上 下
62 / 66

第62話 復縁

しおりを挟む
「シャワー浴びて来るわ」

そう言うと、綾乃はベッドから抜け出してシャワールームへと消えていった。
一人ベッドの上で天井を見上げながら、どう綾乃を説得するか、考えを巡らせる。

暫くすると、綾乃はシャワールームから出てきて、僕にもシャワーを浴びて服を着ろと言うので、僕は素直に従った。

僕がシャワーを浴びて戻ってくると、綾乃はテーブルに座っていた。ワインが入ったグラスが二つ、用意されていた。

「圭君があまり飲めないのは知っているけど付き合って」

「はい、いただきます」

テーブルの向こうの綾乃は厳しい表情をしている。完全に仕事の顔になっている。

「ねえ、私が今、どんな心境だか分かる?」尋問調の言い回しだ。

「その、川本さんが妊娠したのには、仕方のない理由があるんです」

僕は、愛莉が妊娠した経緯を話した。

「それは気の毒だと思うし、その相手の男に腹も立つわ、でも」

綾乃の言いたいことは予想がついた。綾乃との関係を断ったことの原因でもあるのだから、愛莉は。

「それとこれは別! 男を取られたのよ彼女に、こんな屈辱を味わったのに、その相手を助けろって言うの?」

「助けろとは言ってません。後任として推してるだけです。彼女が有能なのは綾乃さんだって知ってるはずです」


綾乃は、ワイングラスを揺らしながら、思案しているようだった。

「確かに人手は必要だし、川本さんなら適任だと思うわ。
今度、三人で話しましょう。私は前向きに考えてみるわ」

「ありがとうございます!」

「でも、そんなに川本さんの事が大切なら、圭君が引き取ってあげれば良いのに。
子供だって、今なら戸籍上は圭君の子供にできるじゃない」

綾乃は不思議そうに僕を見つめる。少し目が寂しそうだった。

「それは……、提案してみました。でも、拒否されて、僕たちは友達に戻る事にしたんです」

「なんで? 川本さんも圭君のことが好きで、この先もずっと一緒に居られるのに」

「僕の負担になりたくないらしいです。それに、子供も僕の本当の子供じゃないし、複雑なんです」

愛莉の妊娠が分かった日、散々話し合って決めた事だが、僕だって納得している訳ではない。

「そう、彼女って確か母子家庭で、お母さんも若い時に妊娠して彼女を産んだのよね。そういう家庭環境が影響しているのかもね」

綾乃は、ワインのグラスに口づけすると赤い液体を喉に流し込んだ。

「だから、せめて彼女の生活が安定することができればと思ったんです」

「君は本当におせっかいだね 笑」

綾乃は、さっきまでの厳しい表情を崩し女の表情に変わっていた。

「川本さんには悪いけど、私には好都合なのかしら?」

「え?」

「だって、圭君は今、フリーなんでしょ?」

「でも、今更……、それに、僕は卒業したら地元に戻ろうと思ってるんです」


僕は、自分がこの先何をしたいか、どういう目標があるのか、綾乃に話した。


「そうなんだ……、そう言う事があったのね。もしかして、今でもその子の事が好きなの?」

「それ……は……」

「否定しないんだ 笑」

「すみません……」

「でも、圭君って、前々から思ってたけど、見かけによらず熱いよね」

「同じことを、松江で会った高取さんにも言われました」

あの日の事を思い出し、僕は少し顔が赤くなる。しかし、松江で高取夫妻や土門華子の母に会ったことで、僕の目標が定まったと言って良い。

「でも、あんまり頑張りすぎると、暴走して何処かで倒れてしまうわよ。
だから、圭君もたまには誰かに甘えなきゃ。そういう所を川本さんも心配したんじゃないの」

綾乃が、遠回しに復縁を迫っているのは感じ取れた。

「綾乃さんは良いのですか? あと二年もすれば、この関係は否が応でも終わるというのに」

「逆に、期間が定まっているから、燃えるんじゃない?」

綾乃は立ち上がると、せっかく着た服を脱ぎ始めた。

「綾乃さん?」

「ねえ、私をこんなにしたのは誰?」

服を脱ぐと、綾乃はベッドに座って挑発する。

「圭君と別れてから、ずっと寂しかったのよ。今夜は、その埋め合わせをしてもらうわ」

僕も服を脱いでベッドで綾乃を抱きしめる。


「僕って、ダメですね。すぐに欲望に負けてしまう」
「別に犯罪じゃないし、正常な反応じゃないの?」

綾乃の理屈を、僕は唇で塞いだ。

「でも、生徒にこんなことしちゃダメよ。未来の先生 笑」
唇が離れると、綾乃が冗談を言って笑った。

「しませんよ 笑」


と言いながら、陽菜の事を思い出した。

(陽菜との事も、ハッキリさせなきゃ……)




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

兄の悪戯

廣瀬純一
大衆娯楽
悪戯好きな兄が弟と妹に催眠術をかける話

処理中です...