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秋の鱗雲
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26、秋の鱗雲
JR奈良駅のコンコースから出て、駅からエスカレーターで降りる。
バスターミナルの横にあるタクシー乗り場に目を向けた。大きな駅だから客待ちが数台並んでいるようだ。
先頭の車両に足早に向かい勢い良く乗り込んで「秋篠寺」と伝えた。
その日は天気が良く、秋晴れの空がモヤのかかったようなミルキーブルーに染まっている。
柔らかい日差しも心地良かった。
所々に鱗雲が見えている。夏の気配とは程遠いが強い日差しを受けて白い雲が輝いていた。
タクシーは三笠山へ向かい西に向けて走り、旧国道24号線に入り北へと走る。
「ここら辺りは丘陵になっていてその山あいに古墳が多く存在するんですよ」
バックミラーをチラ見しながら気の良い運転手さんは、話しかけてくれた。その北西の方向に秋篠寺はある。
車から降りて寺に向かう。
外見からはただ雑然と木々が生えているだけで、この奥に奈良時代からの由緒正しい寺があるとは到底思えない。
案内の立て札をに沿って歩いていくとそこは別世界だった。太い幹の林があってその木の根っこには苔が生えている。美しい。どこにもないような苔庭だ
その苔は緑に輝き生地の隙間から木漏れ日として落ちてきた光を大きく出とったかと思うと、新鮮な空気を吐き出しそのような化学反応がこの清らかな正常な空気を作り出しているようにも思う。
想像以上に広いその苔庭を歩いていくと小さな正門とその横に小さな受付があって、もう少し歩くと明るいところが見えて来る。そこを右に曲がると奈良の古寺特有の簡素な御堂が見えて来る。
ここに私が求めていた秋篠寺の微笑仏様、伎芸天がいらっしゃる。
悠太との関係は、私が通い妻のように、気まぐれに悠太の部屋に呼ばれて、犬になり悠太のしたいように体を預けて、逢うための苦労以上に、終わりの無い官能の世界を悠太に味わせてもらった。
終わりはいつも突然だ。
悠太の仕事、貿易会社の関係でヨーロッパ支社に出向になった。以前から希望を出していたらしく彼にとっては栄転だ。
「やったな!」上司は喜んで進めてくれたそうだ。
断る事はないだろう。
私も実は雄太の子供を妊娠していた。話そうか話すまいか迷っていたのだがその転勤の話を聞いて私は妊娠したことを旦那に伝えた。もちろん旦那の子供だとウソをついて。
仕事があるから育てられないと言っておろす事にした。
それから私は一切雄太との連絡を断った。
雄太と出会うきっかけになった奈良へ行く旅行が再度計画を持ち上がった。私は友達からの誘いに笑顔で答えた。
「楽しみにしてたの」と。
実際は、また友人のキャンセルが入り今回は1人でここに来た。まだ感覚は無いのだがお腹の子と2人には違い無い。この仏様の顔を2人で見たいと思ったから。
この旅が終わればこの子ともお別れだ。
悠太もこの空を欧州に向けて飛び立つ日だ。方向は違うのだろが空に飛行機雲が刺さっている。
伎芸天の仏様はお顔が天平時代でお身体は火事で痛んだ後に作られたらしい。
お堂の中は暗く写真のようにはお姿を拝せない。
でも御堂から出て感じるお庭の清々しさはなんだろう。この風景が千年以上変わらずここにあると言うのか。
ここは尼寺だと言う。きっと世はかわり人は流れても私の様に、人には言えない恋や淫欲の成れの果てに辿り着く場所なのだろう。
私も心はあの男にあげた。
身体は今ある家族に置いておきたい。
そう決めた。
時と言うのは移ろい流れる。
願わくば。彼方の人の中に。
この優しい仏様の微笑みの様に、いつまでも記憶の中に残っていたいから。
愛した人の中に。
JR奈良駅のコンコースから出て、駅からエスカレーターで降りる。
バスターミナルの横にあるタクシー乗り場に目を向けた。大きな駅だから客待ちが数台並んでいるようだ。
先頭の車両に足早に向かい勢い良く乗り込んで「秋篠寺」と伝えた。
その日は天気が良く、秋晴れの空がモヤのかかったようなミルキーブルーに染まっている。
柔らかい日差しも心地良かった。
所々に鱗雲が見えている。夏の気配とは程遠いが強い日差しを受けて白い雲が輝いていた。
タクシーは三笠山へ向かい西に向けて走り、旧国道24号線に入り北へと走る。
「ここら辺りは丘陵になっていてその山あいに古墳が多く存在するんですよ」
バックミラーをチラ見しながら気の良い運転手さんは、話しかけてくれた。その北西の方向に秋篠寺はある。
車から降りて寺に向かう。
外見からはただ雑然と木々が生えているだけで、この奥に奈良時代からの由緒正しい寺があるとは到底思えない。
案内の立て札をに沿って歩いていくとそこは別世界だった。太い幹の林があってその木の根っこには苔が生えている。美しい。どこにもないような苔庭だ
その苔は緑に輝き生地の隙間から木漏れ日として落ちてきた光を大きく出とったかと思うと、新鮮な空気を吐き出しそのような化学反応がこの清らかな正常な空気を作り出しているようにも思う。
想像以上に広いその苔庭を歩いていくと小さな正門とその横に小さな受付があって、もう少し歩くと明るいところが見えて来る。そこを右に曲がると奈良の古寺特有の簡素な御堂が見えて来る。
ここに私が求めていた秋篠寺の微笑仏様、伎芸天がいらっしゃる。
悠太との関係は、私が通い妻のように、気まぐれに悠太の部屋に呼ばれて、犬になり悠太のしたいように体を預けて、逢うための苦労以上に、終わりの無い官能の世界を悠太に味わせてもらった。
終わりはいつも突然だ。
悠太の仕事、貿易会社の関係でヨーロッパ支社に出向になった。以前から希望を出していたらしく彼にとっては栄転だ。
「やったな!」上司は喜んで進めてくれたそうだ。
断る事はないだろう。
私も実は雄太の子供を妊娠していた。話そうか話すまいか迷っていたのだがその転勤の話を聞いて私は妊娠したことを旦那に伝えた。もちろん旦那の子供だとウソをついて。
仕事があるから育てられないと言っておろす事にした。
それから私は一切雄太との連絡を断った。
雄太と出会うきっかけになった奈良へ行く旅行が再度計画を持ち上がった。私は友達からの誘いに笑顔で答えた。
「楽しみにしてたの」と。
実際は、また友人のキャンセルが入り今回は1人でここに来た。まだ感覚は無いのだがお腹の子と2人には違い無い。この仏様の顔を2人で見たいと思ったから。
この旅が終わればこの子ともお別れだ。
悠太もこの空を欧州に向けて飛び立つ日だ。方向は違うのだろが空に飛行機雲が刺さっている。
伎芸天の仏様はお顔が天平時代でお身体は火事で痛んだ後に作られたらしい。
お堂の中は暗く写真のようにはお姿を拝せない。
でも御堂から出て感じるお庭の清々しさはなんだろう。この風景が千年以上変わらずここにあると言うのか。
ここは尼寺だと言う。きっと世はかわり人は流れても私の様に、人には言えない恋や淫欲の成れの果てに辿り着く場所なのだろう。
私も心はあの男にあげた。
身体は今ある家族に置いておきたい。
そう決めた。
時と言うのは移ろい流れる。
願わくば。彼方の人の中に。
この優しい仏様の微笑みの様に、いつまでも記憶の中に残っていたいから。
愛した人の中に。
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