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第八章
美しく完璧な執事は、恋人を強く抱き締める
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「わっ」
クルッとターンした瞬間。小柄な陽太の身体は大きく傾いた。すぐに長い腕が伸びてきて、抱き留めてくれる。
「大丈夫か?」
「平気。ごめん」
額に浮かんだ汗を拭い、陽太が力なく笑う。平野家の広い庭。執事である小野智樹と、使用人である陽太はワルツの練習をしていた。
「もう一度」
陽太の声に、智樹は仕方なく白手袋の手を差し出した。
「1、2、3。1、2、3。そうだ、その調子だ」
軽やかにステップを踏みながら、智樹が優しく微笑む。
来週、智樹は総真の代理として園村家のパーティーに参加する事となった。招待状には、代理でも可と書かれていた。そこで智樹が出席する事が決まった。
「陽太は、無理に行かなくてもいいんだよ」
「・・・俺も行くよ。だって、1人じゃ大変だろ」
陽太だって、本当ならパーティーになど参加したくはない。が、前原が智樹に何かするのではないかと気が気ではないのだ。それに・・・。
(智樹は、誰かとこうやって踊るのかな)
パーティーというものがなにかわからない陽太は、聡真にその事を尋ねた。どうやら、美味しいものを食べたり男女がワルツを踊ったりするものらしい。
ワルツが何かを智樹に尋ねたら、こうやって教えてもらう事になった。
(きっと、奇麗な人がいっぱいくるんだろうな)
生まれて初めて、ワルツというものを踊った。身体を密着させ、顔も近い。どんな女性も、智樹と踊ったらその美しさに魅了されるだろう。智樹が誰かとこうやって踊るのかと思っただけで、胸の奥がツンとした。これは、間違いなく嫉妬だ。
(こんな気持ち、知られたくない)
陽太は、時が過ぎるのも忘れて智樹の亜麻色の瞳を見つめた。
「どうかしたのか?」
「あの、智樹は誰と踊るの?」
智樹は、陽太の嫉妬心を見透かしたようにフッと笑った。
「誰とも踊らないよ。陽太としか、踊らない」
「え?それって・・・」
言いかけた唇は、智樹のそれで塞がれた。言葉にしなくても、気持ちが伝わったような気がして嬉しかった。
「もう少し、踊ろうか」
「うんっ」
月明かりの下で、恋人同士はいつまでも踊り続けた。
パーティーには、聡真の代理として智樹と陽太が参列する事になった。陽太は、生まれて初めて燕尾服なるものを着た。
「よく似合うな」
智樹に誉められ、陽太はほんのりと頬を染めた。
「旦那様の伝言を伝えたら、すぐに帰ろう」
馬車の中で、智樹がフッと微笑む。窓の外は既に夕暮れで、遠くの方には夜を教える藍色のカーテンが見えてきた。ガタガタする山道に入り、やがて白亜の屋敷が見えてきた。
「あれが、園村諒人様の別邸だ」
園村諒人は、20歳にして海運業を成功させたという男だ。物静かで、その傍らにはいつも秘書の前原和彰が立っている。
「平野聡真様の代理で参りました」
入口で伝えると、能面のような笑顔をしたメイドが智樹を奥へと促した。陽太も行こうとすると、メイドが鋭い眼差しで制止する。
「こちらでお待ち下さい」
智樹は僅かに目を瞠ったが、それ以上は何も言わずに奥へ向った。陽太がソワソワと辺りを見回していると、スッとオレンジジュースが差し出される。顔を上げれば、ニッコリ笑った前原和彰が立っていた。
「よく来たね」
前原は、まるで自分が主催者かのように礼を述べると陽太を大広間へと促した。
「燕尾服がよく似合ってるね。実はね、主が君に会いたいって言ってるんだ」
「え?」
思わぬ事を言われて顔を上げた瞬間。陽太はハンカチで口を覆われた。薬品の香りに、逃げなくてはと思ったが既に身体は動かなかった。
「陽太?陽太っ」
