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1巻
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しおりを挟むプロローグ 王子に猛攻を受けてます
「わぁぁぁ、こんなところで何をしようとしてるんですか!?」
「何って、そのままだけど」
私はほいほいと甘言につられて、こんなところまでついて来てしまったことを後悔していた。
きゃあーなんて可愛らしい声を上げるでもなく、ぐぬぬぬっとこれ以上距離を詰められてなるものかと目の前の男の胸を押す。
こちらの必死の抵抗を歯牙にもかけず、余裕を見せつけるかのごとく麗しげに、ふっと笑う。その姿が気障ったらしく映らないのは、持って生まれた品格と美貌のおかげなのだろう。
目の前にいるのは金髪碧眼のまさに絵本に出てくるようなザ・プリンスという姿の青年だ。実際王子なのだが、そんなことはどうでもいい。
そんなに強い力で掴まれているわけではないのに、ぴくとも動けないこの体勢。
「ティア。ほら、こっち見て」
ついっと顎を掴まれ上を向かされる。するりと長い指で口の形を確認するようになぞられ、私の唇はふるりと震えた。
意味深な行動に早鐘を打つ心臓を押さえつつ、はわわわと口を開けた。
前世の記憶がある私は、その当時していた乙女ゲームの攻略対象者である王太子殿下に現在攻められていた。
しかも、私はゲームに登場するモブの妹。まったくゲームに関係しない人物だ。なのに、目の前の王子は私が愛しいのだとじっと見つめてくる。
人差し指と親指でふにゅっと唇を摘まれて指の先が歯列に当たった。慌てて口を閉じようとするとわざと触れてくる。
器用な王子は小指でキスがしやすいように私の顎を持ち上げると、にこりと微笑み顔を近づけてきた。
どこまでも透き通るような空色の瞳が私を映し出し、こんなときなのにやっぱり綺麗だなと見惚れていると、こつんと額がぶつかり思わず気恥ずかしくなってぎゅっと目を閉じた。
プラチナブロンドの髪がさらりと私の横顔に触れ、ふわりと唇が重なる。
何度かされたそれはまったく慣れる気がしない。なによりここが外で、いつ誰に見られるかわからないためさらに恥ずかしさが増す。
思わず息を止めると、触れ合った唇を離した目の前の王子はくすりと微笑んで私の首に顔を寄せるとぺろりと舌を這わせた。
ぬるりと熱い感触に思わず手で首を押さえたけれど、その指もぱくりと食べられ、ちゅうっと吸われてしまう。
「んっ」
じっとこちらを見つめながら指を舐められるなんて恥ずかしすぎる。
触れられたところから火が出るほど熱くなった。
「わっ、……ちょ、殿下」
「何、ティア?」
本来なら気軽に話しかけられる相手ではないのだが、今更だ。
色とりどりの花で彩られた庭園と澄み渡った青空。
とても爽やかなこの場所で、ひとり甘ったるい空気を醸し出し、なんで止めるんだとばかりに眉根を上げる不埒な王子。
色気ダダ漏れで私に迫るこの王子の評判は、整った容姿を持ち歴代の王族に引けを取らず優秀で品行方正と評判な方のはずなんだけど……
「そのっ」
まごついている間に、ちゅうっともう一度キスをされる。
「ティア。ほら、もっと」
「アンドリュー殿下……ふわっ」
不埒な王子の舌が、するすると私の舌に絡まってくる。
「声、かわいっ。戸惑っているのもそそる」
「そそっ、……んんっ、……はなし、は?」
話す隙も与えてもらえない。キスの合間に口内をぐるりと舌で撫でさすられて、息も絶え絶えだ。
こういうときっていつ呼吸すればいいのかわからないし、王子の猛攻に押されっぱなしでろくに意思を主張できない。
「ん? 話も大事だけど少しでも俺を刻みつけたくて」
「外、なんですが?」
「わかっているが、二人きりだから問題ないだろう」
笑みを深め、にぃっこり笑顔のアンドリュー。
隠れ俺様めっ! 見て、このいい天気。こんな中でやたら攻められる身にもなってほしい。
私は顔が熱くなりながらも文句を言おうとしたが、くすぐるように舌を這わされてはくはくと口を動かすことしかできなかった。
ふっと余裕の笑顔で、じっと私を見つめる王子が恨めしい。
再びアンドリューは覆い被さってくると、今度は私の耳を食み、ぞくりと甘い声を落とす。
