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ほこほこ日和
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しおりを挟む「うん。そうだよ~。だから、とってもとっても難しいの」
楽しいけど、と大和を見上げるとその背後にイロハモミジが色づき出しているのを見つけた。探すのに下ばかり見ていたので、その発見に季節を感じる。
夏は黄緑色に手のひら状に広げそれはそれは初夏を感じらる瑞々しさに微笑んでしまうが、秋はもう少し寒くなると綺麗に色づき、朱塗りの赤が奥行きを増すようで味わい深くなる。
またほっこりとしたカワジの視線を辿ると、大和もわずかに目尻を下げた。同じように秋を感じ取ったのだろう。そう思うとまたほこほこする。
──大和といると、ほこほこ、胸がじんわりする。
ちょっとしたことでほこほこ。再会が神様に守られた神域であるこの場所というのもあるのかもしれない。ここで悪い縁などないだろうと、カワジは信じている。
なら、大和との再会はきっといいものだ。コンも言っていたし。
「神様とかくれんぼとは、ほんと…」
まだ驚きを隠せないとばかりに、言葉はわずかに躊躇いがある。やっぱり、座敷童子の姐さまに堂々と言葉を放っていた大和でも、相手が神様となると厳かな気持ちになるようだ。
「驚いた?」
カワジはにへへっと笑って聞いた。
神様の存在が、向ける思いが、妖も人も変わらないことが嬉しい。思う、ということに変わりないことが嬉しい。
「ああ。さすがに神様だとは思わなかったが、場所を思うと納得だな」
「じゃ、大和も一緒に探す?」
「なんで、じゃ、になるんだよ」
「大和も探したいかと思って」
「さすがに神様の姿を見たことがないからわからない。カワジが探しているのをもう少しだけ見てるよ」
もう少し。そうすると帰ると言っているのだ。
ちょっぴり寂しいが、大和にも都合があるのだろう。それに言葉にして一緒にいると言ってくれるのはやっぱり嬉しい。
妖と人。本来なら交わることはない。だけど、こうしてカワジと大和は会話して一緒の時を過ごしている。そう思うと、やっぱりほこほこしてカワジはまたにへへっと笑った。
大和が呆れたような苦笑を漏らしたが、それさえも存在を感じられてカワジを喜ばす要素になる。
「春日大明神さっま~。どっこですか~?」
嬉しくて嬉しくて、弾む声で大明神様を呼ぶ。
呼んでもかくれんぼなので出てこられないだろうが、嬉しいの気持ちを声に出したかった。楽しい。ほこほこする。今日は暖かい日差しの下ということもあり、ほこほこ日和だ。
いい日だなぁっと、随分古い石燈籠の後ろを覗こうとしたとき、耳元でくすぐるように囁く声。
「呼んだか?」
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