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課題とお野菜ズ

噂②

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 チビっこお野菜たちの姿は王都直轄地ならわかるのだが、この学園ではっきり見えていると思うのは本気で疲れている気がする。
 どれだけ自然に溶け込んでいても、ずっと見てきたお野菜たちの葉をそう簡単に見逃すとは自分でも思えない。

 しかも、何度か見つけたとテンションが上がるのに、もう一度よく見ようと目を凝らすと見えなくなっているのだ。
 うん。自分でもやっぱりやばい状態だ。

「自分でもわかってるから。それだけ癒やしが欲しいってことなのよ」
「本当に休息が必要な状態ね……。何かひとつでも状況脱したらもっと楽になるとは思うのだけど」

 わかってくれる、味方をしてくれている人がいるだけで心強いのだけれど、ずーんと沈む気持ちはなかなか晴れそうになかった。
 ここは一発、誰の目を気にすることなくぶわぁっと弾けてしまいたい。
 貴族の上下関係がある学園は、何かと我慢を強いられることも多く、今までそこまで考えてこなかったのにあれこれ重なると窮屈に感じた。

「一度、伯爵領に帰ろうかしら」

 頼りになる隊長に会いたーい。もふもふのシュクリュに癒されたーい。
 高まる欲求に、ぽろりと心の声が漏れる。

「そのときはぜひ私も一緒に」
「え、ええ」

 すかさずローレルにこれでもかと言うほど瞳を輝かせながら勢いよく詰められ、私はたじろいだ。
 まっすぐな眼差しには期待の色が込められており、本気の度合いがうかがい知れる。ローレルは続いて鼻息を荒く物騒なことを告げた。

「今了承いたしましたわね。絶対ですよ」
「タイミングが合えばね」
「楽しみですわ! でもやっぱり、噂を放ったままここを離れるのは嫌ですわ。先に噂の出処と、それにかこつけて突っかかってくる人をけっちょんけっちょんにやっつけてからぜひ一緒に連れて行ってください!!」
「もう、ローレルは煽らないの」

 ミシェルがたしなめると、ぼよんぼよんと縦ロールを揺らしローレルは頬を膨らませた。

「ですが、フロンティアが言われっぱなしなのは悔しいです」
「私もよ。噂もなんとかしたいけれど、今のところどうしようもないし。フロンティアが我慢しているのに、周りが煽らないのって言ってるの」
「そうですわね。すみませんでした」

 ローレルがしょぼんと項垂れるが、頬は膨れてたままでまだ不服そうであった。
 ここ最近出回っている噂は、

『アンドリュー殿下が婚約者以外の女性とデートしている』
『身分の差で話が合わず、殿下は婚約者に飽きたらしい』
『お相手は婚約者より身分の高いお嬢様らしい』
『婚約破棄もありえるかも』

 などなど、出処と事実確認は不明。

 噂のこともあって、地味だとか言われることがいつもより心にチクチクとソフトではあるが突き刺さっている。
 ミシェルたちは根も葉もない噂だと激励してくれるし、私自身も当初は真に受けなかった。

 目撃情報があっての噂なら付随するものは別として誰かと一緒にいたのは事実の可能性もあるし、最初に聞いたときはそれでも王子のことだから何か理由があってのことだと強く思った。
 今もそう思ってはいるが、ふと気持ちに靄がかかりそうになることがある。

「ううん。気にかけてくれて嬉しいわ。殿下と連絡が取れたら一番早いのだけど忙しくいらっしゃるから、もう少しいろいろ我慢かなって思う」

 アンドリューと一緒にリヤーフと話し合ってから、一か月ほどが経っていた。それからその日以来、私は王子と会えていなかった。
 婚約者という立場になってからこんなにも会わない日が続くのは初めてで、ふとした瞬間にアンドリューはどうしているだろうかと考えることが増えた。

 最後に会ったとき、しばらくは忙しく連絡を入れる時間が減る可能性とともに、なるべく早く片付けて連絡を入れると言われていた。
 事前に状況を教えてもらいわかってはいるし、アンドリューの気持ちを本気で疑っているわけではない。ないのだけど、王子の取り巻く環境だとかは詳しくはわからない。

 そのことが不安に繋がる。
 今までも忙しい中で少しの時間でも都合をつけて会いに来てくれていたので、この一か月は連絡も二回ほどしか取れないほどとは、王子はいったい何をしているのだろうかと考えずにはいられなかった。

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