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カワジ、卒倒する
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しおりを挟む「ここだここ」
「ん? どこ?」
聞き慣れたマンのくぐもった声がして、きょろきょろと部屋を見渡すが見当たらない。
「ここだよ。よっこいせぇ」
「あっ、マン」
カワジが声を上げると、よお、とばかりに濃紺の作務衣を羽織ったマンが短い手を挙げた。
「ふぅ、階段は疲れるな。すまない。参拝客の相手をしていたら、ちょっと遅くなった」
頭のてっぺんだけ髪が生えた頭と手で相手を確認すると、のそっと元気な声とともにぶにもちっとした体が階段から姿を現わす。
カワジより先に来ていることが多いが、今日は気が乗って参拝客の相手をしていたようだ。
マンが住む漢國神社内にある林神社は、まんじゅうの社だけあってか、マンのふっくらした体からはいつも甘い匂いがして、ぽってりとした頬は美味しそうにたぷっとしている。
饅頭製造業社の関係者が来ると、気に入ればちょこちょこっと相手をしているらしい。マンが気に入れば、その饅頭は売れる。そういう人たちから見れば、マンは立派な神様だ。
「マンはえらいなー」
「そうか? 社に住まわせてもらってるからな。饅頭に関わることにはたまには動かないとな」
「やっぱり、お社ってすごいんだね」
「思い、だからな。それが向けられると、こっちも引きづられるものなのだろう。よくわからんがな。今日の者はいい匂いがしたから、きっと美味しい饅頭を作るぞ」
「それは楽しみだね」
「だな。完成したらお供えとして持ってくるかもしれんから、その時はカワジにも取っておこう」
「うわぁ。ほっぺた今から落ちるぅ」
「カワジは色気より食い気。そんなので流行りというものはわかるのかの?」
そこで、ころころと姐さまに笑われる。その手は、ほれっとまたこんふぇいとを差し出しており、それについついまた手を伸ばしてしまうカワジ。
ひょん、っとこんふぇいとを口に入れながら、カワジはむむっと眉を下げた。
確かに食べることは好きだが、ここには流行りを学びに来ているのだ。それを知っているはずなのにそう言われる。
──いつまでもお子さまなのはいやだもの。
こんふぇいとはしっかり味わうだけ味わって、カワジはぷくぅっと頬を膨らませた。
そんなに食い気に走っているつもりはないのだが、周囲の認識はよく食べるだ。
──むう、確かにあまり食べない妖もいるけど、食べる妖もいっぱいいるのに。
美味しそうと思ったらすぐ手が出ているのに、自覚がないのは本人だけ。
自覚はないけど、言われると気になってしまう。気になるとその言われようは面白くない。カワジは流行りを知り、乙女というものを学びに来ているつもりなのだ。ちょっぴり背伸びしたいお年頃というやつだ。
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