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第37話 リケジョ

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新宿の東口にある雑居ビルにある居酒屋が、合コンの場所だった。

4月に人妻たちと合コンしたお店と同様に、ビルの外見からは想像できない程オシャレな居酒屋で、狭い個室に男女八人が詰め込まれた。
とにかく、東京の飲食店は狭い。この窮屈さが僕は苦手だった。

相手の女子大生は、僕のイメージしているリケジョとはかけ離れた容姿で、どの子も、それなりに可愛くお洒落な感じだ。全員が東京近郊育ちという事だった。

「イカン、イカン、勘違いするな」と自分に言い聞かせる。

小梢や陽菜を基準にしてはいけない。彼女たちが異次元なだけであって、今集まっている女の子だって、僕には高嶺の花に値するくらい可愛いのだ。

それにしても、自分の感覚がマヒしかけている事に驚く。

オーダーした飲み物が届くと、乾杯の音頭を田沼がとる。
カチャン、カチャンとあちこちでグラスがぶつかる音がした。

僕以外は、全員が生ビールを注文していた。


「森岡君ってママが言ってた通り、真面目そうだね。お酒は飲まないの?」

話しかけてきたのは、以前コンパで一緒だった女性の娘、今村心結《いまむらみゆう》だ。

「ええ、僕はお酒に弱いし、最初から飲んでると潰れてしまいそうで……」

心結は、母親同様に社交的なイメージで四人の中では一番の美人だった。

「そうなんだ、過去に失敗した経験があるとか? 笑」

「じゃあさ、潰れたら私が介抱してあげるよ 笑」
横やりを入れてきたのは、石井佳澄《いしいかすみ》、クラスに一人はいる盛り上げ上手な元気な女の子といった感じだ。

直ぐに佳澄が会話の主導権を握って場を盛り上げていった。

「森岡君ってさ、年上の人とか恋愛対象になる?」

親子ほど年の離れた佳那と絶賛不倫中なのだから、多少年上でも平気だ。

「ええ、年上でも年下でも、重要なのはその人の人柄ですから」
と、模範的な回答をしてしまう。

「そうなんだ、長谷田に私の先輩がいるんだけど、どうかな?」

「何年生なんですか?」

「三年生、可愛いよ~」


これは、何かのフラグが立ったのだろうか……?




~・~・~




そして、合コンが始まって二時間が過ぎようとしていた。

4月の人妻との合コンから二か月、その間に菜美恵に女性の身体の事を教わり、小梢と出会って別れ、陽菜とも色々あったし、佳那とは濃厚な時間を過ごした。

そのおかげで、僕は女の子とも、なんとなく普通に会話できるようになっていた。
もっとも、途中から飲み始めたサワー系のお酒の助けもあってなのだが、テンションは上々だった。


良い気分のまま、僕はトイレで溜まっていたものを放出し、席へ戻ろうとすると合コン相手の一人、川本愛莉《かわもとあいり》とすれ違った。

彼女は、四人の中では一番おとなしく、これまで、あまり会話をしていない相手だった。

ショートカットのスレンダーの女の子で、どこか冷たい目をしている。これで度の強い眼鏡をかけると、巨乳でないところを除いたら僕のイメージするリケジョの出来上がりと言った感じだ。

そう、僕のイメージするリケジョは巨乳(数学のできる女の子は胸が大きい!)なのだ。

居酒屋の通路は、とにかく狭い。僕は彼女とすれ違う時、身体がぶつからないように端に寄ったのだが、足元がフラフラして、躓きそうになった。

その時、愛莉が手を差し伸べてきた。


「大丈夫?」

抑揚のない声で、冷たい目に妙にマッチしている。

「あ、ありがとうございます」

あらためて見ると、愛莉は顔全体は綺麗な作りになっている。クールな美人と言った印象だ。

「なに?」

「え?」

「じっと見てるから」

「あわわ、すみません、川本さんって綺麗だな、と思って、つい見とれてました。
(な、な、なにを、歯の浮いたようなお世辞を言ってるんだーー僕は!?)」

「クス、森岡君って、真面目な人かと思ったら、そんなお世辞を言えるんだ。
もしかして、意外に遊んでる?」

愛莉は、冷たい目を弧にするとクスクスと笑った。

(うわ……、笑うと可愛い)


「また、じっと見してる 笑」
「あ、ごめんなさい。川本さんって笑ってた方が可愛いですよ」

「あいがとう、お世辞でもウレシイ」と言って、またもニコリと愛莉は笑う。

(やっぱり、可愛い)
きっと、普段の冷たい目とのギャップが、彼女の笑顔を引き立てているのだと感じた。

「もう~、あまり見つめないで。 ハズカシイじゃない。
あ、そうだ。 森岡君って家庭教師のバイトしてるんだよね?」

「え、ええ」


「わたしを紹介してくれない?」

綾乃の所へは、一度行かなければと思っていたところだった。愛莉を連れて行って、そのついでに綾乃に釈明しようと、僕は考えた。

「良いですよ、ちょうどカテマッチの事務所に行く用事があったんです」
「そう、じゃあ、前期の試験が始まる前に行きたいから、来週のどこかで都合着くかな?」

「じゃあ、火曜日の放課後はどうです?」
「オッケー、じゃあ火曜日にね」

こうして、愛莉と約束を交わし、僕は席へと戻ったのだが、席に戻ると佳澄が待ち構えていた。

「森岡君、連絡先を教えて」
「あ、はい……」

佳澄には長谷田に通う先輩女子を紹介してもらう事になっていたので、僕たちは連絡先を交換した。

「さっき、先輩にメッセージを送ったのよ。 さっそく会いたいって」
「月曜日のお昼休みに、私が長谷田に行くから、そこでご対面ってことで良い?」
「ええ、でも石井さん、自分の講義は?」

理系は、文系と違って簡単には講義はサボれないので、僕は心配した。

「いくら理系でも、一年生だと結構融通が利くのよ。 先輩には凄くお世話になったの。
だから、彼女の役に立てるなら、お安い御用よ」

なんだか、佳澄が近所の世話焼きおばさんに見えてきたが、僕に新しい出会いの予感はした。




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