智樹は、広い屋敷内をあちこち探し回った。だが、どこにも陽太の姿はない。
(なんのつもりだっ)
案内役のメイドは、気がついたらいなくなっていた。罠だと気が付き慌てて戻ったが、陽太の姿はどこにもなかった。智樹の額に汗が滲む。
(もっと警戒すべきだった・・・っ)
大勢人がいる前では、前原も何もするまいと思ったのだ。
(狙いは、私か・・・)
智樹は、苦々しい思いで唇を噛み締めた。
「ここ、は・・・?」
意識が戻った陽太だが、身体が恐ろしくだるい。指一本動かす事さえ困難だ。フカフカのベッドからは、起き上がる事さえできない。
「安心しなさい。ここは、客室の1つだ」
前原は上着を脱ぐと陽太にのしかかってきた。そして、動けない陽太を楽しそうに見つめる。
「俺に、何を、するんだ?」
「聞かなくても、わかってるんだろ?」
前原の指が、陽太の燕尾服に伸びる。まるで、獲物をジワジワと追い詰めるような眼差しだ。陽太は、抵抗もできないまま服を脱がされていく。眩しい光の中、陽太の傷だらけの身体が露わにされていく。
「見るな・・・っ・・・」
「かわいそうに。黒川芳太郎に、散々ひどい目に合わされたんだね」
言いながら、前原が傷跡に指を這わせる。鎖骨や胸元、そして足の方へと・・・。
「や・・・っ」
「智樹は、どんな風に抱いてくれるんだ?昨日も抱かれたんだろ?ほら、後ろがユルユルだ」
「あ・・・っ」
前原の中指がプツッと中へ潜り込んだ。散々かき回した後、前原は自身の股間を埋めようとした。が、その動きが寸前で止まった。
「思ったより、早かったな」
前原が苦笑を浮かべる。その首筋には、智樹の手刀が当たっていた。
「冷静さを失っていない事に感謝するんだな」
智樹は、汗で乱れた前髪をかきあげた。そして、横たわる陽太に自身の上着をかける。
「よくわかったな。この部屋が・・・」
「お前の部下は、口が軽い」
智樹がチラリとドアの方を見た。そこには、大柄な男が2人倒れていた。
「なぜ、お前は私に執着するんだ?」
智樹の言葉に、前原が苦笑した。陽太には、その顔が泣き顔のように見えた。
「・・・本当にわからないのか?」
「わからんな。今後、私にも陽太にも近づくな」
智樹は、陽太を抱き上げるとそのまま立ち去った。後に残された前原は、首筋に手を当てる。
「バカだよな、俺・・・」
あんな風に冷たく見下げられるなんて、思ってもいなかった。
「完全に、嫌われたな」
前原にとって、智樹はライバルだった。だが、智樹に相手にされていない事に気がついた時からその気持ちが変わっていた。智樹に振り向いて欲しい。ライバルとして認めて欲しい。そして、自分だけを見つめて欲しい。
智樹への気持ちが恋だと気づくのが、あまりにも遅すぎたのだ。
前原が自分の気持ちに気づいた頃、智樹の側には陽太という少年がいた。平凡なだけの少年に、智樹を奪われてしまった。せめて、陽太を智樹から奪いたかった。そうすれば、少しは気持ちがスッキリすると思ったのだが・・・。
「はぁ・・・っ、あっ、智樹っ。もう、やめ・・・っ」
陽太は、浴槽の縁にしがみつきながら甘い声を上げ続けた。朦朧としながら屋敷に戻った陽太は、すぐに浴室へと連れて行かれた。智樹は、燕尾服を着たまま陽太の身体を隅々まで洗う。特に、足の間に見え隠れする蕾は念入りだった。
「駄目だ。あいつの痕跡は、全て消す」
智樹の瞳が、いつもとは明らかに違った。優しさなど感じない、どこか暗い光を宿している。陽太は、本能的に恐怖を感じて思わず背中を丸めた。
広い浴室に、陽太の泣き声が響く。智樹は、ハッと我に返った。
「陽太・・・?」
「ごめんなさい・・・っ、ごめんなさい・・・っ」
陽太は、泡だらけのまま顔を手で覆った。震える身体を、智樹が躊躇いがちに抱き締める。
「俺が、あんな奴についていったから・・・っ、智樹を、傷つけた・・・っ」
