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不調と新たな問題
問題発生②
しおりを挟む店の前にたどり着くと、記憶しているものと店内の様子があまりにも違い、そんなわけないのに場所を間違えたのかと足を止めた。
「えっ? 間違えるはずないよね」
顔を上げると、視線の先には愛着のあるカブの葉の看板。自分のお店『ベジロード』である。
久しぶりだったこともあり、まじまじと見つめる。
「うん。ここで合ってる」
隊長の立派な葉をモデルとした看板に一人頷き、様子をうかがう。
今も店の前で困ったように話をするお客にスタッフが対応しているので、とりあえず現在の接客が終わってからと思い、そのまま少し隠れるように店内を確認した。
時間帯にもよるが店はお客が入っている状態が常であり、それに応じてスタッフも対応しているのだけれど、今日はあまりにも閑散としている。
見える範囲には二人。そのうちの一人が客に頭を下げ、もう一人が連絡業務で忙しく動いていた。
「大変ってこういう意味の大変ってこと……」
お客がいない。そしてなにより、品物がない。
店としてはありえない状態のガランとした店内に、私は大きく目を見開いた。
「ルル。これはいったいどういうこと?」
しぶしぶ客が帰り、本日は閉店という看板にルルという名のスタッフが差し替えたところで私は声を上げた。
「フロンティア様!? 本日は来られるご予定ではなかったかと」
びくっと肩を揺らしこちらを見たポニーテールがトレードマークのルルは、その茶色の瞳に私の姿を写すと、ほっとしたようなしくじったようななんとも微妙な感情を露わにした。
「うん。そうなのだけど寄ってみたくなっちゃって。それよりこれはどういうこと?」
「ああー……」
店先で話すことでもないと店内に入ると、部屋の中にいたルルと同じ顔の女性が目を見開き、同じような反応をした。
二人はちらりと視線を合わせて、互いにそっと視線を下げる。
彼女たちは双子で年齢は二十歳だと聞いている。主に経理担当で三つ編みをしているのが姉のララ。ポニーテールのほうが妹で普段は接客担当のルル。
彼女たちはシュタイン商会の者で、北部からこの王都に拠点を移して店で働いてくれている。
双子の気まずそうな様子に私は胸をざわざわさせながら、こちらは引く気はないのだともう一度声をかけた。
「どうしたの?」
「いえ。その……」
「もしかしてリヤーフに何か言われてる?」
「…………」
そこで互いに視線を合わせる双子。
気まずそうでもありどこか迷っているようでもある様子を見てとって、私は言葉を重ねた。
「そうだとしても、この現状を知って何も知らないふりはもう無理だわ。リヤーフにもあとで聞き出すしあなたたちの悪いようにはしないから、この現状について教えてちょうだい」
また二人は顔を見合わせ同時に小さく頷き、姉のララが口を開いた。
「御心遣い感謝いたします。若にはこちらから報告いたしますので、フロンティア様はそのままお話を聞いていただけたらと思います」
「そう。私のところまで話が来ていないということは、商会で対応できることからだとは思うし、学生である私を慮ってのことだってわかっているからそんなに恐縮しないで」
北部の貧しい村出身の彼女たちは、食料普及のことで、商会、そして私自身に並々ならぬ恩義を感じているようで、特に私は貴族ということもあって粗相をしては申し訳ないとばかりにとても気を遣われている。
それを寂しく思うが身分の違いは仕方がない。どれだけ親しみを覚えていても、軽く取り払えない現実も理解している。
私にできることは、彼女たちに負担がないよう事を進めること。
ゆっくりと店内に視線を走らせ、本当に何もないガランとした様子に眉が寄る。
私はそっと息を吐いた。
「お店に品物がひとつもない状態なんて変だわ。いったい何が起こっているの? それとほかのスタッフがいない理由も教えて」
「それは……、ここ連日買い占めていかれる方がおられまして」
「買い占め?」
たくさん売れることはいいことだ。だけど、彼女たちのこの反応での買い占めという言葉はいい意味には聞こえない。
「そうなんです。店にあるものをひとつ残らずです」
「ひとつ残らず……」
「はい。アイスのかけらさえ残らずです」
「それは、なんというか異常ね」
一度くらいならあり得る話なのかな? どうなのだろう。
しかし、連日続くとなるとこれは問題だ。
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