一郎が跨る。中央の欲望の証が、これ以上ない程高ぶっていた。
「私の、1度だけのワガママを聞いてくれないか」
誠一郎の指が、忠志の胸から下へとゆっくりと下りていく。慌ててその動きを止めようとしたが、心の中に生まれた期待と欲望が忠志の動きを鈍くさせた。
「私を、抱いてくれないか」
誠一郎の指が、忠志の性器をゆっくりとなぞる。細い指がやんわりと絡みついた。
「お、お止めくださいっ。若旦那」
忠志は、耳まで赤くなりその刺激に耐えた。先端を誠一郎の指にくすぐられ、熱い吐息がこぼれる。
「お願いだ。明日には、好きでもない女を抱かなくてはならないんだ。1度だけでいいから、お前と繋がりたい」
誠一郎が、この結婚を望んでいない事は知っていた。親同士が決めた、いわば政略結婚だった。
「お前が、欲しいんだ」
口づけされ、忠志の理性が崩れそうになる。だが、義理堅い忠志には大旦那夫妻を裏切れなかった。
「若旦那・・・、俺は・・・」
誠一郎は、落ちていた紺色の帯を拾うと忠志に目隠しをした。
「お前は、黙っているだけでいいよ。これは、私が勝手にした事」
誠一郎は、忠志の指を後ろにそっとあてがった。そして、ツプッと中へと入れる。
「あ・・・っ」
「わ、若旦那っ」
柔らかくて弾力のある肉壁。忠志は、自分が今触れているものの正体を知り動揺した。肉壁は、忠志の指に吸い付き離れない。まるで、誠一郎の口内のように・・・。
「んっ、ぁぁっ」
甘く高い声と同時に、忠志の胸のあたりが濡れる。ハァハァと息を整えながら、誠一郎が忠志の両肩を掴んだ。そして、ググッと腰を沈める。
「あっ、はぁっ、あっ、すごく、いい・・・っ、たまらない・・・っ」
ズッズッと腰を激しく揺さぶる誠一郎に、忠志は我慢ができなくなった。帯を外し、乱暴に誠一郎を押し倒すと主導権を握る。埃が舞う中、忠志は本能のまま誠一郎を抱いた。激しい息遣いも、甘い溜め息も、獣のような喘ぎ声も、どちらのものかはわからなかった。忠志が背筋を震わせ、誠一郎の中へと欲望を放つ。雨の音が響く中、2人は唇を重ね愛していると伝え合った。
「すまない。こんな事をして・・・」
行為の後。誠一郎がポツリと呟く。
「最初は、お前を兄のように慕っていた。両親から、最高の贈り物を貰ったと無邪気に喜んでいた」
忠志は誠一郎の汗で濡れた髪に唇を寄せて、艶めかしい裸体を引き寄せた。
「だが、いつしか気が付いてしまったんだ。私がお前に抱いてしまった。あの感情に・・・」
見つめているだけでは満足できない。思春期を迎えた誠一郎は、毎夜のように忠志の姿を想像しながら欲を満たした。
「・・・雨が止んだな」
あれだけ激しかった雨音が止んだ。まるでそれが合図とでもいうように、誠一郎が身体を離す。その腰を忠志が掴んだ。
「忠志?」
「俺は、ずっと若旦那のものです。心も身体も・・・」
明日は祝言だ。誠一郎を、自分だけのものにはできない。そんな焦れったさは、誠一郎にも伝わった。
「忠志。私の心は、お前のものだよ。お前以外と寝ても、心はお前に抱かれている」
忠志は、誠一郎に口づけした。そして、引き寄せられ再び1つになる。それは、彼らにとって紛れもない契の儀式だった。
雨が、再び降り始めた。まるで、2人を外の世界から守るように。
若旦那の部屋の前を通った手代の忠志は、僅かに開いている隙間を興味本位で覗いてしまった。すると、中からはくぐもった声が聞こえてくる。
(まさか、若旦那様の身にに何か…)
幼い頃から身体が弱かった若旦那の誠一郎。もしかすると体調を崩しているのではないかと、忠志が襖を開けようとした瞬間。
「あ…っ、んっ」
あまりにも艶めかしい声に、忠志は思わず指を止めた。そして、そっと中を覗いた忠志は瞳を大きく見開いた。そこでは、想像もしていなかった行為が行われていたのだ。
「ん…、ぁぁぅっ」
壁に背中を凭れされて座っている誠一郎は、両足を限界まで広げていた。着物ははだけ、乳首や太ももが露になっている。
「く…っ」
女性のように細い輪郭に、肩まで伸ばした黒髪。頬をバラ色に染めながら、誠一郎は自身の勃起した竿を熱心に擦っている。