智樹は、やっと自分の過ちに気がついた。自分以外が陽太の秘部に触れたのかと思うと、どうしようもなく心がざわついたのだ。
「・・・すまない。私が悪かった」
智樹は、泣きじゃくる陽太をギュッと抱き締めた。
「私は、お前の事になると冷静ではいられないらしい」
智樹は、陽太への愛が日に日に増していくのを感じた。もっと自分だけを見て欲しい。もっと、自分を欲しがってほしい。
「許してくれ」
陽太は、涙で濡れた頬を拭うと自分から唇を寄せた。深く舌を絡め、腕を首に回す。智樹は、燕尾服を全て脱ぎ捨てるとその華奢な裸体をそのまま押し倒した。
「あ・・・っ、ああっ、はぁっ、あっ」
智樹の舌が、なんの躊躇いもなく陽太の花芯を舐める。泡だらけの指が蕾に潜り込み、奥を優しく広げる。
「もう、大丈夫・・・っ」
「陽太?」
陽太は上体を起こすと、智樹の首にしがみついた。そして、驚く智樹の上に自分から跨った。
小さな声を上げながら、陽太が腰を落としていく。
「うぁ・・・っ、あっ、はあっ、あ・・・っ」
石鹸で滑りが良くなったとはいえ、かなり無理があった。陽太の健気さと愛しさに、智樹は優しくその腰を抱き寄せた。
「あっ」
「動かなくていい。そのまま、こうしていよう」
陽太は、涙で潤んだ瞳で智樹を見た。黒真珠のような瞳に、美しい智樹の顔が映った。
「愛してる。誰よりも、智樹を愛してる」
「陽太・・・」
「俺は、智樹だけのものだから」
智樹と陽太は固く唇を結ぶと、いつまでも抱き合った。
「前原が、私を?」
陽太の考えに、智樹は明らかに嫌そうな顔をした。
「何かの間違いだろう」
総真の朝食を用意しながら、智樹が軽く笑った。そんな智樹に、陽太が頬を膨らませる。
「本当だってばっ。あいつ、絶対に智樹の事が好きなんだよっ」
「わかった、わかった。ほら、旦那様に朝食をお運びしろ」
「・・・本当なのに」
智樹にとって、前原が自分を好きだろうが嫌いだろうがどうでもいい事だ。陽太が自分の側にいて、ずっと笑ってさえいてくれたらそれでいいのだ。
クルッとターンした瞬間。小柄な陽太の身体は大きく傾いた。すぐに長い腕が伸びてきて、抱き留めてくれる。
「大丈夫か?」
「平気。ごめん」
額に浮かんだ汗を拭い、陽太が力なく笑う。平野家の広い庭。執事である小野智樹と、使用人である陽太はワルツの練習をしていた。
「もう一度」
陽太の声に、智樹は仕方なく白手袋の手を差し出した。
「1、2、3。1、2、3。そうだ、その調子だ」
軽やかにステップを踏みながら、智樹が優しく微笑む。
来週、智樹は総真の代理として園村家のパーティーに参加する事となった。招待状には、代理でも可と書かれていた。そこで智樹が出席する事が決まった。
「陽太は、無理に行かなくてもいいんだよ」
「・・・俺も行くよ。だって、1人じゃ大変だろ」
陽太だって、本当ならパーティーになど参加したくはない。が、前原が智樹に何かするのではないかと気が気ではないのだ。それに・・・。
(智樹は、誰かとこうやって踊るのかな)
パーティーというものがなにかわからない陽太は、聡真にその事を尋ねた。どうやら、美味しいものを食べたり男女がワルツを踊ったりするものらしい。
ワルツが何かを智樹に尋ねたら、こうやって教えてもらう事になった。
(きっと、奇麗な人がいっぱいくるんだろうな)
生まれて初めて、ワルツというものを踊った。身体を密着させ、顔も近い。どんな女性も、智樹と踊ったらその美しさに魅了されるだろう。智樹が誰かとこうやって踊るのかと思っただけで、胸の奥がツンとした。これは、間違いなく嫉妬だ。
(こんな気持ち、知られたくない)
陽太は、時が過ぎるのも忘れて智樹の亜麻色の瞳を見つめた。
「どうかしたのか?」
「あの、智樹は誰と踊るの?」
智樹は、陽太の嫉妬心を見透かしたようにフッと笑った。
「誰とも踊らないよ。陽太としか、踊らない」
