57 / 166
婚約と俺様王子
俺様王子に捕まりました③
しおりを挟む「ティア。ほんと、煽るのが上手だな」
「………っ!?!?!?!?!?」
ひぇぇーと脳内で騒ぎながらも私は必死に逃げていたつもりであったけれど、大して距離も稼げずあっさりとアンドリューに捕まった。
背後から腕が伸びてきたと思ったら、そのままひょいっと抱えられる。もう驚く声さえ出なくなっている。
「逃すと思っているのか? 婚約者殿」
「……殿下」
ずいぶんあっけない逃避行だった。
それはそうだ。もともと運動能力も違うし、こちらはドレス。王子が逃す気がなかったら、すぐに捕まるに決まっていた。
私も気持ち的に逃げたいというだけで、どこかでこうなることは予想していた。捕まったことにほっとしている自分もいて、なんて恋愛って複雑なんだと実感する。
「ティア」
名を呼ばれそっとアンドリューを見ると、口調はずいぶん強気だがその眉根が少しだけ困惑げに寄っていた。
視線が合うと、細められたその双眸にはどこかすがるような光が見え隠れして見え、もしかしたら私が逃げたことにショックを受けたのかもしれない。
そういった姿を見ると、自分のことで精一杯だった気持ちに少し余裕ができる。悩んだり考えたりしているのは、自分だけじゃないと安堵する。
むしろ、行動を起こしているアンドリューのほうがいろいろ思うことがあるだろうと、申し訳ない気持ちもこみ上げてきた。
「その、逃げてごめんなさい?」
私は少しだけためらい、顔をそっと王子の肩につけた。
逃げてしまったけれど、困惑とエロさに逃げただけで王子自身からではない。
言葉尻も疑問付きとなってしまったが、そういったものが少しでも伝わればいいとそのまま甘えるように王子にくっついた。
「ああ。こちらも少し浮かれていたようだ。あと、俺のことよりほかに意識がとらわれすぎなのが、そんなティアがいいと思うと同時に面白くない」
「……殿下のこともちゃんと考えてました」
「それもわかっているが、ティアはもっと俺のことを意識すべきだ」
「っ……とにかく、殿下はやり過ぎです」
そう告げてはみたものの、年頃のアンドリューに待ったばかりもどうなのかとも思うわけで、この問題は結局王子が言うように私が慣れるしかないのだろうか。
押され気味ではあるが一応互いに思いは通じ合っているので、その辺りはこちらも歩み寄りが必要かもしれない。
うーん、とわずかに眉間に皺を寄せて考え込んでいると、アンドリューは私を抱き上げながら器用に私の髪を一房すくいあげた。
その際に頬を撫でられ、こそばゆさに肩を竦めていると、王子はそれはそれは爽やかな笑みを浮かべ意味深に髪に口づけた。
「そこは慣れてもらう。出会ってからようやくここまで来たんだ。俺はティアのことをたくさん知りたいし、俺がありとあらゆる可愛い反応を引き出したいし、これからもそうする」
「俺様……、あっ」
ちっとも悪びれなく、本人に改めて手は緩めないと宣言され、思わず心の声が外に漏れた。
慌てて口を閉じるがしっかり聞き取られたようで、アンドリューがゆっくりと瞬きを繰り返したのち、にやっと悪い笑みを浮かべた。
「へぇ~」
「……ふふっ」
面白いおもちゃを見つけたとばかりのそれに、私はたらりと先ほどとは違った汗が出る。
こうなったら笑うしかない。にこにこと笑みを浮かべ、知りませんとばかりの空気を作ることにした。
「ティア?」
「なんでしょうか? 殿下」
「ふーん」
「……ふふふっ。今日はいい天気ですねー」
そこは突っ込んでくれるなと、不自然に話題を変えてみる
わかってます。わかってますぅ。うっかり漏れてしまった本音は誤魔化しきれてませんよね?
