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婚約と俺様王子
俺様王子に捕まりました①
しおりを挟む「わぁぁぁ、こんなところで何をしようとしてるんですか!?」
「何って、そのままだけど」
私はほいほいと甘言につられて、こんなところまでついて来てしまったことを後悔していた。
お野菜たちのお話は?
ぐぬぬぬっとこれ以上距離を詰められてなるものかとアンドリューの胸板を押すが、王子は麗しげに、ふっ、と笑うだけ。
「あとでな」
相変わらず敏い王子は私の思考を読み取ってくれたようだが、できることならお野菜たちの話をしたいです!
「殿下」
「ティア。ちゃんと野菜たちのことも考えて動いているから安心しろ。ただ俺としては、もっと俺たちのことも考えてほしいところだな。驚くティアを見るのは楽しいが、正直面白くない気持ちのほうが勝る」
爽やかに笑いながら告げ、面白くないという言葉を実行するようにさらに拘束が強くなる。
そんなに強い力で掴まれているわけではないのに、ぴくとも動けないこの体勢。
「ティア。ほら、こっち見て」
ついっと顎を掴まれ上を向かされる。するりと長い指で口の形を確認するようになぞられ、私の唇はふるりと震えた。
意味深な行動に早鐘を打つ心臓を押さえていると、私の顎を持ち上げにこりと微笑み端整な顔を近づけてくる。
どこまでも透き通るような空色の瞳が私を映し出し、こんなときなのにやっぱり綺麗だなと見惚れていると、こつんと額がぶつかった。
気恥ずかしくなってぎゅっと目をつぶると、プラチナブロンドの髪がさらりと私の横顔に触れ、ふわりと唇が重なる。
「ん」
柔らかな感触に、小さく息が漏れる。触れ合う吐息がこそばゆく、そろりと瞼を開けると愛おしげにこちらを見つめるアンドリューの美しい碧色の瞳がまっすぐに私を捉えてくる。
「ティア。俺の婚約者」
言葉で、態度で、私の立場を知らしめるようにささやかれ、言い知れない高揚感を味わった。ぞくりとするそれは、未知なる不安と期待からか。求められることの嬉しさに肌が粟立つ。
くすりと微笑んで私の首に顔を寄せると、アンドリューはぺろりと舌を這わせた。
ぬるりと熱い感触に思わず手で首を押さえたけれど、その指もぱくりと食べられ、ちゅうっと吸われてしまう。
「わっ、……ちょ、殿下」
「何、ティア?」
色とりどりの花で彩られた庭園と澄み渡った青空。
とても爽やかなこの場所で、ひとり甘ったるい空気を醸し出し、なんで止めるんだとばかりに眉根を上げる不埒な王子。
「そのっ」
まごついている間に、ちゅうっともう一度キスをされる。
「ティア。ほら、もっと」
「アンドリュー殿下……ふわっ」
不埒な王子の舌が、するすると私の舌に絡まってくる。
「声、かわいっ。戸惑っているのもそそる」
「そそっ、……んんっ、はなし、は?」
話す隙も与えてもらえない。キスの合間に口内をぐるりと舌で撫でさすられて、息も絶え絶えだ。
「ん? 話も大事だけど少しでも俺を刻みつけたくて」
「外、なんですが?」
「わかっているが、二人きりだから問題ないだろう」
笑みを深め、にぃっこり笑顔のアンドリュー。
隠れ俺様めっ! 見て、このいい天気。こんな中でやたら攻められる身にもなってほしい。
私は顔が熱くなりながらも文句を言おうとしたが、くすぐるように舌を這わされてはくはくと口を動かすことしかできなかった。
ふっと余裕の笑顔で、じっと私を見つめる王子が恨めしい。
再びアンドリューは覆い被さってくると、今度は私の耳を食みぞくりと甘い声を落とす。
「ティアは俺を感じていたらいい」
「んんぅーっ」
なに、そのエロボイス。言葉にそそのかされるようにぶるりと身体が震えた。
顔面もだが、声もいい。
なにより、青の双眸が熱情を孕み、私だけを見つめてくることにきゅうっと胸が高鳴る。強引なことをされているのに、本気で腕を振り解こうと思えない。俺様だけど、優しく手頼りになるこの王子を意識しないではいられない。
「どうもティアはすぐに忘れるようだから、毎回しっかりと教え込まないとな。晴れて婚約者となったことだし、もう一歩進んでも大丈夫だろ」
「んんっ、それは」
私の年齢やしたいことを考慮し、王子なりに手加減をしてくれていたようだけれど、王子の一歩はやたらと大きく心臓に悪い。
「忘れる暇もないくらい俺のことをもっと、な? 前回少しはわかったのかと思っていたのだがまだ足りなかったようだ。なら、遠慮なんていらないよな?」
「じゅ、うぶん、足りてます」
「その言葉は何度も聞いたが、俺の十分とティアの十分は違うということがわかった」
さらに口の中を貪られ、気持ち良くて思わず王子の舌を追いかけるように吸い上げた。
「……ティア、上手。だけど普段の反応は初心なのに、その反応はちょっと気になるな。まさか、経験があるはずないよな? 今も外のことばかり気にしているし、余裕がないように見えて実は余裕ある?」
いや、そこ? 変なところで疑いの目を向けられ私はむっとする。
普通にキスにドキドキしていますけど? 外だから周りを気にするに決まっているし、こんなことをしているのはアンドリューしかいない。
そもそも、慣れさせたのは誰だという話だ。
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