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第38話 新しい恋人
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月曜日。
僕は昼休みに食堂で佳澄と待ち合わせる事になっていた。
初めて、女の子に友達を紹介してもらえる。こんなシチュエーションを体験することになろうとは、思ってもみなかった。
僕は今、とてもドキドキしている。期待感が半端ないのだ。
(石井さん、何処かな?)
僕は、キョロキョロと周りを見渡していたが、一向に現れる気配がしない。
どうしたのだろう? と思い、彼女にメッセージを送ってみた。
<森岡です。食堂にいます。石井さん、何処ですか?>
「すみません、ここ、空いてますか?」
その時、突如声をかけられて僕は声の主の方へ振り向いた。
トレイにうどんらしきドンブリを乗せた女子学生が立っていた。
「あ、どうぞ」と、僕が返答すると、女子学生はブスっとした表情で僕の向かいの席に座った。
(一年生かな? 随分と背が低いが……)
見たところ、身長は145cmくらいだろうか? 小学生みたいだ。
それに、化粧っ気のない顔に髪の毛も中途半端な長さにバッサリとカットしてあり、何よりも目を引くのは、度の強そうなメガネ。
しかも、チビのくせに、やたらと巨乳だ。
(こ、これは……、僕のイメージにピッタリの『リケジョ』だ!)
「何か?」
「へ?」
「アナタ、さっきからワタシのこと、ジロジロと見てますよね?」
うどんの湯気で曇ったメガネの奥の冷たい瞳がキラリと光った気がした。
それに、鼻水が垂れてる。
「あ、いえ、そういう訳では……、ちょっと友達を探していて」
「なるほど、アナタ、ワタシを見てたのではなく、友達を探してたのですね?」
「ええ……」
「友達で、ワタシも思い出しました。 ワタシも友達とここで待ち合わせていたのでした」
「はあ……、うどん、食べてますが?」
僕の『普通』がおかしいのか? 普通、友達と待ち合わせているなら、先に食べたりしないだろう。「変な人だ」と思ってしまう。
「ワタシは実験で忙しいのです。だから、時間は有効活用しなければいけません」
そう言うと、女子学生はズルズルとうどんをすすった。
(やっぱり、変な人だ。早く石井さん来ないかな?)
逃げ出したくなっていた頃、声がかかった。
「あ、いたいた。ごめね~森岡君、遅くなっちゃって。
あれ? 先輩も一緒なの?」
「え? 先輩?」
僕は、佳澄と女子学生を交互に見比べる。
「なんだ、偶然いっしょだったの? もしかして、森岡君って『持ってる』人?」
可笑しそうに佳澄は笑った。
「石井、もしかしてワタシに紹介したい男子って、カレのこと?」
「そうですよ~日向先輩。どうです、真面目そうな好青年でしょ。
あ、森岡君、こちら、私の高校の先輩で日向美栞《ひなたみかん》さん」
「は、初めまして、僕、森岡圭といいます」
あらためて僕も美栞に挨拶をする。
「石井、アナタ、目は節穴ですか?」
美栞は、うどんをズルズルとすすりながら、佳澄を見上げた。
「え……と、先輩、どういう事かな?」
「コノ人の、どこが好青年なのですか?」
そう言うと、美栞は、今度は僕の方へ向き直り、眼鏡の奥の冷たい瞳を光らせた。
「アナタ、さっきからワタシの胸ばかり見てますね。スケベですよね」
相変わらず、うどんをすすっている。
「いや~、そ、それは、石井さんを探して……」
「アナタの座高と視線の角度を計算してみました。視線の先は下の方に向かっていました」
(う!? するどい!)
「その結果、ベクトルの延長線上にあるのは、ワタシの胸でした」
「まあ、まあ、先輩、男子なんて多少なりとも、そんなものですよ。
森岡君は、真面目だし、素直だし、優しいし、お客さん、こんな優良物件はそうそうお目にかかれませんよ」
なぜか佳澄は営業トークへと変わっていた。「僕は不動産か!」と突っ込みたくなる。
「まあ、良いでしょう。ワタシも、そろそろ恋愛というものを経験したかったところです。森岡で手を打ちましょう」
美栞は、どんぶりを両手で持つと、ジュルジュルと音を立てて汁を飲んだ。
そして、トンとどんぶりをテーブルに置くと、またしても眼鏡の奥の冷たい瞳をキラリと光らせた。
「ただし、森岡にスケベ疑惑がある以上、正式に恋人になるのはリスクがあります。
あなたは、実験的恋人という事にします」
「あ……の、それって、どういう意味ですか?」
「つまり、物事を証明するには検証が必要ですよね。科学の世界では実験を重ねて、証明をするのです。恋愛も、まずは実験から始めます」
(な、なんだろう? この既視感は……)
こうして、僕に新しい恋人ができた。
リケジョの実験台だけど。
僕は昼休みに食堂で佳澄と待ち合わせる事になっていた。
初めて、女の子に友達を紹介してもらえる。こんなシチュエーションを体験することになろうとは、思ってもみなかった。
僕は今、とてもドキドキしている。期待感が半端ないのだ。
(石井さん、何処かな?)
