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課題とお野菜ズ

自分のこと①

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 そもそも付け入る隙を作ってしまった自分が悪いのだろう。
 実技での魔法がうまく発動しないことが、ここにきて様々な角度から重圧をもたらしていた。

 自分の抱えていることは、自分でしか解決できない。
 それができないから、ここ最近の私は考え気味というかいろいろ溜めてしまう。

「店のほうは頼りになる人がたくさんいるから大丈夫かな。それよりも自分のことをなんとかしないとね」

 自分で自分を鼓舞しながらも緊急用の魔道具に視線を移し、私はわずかに眉根を寄せた。
 わかっていることなのだけど、まったく反応がない。

 みんなの手前、若干いつもより明るく振る舞おうとしている自分がいるけれど、落ち込んでいるつもりはない。
 なのに、やはりアンドリューと連絡が取れていないことは、噂のこともあって知らず知らずに不安が募っていく。

 ずっと鬱々しているわけではない。
 ただ、心がもやっとすることが多くなって気持ちが縮こまってしまい、心から楽しいと思うときが減ってしまった。

 ここにきて、少しずつ負の感情が蓄積されている感があってすっきりしない。
 だから、普段通りの自分らしくあるために隊長たちと戯れたいとなるのだけど、現実的に伯爵領に帰ってのんびり過ごしている時間はない。

「いつまでも言われっぱなしは許せませんから、そろそろ女神の実力をばぁーーんと見せつけてやりたいですわ」
「そうそう。それ。お野菜ちゃんたちの女神であるフロンティアの本領発揮は楽しみです」
「そうよ。なんとか解決策を探しましょう。協力は惜しみません」

 ここ最近、私は少しぼんやりと考え事をすることが多くなっていた。
 授業が終わるとさらに気が抜けてしまい、ついついいらぬことを考えてしまうというか、まあ、そんな感じである。

 それに気づいている友人たちが、やり返すときは手を抜くなと好戦的に応援してくれている。
 大袈裟に言っているだけだろうけれど、味方だと示してくれることは嬉しくてふわんと口元が緩む。

「みんな、ありがとう」

 気合を入れるため、ぱちんと両頬を叩いた。
 何かあるたびにこうやって友人たちに元気をもらってばかりだ。

 カルラたちにやたらと絡まれるので気持ちを立て直しても邪魔されてと、本調子とはいかないままで周囲に心配させて気遣わせている自分が情けない。
 魔法のこともだけど、関係のない外野からのアンドリューのことを言われて不安になるなんて、もっとしっかりしなければと自分でも思う。

 気にはなってもやっぱりこんなことでと多忙なアンドリューには私から連絡しにくく、そもそも自分から連絡をしたことがないのでどのようなタイミングと理由ですればいいのかわからない。
 少しだけでも話せたらと思う気持ちは日に日に増し、寮に入ると通常の通信魔道具が光らないか気にする日々に、どうしても気になって高頻度で魔道具を確認することが増えていた。

 唐突な私の動きにミシェルは目を見張り、軽く首を傾げて思案げに問いかける。

「フロンティア、殿下のことであれこれ言われるのやっぱりつらい?」

 隠していたつもりでも、アンドリューのことを気にしているのはバレていたみたいだ。
 私は誤魔化すように、小さくふっと息をついてミシェルを見た。

「うーん。耳に入れば気にはなるけどつらいというのとはまた違うかな。ただ、言われればいろいろ考えてしまうから、自分でもこのうじっとした感じに納得いかないというか」
「まあ、あの人たちもここ最近露骨だから、気にしないなんて無理よね。そばで聞いているだけですごく嫌な感じだし」

 私がカルラに絡まれる理由は、当然王太子であるアンドリュー絡みのことである。
 一時期、カルラは王太子殿下の婚約者候補に名前が上がったこともあるらしく、婚約者の座が決まらなかった間は身分的に優位なのでまだ余裕があったが、あっさりと私がその地位に収まったことが腹立たしくて仕方がないのだろう。

 そこでミシェルがこげ茶色の瞳を心配げに揺らし、ちらりと背後に視線をやり眉を寄せた。
 教室からちょうどカルラたちが出てきたところだった。
 ミシェルにつられるよう振り返った私と視線が合うと、カルラはすぅっと目を細め勝気な笑みを浮かべる。

「みなさん、廊下で騒いでみっともないですよ」
「それは失礼いたしました」

 みなさんと言いながらもカルラの視線は私に固定されているので、私は無理やり笑みを浮かべ、さっさと通り抜けてほしいと願いを込めて廊下の端に寄った。
 真ん中を陣取っていたわけではないが、それに習って友人たちも端に寄る。

 しっかり三人分通れるはずなのに、カルラは私の前までくるとそこで足を止めた。
 面倒くさいなと眉をしかめそうになるのをゆっくりと瞬きをして誤魔化し、ともすれば引き結びそうになる唇の口角を上げ、私はカルラを真正面から見据えた。

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