「ティアは俺を感じていたらいい」
「んんぅーっ」
なに、そのエロボイス。言葉にそそのかされるようにぶるりと私の身体が震えた。
顔面もだが、声もいい。
なにより、青の双眸が熱情を孕み、私だけを見つめてくることにきゅうっと胸が高鳴る。強引なことをされているのに、本気で腕を振り解こうと思えない。俺様だけど、優しくて頼りになるこの王子を意識しないではいられない。
気持ち良くて、思わず王子の舌を追いかけるように吸い上げた。
「……ティア、上手。だけど普段の反応は初心なのに、その反応はちょっと気になるな。まさか経験があるはずないよな? 今も外のことばかり気にしているし、余裕がないように見えて実は余裕ある?」
いや、そこ? 変なところで疑いの目を向けられてむっとする。
普通にキスにドキドキしていますけど? 外だから周りを気にするに決まっているし、こんなことをしてくるのはアンドリューしかいない。
そもそも、慣れさせたのは誰だという話だ。
「ティア」
反応のない私に焦れたのか、王子が笑いながらも声を潜めて先を促す。
ついでに、反対の耳をかじっと噛んでいく。手を抜くことを知らないらしい。
「は、はじめてっ、殿下しか知らないし余裕なんてない、です」
「そのわりには慣れてる?」
だから、さっきからその余計な嫌疑をかけてくるのはなんなのか。
本気でそう思っているわけではないだろうけれど、散々私を振り回す目の前の王子に言われるのは面白くない。
「慣れてないっ、です。本とかでどうするか知ってる、だけ」
「ああー、なるほど。ティアの知識の幅には恐れ入るが、こっちの勉強は俺としような」
声だけで、その瞳に見つめられるだけでドキドキする。
アンドリューは満足したように微笑み、私の唇を親指でなぞると、そのままぐいっと指を口に突き入れてきた。
舐めろ、とばかりに舌の上にこすりつけ、今度は人差し指も突き入れて私の小さな舌を引っ張り、こねくり回す。
「ひっ、んんーっ」
たかが指。だけど、アンドリューにされていると思うとおかしな気分になってくる。私はもうわけもわからず首を振った。
王子の話や「こっちの勉強」なんてとんでもないことを言われているとわかるのだが、意味を理解する余裕がない。
ようやく外れた指に安堵してふはっと息を吸う。その途中にさえ唇を深く奪われた。
「んっ、んんっ」
苦しげな声を喉の奥で上げるも、容赦なく蹂躙される。
キスはこれまでに散々されてきたので、こういうときはどうすればいいのかはわかっている。
私は溢れ落とされる唾液をこくりと飲み込んだ。
「ティア。いい子。大きく口開けて」
まだするの?
そうは思うが抗えずに口を開くと、さらにぐいっと舌が押し入ってきた。耐え切れず王子にしがみつくと、じゅるっと唾液を吸いながら追い上げられる。
「んんんっ……」
ようやく解放され乱した息を整えていると、私のとろけきった様子に目を細めた王子が、ちゅ、ちゅっと頬にキスをしてくる。
完全に王子に身体を預け、されるがまま甘えたように王子に寄りかかり、ようやく息が整ったところで久しぶりに目の前の景色が脳へと届く。
「ティア、可愛いな。もっと奪っても?」
それと同時に、首筋に浮いた汗をぺろりと舐められて、一気に恥ずかしさがこみ上げてきた。
──うわぁぁ、ここ、外なんですけどー。初心者にはハードル高すぎない? これ以上は心臓が壊れてしまう。
私は羞恥で顔から湯気が出そうになりながら、王子を渾身の力で突き放した。
「おいっ」
「何、するんですかーっ!」
「何って、キスだな」
突き放したつもりだったのに、実際には王子の身体は軽く傾いただけですぐに姿勢を戻した。にっと笑むと入れていた指をぺろりと見せつけるように舐め上げる。
「ひぇ、キスにしては、しつこっ、えっと、急というか」
「ティアが目の前にいたらいろいろしたくなる」
「いろいろ……」
悠々と微笑み、つつつつっと私の唾液で濡れた指で頬を撫でられてあわあわと慌てふためいた。
「散々俺にいろいろされてきたのに、いつまでも初心な反応をするところにもそそられる。年頃の男の欲をなめるなよ」
「ひやぁっ。……真面目な顔で言われてもちっとも心に響きません」
いや、欲をなめるなって、そんな堂々と宣言されても困ります。まったくもって響きませんから!