(は、早く離れなくちゃ…っ)
口を手で押さえ、忠志はそっと障子を閉めようとした。誠一郎だって男なのだから、自慰ぐらいするだろう。動揺する自分にそう言い聞かせながら、忠志が襖を閉めようとした時。
「ただ…し…っ、あっ、好き…っ」
自身の名を呼びながら絶頂を迎えた誠一郎の姿から、忠志は目を離す事ができなかった。
(俺は、どうしたらいいんだろう)
誠一郎の淫らな姿と切なく縋るような声は、忠志の生活を変えた。誠一郎が自分を恋愛対象として見ているという事を、誠一郎は知ってしまったのだ。日頃の誠一郎が凛としていればしているほど、あの時の姿が蘇る。あの、美しくいやらしい姿を…。今宵も自分の名前を呟きながら、誠一郎は自慰をしているのだろうか。
(い、いかん。何を考えているんだ。誠一郎様は、俺が生涯を通して仕える存在。淫らな事を思ってはならない)
忠志が地元で有名な問屋『たちばな』に奉公に出されたのは、わずか6歳の頃だった。覚える仕事も多く、先輩方からの執拗な嫌がらせもあった。それでも耐えてこれたのは、大旦那様や奥さまからの期待を一身に浴びていたからだ。
「将来、お前が誠一郎を支えるんだぞ」
耳にタコができるぐらい言い聞かされた言葉。
数学の才に長けていた忠志は、大人でも難しい計算をあっさりとやってのけた。そろばんを弾くスピードで、忠志に勝てるものはいない。商才もあるらしく、橘夫妻は大いに期待してくれた。
「忠志。僕の部屋で一緒におやつを食べよう」
跡取りである誠一郎は身体が弱く、友達もいなかった。年が近いせいもあり、誠一郎は忠志によく懐いた。どこに行く時も一緒で、時には誠一郎をおんぶして木に登った事もあった。誠一郎の笑顔が、何よりも忠志には嬉しかった。幼いまま時が止まれば良かったと、忠志は何度も思った。成長していくにつれ、誠一郎の態度は変わってきた。忠志が話しかけても素っ気なく、目線を外される事もあった。
(やはり、使用人と主は対等にはなれない)
忠志は誠一郎との距離が離れていく事を感じていた。だが、実際は違った。誠一郎の態度が冷たくなったのは、ひとえに許されない恋心ゆえだったのだ。
(若旦那様・・・)
忠志は、いつしか誠一郎に対して邪な想いを抱くようになっていた。ほっそりとした肩を抱き締めたくなったり、薄く柔らかな唇の甘さを堪能したくなってしまった。それは、あってはならない気持ちだ。忠志は、仕事に没頭する事で誠一郎を諦めようとした。
だが、そんな時に誠一郎に縁談の話が舞い込んだ。二十歳を迎えたというのに、女性に興味を示さない誠一郎を両親が心配したのだ。
「容姿端麗で性格もいい。お前の妻に相応しいのは、彼女だけだ」
最初は断っていた誠一郎だが、結局は両親の意見に従った。トントン拍子に話は進み、婚礼の日にちが決まる。誠一郎への気持ちが恋だと自覚したばかりの忠志にとっては、あまりにも切ない失恋だった。
「忠志。挙式の前に、挨拶回りをしたいんだ」
「わかりました。お供致します」
挨拶回りをする誠一郎に付き添う事になった忠志は、冷静さを装いながらも内心は緊張していた。久しぶりの2人っきりという状況に、無意識に浮かれてしまいそうだった。
「若旦那。足元が危ないですよ」
不安定な場所で忠志が手を差し出せば、誠一郎が少しだけ驚いた顔をした。が、すぐに柔らかな笑みを浮かべる。
「ありがとう」
そっと重ねられた手は、細くて華奢で、まるでガラス細工のようだった。うっかりすると壊してしまいそうで、忠志は慎重に支えた。
「今日は、なんだか忠志がとても男っぽく見えるね」
誠一郎が以前と変わらぬ優しい微笑みを向けてくれる。ほっそりとした輪郭が、儚げな印象を抱かせる。忠志は、自分がいかに欲深いかを知った。見ているだけて十分ではないかと言い聞かせても、心が逆らうのだ。いけない事とわかっていながら、誠一郎を抱き締めたくなる。だが、許されるはずがない。たとえ、誠一郎の心が自分に向いていてもだ。
「若旦那。あの・・・」
これからも、こうして側にいたい。それだけでいい。そう伝えようとした矢先、大粒の雨が降り始めた。
