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課題とお野菜ズ
幻覚?②
しおりを挟む思われている想い。どれだけのことを自分にしてくれていたのかを改めて知り、好きだ、と唐突に湧き上がる思い。
振り回されても、強引でも、最後は気持ちごと持っていってくれると思えるからついていける。
「すき」
溢れるあらゆる感情とともにふわふわとする気持ちが抑えきれなくて、口の中で小さく小さくその言葉を乗せる。
そうすると、ほわっとまた気持ちが温かくなった。
強引だけど、かなり俺様ではあるけれど、私のことを想ってくれている。それを常に伝えてくれている。
ここ最近はエロさ増し増しだけれど、求められることも含めて私はアンドリューのことが好きなのだと改めて思う。
最後までしないのはすべての憂いが払えてないからと言っていたことも含め、私が少しでも居心地がいいような環境にしようとアンドリューは先回りして動いている。
そこまでされると逃げられないなって思うけれど逃げたいとは思わないし、それさえも計算のような気もするけれど、それに捕らわれてもいいと思えるのは好きな証拠だ。
なんだかんだと出会ってから距離を見極めながら攻めてこられていたので、両思いになってから、しばらく会えないことはあっても連絡さえあまりなくこんなに放置されたのは初めてだった。
だから、信じたいけれどちょっとだけ揺らいで落ち込んでしまったりした。
だけど、あの腹黒王子が噂を放置して、いや、むしろ噂になるような行動をしたことの意味を考えるほうが先だったかもしれない。
――これだけ想われて、大事にされて、なんで不安になったのだろう。
課題で失態を犯してありがたみがわかるとかダメダメだけれど、植木鉢を失ってしまったからこそ、アンドリューのことへと思考が繋がった。
「そうよ! なんで今まで思い至らなかったのだろう」
それに、ただ流されていた頃とは違うのだ。
私も一緒にいる未来を描いているのだから、二人のことの負担をアンドリューだけが背負っている事実に気づきいたたまれなくなった。
自分にはエロ甘いといっても、表向きは爽やかだが腹黒。絶対理由があるはずだ。
改めて考えると私からアンドリューのためになることはしていない。
北部の協力は自分の思いのためでもあるので、純粋に王子のためと思って動いたことなんてあっただろうか。
そのことに気づくと、無性に恋しくなった。
今すごくアンドリューに会いたい。噂だとか、どうでもいい。とにかく、王子を抱きしめて体温を感じたかった。
今まで気づかず伝えきれていない思いだとか、守ってくれて、待ってくれてありがとうって伝えたい。それから、噂のことも知れるものなら王子が何を考えているのか知りたい。
反省するとともに、アンドリューへの恋心を一段階アップさせた私は課題を絶対成功させると誓う。
「うん。甘かったわ。もっと全力で行かないと」
王都に来てから、秘匿とすべきこともあって土魔法のことなど加減をしすぎていた。だけど、方法やメカニズムは言わなければ誰もわからないし、王都での野菜は解禁になった。
だったらいつまでも言われっぱなしではなくて、盛大に使って周囲を認めさせたらいいのだ。
何かあったときは、きっとアンドリューやオズワルド、そしてリヤーフが動いてくれる。
適材適所で必要なときは頼り、私は私ですべきこと、できることをしていくべきだ。
ジョンソン先生にアンドリューのことに触れられて、すっかり吹っ切れた。
先生と話すまでは、紛失したことをカルラに知られ嫌味を言われることの覚悟をしなければと気を重くしていたけど、もうどうでもいい。
自分の失態は自分で解決して、絶対見つけて犯人をつきとめてやると意気込んで、教室の扉を開け私は想像もしなかったその光景にぽかんと口を開けた。
「……んっ? どうしてここにいるの? 幻覚?」
なぜか教室のあちこちにラディッシュたちチビっこお野菜が走り回っていたのだ。私に気づいたチビっこたちがわらわらと私のもとに向かってすがり付いてくる。
えっちらおっちら登ってくるのを眺め、肩まで登りきったラディッシュがイエーイと片手をぶんぶんと振り回した。
めっちゃかわいい。癒やしだー。……じゃなくて。
「えっ。ええぇぇーー!? どうして学園に?」
私はチビっこお野菜ズに囲まれながら、人が遠巻きに集まっているその中心を見て驚きすぎて声が震えた。
先ほど会いたいと思っていたアンドリューが端整な顔ににっこりと笑みを浮かべて、澄み渡る空の色の瞳でじっとこちらを見ていた。
そして、王子の横には隊長が手をふりふりと振っている。
やっぱり幻覚?
相変わらず神々しい。プラチナブロンドがさらに輝きを放って見えるのはなぜ?
伯爵領にいるはずの隊長がなぜいるの? 出てきて大丈夫?
いるはずのないものたちに、私は思わず目をこすった。
────どうして、どうやってここに?
会えて嬉しいはずの人と一体を前に、私ははくはくと口を動かした。
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