【本編完結】自由気ままな伯爵令嬢は、腹黒王子にやたらと攻められています

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
上 下
69 / 166
婚約と俺様王子

姉妹で王宮へ③

しおりを挟む
 
 いや、日頃からサボっている相手も相手であるので、この場合はその人物の仕事もさばいていた分と思えば妥当なのだろうけど、ついでとばかりにあれこれ押し付けていそうと思うのは穿うたった見方だろうか。
 王宮勤めの人にもいろいろなタイプの人がいるのだなと、しみじみ思う。

 オズワルドはシルヴィアに視線を戻した。
 仕事の話のときは冷ややかさが瞳に宿っていたが、それは一瞬のうちに消えとろけるように微笑んだ。

「ですので、ヴィア。こんな時間から空くのは久しぶりですので、どうか私の誘いを受けていただけますか?」

 ですので?
 まあ、そうなのかな。一貫してオズワルドは姉と一緒にいたいと言っているだけである。仕事も終わったと言えば、断ることはできない。

 というか、用事ってこれ?
 なら、私は?

 なんだかとても嫌な予感がするなか、シルヴィアがゆっくりと瞬きをして控えめに頷いた。

「お仕事が終わってらっしゃるなら」

 ああぁぁ~~、承諾しちゃったよ。まあ、するしかない流れだったけど。

「では、参りましょうか」
「もうですか?」
「はい。殿下に婚約者との時間をもっと欲しいとうかがっていますしね」

 そう告げたオズワルドの言葉に、シルヴィアはこちらを見た。わずかに目を見開き、仕方がなさそうに苦笑すると小さく頷いた。
 その反応はどういう意味!?
 どうしてか姉のその態度に不安が煽られる。私は縋るように姉の名を呼んだ。

「ヴィア姉さまっ!」
「ティア。私たちはここで退出しますね。あなたの帰りは殿下がしっかり送ってくださると思いますので、ご安心ください」

 だが、応じたのはその夫。
 オズワルドはつと薄い色の双眸を笑ませ、ついでにこれぞお手本といった綺麗な笑みを浮かべる。

 ────安心できませんけどーっ!!

 殿下、という言葉に横にいるアンドリューの気配が急激に増す。

「では、失礼いたします」
「殿下、失礼いたします。ティアはあまり殿下に迷惑かけないようにね」

 オズワルドにエスコートされながら立ち上がったシルヴィアが頭を下げ、最後に私を見てわずかに眉尻を下げながら穏やかに告げた。

「大丈夫ですよ。お二人は仲が良いので、多少の無礼などは恋人だからこそですよ。むしろ、そうでないとくつろげませんからね」
「だと、いいのですが」
「気遣うことのできる優しいヴィアが大好きです。ですが、二人のことは二人のこと。私たちも私たちで仲良くいたしましょう」

 愛おしげにシルヴィアを見つめながら、ふふふっと微笑むオズワルド。どうしても天使とかではなく、魔王に見える。
 麗しすぎてその美しさをただただ堪能するだけに留められない美貌って、本当厄介な人である。
 ヴィア姉さま大丈夫かな?

 すっごい機嫌が良さそうなオズワルドに、私はちらっちらっと姉と義兄を交互に見た。
 すると、アンドリューが嘆息する。

「ティアは人の心配している場合じゃないよな」
「え……っと、そう、なのですか?」
「そうだな」

 にやりと笑いながら、すげなく言われ私はひぇっと背筋を正した。
 やっぱり嫌な予感しかしない。

「そのですね、えっと……」

 さっき自分のことも考えてほしいってアンドリューに言われたし、たまに言われることでもあるが、私からすれば十分に考えている。
 俺様腹黒エロ王子ではあるが、頼りになって優しくもあって、好きな相手である。

 好きな人のことを考えないなんてことはありえない。
 いつも多忙なアンドリューの体調だって心配しているし、会いたいなって思うことだってある。

 ドキドキはするけれど、決して二人っきりが嫌なわけではない。
 ただ、お仕置きと言われたままだったことが気になっているだけで……。

「なんだ? ティア」
「あのー、ここでのんびり日向ぼっこという選択肢は?」
「ないな」

 じっと見つめる視線に気づいたアンドリューに問いかけられ、私はわずかな期待を込めながら控えめに小声で提案してみる。
 だけど、それはあっさり撃沈した。


しおりを挟む
感想 453

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。