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第16話 竜宮城

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日曜日。

僕は新宿駅の小田急線の改札口にいた。ここで小梢と待ち合わせしているのだ。

時間通り小梢は現れたのだが、これがまた超絶可愛い装いだった。
フワリとしたミドル丈スカートのセット風ワンピースに腰のリボンがアクセントを利かせていて何ともお洒落な感じだ。

対して、僕はというと……普段通りのジーンズにトレーナーというダサい格好で、益々不釣り合い感を実感せずにはいられなかった。


「ごめんなさい、待った?」

「ううん、時間通りだよ。な、なんというか、凄い可愛い……」
思わず素直な感想が口から出る。

「え……、そんな、改まって言われると、なんだか恥ずかしい……な」

小梢は照れて見せたのだが、僕はその仕草に脳天を撃ち抜かれてしまう。


(よし! 今日、なんとしても正式な恋人になってもらうんだ)

決意は固まるばかりであった。



新宿から江の島まで、ロマンスカーを利用すると一時間ほどで行ける。

わざわざ特急料金を払ってまでロマンスカーに乗る理由は一つ、座席が2人掛けで他人に邪魔されることなく小梢の隣に座れるからだ。

「なんだか、遠足みたいだね」

窓際に座った小梢は、ワクワクした表情を見せ、窓の外を見たり、車内を見渡したり落ち着かない様子だった。

もちろん、僕も同様だ。

大学に入学して、ひと月も経たずに、まさか小梢のようなS級美少女とデートできるなんて想像すらできなかった。

僕は、心の中で感極まって涙を流した。


発車のベルがけたたましく鳴り響くと、ゆっくりと列車は動き始めた。
車内ではおやつを食べながら、いつものように談笑して過ごし、変わりゆく景色を楽しんだ。

本当に遠足のようだった。

そして、僕はまたも昔の記憶を追っていた。
そういえば……遠足で少し思いだした。中学一年の時の事を……。



「どうかしたの? 圭君」

「ん?」

「なにか急に黙り込んだから……」
「あ、いや、昨日、わくわくして良く眠れなかったものだから 笑」
「あ、実は、わたしもなの 笑」

二人して笑ったが、僕は昔の記憶の事が少し気になった。
それでも、列車はどんどん目的地に向かって進む、そして。


「なんだか、竜宮城みたいな駅だね~」
小梢は今出てきたばかりの駅を振り返って言った。

片瀬江ノ島駅は、まさに竜宮城と言った感じの駅だった。
片瀬江ノ島駅から江ノ島水族館までは歩いて10分くらいだ。僕たちは国道の方へ出て、海岸沿いを歩く。

微かだが潮の香りがして、海沿いで育った僕にとっては、ただただ懐かしかった。
故郷を出てまだひと月だと言うのに、田舎で過ごした事がずっと昔に感じられた。

「ん~、潮の香りが懐かしいね~」

そう言うと、小梢は大きく息を吸い込み、目を瞑った。


(あれ? そういえば、小梢の故郷って何処だっけ?)
これまでも何度か小梢の故郷について話題を振った事はあったが、何故か上手くかわされている感じはした。

「あのさ、小梢の故郷も海の近くなの?」


「あ! 水族館だよ、圭君。凄い~大きいね。それにお洒落な建物~」

小梢は、僕の問いかけには答えず、僕の手を引くと水族館の方へグイグイと引っ張っていく。
またしてもはぐらかされたが、どうやらテンションのスイッチが入ったみたいだ。

僕もワクワク感が増し、小梢の故郷の事など頭の片隅に追いやられてしまった。

なにせ僕は、こんな大きな水族館は初めてだからだ。水族館に行ったのも中学一年の時の遠足以来だ。それも、田舎の小さな水族館に。




「うわ~、大きな水槽。ねえ、圭君、エイが泳いでる~凄い! たくさんいる!」
小梢は、水槽に沿ってエイを追いかける。

水槽の中には多くの魚が泳いでおり、大きな体のエイはひと際目立っていた。
僕も、こんなにたくさんの魚が泳いでいる水槽を見るのは初めてだ。もちろん興奮している。

(なんか、良い雰囲気だ……。これなら、イケそうな気がする)

プラン通りに進むデートに、告白タイムは刻刻と迫っている。

僕は少し自信が湧いてきた……。



ランチは、水族館の中のレストランで済ませることにしていた。が……。
GWの前半だけあって凄い混雑ぶりだった。

「結構、待ちそうだね。ごめんね……」

「ううん、平気だよ。休日だし仕方ないよ」

僕たちは行列に並び、順番が来るのを待った。
すると、小梢が僕の左手に彼女の右手を絡めてきた。僕も握り返す。

あの日……、小梢が『(嘘の)恋人になってください』と言った日、あれから何度手を繋いだろうか? 

小梢の小さくて柔らかい手を握りしめながら、僕たちは指遊びをする。
僕は今、人生で一番幸せな時間を過ごしている、そう思えた……。


ようやく席に着くことができ、僕はプラン通り『サクラ海老と生しらすの丼』を注文した。小梢も同じものを頼む。

江の島は生しらすが有名であることはリサーチ済みだ。

この辺のデートテクニックも岸本から教わった。彼には何かとお世話になっているから、お土産でも買おうと思った。

「わたし、生しらす食べるの初めて」
「いや、実は僕も初めて 笑」

透明な体に目玉だけの稚魚がうじゃうじゃとご飯の上に乗っかっている。ちょっと不思議な光景だった。



ランチを済ませ、イルカのショーを見て僕たちは、まだ観ていなかったエリアの魚を観賞していた。
あまり人気のないエリアなのか、人も少なく、二人きりになれそうな雰囲気が出る。



その一角で、小梢の足が止まった……。




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