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願い
種のすり替え①
しおりを挟む眼差しが不安で沈んでいく私に、さすがに悪いと思ったのかアンドリューが学園長へと話しかける。
「ティアが不安がっている。そろそろ話を進めてもらおうか」
「わかっております」
ふぉ、ふぉっと笑いながら髭を撫で、学園長は元侯爵親娘の反応を見て目を眇め、私の視線に気づくともう一度ふぉっふぉっと笑った。
どうやらここからは学園長が主体となって話が進んでいくようだ。
ぴょんぴょん、ていていーっと隊長が両手を上げて抱っこおねだりポーズをしたので、私は抱え込みきゅっと抱きしめた。隊長は嬉しそうに青々とした葉っぱを揺らす。
どこにいても変わらぬ隊長の様子に、私はほっと息をついた。
視線の端でアンドリューを捉えると柔らかに眼差しを細めたので、もしかしたら私の精神安定のために隊長をこの場にいることを許したのではないだろうか。
アンドリュー自身の立場もあるが無理を通して自分の横にいないのも、助言など控えているのにも意味があるのだろうし、ここは踏ん張りどころである。
「よくわからないけれど、やれることがあるならやるわ」
王太子であるアンドリューの力になれることがあるのなら、それが今と言うのなら、王子が信じてくれるのなら全力を出さないわけにはいかない。
守ってもらってばかりで場を整えられての出陣だけれど、任されたことはやり遂げたい。
植木鉢を眺め、ぽそりとそう呟いた私に迷いはなかった。
しっかり前を向いた私を見た学園長が頷き、うぉっほんと咳払いをすると話し始めた。
「彼女が持っている植木鉢じゃが、学園の課題で与えたものだ。だが、こちらが用意していたものと事前にすり替えられておってな。その辺りは学園の者として彼女に謝罪は後ほどするとして、種がすり替えられた経緯をここで明らかにしたい」
「たかだが学園の授業のものがすり替わったくらいで、このような貴重な場、なにより陛下の時間を潰すつおつもりか?」
学園長が言い終えるとすぐに、それこそ優遇しすぎだろう、学生同士の騙し合いに巻き込もうとはバカにしているのかと近くの席に座っていた初老の男が声を上げた。
最もな意見に、周囲の者も頷きざわめきの波紋が広がっていく。
学園長はふむふむと耳を傾けていたが、静かにとゆっくりと右手を上げ周囲を黙らせた。
右手を上げるだけで名のある貴族たちが口を噤んだのを見て、ここにきて学園長最強説が出てきたが今はそこを検証している場合ではない。
私は自身が置かれた状況を把握するため、熱心に学園長の話に耳を傾ける。
「ただの学生同士のやり取りなら、学園内で処理をしていたわい。事が発覚してから、どういう経路で種が入れ替えられたかはこちらで調べはついている。問題はその中身なのじゃよ。陛下には事前に承諾を得ておるから問題はないじゃろう。当事者たちもおり、王族、そしてここにいる皆としても無関係ではないことじゃからこれほどふさわしい場はないだろう」
「ふさわしい場とはどういう意味です?」
「だから、中身じゃと言うておる。まあ、順を追って説明すると、学園で用意していたのは月下花白じゃ。知っている者もいるかと思うが、その花は月夜の下で特殊な魔力を帯びると花をつけ、一度花をつけると一か月美しい状態で咲き誇る非常に稀な花であった。ただし条件が厳しくて土魔法使いだからといってそう簡単に咲かせられる代物ではない。だが、彼女の実績を鑑みてそれに決定したのだ。儂も彼女なら可能であろうとな」
学園長の言葉に、ほとんどの者が私とその手元にある植木鉢に視線をやった。
信じられないとばかりの視線に、月下花白はかなり難易度の高い植物だったのだと知る。一応、図書館で調べて目星はつけていたがすり替わっている今、私はどうも反応しづらい。
学園長は知らないところで私を評価してくれていたようだ。当然、中身を知っていたジョンソン先生は学園長の判断も踏まえて思うところがあったのだろう。
「さて、誰がどのようにしてなのだが調査は済んでおり、あとはこの場での証言だけじゃ」
そう言うと、学園長はカルラへと視線を投じた。
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