「え?それって・・・」
言いかけた唇は、智樹のそれで塞がれた。言葉にしなくても、気持ちが伝わったような気がして嬉しかった。
「もう少し、踊ろうか」
「うんっ」
月明かりの下で、恋人同士はいつまでも踊り続けた。
パーティーには、聡真の代理として智樹と陽太が参列する事になった。陽太は、生まれて初めて燕尾服なるものを着た。
「よく似合うな」
智樹に誉められ、陽太はほんのりと頬を染めた。
「旦那様の伝言を伝えたら、すぐに帰ろう」
馬車の中で、智樹がフッと微笑む。窓の外は既に夕暮れで、遠くの方には夜を教える藍色のカーテンが見えてきた。ガタガタする山道に入り、やがて白亜の屋敷が見えてきた。
「あれが、園村諒人様の別邸だ」
園村諒人は、20歳にして海運業を成功させたという男だ。物静かで、その傍らにはいつも秘書の前原和彰が立っている。
「平野聡真様の代理で参りました」
入口で伝えると、能面のような笑顔をしたメイドが智樹を奥へと促した。陽太も行こうとすると、メイドが鋭い眼差しで制止する。
「こちらでお待ち下さい」
智樹は僅かに目を瞠ったが、それ以上は何も言わずに奥へ向った。陽太がソワソワと辺りを見回していると、スッとオレンジジュースが差し出される。顔を上げれば、ニッコリ笑った前原和彰が立っていた。
「よく来たね」
前原は、まるで自分が主催者かのように礼を述べると陽太を大広間へと促した。
「燕尾服がよく似合ってるね。実はね、主が君に会いたいって言ってるんだ」
「え?」
思わぬ事を言われて顔を上げた瞬間。陽太はハンカチで口を覆われた。薬品の香りに、逃げなくてはと思ったが既に身体は動かなかった。
「陽太?陽太っ」
智樹は、広い屋敷内をあちこち探し回った。だが、どこにも陽太の姿はない。
(なんのつもりだっ)
案内役のメイドは、気がついたらいなくなっていた。罠だと気が付き慌てて戻ったが、陽太の姿はどこにもなかった。智樹の額に汗が滲む。
(もっと警戒すべきだった・・・っ)
大勢人がいる前では、前原も何もするまいと思ったのだ。
(狙いは、私か・・・)
智樹は、苦々しい思いで唇を噛み締めた。
「ここ、は・・・?」
意識が戻った陽太だが、身体が恐ろしくだるい。指一本動かす事さえ困難だ。フカフカのベッドからは、起き上がる事さえできない。
「安心しなさい。ここは、客室の1つだ」
前原は上着を脱ぐと陽太にのしかかってきた。そして、動けない陽太を楽しそうに見つめる。
「俺に、何を、するんだ?」
「聞かなくても、わかってるんだろ?」
前原の指が、陽太の燕尾服に伸びる。まるで、獲物をジワジワと追い詰めるような眼差しだ。陽太は、抵抗もできないまま服を脱がされていく。眩しい光の中、陽太の傷だらけの身体が露わにされていく。
「見るな・・・っ・・・」
「かわいそうに。黒川芳太郎に、散々ひどい目に合わされたんだね」
言いながら、前原が傷跡に指を這わせる。鎖骨や胸元、そして足の方へと・・・。
「や・・・っ」
「智樹は、どんな風に抱いてくれるんだ?昨日も抱かれたんだろ?ほら、後ろがユルユルだ」
「あ・・・っ」
前原の中指がプツッと中へ潜り込んだ。散々かき回した後、前原は自身の股間を埋めようとした。が、その動きが寸前で止まった。
「思ったより、早かったな」
前原が苦笑を浮かべる。その首筋には、智樹の手刀が当たっていた。
「冷静さを失っていない事に感謝するんだな」
智樹は、汗で乱れた前髪をかきあげた。そして、横たわる陽太に自身の上着をかける。
「よくわかったな。この部屋が・・・」
「お前の部下は、口が軽い」
智樹がチラリとドアの方を見た。そこには、大柄な男が2人倒れていた。
「なぜ、お前は私に執着するんだ?」
智樹の言葉に、前原が苦笑した。陽太には、その顔が泣き顔のように見えた。
「・・・本当にわからないのか?」
