【本編完結】自由気ままな伯爵令嬢は、腹黒王子にやたらと攻められています

橋本彩里(Ayari)

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【エピローグ】 祝福①

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 リーン、ゴーン、リーン、ゴーン

 清々しい晴空の下、やわらいだ日差しが降り注ぎ祝福の鐘が響き渡る。
 学園を卒業して半年、先ほど無事婚姻式も終え、国民への顔見せとなり私たちが外に顔を出した途端、すごい熱気に包まれた。

 わぁぁーっと鳴り止まぬ歓声の祝福ムードのなか、アンドリューの横に並びながらときおり手を振る。
 半ばとなっている王妃教育は婚姻してからでもできる、むしろ早く囲うべきだと貴族たちが急かすので、あれよあれよとこの日を迎えることとなった。

「こんなに効果があったとはな」

 私とアンドリューの婚約に一番反対していた南部の高位貴族の一人が、己の娘が嫁いだかのように感極まり涙を流しているのを見て、アンドリューも苦笑するほどだった。
 王子曰く、あの審問会で私の能力の高さを認めさせ黙らせることをひとつの目的としていたようで、本当に奇跡を起こした私は、黙らせるどころか未来の国母としての期待が爆上がりとなったようだ。
 両親の周囲に南部の高位貴族が感極まったように集まり握手を求める姿に、うわぁっと若干引きながら私はくすりと笑う。

「過剰な反応の方がいるのは否めませんが、認めてもらえるのはやはり嬉しいです」
「あれほどのことを見せられて反対する者なんていないだろう。よほど根っこが腐っているとしか思えないし、心の中で納得していなくとも、あの錚々そうそうたる者たちの多くが目の当たりして納得している現状では何も言えまい」
「まあ、そうですね」

 神木の跡地とされる場所に新芽を植え替え光に包まれたあと、小さかった芽は目の前でぐんぐん伸びていき葉をつけた。
 伸び伸びと成長してくれることを願ったが、まさか瞬く間に木になるなんて思っておらず、その成長速度には驚いた。

 文献よりは小さめらしいのだが、葉は大人の手の平サイズくらいでずいぶん立派である。
 アンドリューや学園長の見解では、今まで課題として与えられてから日常的に神木に私が魔法をかけていたので、力を溜め込んでいたのではないだろうかということだった。

 一つひとつの葉にまで魔力を感じるので、魔力を大なり小なり持っている者ばかりのこの世界で、神木の素晴らしさを分からぬ者はいないくらい威風堂々とそこにあった。
 光が収束し目を開けられるようになりようやく現状を理解した直後、今度は神獣であるシュクリュが一回り大きくなって神々しさも増して姿を現したからまた現場は騒然となった。

 そのため、あっという間に神獣の存在が認知され、神木が生った奇跡とともに誰もが感動した。
 明らかに今までと段違いの神気を帯びたシュクリュは、『わふっ』と吠えると私のもとに真っ先に駆けつけ尻尾をふりふり顔をベロベロと舐めるといった甘えを見せた。

 神獣を懐かせ、神木に力を与えたその光景を見ていた一人が、『女神』とつぶやいたことから女神コールの嵐。
 それらの奇跡の瞬間はあっという間に広がり、その場にいた者は当然、いなかった者も国全土に光を降らせた存在に敬意を表した。
 今では、南部の貴族も北部への協力も惜しまず、国一丸となって国土を守ろうといい流れができている。

 一目でも見ようと広場には国民が集まり、そこだけに収まらず屋根の上におめでとうの垂れ幕や、祝いとあって出店も並びお祭り騒ぎとなっていた。
 一週間前から昼夜お祝いムードで、当然ベジロード店も出店しており、うはうはが止まらないくらい大変なことになっているらしい。

 この日に合わせて新たな商品も並べたので当然の結果であるが、今日だけは店を閉めてどこかで見てくれている。
 出店すればどこよりも儲けが出るだろうに、売り上げよりも私の晴れ姿を見たいと従業員総出の申し出に嬉しく思う。

「ティア、綺麗だよ。空の下だとさらに可愛くて、攫われないか心配になるくらいだ」
「ありがとうございます。みんなが一生懸命考えてくれたので嬉しいです。それに私を攫うのは殿下がそばにいるので無理でしょう?」

 アンドリューは強い。それに、彼の側近や配下も底が知れない。
 そんな彼らに守られている私が、簡単に悪意ある者に連れ去られるとは思えない。

「そうだな。人にというよりは、大地そのものに盗られやしないかと心配になる」
「ふふっ。そんなことにはなりませんよ。それこそシュクリュがいますから」
「確かに最大の守り手だな。ただ、それだけ今のティアに見惚れてしまうと言いたかったんだ」
「……アンディも素敵です」

 真顔で褒められ、かぁっと頬が熱くなった。

 普段、意地悪さや俺様満載なのに、不意にさらっと褒めてくる。まったく慣れる気がしない。
 しかも、本日はいつにも増してアンドリューがかっこいい。惚れた欲目もあるだろうけれど、ふとした瞬間に気持ちが何度もとらわれてずっと緊張とは別にどきどきしていた。

「照れているティアも可愛いよ」

 そっと頬にキスを送られ、はにかみながら受け止めた。
 王太子と王太子妃の仲睦まじい姿に、また歓喜の声が上がる。

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