【本編完結】自由気ままな伯爵令嬢は、腹黒王子にやたらと攻められています

橋本彩里(Ayari)

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審問会②

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 慈善事業の裏側で、汚職を始めとした無償労働や誘拐、脅し、ひどいものにはヤク漬けによる借金地獄。
 裏の組織とも繋がりがあったようで、薬物の入手や犯罪の見逃し、手助け、増長などなど。

 マッドリー侯爵がすべて手引きしていたわけではないようだけど、直接手出ししていなかったにしても侯爵の圧力によって手に染めていった者がいるのは事実。
 その環境を許していた彼らの罪は重い。望んでいなかったとしても、そこからお金が流れていたのは間違いない。

 ここに集まる皆が皆潔白ではなく後ろ暗いものを抱えている者もいるようだが、さすがに並べられたそれらは一線を越えており、誰もが悪行が露見した彼らの行く末が想像できた。
 話の運びはもう見事としか言いようがなく、とことん相手の心を折るようなやり方で、この策を考えただろう頭脳と呼ばれるオズワルドもだが証人を集めた側近たち、それをまとめる王子と、やはり敵に回してはいけない人たちだということを理解した。

 王子たちはこの件を見事に捌きながら、古参の者たちに自分たちの力を見せつけているようだ。
 労力に見合った成果を、この場合はこれから先の仕事のしやすさを求めてというところだろうか。

「以上、最後に反論があるならこの場でどうぞ」

 誰もが隙のない審問会に最終的に裁量を決める王の判決を待つばかりだと思っているなか、頭の働かない反省もない被告人の男が私を憎悪の目で睨みつけて声を上げた。
 小者なのだろう。だから、大きな事件に関わっていなかった(関わらせてもらえなかった)のかもしれないが、ここで話せば話すほど己の首を絞めるシステムも理解できていないらしい。

 もっとも策略だとかから縁遠い私の場合は、前世の記憶とアンドリューの素を知っているから想像つくだけかもしれないが。

「あ、あります! 私は今上げられたものに関わっていないし、むしろ被害者と言ってもいい。最終的にベジロード店、つまりそこにいるロードウェスター伯爵の娘の息がかかった商会の者に利益を横取りされて大損した。そこに権力者である王太子の息がかかっていないと言えますか?」

 北部の田舎者にしてやられたことを認めたくないのだろう。
 リヤーフもきっちりやり返したと言っていたから、リヤーフのほくほく顔は相当利益を生んだと見ているので、盛大に毟り取られた一人なのだろう。

 他人事のように眺めていると、視界の端でアンドリューとオズワルドが口の端を上げたのが見えた。
 ああ、これも彼らのシナリオのひとつらしい。

「あいにく、彼女は頼ってくれないから私は関与したくてもできていない。求めていた商品があり購入することもあるが、ひとつの店舗だけ特別扱いなどしていない」
「ええ、殿下は公平であることを心がけておりましたので、自分が手を出すことでやりたいことの妨げになる可能性もあるとして婚約者であるフロンティア嬢のことは心を痛めつつも静観されておられましたよ。大損とのことでしたが、商売はどれだけ顧客を取り込み信用を得られるか大事なのでしょう? その信用をなくすようなことをしたほうが競争に負けただけ。逆恨みもいいところですよ。聞けば、商会や店に妨害工作をしていたとか。卑怯な手を使って陥れようとしていたが、正当にやり返された結果だと把握していますが?」

 アンドリューの答えに、追随するようにオズワルドが面白そうに頷いたが、その目は一ミリも笑っていなかった。
 人形のように血が通っていないのかと感じるほど整った美貌の冷めた視線とともに追求され、親子ほど、それ以上年齢が違うであろう男がたじろいだ。

「しょ、証拠はないだろう?」
「ありますよ。さあ、こちらへ」

 そう言って騎士に連れてこられた丸眼鏡をかけた男は腰を低くしへこへこと頭を下げながら証人台に立つと、その場で一礼をして語り出した。

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