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願い

お仕置き②

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「はぁーっ。ティアは魔道具とはどういうものか知っているか?」
「魔力を通して使用する便利な道具です」

 急になんでそんなことを言い出したのかわからないながら答えると、よしよしと頭を撫でられる。問題に正解したご褒美とばかりの撫で方は子ども扱いのようだ。
 これはこれで尻の座りが悪い。まだアンドリューの言いたいこともわからないし、エロくないし意地悪でもないからって単純に喜んでばかりはいられない。

「わかってはいるんだな。その中には非常に便利なアイテムも多くある。ティアもいくつか持っているはずだ」
「はい。いただいた通信魔道具もそうですよね。それらはとても貴重なものですけど、その分とても便利です」

 高額な魔道具であり、通話できるほうはある一定の魔力量がないと使えない。

「ああ、そうだな。大抵の物はティアなら魔力量も問題なく使用するのに不都合はないだろう」
「そうですね」

 アンドリューや私は問題なく利用でき、非常にありがたいものだ。
 何かあったときに連絡がすぐ取れるのと取れないのとでは、心の持ちようはずいぶん変わってくる。それがどうしたというのだろうか?
 話が見えなくて困惑げにアンドリューを見ると、また不服そうな顔をした王子に今度は鼻をかぷっと噛まれた。

「だったらなぜそれを使わない?」
「使ったことはありますが」

 それこそ伯爵領にいたときから。あのときはオズワルドがいたからだが使用したことはある。
 しかも、通信相手はアンドリューなので、それを知っているはずなのにいったい何が言いたいのだろうか。

 まだアンドリューの言わんとすることが読めなくて首を傾げると、王子も真似をするように首を傾げた。

「ならなぜこの一か月、ティアから連絡がこなかったのだろうな?」
「連絡、しても良かったのですか?」
「こちらからは連絡はあまりできないとは言ったが、ティアはする時間があったのではないかと思うのだが」
「そうですが、忙しいと知っていてお手を煩わせるのも」

 連絡をしようとまったく考えなかったわけではない。ただ、タイミングを掴めなかった。
 だけど、この言い方だと私からの連絡を待っていたということだろうか?

「その気持ちはありがたくはあるが、恋人としてはどうかな。一か月も会えていない状態で、少しも会いたい、話したいとは思わなかった?」
「思いました」
「忙しければ連絡を折り返すくらいの余裕はあったし、忙しいときに連絡して俺が怒るとでも?」

 問われる声に、ぶんぶんと首を横に振る。
 ようやく本題の核心らしきものに触れて、下手な言い訳は煽るだけになりそうだと、アンドリューの次の言葉を待つ。
 アンドリューは私の頬を挟むと、顔を近づけて額をくっつけそのまま続けた。

「そういうところもティアらしいとは思うが、学園での噂や店でのこと、課題のことを間接的に聞かされるだけで、まったく頼りにしてもらえなくて寂しかった。もちろん、ティアが自分でなんとかしようとするのはいいことだと思うし、すぐに人を頼らない姿勢は誇りに思うが話くらいは聞かせてくれてもいいだろう? 俺は頼りない?」

 思ってもみない言葉に、私は再度ぶんぶんと多めに首を振る。

「逆です。頼りになるから、あまりにも大事な仕事をたくさん抱えておられるから。殿下の抱えているものに比べると、私の問題はそんな大したことじゃないのに甘すぎるのはあまりよくないと」
「それでも愚痴だとか、少しくらい話を聞かせてほしかった。女性との噂だって、どうなってるって聞かれたらすぐに答えた」
「すみません」

 言われると、それもそうかと思う。
 アンドリューのことを慮っているつもりでいたけれど、二人の関係性や恋人としての気持ちの考慮が足りてなかったと言われればその通りだ。

「噂、少しはショック受けた?」
「……ショックというかもやっとはしました」
「そうか。まあ、そんな顔をされたら許さないわけにはいかないよね」

 もろもろを思い出しわずかに眉根を寄せた私に、アンドリューは掴んでいた頬を親指でするりと何度か撫でてくる。
 指を動かしたままアンドリューはにこっとこれ見よがしに笑みを浮かべ、居心地が悪くなるほどじっと見つめてきた。

 見つめ返すと、なぜかじとっとした目で睨まれる。
 許したと言いながらもまだ納得いっていないとばかりのそれに私が戸惑いで瞳を揺らすと、むにゅっと両頬を摘まむように寄せられた。

「あにょ」
「くっ。ティアは本当に思い通りにいかないな。やっぱりお仕置きだな」

 あの、がうまく発音できない。タコみたいになった口を晒した私を見て、アンドリューは笑いを漏らし楽しそうに目元を緩めた。

 機嫌と言葉が合っていませんが?
 学園で、隊長たち言いたいことがあるようだと言って意味深な笑みを浮かべていたのは、この話のためらしい。

 うーん。なんかさ、嫌な予感がする。

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