でも、いいんです。この場さえ乗り切れば、後のことは後で考えたらいいんです。
ふふふふっ、と淑女よろしく笑顔を盛大に浮かべる。
じぃぃぃーと見つめられるが、私はそれにも耐えて、耐え、耐え……られずに、へらりと気まずく浮かべていた笑み引きつり、きょとっと視線を泳がせた。
「くっ。ティアは本当に子猫みたいだな」
ふ、と柔らかな吐息とともに、アンドリューが嬉しそうに声を弾ませる。
何をお気に召したのかは知らないけれど、本当に楽しそうに笑う表情や声に私は弱かった。
そういった姿を見るたびに、やりすぎぃぃっと思っても結局許せてしまうというか。見逃してくれた安堵とともに、先ほどのエロ攻めも私の中で馴染みつつあった。
衝撃が過ぎ去ったら、求められることの喜びというのも味わってもいる今、すべてを拒みきれないのが証拠。
結局、アンドリューの腕の中に落ちた私は、王子に可愛がられる運命にあるようだ。
「こねこ……」
「ああ、何をしても俺にとっては可愛いだけってことだ。あと、婚約者となったのだから俺のことは名前で呼ぼうか?」
俺様、というのもいいけどな。
そう付け加えられ、しっかり聞いていたぞと教えてくる。
「うっ、意地悪です」
「ティアが普段からどう思っているのかよくわかる言葉だったな」
ひぃぃぃ。堂々としていて本当は気にしていないのに、それを餌に揶揄ってこようとするとか、こういうところが俺様なんだよ。
20
お気に入りに追加
5,581
あなたにおすすめの小説
ちかすぎて
橋本彩里(Ayari)
恋愛
幼馴染のあいつに彼女ができたらしい。
彼女に牽制され、言われなくてもこっちから距離をあけてやるとささくれていたら窓に雪玉をぶつけられ……。
幼馴染同士のちかすぎてじれっとしていた二人の話。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
離縁前提で嫁いだのにいつの間にか旦那様に愛されていました
Karamimi
恋愛
ぬいぐるみ作家として活躍している伯爵令嬢のローラ。今年18歳になるローラは、もちろん結婚など興味が無い。両親も既にローラの結婚を諦めていたはずなのだが…
「ローラ、お前に結婚の話が来た。相手は公爵令息だ!」
父親が突如持ってきたお見合い話。話を聞けば、相手はバーエンス公爵家の嫡男、アーサーだった。ただ、彼は美しい見た目とは裏腹に、極度の女嫌い。既に7回の結婚&離縁を繰り返している男だ。
そんな男と結婚なんてしたくない!そう訴えるローラだったが、結局父親に丸め込まれ嫁ぐ事に。
まあ、どうせすぐに追い出されるだろう。軽い気持ちで嫁いで行ったはずが…
恋愛初心者の2人が、本当の夫婦になるまでのお話です!
【追記】
いつもお読みいただきありがとうございます。
皆様のおかげで、書籍化する事が出来ました(*^-^*)
今後番外編や、引き下げになった第2章のお話を修正しながら、ゆっくりと投稿していこうと考えております。
引き続き、お付き合いいただけますと嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたしますm(__)m
母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・
結城芙由奈
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語
母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・?
※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています
冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
元平民の公爵令嬢が、幸せをつかむまで
田尾風香
恋愛
ベネット公爵家の令嬢リィカルナは、奴隷のようにこき使っていた婚約者に、婚約破棄を突きつけられた。
その翌日、父の犯した罪により、父と共に地下牢に入れられてしまう。
だが、リィカルナが父と兄に虐待されていた事実が発覚する。涙を流すリィカルナに、第二王子であるアレクシスが取った行動は……。
**第二王子×リィカルナです。婚約破棄からのざまぁを書きたくて、盛大に失敗した作品です。
**自作品『転生ヒロインと人魔大戦物語』の主人公、リィカがもし貴族だったら、という設定でのIFストーリーです。全く話は関係ありませんので、読まなくても問題ありません。
**全42話。最後まで書き終わっていますので、毎日更新していきます。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。