「わからんな。今後、私にも陽太にも近づくな」
智樹は、陽太を抱き上げるとそのまま立ち去った。後に残された前原は、首筋に手を当てる。
「バカだよな、俺・・・」
あんな風に冷たく見下げられるなんて、思ってもいなかった。
「完全に、嫌われたな」
前原にとって、智樹はライバルだった。だが、智樹に相手にされていない事に気がついた時からその気持ちが変わっていた。智樹に振り向いて欲しい。ライバルとして認めて欲しい。そして、自分だけを見つめて欲しい。
智樹への気持ちが恋だと気づくのが、あまりにも遅すぎたのだ。
前原が自分の気持ちに気づいた頃、智樹の側には陽太という少年がいた。平凡なだけの少年に、智樹を奪われてしまった。せめて、陽太を智樹から奪いたかった。そうすれば、少しは気持ちがスッキリすると思ったのだが・・・。
「はぁ・・・っ、あっ、智樹っ。もう、やめ・・・っ」
陽太は、浴槽の縁にしがみつきながら甘い声を上げ続けた。朦朧としながら屋敷に戻った陽太は、すぐに浴室へと連れて行かれた。智樹は、燕尾服を着たまま陽太の身体を隅々まで洗う。特に、足の間に見え隠れする蕾は念入りだった。
「駄目だ。あいつの痕跡は、全て消す」
智樹の瞳が、いつもとは明らかに違った。優しさなど感じない、どこか暗い光を宿している。陽太は、本能的に恐怖を感じて思わず背中を丸めた。
広い浴室に、陽太の泣き声が響く。智樹は、ハッと我に返った。
「陽太・・・?」
「ごめんなさい・・・っ、ごめんなさい・・・っ」
陽太は、泡だらけのまま顔を手で覆った。震える身体を、智樹が躊躇いがちに抱き締める。
「俺が、あんな奴についていったから・・・っ、智樹を、傷つけた・・・っ」
智樹は、やっと自分の過ちに気がついた。自分以外が陽太の秘部に触れたのかと思うと、どうしようもなく心がざわついたのだ。
「・・・すまない。私が悪かった」
智樹は、泣きじゃくる陽太をギュッと抱き締めた。
「私は、お前の事になると冷静ではいられないらしい」
智樹は、陽太への愛が日に日に増していくのを感じた。もっと自分だけを見て欲しい。もっと、自分を欲しがってほしい。
「許してくれ」
陽太は、涙で濡れた頬を拭うと自分から唇を寄せた。深く舌を絡め、腕を首に回す。智樹は、燕尾服を全て脱ぎ捨てるとその華奢な裸体をそのまま押し倒した。
「あ・・・っ、ああっ、はぁっ、あっ」
智樹の舌が、なんの躊躇いもなく陽太の花芯を舐める。泡だらけの指が蕾に潜り込み、奥を優しく広げる。
「もう、大丈夫・・・っ」
「陽太?」
陽太は上体を起こすと、智樹の首にしがみついた。そして、驚く智樹の上に自分から跨った。
小さな声を上げながら、陽太が腰を落としていく。
「うぁ・・・っ、あっ、はあっ、あ・・・っ」
石鹸で滑りが良くなったとはいえ、かなり無理があった。陽太の健気さと愛しさに、智樹は優しくその腰を抱き寄せた。
「あっ」
「動かなくていい。そのまま、こうしていよう」
陽太は、涙で潤んだ瞳で智樹を見た。黒真珠のような瞳に、美しい智樹の顔が映った。
「愛してる。誰よりも、智樹を愛してる」
「陽太・・・」
「俺は、智樹だけのものだから」
智樹と陽太は固く唇を結ぶと、いつまでも抱き合った。
「前原が、私を?」
陽太の考えに、智樹は明らかに嫌そうな顔をした。
「何かの間違いだろう」
総真の朝食を用意しながら、智樹が軽く笑った。そんな智樹に、陽太が頬を膨らませる。
「本当だってばっ。あいつ、絶対に智樹の事が好きなんだよっ」
「わかった、わかった。ほら、旦那様に朝食をお運びしろ」
「・・・本当なのに」
智樹にとって、前原が自分を好きだろうが嫌いだろうがどうでもいい事だ。陽太が自分の側にいて、ずっと笑ってさえいてくれたらそれでいいのだ。
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