【本編完結】自由気ままな伯爵令嬢は、腹黒王子にやたらと攻められています

橋本彩里(Ayari)

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婚約と俺様王子

俺様王子に捕まりました③

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「ティア。ほんと、煽るのが上手だな」
「………っ!?!?!?!?!?」

 ひぇぇーと脳内で騒ぎながらも私は必死に逃げていたつもりであったけれど、大して距離も稼げずあっさりとアンドリューに捕まった。
 背後から腕が伸びてきたと思ったら、そのままひょいっと抱えられる。もう驚く声さえ出なくなっている。

「逃すと思っているのか? 婚約者殿」
「……殿下」

 ずいぶんあっけない逃避行だった。
 それはそうだ。もともと運動能力も違うし、こちらはドレス。王子が逃す気がなかったら、すぐに捕まるに決まっていた。

 私も気持ち的に逃げたいというだけで、どこかでこうなることは予想していた。捕まったことにほっとしている自分もいて、なんて恋愛って複雑なんだと実感する。

「ティア」

 名を呼ばれそっとアンドリューを見ると、口調はずいぶん強気だがその眉根が少しだけ困惑げに寄っていた。
 視線が合うと、細められたその双眸にはどこかすがるような光が見え隠れして見え、もしかしたら私が逃げたことにショックを受けたのかもしれない。

 そういった姿を見ると、自分のことで精一杯だった気持ちに少し余裕ができる。悩んだり考えたりしているのは、自分だけじゃないと安堵する。
 むしろ、行動を起こしているアンドリューのほうがいろいろ思うことがあるだろうと、申し訳ない気持ちもこみ上げてきた。

「その、逃げてごめんなさい?」

 私は少しだけためらい、顔をそっと王子の肩につけた。
 逃げてしまったけれど、困惑とエロさに逃げただけで王子自身からではない。
 言葉尻も疑問付きとなってしまったが、そういったものが少しでも伝わればいいとそのまま甘えるように王子にくっついた。

「ああ。こちらも少し浮かれていたようだ。あと、俺のことよりほかに意識がとらわれすぎなのが、そんなティアがいいと思うと同時に面白くない」
「……殿下のこともちゃんと考えてました」
「それもわかっているが、ティアはもっと俺のことを意識すべきだ」
「っ……とにかく、殿下はやり過ぎです」

 そう告げてはみたものの、年頃のアンドリューに待ったばかりもどうなのかとも思うわけで、この問題は結局王子が言うように私が慣れるしかないのだろうか。
 押され気味ではあるが一応互いに思いは通じ合っているので、その辺りはこちらも歩み寄りが必要かもしれない。

 うーん、とわずかに眉間に皺を寄せて考え込んでいると、アンドリューは私を抱き上げながら器用に私の髪を一房すくいあげた。
 その際に頬を撫でられ、こそばゆさに肩を竦めていると、王子はそれはそれは爽やかな笑みを浮かべ意味深に髪に口づけた。

「そこは慣れてもらう。出会ってからようやくここまで来たんだ。俺はティアのことをたくさん知りたいし、俺がありとあらゆる可愛い反応を引き出したいし、これからもそうする」
「俺様……、あっ」

 ちっとも悪びれなく、本人に改めて手は緩めないと宣言され、思わず心の声が外に漏れた。
 慌てて口を閉じるがしっかり聞き取られたようで、アンドリューがゆっくりと瞬きを繰り返したのち、にやっと悪い笑みを浮かべた。

「へぇ~」
「……ふふっ」

 面白いおもちゃを見つけたとばかりのそれに、私はたらりと先ほどとは違った汗が出る。
 こうなったら笑うしかない。にこにこと笑みを浮かべ、知りませんとばかりの空気を作ることにした。

「ティア?」
「なんでしょうか? 殿下」
「ふーん」
「……ふふふっ。今日はいい天気ですねー」

 そこは突っ込んでくれるなと、不自然に話題を変えてみる
 わかってます。わかってますぅ。うっかり漏れてしまった本音は誤魔化しきれてませんよね?
 でも、いいんです。この場さえ乗り切れば、後のことは後で考えたらいいんです。

 ふふふふっ、と淑女よろしく笑顔を盛大に浮かべる。
 じぃぃぃーと見つめられるが、私はそれにも耐えて、耐え、耐え……られずに、へらりと気まずく浮かべていた笑み引きつり、きょとっと視線を泳がせた。

「くっ。ティアは本当に子猫みたいだな」

 ふ、と柔らかな吐息とともに、アンドリューが嬉しそうに声を弾ませる。

 何をお気に召したのかは知らないけれど、本当に楽しそうに笑う表情や声に私は弱かった。
 そういった姿を見るたびに、やりすぎぃぃっと思っても結局許せてしまうというか。見逃してくれた安堵とともに、先ほどのエロ攻めも私の中で馴染みつつあった。

 衝撃が過ぎ去ったら、求められることの喜びというのも味わってもいる今、すべてを拒みきれないのが証拠。
 結局、アンドリューの腕の中に落ちた私は、王子に可愛がられる運命にあるようだ。

「こねこ……」
「ああ、何をしても俺にとっては可愛いだけってことだ。あと、婚約者となったのだから俺のことは名前で呼ぼうか?」

 俺様、というのもいいけどな。
 そう付け加えられ、しっかり聞いていたぞと教えてくる。

「うっ、意地悪です」
「ティアが普段からどう思っているのかよくわかる言葉だったな」

 ひぃぃぃ。堂々としていて本当は気にしていないのに、それを餌に揶揄ってこようとするとか、こういうところが俺様なんだよ。

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