【本編完結】自由気ままな伯爵令嬢は、腹黒王子にやたらと攻められています

橋本彩里(Ayari)

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課題とお野菜ズ

課題①

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 実技課題である植木鉢の土の真ん中には、白い芽らしきものがうっすらと見えているだけ。

「みんな、本当にありがとう。噂の真相が気にならないとは言わないけれど、殿下を信じているしみんなも気にしないで。言われるのも課題のことがあるからだし、まず課題をなんとかしないと」

 植木鉢を少しだけ前に突き出して、私は宣言した。

「そうね。できることからよね。課題もきっと大丈夫よ」
「そうですよ。フロンティアはお野菜ちゃんたちの女神様なんですから」
「そうそう。そこですでに偉業だと思うのよね。北部の貴族や領民はフロンティアの功績をしっかりわかってるわ」
「南部貴族ですけど、私もしっかり十分に理解しておりますわ」

 口々に励ましの言葉をくれる友人たちは、私の手元に視線を向け力強く頷く。
 学園で絡まれることが増えたのは、やはりこの課題で成果が出せていないことが大きい。これをクリアするだけでも、また違ってくるはずだ。

 課題は自分だけのもの。店のことや噂やアンドリューから連絡がないことなど、気になることはあっても立ち止まっている場合ではない。
 私は久しぶりにやる気に満ち溢れ、さっきまでの作り笑いではない心からの笑みをこぼした。

「マッドリー令嬢にはあのように言ったけど進展はないのよね。でも、まだ時間があるからこつこつ頑張るつもり」

 私は手元にある植木鉢に改めて目をやると、『大きくなぁれ』と念じた。
 ここ最近は遠慮もなく全力で願いをぶつけているけれど、まったく状態が変わる様子はない。

「今も魔法かけました?」
「うん。だけど、やっぱり変わらないみたい」
「いったい、これはなんの植物なのかしら?」

 その様子を見ていたローレルの言葉に、ふとそこまで気にしたことがなかったことに気づく。

「成長すればわかると思っていたから気にしたことがなかったけど、確かになんの植物かしら?」
「調べてないの?」
「調べること自体を思いつかなかったわ」
「らしいですわ」

 うんうんと納得するローレルだが、ミシェルは呆れたような声を上げた。

「今頃? 普通は最初に対策を考えるときに調べるものじゃないの?」

 ごもっともな言葉に、私はうっと呻いた。

「ああー、種類というよりは育つということに意識を向けてたから。そこまで思い至らなかったというか……」
「育てるということが課題だものね。私たちもフロンティアはわかっているものとばかり。ごめんね。困ってたのにそのことに今頃気づいて」

 自分でもあまりな言い訳に、逆に気を配れなくて悪かったと言われ情けなくなる。
 伯爵領にいるときから土魔法に関しては深く考えてこなかったので、基本がなっていないのだと反省した。

「ううん。当たり前のことをしていなかった自分が悪いし」
「でもさ、これでまだ何か手がかりがある可能性出てきたし、種類だとか何が必要かとか調べてみるのもありかと思うけど」
「そうね。心配だし一度調べてみようかな」

 気になるのは課題の対象だからという理由もあるけれど、魔力など関係なく育たない芽が純粋に心配だ。寝るときも枕元に置いて常にそばにあり、すっかり愛着も湧いている。
 土も栄養満点で思いつく限りの状態を保たせているのだけれど、もしかしたらこの植物にとって条件が整っていないのかもしれない。

「そうしてみたらいいよ」
「あとは調べるためのヒントだけど、種は土に埋めるときに見ただけだし、もう少し芽が出てくれたら種類とかわかると思うのよね。恥ずかしがり屋さんの顔、見せてほしいわ」

 ちょんちょん、と軽く突いて見る。
 触れる部分はわずかだが感触はつるっとしていて艶はあり、いつかははっきりと芽を出してくれるはずだと信じたい。

「恥ずかしがり屋さんって。確かにずっとそのままでそれ以上成長しないよね? 枯れたわけでもなさそうだし、逆にそれが不思議かも」
「そうなのよね。うーん。肥料とか何か特別な条件があるのかな?」

 よく考えてみたら、課題に出される植物だ。
 お野菜たちのように、大きくなぁれや美味しくなぁれと願うのとはまた違うのかもしれない。白いのも病気かと心配していたけど、もしかしたらこの白さも種類独自のものの可能性が大きい。
 そのことに今更ながらに思い至り、まじまじと申し訳程度に見える芽を見つめる。
 
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