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婚約と俺様王子
安定の俺様王子③
しおりを挟む「アンディィィィっ。ストップです」
「いや?」
「…………うっ……、まだ日が高いのですが」
互いの体温を感じ、自分たちだけの感覚を拾う時間が心地よいことは私も知っている。
私だって、久しぶりにアンドリューの存在をもっと感じたいし、求められるなら応えたいとは思っている。
だが、相手は俺様王子。
許してしまったら、いつ、誰が入ってくるかもわからないここで致してしまう可能性もなきにしもあらずである。
なにせ乙女ゲームでは、どこでも、いつでも、隙あらば、好きな女性を求め相手も満足させないと気が済まない俺様王子。
エロスイッチが入るときと場所が許せば、驚くほど積極的。むしろ普段忙しいから、少しの隙でそういう空気に持っていくのがうまい。
「ああ。俺たちが会うときは大体が昼時だと思うが?」
「そう、ですけど……、明るいなかというのはどうも……」
アンドリューの場作りのうまさは、まさに実感中。
しかも、私が恥ずかしがって乱れるのも好きなので、真面目な話をしていた数分後襲われていることもあれば、逆にまったりと終わることもありで、私としても会うたびに今日はどっちモードなのかという意味でもドキドキする。
そして、今日はエロモードの日みたいだ。
アンドリューの胸板に手を当てたまま本気の抵抗をしたいわけでもないので動けずにいる私に、アンドリューはこめかみにキスを落としながら優しく頬を撫でてくる。
壊れものにでも触れるかのような優しさがくすぐったくて、私は片目をつぶった。
「今更だろ?」
「……今更でもなんでも恥ずかしいものは恥ずかしいんですっ!」
白昼のなか、肌をさらされそれを見られるとか無理。
「そんなティアを見るのもいい」
「ひどっ」
「ティアが可愛いのがいけないな」
ほら、やっぱり恥ずかしがっているのを楽しんでるっ!
ドS王子めっ。腹黒、俺様~っと私が心の中で文句を連ねていると、アンドリューは悪戯っぽい視線を向けてくる。
にっと笑ったまま、私のキャラメル色の猫っ毛を指に絡めてくるくると遊ぶ。
「なんなら、夜を待ってもいいんだが? その代わりティアがじっくり付き合ってくれるのならな。当然、帰れると思うなよ」
「い、ちょっ、と、帰る? ……どうして、そうなるんですか。それはさすがにつらいかなぁっ……」
長尺は身が持たないと狼狽えて口ごもる私に、アンドリューはくすりと笑う。
嬉しそうに笑ったまま覗き込まれ、私は目を瞬いた。
喜ばすようなことなど言っていないのにと、にこにこと人懐っこそうな笑顔を見つめた。
途端、ふっ、と口の端を上げアンドリューの意地悪っぽい表情に、警戒を強めたときには手遅れだった。
私を軽々とお姫様抱っこで抱え上げると、アンドリューはすたすたと扉へと向かう。
「ちょっ、人がいますっ! どこかに移動するなら歩きますから!」
婚約者と言えども、人目がある場所では誰が見ているかわからないし、どのような形で噂が流れるかわからないので、節度を持った行動をとアンドリューの行動を止めようと声を上げる。
だが、アンドリューはふてぶてしい顔で頷くだけだった。
「問題ない」
「えっ、ちょっと待ってくださいっ!」
静止をまったく聞いてもらえず、こんな格好で廊下になんて出れないと抗議するが、躊躇なくアンドリューは扉に手をかけて開けた。
うわっと目を閉じて、誰も会わないのは難しいならせめて見つかるのは護衛だけにしてほしいとと祈る。
「ティア。着いたぞ」
だけど、空気が変わる気配とともにアンドリューの言葉に閉じていた瞼をそっと開けると、何度か連れ込まれたことのあるアンドリューの部屋に移動していた。
「えっ?」
きょろきょろと確認するが、先ほど通されていた部屋ではない。
配置的におかしい。魔法の気配もするので、もしかしたら転移魔法が使われているのかもしれない。
まだまだ知らない王宮の秘密。
王族ならではのものもあるようで、アンドリューといるときは特に自分でも魔法を使うのにファンタジーな世界だなと妙に感心してしまう。
気づけば、私は一人で寝るにはあまりにも大きすぎる豪奢なベッドにふわりと下ろされていた。
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