この国の王子ともあろう人が、何を言っているのだろうか。
「響かなくても男の本能はそんなものだ。それに俺は心から欲しいと思ったものは全力で取りに行く主義なんだ。覚悟しろ」
「む」
「む?」
「無理ですぅぅ~っ」
命令口調がとても似合う、意思の強さが宿った瞳。その瞳に正面から見つめられてうっかりときめきそうになった。危ない。
でも、無理。私、知っているんだから。
愛を免罪符に、今みたいにどこでもお構いなく盛って本気になったあなたの相手が羞恥まみれになるってことを!
好きなことと受け入れることはまた別ものだ。
アンドリューがさらに顔を近づけ、手が思わぬところに伸びてこようとした。
これ以上はもう心臓が爆発しそうだ。じっとしていられない。
私は渾身の力を振り絞り今度こそ押しのけ、王子のもとから全力で逃げ出した。
第一章 前世の記憶と乙女ゲーム
私、フロンティア・ロードウェスターは、国の北部に位置する小さな領地を所有する伯爵家の次女として生まれた。
爵位のある貴族といえども財政は決して豊かではない。はっきり言えば貧乏で、地産地消でなんとかやりくりをしている慎ましやかな家柄だ。
のほほんとした両親のもとで、二つ上の穏やかでしっかり者の姉とともに、決して贅沢はできないが最低限の貴族としての礼儀を学び、あとはのびのびと過ごしていた。
気候のせいか、土壌のせいか、よく食卓に並ぶ野菜があまり美味しくないことが少し不満だったが、食べられないこともないしそういうものだと思っていたので気にもしていなかった。
そんなある日、私はふと前世の記憶を思い出した。
物語でよくあるような頭をぶつけたなどではなく、ある日、ふとそうだったなってくらいに突然あっけなく。
「うわぁ。思い出し方、かるっ」
思わず自分で突っ込んでしまうくらいさらりと思い出し、私はわけもなく天井を見つめた。
一気に押し寄せる記憶は脳内に混乱を呼び起こしたけれど、周囲に気づかれることもなく少しずつ情報を整理して、あっという間に受け入れた。
転生したとしても、今はフロンティアとして生きている。私にとって、記憶はただの記憶だった。
流れてくる情報も大抵はそうだったなぁくらいの懐かしい思い出ばかりだったが、その中に少しだけ受け流せないことがあった。
正確には妙に納得したことと、気になることの二点のみ。
前世を思い出してそれだけというのもいささか情緒がないかもしれないが、終わってしまった人生だと理解しているし、特にやり残したこともない平凡な大学生だったので、現実としてはこんなものだ。
そんな私が気になることは、見過ごすには大事だった。
「うわぁぁ、そんなことあるんだぁ」
その可能性に気づいたとき、思わず頭を抱え込んでしまうほど考え込んでしまったが、次第に少しずつ頬が熱くなる。
いろいろ思い出した上にはしたなく妄想してしまい、とうとう堪えきれず「うわぁぁぁっ」と興奮の声を上げた。火照った頬が熱くて、ぱたぱたと手で扇ぐ。
その情報は、当時十三歳の私には刺激が強すぎた。
「ここって、乙女ゲームの世界であってる?」
しかもだ。前世でよくしていた大人向け乙女ゲームの世界である。
それに気づき、思わず、うわぁぁなんて巻き込まれた主役級の反応をしてしまったけれど、よくよく考えるまでもなく、私の生きる世界にはまったく関係がなかった。
「いいのか悪いのか……」
そのゲームは『愛欲に濡れて~愛するあなたをとろとろに~』というタイトルで、何色に染まりたい? と煽り文句が書かれ、愛のバロメーターが上がれば上がるほど、とろとろに愛されるという内容だ。
攻略対象者によっては、場所など関係なくとろとろのどろどろに愛でられる。
愛あるエロが大好物だったので、大学生になって速攻購入しやり込んだ。
勉強の息抜きになんて言いながら、がっつり嵌っていた。もう、好みのイラストにドストライクの声は萌えに萌えた。
魅惑ボイスに攻略対象者たちのさまざまな攻め具合と性癖のバリエーションは、本当にうっとりするほど良かった。はぁ~……、今思い出しても、楽しすぎる時間だった。
こほん。何が言いたいかというと、総じてこのゲームは乙女の欲求を刺激し満足させてくれる内容だったということだ。