「こちらへ」
忠志は誠一郎の手を引くと、まるで廃墟のような納屋へと逃げ込んだ。幸い、小さな薪ストーブが置かれている。
雨は激しさを増していき、初夏だというのにかなり肌寒かった。横では、誠一郎が小さなくしゃみを繰り返している。
「若旦那。早く着物を脱いでください」
濡れた衣服を着ているのはよくないと考え、忠志が誠一郎に言う。誠一郎はかなり戸惑っていたが、言われた通りに着物を脱いでいく。恥ずかしそうに1枚1枚脱いでいく度に、誠一郎の華奢な身体が露になってくる。忠志は慌てて後ろを向くと、誠一郎の裸体が目に入らないようにした。
「忠志も、脱いで」
全裸になった誠一郎が、忠志を背中から抱き締める。180センチの忠志に対して、誠一郎は160センチ程だ。腕が自然と腰に回される。
「わ、若旦那。お止めくださ・・・い・・・」
誠一郎の指が忠志の帯を解く。シュルッという音と共に、足元に紺色の帯が落ちた。
「顔が見たい」
懇願するような声に、忠志は正面を向いた。薄暗い中、白魚のような手が頬に添えられる。
「あの日。見たのだろう?」
「お、俺は何も・・・」
「お前に抱かれるのを、いつも想像していた」
誠一郎の手が忠志の指を握る。そのまま口に含まれ、舌が絡まる。
「・・・っ」
ゾクゾクッとした感触が忠志の背中を駆け抜けた。壁に追い詰められ、着物が左右に広げられる。誠一郎の視線がゆっくりと下へと下りた。
「・・・感じてくれるんだね?」
嬉しそうに囁くと、誠一郎がスッとひざまずいた。そして、まさかと思った時には美しい唇に陰茎が根本まで入っていた。声にならない叫びを上げ、忠志が腰を震わす。
「いけません・・・っ、若旦那っ。そんな事を・・・っ」
だが、あまりの気持ちよさに忠志は抵抗しきれなかった。グッと掴んだ髪を、無意識に引き寄せる。その事によって、誠一郎の喉元まで先端が入った。
「ふ・・・、うっ・・・」
頬を蒸気させながら、誠一郎が熱心にしゃぶる。その舌使いは巧みで、忠志はあっという間に追い詰められた。
「あ・・・っ、んっ」
チラッと薄目を開ければ、誠一郎が美味しそうに自身を頬張っている。舌を動かす度に、白くて小さな尻が左右に揺れた。まるで、その柔らかさや甘さを教えるように。
「早く。お前の味を教えてくれ」
誠一郎の歯が、先端をハムハムと何度も甘噛みする。その刺激に、忠志は呆気なく果ててしまった。
「ずっと、お前が好きだった」
ズルズルと床に座り込んだ忠志の膝に、誠一郎が跨る。中央の欲望の証が、これ以上ない程高ぶっていた。
「私の、1度だけのワガママを聞いてくれないか」
誠一郎の指が、忠志の胸から下へとゆっくりと下りていく。慌ててその動きを止めようとしたが、心の中に生まれた期待と欲望が忠志の動きを鈍くさせた。
「私を、抱いてくれないか」
誠一郎の指が、忠志の性器をゆっくりとなぞる。細い指がやんわりと絡みついた。
「お、お止めくださいっ。若旦那」
忠志は、耳まで赤くなりその刺激に耐えた。先端を誠一郎の指にくすぐられ、熱い吐息がこぼれる。
「お願いだ。明日には、好きでもない女を抱かなくてはならないんだ。1度だけでいいから、お前と繋がりたい」
誠一郎が、この結婚を望んでいない事は知っていた。親同士が決めた、いわば政略結婚だった。
「お前が、欲しいんだ」
口づけされ、忠志の理性が崩れそうになる。だが、義理堅い忠志には大旦那夫妻を裏切れなかった。
「若旦那・・・、俺は・・・」
誠一郎は、落ちていた紺色の帯を拾うと忠志に目隠しをした。
「お前は、黙っているだけでいいよ。これは、私が勝手にした事」
誠一郎は、忠志の指を後ろにそっとあてがった。そして、ツプッと中へと入れる。
「あ・・・っ」
「わ、若旦那っ」
柔らかくて弾力のある肉壁。忠志は、自分が今触れているものの正体を知り動揺した。肉壁は、忠志の指に吸い付き離れない。まるで、誠一郎の口内のように・・・。
「んっ、ぁぁっ」
甘く高い声と同時に、忠志の胸のあたりが濡れる。ハァハァと息を整えながら、誠一郎が忠志の両肩を掴んだ。そして、ググッと腰を沈める。
