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課題とお野菜ズ
噂①
しおりを挟む広がる青空はどこまでも澄み渡り、大きな窓から入る太陽の光が非常に眩しい。
そこから見える木々を眺めながら、私は双眸を眇めた。
「お野菜ズと戯れたい……」
「疲れてるのね」
「そうなのよ。お疲れなのよ」
私が背筋をしゃんと伸ばし疲れていてるとは反対の姿勢で主張すると、ミシェルがくすりと笑う。
「そこで胸を張るのもおかしいと思うけど」
「肩を落としてもしかたないから。連日あれこれ言われ続けると癒やしがすっごく欲しくなるわ」
ミシェルに返答しながら自分にも言い聞かせ、再びぽかぽかと気持ち良さそうな日差しが降り注ぐ外へと私は視線を向けた。
『能力が見合わない』
『地味』
『田舎者』
『魔法が地味』
『容姿も地味』
『公爵家のバックがあるから婚約者でいられる』
などなど。連日言われすぎてもう耳タコである。
最後に関しては、ロードウェスター伯爵家の北部での功績をないことにしたい者たちが、王太子殿下との婚約は姉の夫のおかげであり棚ぼただと言いたいのだろう。
大きな失敗などしなくても、身分や容姿が見劣りする存在は許容できず攻撃対象になり、王子の婚約者の立場が気にくわない者にとっては引きずり落としたいようだ。
王族に嫁ぐには足りないものを上げ連ね不相応なのをわからせ、周囲にもそのような印象を与えようとしているのだろうということはわかる。
「あとさ、地味って言われてどうしたらいいのかしら?」
言葉にされるとさすがに気分は良くない。
情報戦は貴族にとっても大事なことなのはわかっているけれど、的外れでもないし内容的にもパンチがないので反論するまでもない。
こうして並べるとわかるようにやたら地味が目立つが、むしろ、王子とその側近たちがやたらめったらきらきらと輝いているだけのように思う。
「それね。フロンティアが地味だったら、ほとんどが地味になっちゃうわよね」
「茶系の髪は多いし、髪色や瞳の色なんてもって生まれたものにあれこれ言われてもねぇ」
それが地味と感じるか否かは人それぞれであるし、そう感じている相手に地味ではないと否定したところでどうにもならないだろう。
そんな偏屈なもので攻撃してこようとする相手は取り合わないに限る。
「殿下やオズワルド様たちはとても華々しいから、お相手もそうあるべきと考える気持ちもわからないでもないけどね。むしろ、フロンティアと殿下が並ぶと普段お近づきになれない殿下の空気が柔らかくなって、完璧王子様のままなのだけど和むというか、しっくりきてお似合いだと思うけど」
「目を見張るような美人なんて程遠い自覚はあるから、お世辞を言われるよりお似合いって言われるほうが嬉しいわ」
容姿も地味なのは認める。癖っ毛に対してはストレートだったら良かったのにと思わないでもないけれど、姉のシルヴィアと同じキャラメル色の髪は気に入っているし、瞳の色も嫌いじゃない。
むしろ、黒髪黒目が主の日本人の記憶からすれば、その髪色と瞳だけでも地味な部類に入らない。
魔法が地味に関しては土魔法に特化しているおかげで隊長たちにも出会えたので、それを地味と言われたところでそれが? という気持ちが強くて、それに関しては本当に気にならない。
実際に学園で披露する土魔法は、通常より植物の成長が早いだけであり、現段階の課題に関しては成長の兆しも感じられないので、地味といわれても仕方がないとは思っている。
だけど、ここ最近やらなければならないことや気にかかることが多すぎて、それらはひどく耳障りではあった。
これは精神衛生上よくない。一年前なら絶対気になっていなかったと思うからこそ、リセットしたい気持ちが強くなる。
「ううー、すっごく土いじりがしたーい」
お野菜ズとのほほーんと過ごしたいと切実に思うほど、私は疲れていた。
「確かにここ最近クラスもぎすぎすしてるものね。当事者でない私でもそうなのだから、フロンティアの心労はよほどよね」
「わかってくれる? ときおり、隊長がぐっと手を上げてる姿とシュクリュが尻尾をぶんぶん振っている幻が見えるくらいなの」
会いたすぎて、しょっちゅう夢に見ている。
「それは……、よほどね」
「疲れからくるものと思っているのだけど、歩いているとちらちらとチビっこお野菜たちの葉っぱが最近あちこちで見えるような気がして、なんか末期なような気がする」
「ああ~」
私がへにゃりと力なく眉を下げて笑うと、ミシェルは歯切れ悪く声を上げるとぎこちなく微笑み返した。
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