乙女ゲームの世界である学園を覗いてみたい気持ちは大いにあるが、ヒロインや攻略対象者たちとそもそも学園に行く時期は被らない。
つまり、彼らの性格や性癖がどうとか、シナリオ通りかどうかもわからない。
「オズワルド様、見てみたかったんだけどなぁ~。溺愛系絶倫。攻略対象者の中でダントツの美貌と銀髪。すっごい色気あるし、愛してる人以外には冷たい仕様とかすっごくいい! あと、外せないのはやっぱりアンドリュー殿下かな。爽やか完璧王子は実は腹黒俺様なんてギャップが良かったし。どこでも攻めてくるのとかすっごく良かった~」
思い出すと、きゃっと頬がまた熱くなる。
ただ、画面越しで見ている分にはいいけれど、実際そんなところを覗き見たいかと聞かれれば、否。
その攻め方がゲーム仕様なのかはわからないが、それぞれ癖が強すぎてどれだけ魅惑的な人物でも、実際の相手としてはごめんこうむりたい人たちばかりである。
どちらにせよ、前世の乙女ゲーム情報を思い出したところで、私にはまったく関係ないということを理解した。
「それよりも、こっちのほうが私にとって問題かもっ!」
バンッと部屋の扉を開け、姉のシルヴィアのもとへと駆け出した。
廊下を駆けノックもせずに白い扉を開けると、窓辺に近い椅子に座りゆったりと本を読んでいた姉のシルヴィアが、驚いたように目を丸くしてこちらを見た。
姉は私の無作法を気にもせず、私が乱した息をふぅっと整える姿を目にして、ふふっと笑う。
「ティアったら、今度は何かしら?」
「ヴィア姉さま、私、思い出したんです」
「また唐突だけど、そんなに慌ててとっても大事なことなのね」
「そうなんです!」
こくこくと頷き、座るように促された姉の前の椅子に腰掛けた。
姉はそれと同時にすくりと立って、お湯の入ったポットに魔法をかけて温める。
貧乏な我が伯爵家は使用人も少なく、その分一人当たりの仕事量も多い。そのため、些細なことで呼びつけるのは忍びないと、魔法の使用に長けた姉自らがカップも温めて紅茶を注いでくれた。
「これでも飲んで落ちついて」
「ありがとうございます」
ふわり、と甘くて爽やかな香りが鼻をくすぐる。香りだけでリラックスできるいい匂いだ。
一口含み、ほぅっと息を吐き出し、勧められるままにナッツ入りクッキーにも手をつけた。
キャラメル色の髪を今はひとつにくくって横に流した二つ上の姉の姿は、妹の自分から見ても洗練されている。
姉の瞳の色はエメラルド、私の瞳は緑は緑でも黄色がかっている。二人ともぱっちり二重だ。くるんとカールした長い睫毛に縁取られた目の形など似ていると思うし、同じキャラメル色の髪なのだが、姉よりふわふわした柔らかい毛のせいで猫っぽいと言われることもあった。
シミひとつない白い肌にほどよい高さの鼻、ピンクの健康そうな唇と一つひとつのパーツは似ているのに、与える印象が違うロードウェスタ―家の姉妹は、非常に仲がいいことでもよく知られていた。
ほんわかとし、落ちついた雰囲気の姉に比べ、私はよく動き明るく元気だと周囲に言われる。
私が落ちついたのを見計らって「それでどうしたの?」と、にこっと笑った姉が軽く首を傾げる。
いつもどんな話でもバカにせず聞いてくれる、落ちついた優しい姉を見て、ヴィア姉さま、めっちゃ好きだぁー、と姉が大好きな私は心の中で叫ぶ。
姉さまの安穏な学園生活は守ってみせるわと、私は意気込んだ。
「ヴィア姉さまは、学園の噴水の中に教科書が落ちてるのを見つけ、教科書がなくなって困っているヒロインと揉める悪役令嬢たちに教科書があったと告げるモブだったんです」
「悪役令嬢? モブ? どういうこと?」
唐突な話に、姉はいつものことだと特に気にした様子もなく疑問のみを口にする。
私は前のめりで、姉に話しかけた。
「この前に前世の記憶を思い出したって言っていたでしょう? それでその記憶を整理し終えて今日また新たに大事なことを思い出したんです」
「大事なこと。……それで悪役令嬢やモブというのは何?」
「悪役令嬢は主人公に意地悪をする令嬢で、モブは物語にいてもいなくても構わないその他大勢の一人のことです。そして、姉さまはそこでセリフ一言を告げる役割があるモブだったんです」
