【本編完結】自由気ままな伯爵令嬢は、腹黒王子にやたらと攻められています

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
153 / 166
願い

種の正体①

しおりを挟む
 
 経緯は理解した。あとは、この場を使ってまで明かしたい種の正体である。
 芽吹かせることができないと言っていたが、実際に成長は止まっているが芽吹くことはできている。これをどう考えればいいのか。

「マッドリー、自分が裁かれたときよりもずっと顔色が悪いが説明してもらえるかの?」

 学園長の言葉に、元侯爵はわなわなと行き場のない感情を抑えつけるように震えていたが、がくりとこうべを垂れた。
 その姿を王は静かに見下ろしていた。柔弱に見えない意志の強い瞳に、座っているだけで余裕のある大らかさと厳かさを感じさせる。
 アンドリューも表情を変えず見据え、その瞳には揺らぎなく静かで、ただ事実だけを精査しようとする姿勢に血筋を感じさせた。

 二人の王族、貴族、そして学園長といった大物たちに囲まれ、後ろ暗いことが満載らしい元侯爵はこの数十分で一気に老けたかのようだ。
 この世の終わりかのように青ざめながら、とつとつと語る。

「娘が本当に家から持ち出したものなら先祖から受け継いだもので、それを芽吹かせることができれば巨万の富を得られると聞いていたものです。今まで様々な魔法を試みてきましたが、まったく反応もなくぴくりともしませんでした。なので、芽吹かせた者はその世代で繁栄をもたらすとし家宝として扱われていました。そのため、種を継ぐことが侯爵家を継ぐこととされてきました」
「それだけか?」
「…………………………王家の秘宝に手を出したと伝え聞いてます」

 そこまで折り曲がる? というくらいこれ以上ないくらい項垂れて放たれた言葉に、周囲が一気にざわめき出す。

「なんとっ!」
「まさかっ」
「それは大罪です」
「秘宝だと!」
「もしそれが本当に秘宝だとしたら王家はなぜ黙っているのか?」

 確かに。最後の言葉に私はちらりとアンドリューのほうを見た。
 視線が合うと、わずかに眉を跳ね上げ微笑まれる。

 ──それは……、どのような意味?

 なんとも微妙な反応に私は首を傾げると、アンドリューはつっと目を眇めた。
 王様の反応は怖くて見ることはできないが、王家の秘宝が盗まれたと言われても慌てる様子はない。王子のことだから、あらゆる情報を集めこの種の検討がついているのかもしれない。

 一斉に騒がしくなるなか、王がトンと肘掛を指先で軽く叩いた。
 それとともに放たれる精錬なる空気。魔法を発動したわけでもないのに魔力の量や質によるものか、この場の空気が一瞬にして引き締まった。

 冷厳なる青の瞳で見据えられ、皆わずかに視線を下げ口を噤んだ。
 そこで王がアンドリューへと視線を向けると、頷いたアンドリューが声を張り上げた。

「それが本当のことであるならば、王族としてその種の正体を確かめなければならないが、こちらもあくまで予想であるが検討はついている」

 やっぱりそうなんだ? いつも思うが、その頭の中はどうなっているのだろうか?
 アンドリューはそこで数拍置き周囲を見回し、私のほうを見ると話し出した。

「博識の者は知っているだろうが、文献ではこの王都に神木があったとされている。白い木に光を帯びた葉、数年に一度花が咲きそのうちのひとつが大きな実をつけるとされていたそうだ。花や実は決して触れてはならないとされていた。実が落ちその種は月下花白のように白く数時間のうちになくなっているので、学者の中ではそれが神木の栄養となって消えたのではないかと言われていたようだ。だが、あるとき忽然と神木は姿を消した。枯れたのではなくて、忽然とな」

 なかなかの大事件である。
 思わず、手元の植木鉢を見る。ちょこんと見える白い芽だけではそんなに大層な植物だとは思えない。

「神木はシンボルで皆に慕われ誰もが近くに行けたものと聞いておるの。国をあげて大事にしていたものだから王家の秘宝と考え、それさえ手に入れ管理できたら成り代われるとか勘違いしたのではないかの。これが本当ならずいぶんと大バカ者がいたものじゃの。ふぉっ、ふぉっ」

 学園長が補足するように考えを述べたが、大バカとかいいながら笑う。
 元侯爵を通して仕出かした彼の先祖を見透かしているのか、かっと両目を見開いたその姿はこちらまでひやりとした心地になる。

「ええ。バカを極めていますね。マッドリー侯爵家がその神木の種を盗んだことから神木が消えたと推測することはできる。当時、災いがもたらされるなど相当騒がれたらしいが、王都では何も起こらなかった。ただ、文献を読むと北部の土地は徐々に荒れていったことから、神木の力がすべて消えたのではなく、王都から遠い北部の地から影響が出たと考えることもできる。もしその種がその神木の種であるのなら王家の秘宝よりも変えがたいこの国の神聖なるもの。神の意志が宿ったものを大事にしていくことはできてもすべてを理解することは不可能。なので、今の今まで神木が消えた理由はわからず、不可侵とされるものを盗んだ者がいたこともわからなかったのだろう」

 対する、アンドリューもにっこりと笑みを浮かべ、冷めた眼差しで元侯爵を見た。

 この段階でさすがにカルラも自身の仕出かした事の大きさに腰が抜けたのかふらりと背後に倒れそうになり、背後にいた騎士に支えられた。
 ただの嫌がらせのつもりが、先祖の罪をさらけ出すことになってしまった。先ほどの決定では、元侯爵の弟に家督交代となったがさすがにこれは侯爵家のお家存続は無理であろう。

 ほかの被告人が退席させられても彼らがこの場に残されたのは、己の仕出かした事と先祖の罪を受け止めさせるため、罪を周知とするためなのだろう。
 このように筋道や出来事を合わせて説明されると、小娘の私でもそれはほぼほぼ真実に近いのではないかと思えた。

 南北の土壌の違いと貧富の差だとか、神木の消滅理由がわからなかったから種が盗まれたなんて誰も気づかなかったこととか、侯爵家では王家の秘宝として語り継がれてきたこととか、理屈としてはしっかり通っておりそれが正解のような気がする。

 それらをはっきりさせるには、芽吹かないとされていた芽が芽吹いた今、順調に育つことが一番なのだろうけれどと思ったところで、私は事の重大さにうわぁーっと頭を抱えたくなった。

しおりを挟む
感想 453

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

愛されない王妃は、お飾りでいたい

夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。  クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。  そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。 「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」  クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!? 「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。