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カワジ、卒倒する

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「家鳴、あまり苛めたらかわいそうだ」

「苛めているつもりはありません」

「そうかの?」

「そうです」

「ならいい。カワジ、家鳴はこういうものだと思ってあまり気にしない、というか気にしてないの」

「うん。家鳴は姐さまが好きなだけ。それは一緒だもん」

 気になるけど、気にしていない。態度は軟化してくれたらいいが、家鳴がどんな態度を取ろうとここに来ることは変わらないので、そういった意味では気にしていない。


「そうか」

 姐さまが機嫌良く笑い、足元の青モンペの家鳴を白い手でするすると撫でる。
 くるるるっと声が出ていても違和感がないくらい、気持ち良さそうに家鳴は目を細めた。
 赤、黄、橙、黒のモンペを履いた家鳴も次は俺だとばかりに、列を作る。


 ──姐さまは、やっぱりすごい!!


 シミひとつない白い手が順番に撫でていくのを見ながら、口を開けば噛み付く家鳴を手なずけている座敷童子の偉大さを感じ入る。

「そろそろ、行こうかの?」

 やっと座敷童子が一歩足を踏み出した。
 そうすると、家鳴はもう文句を言わず姐さまがすることに従う。とてとてとて、と部屋の隅へと引っ込んでしまった。
 それを目で追いながら、待ってましたとばかりにカワジは元気に頷いた。

「うん!! アシュラも人間観察一緒にするよね?」

 家鳴はしないらしいが、こちらはどうだろうとアシュラを見上げる。
 ここまでアシュラは付いてきてくれたが、人間観察それに興味があるのかどうかわからない。人に疲れたと言ってやってきたので、もしかしたらただ避難しに来ただけかもしれない。

 真ん中の美少年がちょっと考えるように目を細め、くるりと周囲を見回した。  
 外の冷たさを含む空気とは裏腹に、二階の窓からは暖かな日差しが入り込んでいる。

「二階は静かだ」

「静かだ」
「静かだ」

 案の定な反応にしょぼんとしかけたが、やっぱりアシュラと一緒にいたいと思ったカワジはおずおずと提案する。
 ゆっくりもして欲しいが一緒に共有もして欲しい。

「静かだけど、みんなといるのも楽しいよ。それにマンが面白そうなカップルいたっていうし」

 じぃぃっと見つめてみる。今日は妖率が低いし、できたらアシュラも一緒に降りてくれたら楽しくなる。
 ぐっと拳を握り込んで期待のこもったカワジの大きな瞳に、アシュラは苦笑を漏らす。そして、やはり無視はできなくて訊ねた。

「カワジは我がいると嬉しいか?」

「嬉しいか?」
「嬉しいか?」

「もちろん!!!! 一緒にいるだけでもいいから、アシュラも一緒に、ね? ね?」
 
 くいくいっとアシュラの天衣てんねを引っ張り、声同様にカワジの目がきらきらと期待に輝く。いつでもどこでも元気いっぱいのカワジに、アシュラは笑う。

「なら、行こう」

「行こう」
「行こう」

 すると、ぱっと頬をピンクに染めて喜ぶ。わーいわーいと座敷童子とマンを見てにっこにっこと笑った。

「やったぁ!! みんなでする方が楽しいものね」

「まあ、そうだな」

 マンが面白そうな顔でアシュラを見た後、カワジに同意する。座敷童子はほほほほっと優美に笑い、すっとアシュラを見上げた。

「アシュラもカワジには甘いの」

「座敷童子もそうだろ」

「だろ」
「だろ」

「仕方がない。カワジだからの」

 そんなやり取りが耳に入っているのかいないのか、やった、やったと小躍りしそうなほど喜ぶカワジに、「カワジだから」の座敷童子の言葉に納得する。
 カワジはカワジだから、一緒にいて楽しくて話を聞いてやりたくなるのだ。

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