そうなのだ。そもそも、なぜ物語に関係がないのにここが乙女ゲームの世界だとわかったかというと、姉の容姿に覚えがあったからだ。
どのルートでも、必ずヒロインが教科書をなくすイベントで出てくる、セリフ一言のみの令嬢。落ちついた様子で事実を指摘する。
たったそれだけの登場で名前も何もない人物だったけれど、知的で上品な感じがすごく目を惹いたので覚えていた。
自分が攻略しておいてなんだが、すぐに攻略対象者に絆されぐずぐずにされるヒロインより、何度もプレイするなかで彼女の凛とした姿が好きになり、一場面でも登場を楽しみにしていたほどだった。
天真爛漫と言えば聞こえはいいが、攻略以外は主人公補正で大して努力もしていないヒロインよりは、推しのオズワルドと彼女のほうが似合うとさえ思っていた。
ゲームのやりすぎと受験が終わっても続く勉強で、ちょっと捻くれていたなって今では思う。
瞬きを繰り返しなんとか私の話を理解しようと努める姉に、モブとは成り代わることができる人物であり、その人でなくてもいいけれど、ヴィア姉さまはセリフがあるモブだから、ゲームのシナリオ通りに進むとしたらそのときばかりは強制力で関わる可能性があると説明した。
姉は半信半疑といった感じであったけれど真面目に聞いてくれたし、簡単なヒロインにまつわる話の流れも付け加える。
姉はこれでヒロイン登場とともに混乱する学園に耐性もつくし、心づもりもできてさらっと流すことも可能だろう。
「わかったわ。うーん、そうねぇ、正直あまりよくはわからないけれど、そういう場面に出くわしたらやることやって終わったらいいのね」
「そうです」
ヒロインの行動に貴族令嬢として意味がわからないと首を傾げていたが、攻略対象者の特徴とついでに性癖もたくさん語ったので、姉はドン引きしながらも自分の立ち位置を理解したようだ。
「ずいぶん、変わったお話だったけれど、そうなったらそうなったときですものね。ただね、ティア」
そこで姉は目を細めて、私を見つめた。
なんとなく居心地が悪くなり姿勢を正す。
はぁっ、と小さく息を吐き出した姉が困ったように眉を寄せ口を開いた。
「そういった人様のせ、せっ……」
「ヴィア姉さま、そこは愛で方です」
性癖と口に出せずに口ごもる姉に、これ幸いと可愛らしい言い方に変えてみる。そうすると、自分の萌え具合も可愛らしく感じるから言葉って大事だ。
「そうね。愛で方……、愛で方? んんっ、その愛で方が本当だったとしてもあまりあれこれ語るものではないと思うの」
「うっ、ごめんなさい」
絶倫や外でもかまわずエッチなことをされたり、二人攻めや定番の女嫌いの遊び人などと、やっぱり貴族令嬢のうら若き乙女が話すにはいただけない内容だったようだ。
どうしても好きなものを語ると興奮して周りが見えなくなるのは、前世でもフロンティアになってからも変わらない。
「でも、ヴィア姉さま。愛がある上で欲しがられたり、攻められたりするのって、すごく満たされると思うんです。そういうゲームだったんです。実際がどうとかではなくて、もしかしたら違う可能性だってあるけど、強引なところとかきゅんってするし、むしろエロ特化しだすとそれだけ愛されてるのかなって感じて幸せな気持ちになるんです」
「え、ろ、って。ティア!」
動揺する姉も可愛いが、私の口は止まらない。
「だって、王子とかすっごい攻めてくるんですよ。ぐいぐいです! 噂では品行方正で素晴らしい王太子殿下らしいですけど、親しき相手には言葉が崩れたり俺様全開だったり、そこがギャップ萌えで」
「…………ティア。お口にチャックしましょうか」
少し顔を赤くしながら、姉がしっと人差し指を唇に持っていき、静かに、静かに言った。
――何その動作!?
本当に二歳しか変わらないのだろうかというくらい、姉のシルヴィアは普段から落ちついているけど、頬は照れたようにピンクに染まっている。
少し黙ろうかとばかりにきっと睨んでくる目元は少し潤んでいる。
年相応に恥ずかしいのだろうなと思うとこっちまで少し照れる。
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