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課題とお野菜ズ
幻覚?①
しおりを挟む「やる気がないのでしょうか?」
ひんやりした声が落ちてくる。
頭が痛いとばかりに額に手を置いたジョンソン先生にと溜め息をつかれ、私は俯いて控えめに頭を振った。
怒鳴られるよりもすっごく胸をえぐってくるが、私は粛々と冷ややかな視線を受け止めた。
昨日の紛失騒動のことで、現在絶賛叱られ中である。
探せるところは探したし、これだけ探しても見つからないということはこの先も出てこない可能性のほうが高い。
まだ諦めてはいないけど、先に紛失したことを先生に報告したら案の定である。
「ロードウェスターさん、成長を促せないどころかなくすとはどういうことでしょうか?」
「申し訳ありません」
自分の落ち度を受け止め、私は粛々と頭を下げた。
「はぁー。前々から思っていたことですが、あなたは殿下の婚約者としての自覚が足りないのではないですか? こんなことを口に出して言いたくはありませんが、あなたの立場を羨む者は多いのです。常に見られ、あわよくばと考えない者もいないとは限らないのです」
「はい」
「話を聞くと盗まれた可能性もあるのでしょうが、どちらにせよあなたの管理不届きです。集中すると周囲が見えないという自覚があるのなら、大事なものを誰でも触れられるところに置いておくことが問題です。在学中の殿下は聡明であり決して隙を見せず何をするにも完璧な方でした。そんな殿下が選んだ婚約者に対して密かに期待していたのですがね」
正論すぎて、ぐうの音も出なかった。
嫌われているのかと思うほど厳しかったが、期待されていたことを初めて知ったと同時に失望されたと知り落ち込む。
「深く反省しております」
「反省するのが遅すぎます。わかっていると思いますが、これは大きな失点となります。どうしても出てこないとなれば新たな課題が課されますが、その分、あなたは短期間でやり遂げなければならないことを覚悟してください。それだけ殿下の婚約者であるということは妥協を許されない重い立場なのですよ」
「はい」
淡々と語られる先生の正論という言葉の刃はぐさりと胸に突き刺さった。
どれだけ親しい周囲がそのままでいいと十分だと認めてくれていたとしても、それに甘えているつもりはなかったけれど、気持ちは緩んでいたのだと今となっては思う。
ずどーんと落ち込み、先生にもう一度謝罪し部屋を後にする。
自分でもわかっていたつもりではあったが、王太子として選んだ婚約者の評価がそのままアンドリューの評価にも繋がるのだ。
当事者であるアンドリューを含め身近な周囲がわかってくれるからではなくて、王太子の婚約者として公に認めてもらう働きかけをしていかないといけない。
殿下の婚約者となるには身分が弱く北部出身であるからこそ、私はもっと気を引き締めなければならなかったのだ。
噂に落ち込み、連絡がないことを気にする前に、アンドリュー王子の婚約者であることの努力を怠っていたことに気づく。
「こういうのを姉さまも心配していたのね」
のびのびしていていいけれどたまには深く考えようねと、思い立って動くたびにシルヴィアには昔からよく言われていた。
お野菜のことを内緒でやらかしたときは、それはもうこんこんと言われたものだ。
アンドリューとの婚約のことも、自分以上にシルヴィアはあれこれ心配していた。
私が幸せなのが一番だし大丈夫だと思うけど、周囲からの立ち位置をたまにはじっくり考えるのよと忠告されていた。
そのときは自分なりにお野菜たちのことは楽しいばかりではないし、背負うものの重さだとかも理解していたつもりだった。なので、姉にはわかっていると返していた。
だけど、本当の意味で王太子であるアンドリューの婚約者であることをわかっていなかった。
私が学生で妃教育が本格的に始まっていないからというのもあるかもしれないけれど、実際に嫉妬だとかの煩わしさはあるし責務を感じてはいるが重責をまだ感じたことはない。
どちらかと言えば、高貴な方と恋愛していることの戸惑いのほうが強い。
アンドリューに押し切られるように好きになって、しっかり場を整えられてから婚約者となった。
そこまでの過程で苦労することなく、強引ではあるが払える憂いは先にアンドリューによって払われてから当たり前のように王子の横に立つことを私は許された。
王子の手腕によるものだとしても、しっかり落とされて当然とばかりにそれらを甘受していた。
「うわぁー。それってどうなの?」
本当に大事にされているのだと、こんな時なのに、こんな時だからこそ気づく。
アンドリューの押しの強さが目立つし実際かなりの攻めだったのだけど、それだって気持ちがアンドリューに向くまでは待ってくれていたのだ。
アンドリューの中で決められたことなのだとしても、知らないところでどんなに腹黒く計画を立てられていたとしても、気持ちを置いてけぼりにされなかったことはとても大きい。
ますます、アンドリューの存在が私の中で大きくなる。
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