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求婚は唐突に1
しおりを挟む絶倫、すなわちお腰が強いということですね。
彼の場合は、愛が重くて重くてそれに比例して精力も増すタイプ。愛を貫き通すタイプで浮気の心配もない人物。
愛という絶倫ぶりを自分にと思うと裸足で逃げ出すレベルだけど、見ている分には美味しい、つまり一推しと妹は興奮していました。
まあ、ほかの方たちがだいぶ特殊なので、彼らと比べるととてもまっとうなような気もしますが……。
始まったら三日三晩、うんちゃらなんちゃらと言っていましたが、本当にこちらに関係のない話ばかりを語ってくれた妹のせいで、殿下とその側近たちを見る目が令嬢としてどうかというくらい変わってしまいました。
さて、妹が言うところの溺愛系絶倫である彼、オズワルド・ハートネット様は公爵家の次男。誕生日はとっくに迎えられたようですので、この国で成人となる十八歳。
殿下とは親戚にあたり家柄はいうまでもなく、殿下の側近ということで未来も安泰。おまけに容姿端麗で釣書が数え切れないほど届いているらしいとのこと。モテる要素しかない方です。
ちなみに私は、ロードウェスター伯爵家の長女で先日十八歳になりました。
見た目も可もなく不可もなく。キャラメル色の髪に、優しい母譲りのエメラルドの瞳。この瞳は自分でもとっても気に入っています。
伯爵といっても領地は田舎の小さな土地ですし、他領に狙われる特産品はこれといってなく、地産地消でほそぼそと暮らしておりますので派閥争いに無縁な家柄です。
なので、ここを卒業したらそこそこの伯爵家や子爵家といったところから長男以外の婿を迎えることになるでしょう。
同じ貴族でも、ハートネット家と比べると月とスッポンくらいの開きがあります。つまり、王族同様、私にとっては雲の上の存在です。
そんなハートネット様は、肩までまっすぐに下りた銀髪、左右対称の目鼻立ちをした整った顔立ちの青年です。
その彼がいつの間にか自分の前の席に座っており、気づけば、友人たちもいません。
まるで人形のように整いすぎた美貌。
殿下も金髪碧眼でまさに王子という感じで美しい顔立ちをしていますが、ハートネット様は人外的でまるで芸術品のようです。一応、褒めてます。
「御用でしょうか?」
「…………」
「ハートネット様?」
じぃーと見つめ微笑みながら言葉を発しようとしない相手に、どうしたのかと首を傾げます。
その際に、ちらりと周囲に視線を走らせれば、申し訳なさそうな顔をした友人たちの姿が見えました。
これもまた最近のパターンとなっており、ハートネット様が来られると、友人たちは気を遣って私たちを二人にしようとするのです。
やめてほしいとは伝えているのですが、ハートネット様のお家柄は公爵家。
しかも、殿下の覚えもめでたいので、言葉にせずとも彼にそういう雰囲気を出されたら立ち去るしかありません。
貴族たるもの、権力には逆らえません。
ここで印象を悪くすると個人だけの話では収まらないこともありますから、友人たちに強くは言えませんが、少しばかり寂しいです。
と、思ったそばから、その権力者たる相手が無理難題を押し付けてきます。
「いつまでも堅苦しい。オズワルドと呼んでください」
「ですが、格上の身分の方にそのようなことは」
「オズでもいい」
「申し訳ありませんが、それは無理です」
話を聞いてましたか?
愛称呼びとかさらにハードルが高いとわかって言ってらっしゃいますよね?
まったく引いてくれない相手に、私は眉をひそめました。
「困りました。この学園では身分関係なく平等にが校風です。それを貴族である我らが実践しなくてはいつまでも広まらない」
「ハートネット様!?」
ひどく残念そうな声音とともに手を取られ、びっくりして目を見開くと、優雅に微笑まれます。
「何でしょうか?」
「手を離してください」
「オズと」
するりと手の甲を撫でるように指を動かされ、声が上擦りました。
「……っ、……オズ、ワルド様」
「仕方がないですね。おいおい、そう呼んでいただくことにしましょう」
ハートネット様改め、オズワルド様は私の手を持ち上げ顔を近づけてこられました。そのまま唇を落とされ、その際にオズワルド様の絶妙な色合いの銀の髪がはらりと落ちていきます。
ドキッと鼓動が打ち、胸のところがむずむずします。心臓に悪い人です。
「ちょっ、何をなさっているのでしょうか?」
正気を取り戻し慌てて手を引こうと試みましたが、すかさずぐっと握り込まれました。
宰相の息子たる理知的な紫の瞳は、じっと私を捉えたまま。
オズワルド様の目元がわずかに緩むと、途端に色気が混ざり私を取り込むかのように熱が絡みついてくるようで、それ以上手を動かすことができません。
こくり、と周囲の誰かが息を呑む音が聞こえました。
見ているのなら、目の前の方をどうにかしてほしいです。
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