僕は、キョロキョロと周りを見渡していたが、一向に現れる気配がしない。
どうしたのだろう? と思い、彼女にメッセージを送ってみた。
<森岡です。食堂にいます。石井さん、何処ですか?>
「すみません、ここ、空いてますか?」
その時、突如声をかけられて僕は声の主の方へ振り向いた。
トレイにうどんらしきドンブリを乗せた女子学生が立っていた。
「あ、どうぞ」と、僕が返答すると、女子学生はブスっとした表情で僕の向かいの席に座った。
(一年生かな? 随分と背が低いが……)
見たところ、身長は145cmくらいだろうか? 小学生みたいだ。
それに、化粧っ気のない顔に髪の毛も中途半端な長さにバッサリとカットしてあり、何よりも目を引くのは、度の強そうなメガネ。
しかも、チビのくせに、やたらと巨乳だ。
(こ、これは……、僕のイメージにピッタリの『リケジョ』だ!)
「何か?」
「へ?」
「アナタ、さっきからワタシのこと、ジロジロと見てますよね?」
うどんの湯気で曇ったメガネの奥の冷たい瞳がキラリと光った気がした。
それに、鼻水が垂れてる。
「あ、いえ、そういう訳では……、ちょっと友達を探していて」
「なるほど、アナタ、ワタシを見てたのではなく、友達を探してたのですね?」
「ええ……」
「友達で、ワタシも思い出しました。 ワタシも友達とここで待ち合わせていたのでした」
「はあ……、うどん、食べてますが?」
僕の『普通』がおかしいのか? 普通、友達と待ち合わせているなら、先に食べたりしないだろう。「変な人だ」と思ってしまう。
「ワタシは実験で忙しいのです。だから、時間は有効活用しなければいけません」
そう言うと、女子学生はズルズルとうどんをすすった。
(やっぱり、変な人だ。早く石井さん来ないかな?)
逃げ出したくなっていた頃、声がかかった。
「あ、いたいた。ごめね~森岡君、遅くなっちゃって。
あれ? 先輩も一緒なの?」
「え? 先輩?」
僕は、佳澄と女子学生を交互に見比べる。
「なんだ、偶然いっしょだったの? もしかして、森岡君って『持ってる』人?」
可笑しそうに佳澄は笑った。
「石井、もしかしてワタシに紹介したい男子って、カレのこと?」
「そうですよ~日向先輩。どうです、真面目そうな好青年でしょ。
あ、森岡君、こちら、私の高校の先輩で日向美栞《ひなたみかん》さん」
「は、初めまして、僕、森岡圭といいます」
あらためて僕も美栞に挨拶をする。
「石井、アナタ、目は節穴ですか?」
美栞は、うどんをズルズルとすすりながら、佳澄を見上げた。
「え……と、先輩、どういう事かな?」
「コノ人の、どこが好青年なのですか?」
そう言うと、美栞は、今度は僕の方へ向き直り、眼鏡の奥の冷たい瞳を光らせた。
「アナタ、さっきからワタシの胸ばかり見てますね。スケベですよね」
相変わらず、うどんをすすっている。
「いや~、そ、それは、石井さんを探して……」
「アナタの座高と視線の角度を計算してみました。視線の先は下の方に向かっていました」
(う!? するどい!)
「その結果、ベクトルの延長線上にあるのは、ワタシの胸でした」
「まあ、まあ、先輩、男子なんて多少なりとも、そんなものですよ。
森岡君は、真面目だし、素直だし、優しいし、お客さん、こんな優良物件はそうそうお目にかかれませんよ」
なぜか佳澄は営業トークへと変わっていた。「僕は不動産か!」と突っ込みたくなる。
「まあ、良いでしょう。ワタシも、そろそろ恋愛というものを経験したかったところです。森岡で手を打ちましょう」
美栞は、どんぶりを両手で持つと、ジュルジュルと音を立てて汁を飲んだ。
そして、トンとどんぶりをテーブルに置くと、またしても眼鏡の奥の冷たい瞳をキラリと光らせた。
「ただし、森岡にスケベ疑惑がある以上、正式に恋人になるのはリスクがあります。
あなたは、実験的恋人という事にします」
「あ……の、それって、どういう意味ですか?」
「つまり、物事を証明するには検証が必要ですよね。科学の世界では実験を重ねて、証明をするのです。恋愛も、まずは実験から始めます」
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リケジョの実験台だけど。
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