【本編完結】自由気ままな伯爵令嬢は、腹黒王子にやたらと攻められています

橋本彩里(Ayari)

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魔力検証

やっぱりこうなります②

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「帰ったら一緒ですよ?」
「そうですが、まだまだ一緒に過ごした時間は伯爵家のご家族には勝てませんから。少しでもともにいて、私が一番ヴィアのことを知っていると言いたいんです。馬車での旅なんてとても楽しい一時をヴィアと離れているなんて考えられませんね」
「ですが」
「私からヴィアとの時間を取らないでくださいね」

 くっ。真顔で言いますか?

 どれだけ姉が好きなんだ。いいのだけどさ。いいんだけどさー。
 目の前でそんなことを繰り広げられて、姉と一緒にいたいなんて声高々に主張して邪魔するなんて私には無理。

 それにしても、まるで伯爵領では遠慮していたとの発言だが、あれで? である。
 副隊長たちが赤カブになるくらいのことをしといてというツッコミをしたいところだけど、恐ろしくてできない。

「ヴィア。私と一緒に馬車へ行きますよね?」

 そう問いかけたあと、ぽそぽそと姉の耳元へとささやくオズワルド。蠱惑的な紫の瞳はずっと誘うように姉を見ている。

「………………ですが、いいですか?」
「むりです」

 ぼっと顔が赤くなり顔を横に振るシルヴィア。いったい何を言われたのか。

「では、一緒に乗りますね?」
「そうしますっ」

 オズワルドの駄目押しに姉は小さく頷くと、とても申し訳なさそうに私を見た。

「ティア。ごめんね。また今度ゆっくりお話ししましょう」
「そうですね。わかりました」

 なにやら大変そうなので、逆にエールを送る気持ちで頷いた。
 オズワルドは銀の髪を耳にかけると、謎めいた紫の瞳をふわりと柔らかに緩めこちらを見る。
 これまた滅多に見ることのできない麗しいご尊顔に、ま、まぶしぃぃっと私は目を眇めた。

「フロンティアはいい子だね」

 うわーん。推しに褒められたけど、その美声ぞくぞくします。
 非常に満足したようでなによりだが、何もするなとは言わないけれど姉を労ってあげてほしい。

「話がまとまったな」

 姉の心配をしていたら、横にいるにもかかわらずすっかり存在が薄れていたアンドリューにがっしりと抱えられた。
 膝裏に腕を入れ持ち上げられ、アンドリューと顔が近くなる。

「殿下!?」
「夫婦で一緒に乗るそうだし邪魔をしてもな。こちらもこちらでたくさん話すことがあるから丁度いい。仲良くなるにはいろいろとな」
「…………」

 下ろしてほしいと視線で訴えるが、なにやらちょっとご機嫌斜めなアンドリューがにぃっこりと微笑む。
 爽やかすぎて逆に黒いと思うのは気のせいかな。
 瞬きを繰り返しどう言えば正解かと考えている間に、アンドリューがわざとらしく「あっ」と声を上げる。

「それに行きはティアに合わせて途中で止めただろう? ティアも俺に慣れてきたし、やはり帰りはさらに仲良くなるためにもっと話し合いが必要だ」
「…………」

 その『話し合い』や『仲良く』は、私が思う会話だけではないのは、アンドリューのニュアンスで伝わってくる。
 王子曰く、スキンシップも大事にしたい派だそうだし、それも含めての話し合いということはわかっているだろうって圧がすごい。
 やっぱりご機嫌が少し悪くてブラックが出てる気がする。
 私は困り果てて眉を下げた。

 身体はすでに王子に確保されているし、逃げるに逃げられない。
 アンドリューが優雅に微笑み、顔を近づけてくる。吐息がかかるほどの位置までくるとさらに笑みを深めた。

「ティアも憂いは少し晴れたことだし、俺たちは今同じ方向に向かっているのだから仲良くなるために協力していくべきじゃないか?」
「…………」
「だんまり? それはそれで俺の好きなように解釈するけど?」

 にこにこにこっと微笑む爽やかな王子様。
 爽やかすぎて、逆らえないってある? やっぱり腹黒だ。俺様だー。

 どこどこどこと心臓が早鐘を打つ。二人っきりになったら何をされるのか、未知なる恐怖が押し寄せてくる。
 それでもすべてが嫌ではなくて、どこか期待もあって、でも助けてほしくて、私は姉へと視線をやった。

「ええぇぇぇーっ。ヴィア姉さま~!!!!」

 すでに姉は馬車へと連れ込まれる寸前だった。
 やっぱり一緒にぃぃぃ~と咄嗟に言いたくなったけれど、苦笑を返されティアも頑張れとばかりにほわっと微笑まれる。

「どうやらティアはもう一度わからせてほしいようだな」
「そんなっ」

 さらにアンドリューの爽やか腹黒さが増している。なんで!?
 困ったときは隊長と視線を下げると、ふりふりと手を振られる。
 これはそんなに嫌がっていないって推し量られてる? ……え? うそっ。

 ────もう、もう、もう、もう、恥ずかしすぎるんですけど。

「隊長ぉっ~~!!」

 私の切実に救いを求める声が、蒼穹そうきゅうに吸い込まれていった。



※次ページはkouma.イラストお野菜ズです。
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