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第30話 日記

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小梢を送った後、部屋へ戻った僕は土門華子の日記をあらためて読みなおしてみた。




◆◆◆

********************
xxxx年xx月xx日

今日、森岡君が一緒に勉強しないか?
と誘ってくれた。

一緒にと言っても、森岡君が私に教えてくれるので、
森岡君には負担でしかないはずだ。

どうして?

どうして森岡君は私なんかに優しくしてくれるだろう?

私は今まで、ブスだし、太っているし、運動できないし、勉強もできない。

神様まで私にイジワルしていると思っていた。

だけど、森岡君に会わせてくれた。

私は単純だ。

神様ありがとうと思ってしまった。

********************

◆◆◆




僕に会えたことで神様に感謝するなんて……、少し優しくされただけで、僕の事を好きになるなんて……、土門華子のたった14年の人生は、何だったんだろう?

この日記を、暗記するまで読んだ小梢は、どんな気持ちで今日までの五年間を過ごしてきたのだろう?

小梢は、この重い荷物を背負って生きてきたんだ。
とても『土門さんの事なんて忘れて僕と付き合ってくれ』なんて言えない。


(土門さん……、これは小梢への復讐なの?
だとしたら、お願いします。

小梢を許してください)


無力だ、無力だ、無力だ……。
僕は、自分の無力さが悔しかった。

小梢の苦しみを何とかできないだろうか?
日記のページをめくった。



◆◆◆

********************
xxxx年xx月xx日

今日、私は最近では一番落ち込んでいる。

森岡君が、転校するのだ。
二年生になったら、森岡君はもういない。

森岡君は、私が勉強できるようになったから、
このまま続ければ学年一位も夢じゃないよ、と言ってくれた。

全部、森岡君のおかげだ。
なのに、私は彼に何もお返しできていない。

神様は、やっぱりイジワルだ。

私は単純だ。

神様が嫌いになった。

********************



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xxxx年xx月xx日

二年生になった。

森岡君はもういない。

相変わらず私は虐められているけど、全然気にしない。

私には、目標があるからだ。

森岡君は、東京の大学に行くと言っていた。
きっと、森岡君なら東大にだって行けるだろう。

だから、無謀だと思うけど、私も東大を目指すことにした。

きっと、大学で森岡君に会える気がする。

森岡君に再会した時、せめて恥ずかしくないようにしたい。

私は単純だ。

今日からダイエットを始めた。

********************



********************

xxxx年xx月xx日

一学期の期末試験二日目が終わった。

今までで一番手応えを感じる。
このままいけば、本当に東大も夢じゃない気がしてきた。

最終日、手を抜かないように、最後の追い込みをする。

ダイエットして、10キロも体重が減った。
大学で森岡君に会ったら、可愛くなったね、って言ってもらえるかな?

告白は、無理だよね。

始めは、友達から。

私は森岡君の事を『圭君』って呼びたいな。

圭君には、私の事『華子』って呼び捨てにして欲しい。


私は単純だ。

想像して、枕を抱きしめて身もだえした。

********************



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xxxx年xx月xx日

一学期の期末試験が終わった。

最悪な事が起きた。

圭君に会いたい。

でも、もう無理だ。

圭君が好きでした。

********************

◆◆◆




日記は、ここで終わっていた。


僕は、日記をテーブルの上に置いて、ベッドに横になって考えを巡らせる……。

小梢が土門華子に託されたのは、僕へ彼女の想いを伝えることだ。
だとすると、小梢は役割を果たしたことになる。

短い期間だったが、小梢の事がようやく分かってきた。
彼女は一本芯が通っていて、頑固な性格をしている。

おそらく、僕とになってくれと言ったのは、土門華子への遠慮だったのだろう。
そして、僕の告白を断ったのも土門華子の恋を奪う事を恐れての事だ。

だとしたら、やはり僕にできることは一つしかない。


  僕が小梢をあきらめれば良いだけだ。


小梢は僕と恋人になれないだけなのだから、違う人と恋をして、土門華子と関係ないところで普通に幸せに生きていけば良い。
もう、小梢は土門華子の願いを叶えてやったのだから、これ以上、彼女の死に責任を負う必要はない。


僕にできる事をする。それで、小梢は自分の人生を取り戻せる。
そもそも、小梢のような超絶美少女が、僕と恋人になるなんて出来過ぎた話だ。


「僕も振り出しに戻って、東京に出てきた目的を思い出すんだ」

小梢ほどでなくても、可愛い女の子と普通に恋をして、イチャイチャして、普通の若者の生活をして、大学の四年間を楽しく過ごす。


「うん、そうだ。きっぱりと小梢の事は忘れよう」

彼女は元々いなかった、ということにすれば良い。


どうと言う事はない。


どうと言う事はない。



でも……、

「小梢の匂いがする……」

ベッドの残り香に気持が揺らぎ、涙が出そうになるが自分に言い聞かせる。


「ウジウジと考えるのは……よそう」


強がっては見たものの……、

情けない僕は、涙を堪え切れなかった。




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