「あっ、はぁっ、あっ、すごく、いい・・・っ、たまらない・・・っ」
ズッズッと腰を激しく揺さぶる誠一郎に、忠志は我慢ができなくなった。帯を外し、乱暴に誠一郎を押し倒すと主導権を握る。埃が舞う中、忠志は本能のまま誠一郎を抱いた。激しい息遣いも、甘い溜め息も、獣のような喘ぎ声も、どちらのものかはわからなかった。忠志が背筋を震わせ、誠一郎の中へと欲望を放つ。雨の音が響く中、2人は唇を重ね愛していると伝え合った。
「すまない。こんな事をして・・・」
行為の後。誠一郎がポツリと呟く。
「最初は、お前を兄のように慕っていた。両親から、最高の贈り物を貰ったと無邪気に喜んでいた」
忠志は誠一郎の汗で濡れた髪に唇を寄せて、艶めかしい裸体を引き寄せた。
「だが、いつしか気が付いてしまったんだ。私がお前に抱いてしまった。あの感情に・・・」
見つめているだけでは満足できない。思春期を迎えた誠一郎は、毎夜のように忠志の姿を想像しながら欲を満たした。
「・・・雨が止んだな」
あれだけ激しかった雨音が止んだ。まるでそれが合図とでもいうように、誠一郎が身体を離す。その腰を忠志が掴んだ。
「忠志?」
「俺は、ずっと若旦那のものです。心も身体も・・・」
明日は祝言だ。誠一郎を、自分だけのものにはできない。そんな焦れったさは、誠一郎にも伝わった。
「忠志。私の心は、お前のものだよ。お前以外と寝ても、心はお前に抱かれている」
忠志は、誠一郎に口づけした。そして、引き寄せられ再び1つになる。それは、彼らにとって紛れもない契の儀式だった。
雨が、再び降り始めた。まるで、2人を外の世界から守るように。
54
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
魚上氷
楽川楽
BL
俺の旦那は、俺ではない誰かに恋を患っている……。
政略結婚で一緒になった阿須間澄人と高辻昌樹。最初は冷え切っていても、いつかは互いに思い合える日が来ることを期待していた昌樹だったが、ある日旦那が苦しげに花を吐き出す姿を目撃してしまう。
それは古い時代からある、片想いにより発症するという奇病だった。
美形×平凡
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
愛人は嫌だったので別れることにしました。
伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。
しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
デリヘルからはじまる恋
よしゆき
BL
デリヘルで働く春陽と、彼を指名する頼斗。いつも優しく抱いてくれる頼斗を、客なのに好きになってしまいそうで春陽はデリヘルを辞める。その後外でばったり頼斗と会い、家に連れ込まれめちゃくちゃされる話。
モロ語で溢れています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
王子様の愛が重たくて頭が痛い。
しろみ
BL
「家族が穏やかに暮らせて、平穏な日常が送れるのなら何でもいい」
前世の記憶が断片的に残ってる遼には“王子様”のような幼馴染がいる。花のような美少年である幼馴染は遼にとって悩みの種だった。幼馴染にべったりされ過ぎて恋人ができても長続きしないのだ。次こそは!と意気込んだ日のことだったーー
距離感がバグってる男の子たちのお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ヤバい薬、飲んじゃいました。
はちのす
BL
変な薬を飲んだら、皆が俺に惚れてしまった?!迫る無数の手を回避しながら元に戻るまで奮闘する話********イケメン(複数)×平凡※性描写は予告なく入ります。
作者の頭がおかしい短編です。IQを2にしてお読み下さい。
※色々すっ飛ばしてイチャイチャさせたかったが為の産物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる