【本編完結】自由気ままな伯爵令嬢は、腹黒王子にやたらと攻められています

橋本彩里(Ayari)

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願い

閑話 隊長王都へ sideアンドリュー④

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「どういった意味なのでしょうか?」
「伯爵領の隊長の辞任式? 新たな隊長の座になる野菜の就任式みたいなもんだろう」
「へぇぇー」

 ラシェルは気の抜けた声を出して、ハイタッチをしだしたカブたちと足を前に出してポーズを決める大根たちを見た。

「なんで殿下に見せるんですかね?」
「それだな。何か理由があるんだろう」

 ラシェルが指摘するように、この交代劇はフロンティアが帰ってきてから行われても良かったはずだ。
 だけど、シュクリュの能力らしきものを使いアンドリューを呼び寄せた。

 野菜たちに身振り手振りで何かを語っていた隊長に尋ねると、白いボディをくるりとアンドリューのほうへと向ける。
 ていていと短い手を動かしているが、正直ちょこまか動いているだけで意味はわからない。首を傾げると、馬車の前まで走り自分も連れて行けとばかりに自分と馬車を交互に指す。

「王都に行きたいと?」

 確認すると隊長はこくこくと頷き、副隊長や美脚大根たちが拝むように手を上下に動かす。
 隊長が大事な役割をほかに任せる理由はフロンティア関係でしかないだろうと思っていたが、彼女のもと、つまり王都へと行くつもりのようだ。

「ぶっ」
「…………っ」

 大根たちはいいが、カブたちは両手が届いてないので目的理由のない変な動きのおもちゃのようだ。集団はインパクトがありすぎて視界に入ると笑いそうになる。
 ラシェルは吹き出したがなんとか声を殺して後ろを向き笑っているが、アンドリューはここで笑ったら真剣な隊長の機嫌が悪くなると野菜たちから視線を逸らした。

 再度、隊長に視線を戻すと、懸命に馬車に乗りたいと指している。
 指しながら今度は段差を登る動作をしている。ぴょこぴょこと本人が思うように足も上がらずで、足にだけ変に重力がかかっている呪いかなんかかと疑うレベルだ。

 隊長に足の動きをつけられると、どうも笑ってしまいそうになる。
 アンドリューは必死さと動きのアンバランスさに、口元をわずかに緩めた。

「……ふっ。言いたいことはわかった。少し落ちついてくれ」

 とりあえず彼らの動作が視界に入ると気が散るので手を上げて静止させ、思案する。
 王都でも問題なく動く野菜が育っているので、神獣であるシュクリュのよだれとフロンティアの願いという魔法があれば大丈夫なことはわかっているが、あくまで王都の野菜は王都で、ここの野菜はここで育っている。
 そこからある一定の場所を離れたら、魔力がなくなることは聞いている。

 自分の変わりとなるここを取り仕切る野菜たちの実力を見せたいのだろうなと最後まで見ていたが、代替わりはいいが隊長が本気でここを離れるとなれば心配だ。
 大丈夫なのかとシュクリュに視線をやると、離れた位置ではあるが頷き顎をくいっと馬車に向ける。

「隊長が動かなくなるなんてことになったらティアが悲しむが、大丈夫だということだな?」
『わふ』

 さすがにこの件はなあなあにはできないと、フロンティアの名前を出し尋ねると今度こそシュクリュは返事した。

「わかった。連れて行こう。今後、ここは二体が守っていくのだな。あとは」

 シュクリュはいつまで伯爵領にこもっているのかと言いかけて、アンドリューは先を言うのをやめた。急いでも仕方がない。
 フロンティアが自分に嫁ぐのならば、フロンティアに懐いているシュクリュはいつかは王都に戻ってくる可能性もあるのではないかと考えているのだが、今のところその様子はなさそうだ。

 隊長が王都に来るのは意外であったが、フロンティアも喜ぶし、なにより隊長は頼りになる。それに、フロンティアの心の平和のためにも非常に役に立ってくれるだろう。
 隊長はシュクリュに一礼すると、シュクリュはふぅっとばかりに尻尾を一振りした。フロンティアにデレていないシュクリュは孤高の神獣である。

 話がつくとそそくさと隊長は馬車に乗り、窓からぶんぶんと手を振った。
 周囲の野菜たちは、隊長の門出に花びらを撒いている。
 野菜たちの一大イベントに、この出来事を見れなかったことをフロンティアはずいぶん悔しがるのだろうなと、アンドリューは口の端を上げた。


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