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第58話 最後の夜だから
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「愛莉、どうして僕が頑張ることが、愛莉の不幸せになるの?」
「圭の、負担になるから」
「負担だなんて、大切な人のために頑張るなんて当たり前の事だよ」
「いや、冷静になって聞いて。圭もわたしも、まだ学生なの」
いつになく愛莉の目が鋭かった。
「分かってるよ、そんな事」
「どうやって? わたし一人じゃない、子供もいて、どうやって生活するの?」
「僕は今、家庭教師のバイトに、カテマッチの運営も手伝っていて、新卒サラリーマンくらいは稼いでる。二人家族が増えても大丈夫だよ」
愛莉は下を向き、何かを考えているようだった。
「家族って……。ゴメン、やっぱり怖い。
今は、圭は気持ちが昂っているだけなんだと思う。母さんも、これまで何度か男の人から交際を申し込まれたこともあったけど、結局、誰とも付き合わなかった」
愛莉が顔をあげ、僕を見つめる。
「何故だか分かる?」
僕には、愛美母娘がこれまでどんな人生を歩んできたのかは分からない。黙って首を横に振る。
「わたしが、いつか邪魔者になる事を恐れたからなの」
男は、子供を好きになる訳ではない。女性を好きになって、たまたま好きになった女性に子供がいた、要するに子供はオマケというわけだ。
愛美に交際を申し込んできた男も、結局は愛美が必要なだけで、愛莉は、悪い言い方をすれば邪魔者という事になる。
愛美は、そんな男たちの本心を見透かしていたのだろう、そして、愛莉もその考え方を受け継いでいるのだと、愛莉は話してくれた。
「僕は、生まれてくる子を邪魔者だとは思ってないよ」
「うん、圭ならそう言うと思ってたし、きっと、そうなんだと思う」
「だったら……」
「だから、なおさら怖い。
圭は、きっと頑張りすぎるから、いつか頑張りすぎて、わたしや子供のことが負担になったら……」
愛莉は言葉を詰まらせ、不安な表情を見せた。
「もし……後悔でもされたら……、わたしは、きっと死ぬほど辛いと思う」
未来のことは、誰にも分からない。今、僕は愛莉のためにできることは何でもすると思っていても将来、自分の選択を後悔する時が来るかもしれない。
でも……、
僕は、ただ、愛莉と離れたくないだけなのに、どうして上手く彼女を説得できないのだろう?
結局、僕も愛美に言い寄ってきた男たちと同じで、ただ愛莉を手放したくないから聞えの良い事を言っているだけに過ぎない。
そして、そういう僕の心の底を、愛莉は見透かしているのだろうと思った。だったら、本当に僕ができることを考えるべきだ。
「分かったよ、愛莉のことは諦める」
「圭……?」
「でも、友達として愛莉の事を見守るくらいは、認めて欲しい」
「見守る? て、どういう事?」
「僕たちは、もう恋人同士じゃないし、もちろん結婚も考えない。でも、大切な友達として間接的に愛莉の力になりたい。それくらい良いだろ?」
愛莉がテーブルの向こうから手を伸ばし、僕の手に絡める。愛莉の温もりが、愛おしかった。
「ゴメンね、こんなことになって。わたし、これからも圭の事が好きだと思う」
「あ~、喉が渇いた。もう一本飲んじゃお」突然襖が開き、愛美が台所へ入ってきて、冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、テーブルに着いた。
プシュ~という音が鳴る。
「で、話しはまとまったの?」
そう言うと、愛美は喉をグビグビ鳴らした。
「うん、わたしたち別れることにした。と言っても、友達関係は続けるけどね」
「まあ、そんれが賢明だよ。圭ちゃん、アンタの気持ちは嬉しいけど、二人とも若いんだし、今すぐ結婚とか家族になろうとか、性急すぎるわ」
「はい、すみません。一人でいきり立ってしまって」
僕は、一人熱くなったことを恥じた。愛美母娘は、僕よりもずっと現実を知っているのだと思い知らされる。
「もう遅いから、アンタらも寝なよ」
愛美は、缶ビールを飲み干すと、また部屋へ戻っていった。
「愛莉、具合はどう?」
「うん、今は落ち着いてる。早いうちに婦人科に行かなきゃ」
「僕もついて行く!」
「ヤメテ、恥ずかしいから 笑」
「ご、ゴメン。とりあえず、寝れる準備だけしようか?」
僕がシャワーを浴びている間に、愛莉が床の準備をし、愛莉もシャワーを浴びてきて、僕たちは床についた。
愛美の部屋は静かだ。彼女も寝てしまったのだろう。
「ね、圭。凄く勝手な事を言って良い?」
「ん?」
「最後に、抱いて欲しい」
「え~、だって、隣で愛美さんが寝てるのに、それに、お腹の方は大丈夫なの?」
「大丈夫だと思う。一昨日もしたじゃない 笑」
「そうだけど……」
と躊躇いながらも、僕の手は愛莉へ伸びる。
