恋をしたのはライバルホスト?

すいかちゃん

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第二話

どうしようもなく愛してる

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隆人がホストになったのは、大学3年の時だった。特にホストになりたかったわけではないが、特にやりたい事もなかったから気軽に始めた。だが、始めてみると意外と面白かったのだ。客との疑似恋愛もゲーム感覚だった。ドラマや漫画に出てくるような甘いセリフを吐いて、適当に遊べる。客が本気になったらさっさと離れる。同期のホストと、1日にどれぐらいの客をとれるか競った事もあった。
そして、売れるホストの条件もだんだんわかってきた。売れるホストは、とにかく女性の心理を心得ていた。王子様を求める女性には、とことん甘く優しく。悩みには共感し、決して怒らせない。髪型や服装も気を遣っていた。だが、どんどんつまらなくなっていた。
彼と出会うまでは・・・。
「何よっ、ホストのくせにっ」
今夜も、宙樹は女性客を怒らせていた。相手はどうやら二十歳そこそこというところだ。慣れない化粧に、サイズの合わないブランドものの服。おそらく、ホストクラブは初めてなのだろう。隆人は自分の客に断りを入れてから立ち上がった。
「ホストは客のワガママをきくロボットじゃない。さっさと帰れっ」
ホストらしからぬ発言を宙樹がした瞬間。女性客の手が振り下ろされた。だが、その手は寸前で隆人によって止められる。
「かわいいお姫様。せっかくのおしゃれが台無しですよ」
隆人の一言で、女性客の機嫌は一気に高まる。そして、周囲の女性客もうっとりと隆人を見上げた。
「リュウト王子登場ね」
「やっぱ、かっこいい。毎日店に出て欲しい」
女性客達にとって、宙樹のピンチを救う隆人は王子様のような存在なのだ。この光景が見たくて、わざわざ宙樹を怒らせる客もいるぐらいである。
「そんなに素敵ですか?」
女性達の会話に、蓮が口を挟む。黒い短髪に、スッとした目元。韓国アイドルのような出で立ちの蓮は、若い世代に特に人気が高かった。
「リュウト王子とヒロキ姫のヴィジュアル、ヤバイよね」
蓮の声が聞こえているのかいないのか、女性客達の話しは止まらない。
大人気ホストクラブ『N』と『R』が統合してからというもの、女性客は以前よりも増えた。なかでも、『R』のナンバーワンホスト・リュウトが『N』に移籍したのが大きかった。
「私、前はヒロキ苦手だったの。見た目はかわいいのにガサツだし、お世辞も言えないし・・・」
「そうそう。でも、リュウトが来てから見方が変わったのよね。なんか、あの2人ってアヤシイよね」
「ねー」
女性客達がキャッキャッしながら酒を飲む中、蓮は鋭い視線を宙樹がいる席へと向けた。そこでは、ムスッとふくれっ面をしている宙樹を隆人が宥めていた。さり気なく肩を抱く仕草に、悔しさが増す。
「本当に、付き合ってるのかもね」
蓮は、内心の怒りを抑えてにこやかに告げた。途端に、女性客達は更に盛り上がった。