「今日は避妊しなくて良いから」
「うん」
愛莉と過ごす最後の夜は、更けていった。
「圭の、負担になるから」
「負担だなんて、大切な人のために頑張るなんて当たり前の事だよ」
「いや、冷静になって聞いて。圭もわたしも、まだ学生なの」
いつになく愛莉の目が鋭かった。
「分かってるよ、そんな事」
「どうやって? わたし一人じゃない、子供もいて、どうやって生活するの?」
「僕は今、家庭教師のバイトに、カテマッチの運営も手伝っていて、新卒サラリーマンくらいは稼いでる。二人家族が増えても大丈夫だよ」
愛莉は下を向き、何かを考えているようだった。
「家族って……。ゴメン、やっぱり怖い。
今は、圭は気持ちが昂っているだけなんだと思う。母さんも、これまで何度か男の人から交際を申し込まれたこともあったけど、結局、誰とも付き合わなかった」
愛莉が顔をあげ、僕を見つめる。
「何故だか分かる?」
僕には、愛美母娘がこれまでどんな人生を歩んできたのかは分からない。黙って首を横に振る。
「わたしが、いつか邪魔者になる事を恐れたからなの」
男は、子供を好きになる訳ではない。女性を好きになって、たまたま好きになった女性に子供がいた、要するに子供はオマケというわけだ。
愛美に交際を申し込んできた男も、結局は愛美が必要なだけで、愛莉は、悪い言い方をすれば邪魔者という事になる。
愛美は、そんな男たちの本心を見透かしていたのだろう、そして、愛莉もその考え方を受け継いでいるのだと、愛莉は話してくれた。
「僕は、生まれてくる子を邪魔者だとは思ってないよ」
「うん、圭ならそう言うと思ってたし、きっと、そうなんだと思う」
「だったら……」
「だから、なおさら怖い。
圭は、きっと頑張りすぎるから、いつか頑張りすぎて、わたしや子供のことが負担になったら……」
愛莉は言葉を詰まらせ、不安な表情を見せた。
「もし……後悔でもされたら……、わたしは、きっと死ぬほど辛いと思う」
未来のことは、誰にも分からない。今、僕は愛莉のためにできることは何でもすると思っていても将来、自分の選択を後悔する時が来るかもしれない。
でも……、
僕は、ただ、愛莉と離れたくないだけなのに、どうして上手く彼女を説得できないのだろう?
結局、僕も愛美に言い寄ってきた男たちと同じで、ただ愛莉を手放したくないから聞えの良い事を言っているだけに過ぎない。
そして、そういう僕の心の底を、愛莉は見透かしているのだろうと思った。だったら、本当に僕ができることを考えるべきだ。
「分かったよ、愛莉のことは諦める」
「圭……?」
「でも、友達として愛莉の事を見守るくらいは、認めて欲しい」
「見守る? て、どういう事?」
「僕たちは、もう恋人同士じゃないし、もちろん結婚も考えない。でも、大切な友達として間接的に愛莉の力になりたい。それくらい良いだろ?」
愛莉がテーブルの向こうから手を伸ばし、僕の手に絡める。愛莉の温もりが、愛おしかった。
「ゴメンね、こんなことになって。わたし、これからも圭の事が好きだと思う」
「あ~、喉が渇いた。もう一本飲んじゃお」突然襖が開き、愛美が台所へ入ってきて、冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、テーブルに着いた。
プシュ~という音が鳴る。
「で、話しはまとまったの?」
そう言うと、愛美は喉をグビグビ鳴らした。
「うん、わたしたち別れることにした。と言っても、友達関係は続けるけどね」
「まあ、そんれが賢明だよ。圭ちゃん、アンタの気持ちは嬉しいけど、二人とも若いんだし、今すぐ結婚とか家族になろうとか、性急すぎるわ」
「はい、すみません。一人でいきり立ってしまって」
僕は、一人熱くなったことを恥じた。愛美母娘は、僕よりもずっと現実を知っているのだと思い知らされる。
「もう遅いから、アンタらも寝なよ」
愛美は、缶ビールを飲み干すと、また部屋へ戻っていった。
「愛莉、具合はどう?」
「うん、今は落ち着いてる。早いうちに婦人科に行かなきゃ」
「僕もついて行く!」
「ヤメテ、恥ずかしいから 笑」
「ご、ゴメン。とりあえず、寝れる準備だけしようか?」
僕がシャワーを浴びている間に、愛莉が床の準備をし、愛莉もシャワーを浴びてきて、僕たちは床についた。
愛美の部屋は静かだ。彼女も寝てしまったのだろう。
「ね、圭。凄く勝手な事を言って良い?」
「ん?」
「最後に、抱いて欲しい」
「え~、だって、隣で愛美さんが寝てるのに、それに、お腹の方は大丈夫なの?」
「大丈夫だと思う。一昨日もしたじゃない 笑」
「そうだけど……」
と躊躇いながらも、僕の手は愛莉へ伸びる。
「今日は避妊しなくて良いから」
「うん」
愛莉と過ごす最後の夜は、更けていった。
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