「なんであんな事を言ったの?」
呆れたような声を出して、隆人が指を動かす。
「あ・・・っ、だって・・・、ワガママ言うから・・・っ、あっ」
耳たぶを噛まれながら、後ろから抱き竦められ宙樹が世中をのけぞらせる。
「本当に、宙樹はホストに向いてないね」
クスクス笑いながら、隆人が指の動きを速めた。宙樹はそのダイレクトな刺激に翻弄され、あっという間に達した。
「でも、そういうところが好きなんだけどね」
店では硬派なイメージが強い宙樹だが、隆人の前ではまるで子猫のようだった。
「なぁ、隆人」
「んー?」
腕の中で宙樹が向きを変える。その潤んだ眼差しには、ある決意にも似た光が宿っていた。
「・・・今夜こそ、しよ」
その言葉に、隆人はわざとらしく溜め息を吐いた。
「無理しなくていいよ」
恋人同士となった2人だが、今だ最後までした事はない。その事に不満がないわけではないが、こればかりは1人ではできない。
「やだっ。今日こそ最後までするっ」
隆人は聞き分けのない宙樹をベッドに押し倒すと、怖がらせないように指を伸ばした。入口をなぞれば、それだけで宙樹の背筋が強張る。
「力抜いて。大丈夫だから」
「ん」
隆人は、宙樹に深呼吸を繰り返すように伝えた。そして、いつもより時間をかけて解していく。
「はぁ、あっ・・・、あっ・・・っ」
快楽を求めるように、宙樹の足が無意識に開く。その瞬間を隆人は見逃さなかった。静かに先端を当てると、一気に中へ押し込んだ。
「うぁ・・・っ、あっ」
宙樹の声が部屋に響く。
額や胸には大粒の汗が浮かび、腰や足はブルブルと震えている。隆人は慌てて抜こうとしたが、宙樹がすかさず腕を伸ばし止めた。
「今日こそ、ちゃんと、あっ、したいんだ・・・っ」
その眼差しの強さに、隆人は動きを止めた。そして、優しく額にキスをする。
「そういうまっすぐなところは、変わらないね。初めて会った時と同じだ」
「初めてって・・・?」
「宙樹は、きっと覚えてないよ」
隆人は、少しでも宙樹の負担が軽くなるように乳首や性器に愛撫を施した。やがて、宙樹の声が甘く掠れるようになっていく。

「・・・終わったのか?」
呆然と天井を見上げながら宙樹が呟く。隆人は、赤く腫れた箇所に軟膏を塗りながら、小さく頷いた。
「なんか、想像と違った」
クスッと宙樹が笑う。
「・・・もう、したくない?」
心配そうに尋ねれば、宙樹が笑った。
「逆。ものすっごいしたい」
2人は顔を見合わせてクスクスと笑い合った。それから、裸のまま抱き合ってただじっと微睡んだ。
「実はさ、今日の客がやたらと隆人の事を聞きたがったんだ」
「え?」
「何歳なのかとか、好きなものはとか、恋人はいるのか、とか」
最後のところだけ声が小さかった。宙樹が不安げに隆人を見る。
「こういう仕事だってわかってるけど、やっぱ隆人が女性と話すの嫌でさ」
つまり、今夜荒れまくったのはかわいい嫉妬心からくるものだったのだ。隆人は、なんだか嬉しくてたまらなかった。
「なんだよっ、嬉しそうにすんなっ」
「だって嬉しいんだ。そっかそっか」
隆人は照れる宙樹を抱き締めながら、これまでにないぐらい幸福に満ちた眠りに落ちた。

『オレ、絶対に自分の店を持つんだ』

たまたま見かけた飲み会。新人ホストが大声で言っていた。周囲から、無理だと言われてもそのホストの決意は変わらなかった。あんなキラキラした瞳、見た事はなかった。
その時から、隆人は宙樹に夢中だったのだ。
「なぁ。宙樹とは遊びなんだろ?」
開店準備をしていれば、蓮が鋭い眼差しを向けてくる。彼のそんな視線は頻繁に感じていた。
「本気だよ。悪いけど、宙樹の事は諦めてくれ」
言えば、蓮の顔が赤くなった。他のホスト達の視線が一斉に集まる。
「気がついてないと思ったの?バレバレなんだよ」
「う、うるさいっ」
蓮はかなりプライドが高いらしい。自身が失恋したという現実を受け止められないのだろう。
怒りに満ちた様子で蓮が外へ行けば、更衣室から宙樹が出てきた。
「どうかしたのか?」
「いや。なんでもない」
キョトンとする宙樹があまりにもかわいくて、隆人はそのまま唇を塞いだ。周囲のホスト達が騒ぎ出す中、隆人はたっぷりディープキスを楽しんだ。
「な、なななな、何すんだよっ」
唇を離せば、想像通りのリアクションが返ってくる。隆人は、誰もがうっとりするようなウィンクを返した。
「これで、誰も宙樹に手が出せないだろ?」
いつも嫉妬しているのは自分の方だと、隆人は心の中だけでこっそり呟いた。




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