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デュークの変化②
しおりを挟む「そう、ですか」
「むしろ、フェリシアが俺に言いたいことはない?」
「……ない、ですよ」
今はまだ。
「そうか。言っておくが、俺はこの先ずっとフェリシアの手を離す気はないから。フェリシアと一緒に過ごしたいと思っている」
にっこり笑顔とともに告げられ、その双眸は思ったよりも真剣で私は目を見張る。
ここ最近告げられる、『一緒』や『ずっと』という言葉に毎回どきりとする。
そして、そのたびに物語との違いは何なのだろうかと考える。
――よくわからなくなってきた……
せっかく期待しなくなったのに、言われるたびにその言葉は蓄積されていきこのままでいいのかと考えることも増えた。
そわそわして何となく一歩後ろに下がると、それ以上に詰められてさらに距離が近くなった。
「どうして近づいてくるのですか?」
「そばにいたいから」
ぐいっと顔を寄せられて、耳元でささやかれる。
無駄に距離が近いし、何よりじっと見つめてくるのは変わらないのにその双眸は常に熱がともっているように思えてどのように反応していいかわからなくなる。
意気込みは嬉しいし、予想もしなかったけれどこれだけデュークがべったりそばにいるならば乗り切れる確率は高まる。
だけど、ずっとはデュークの立場的に無理だろう。
「デューク様、殿下のほうはよろしいのですか?」
「ああ。時間を確保するために準備や交渉はしてきた」
確保できたのか。じゃあ、今までは?
つい、そんなことを考えてしまう。
きっと物語の私は愚直とも言える真面目なデュークに放って置かれ、一人寂しく死んでしまった。
それを思うと、今のデュークに文句を言っても仕方がないのに腹も立つし虚しくなる。
顔にそう書いてあったのだろう。
デュークが悲しげに眉を下げて、がばりと頭を下げる。
「今まで悪かった。これまでの自分の行動の足りなさに本当に申し訳ないと思っている。フェリシアがそばにいてくれたから集中できていたし、フェリシアの寛大な心に甘えていた。これからはフェリシアとの時間をもっと大事にしていきたい」
「デューク様が何事にも真剣に取り組む姿勢は尊敬しています」
そういうデュークだから好きだったのだ。
だから、応援していたし、尊敬していたし、放っておかれても寂しくはあっても詰る気持ちはなかった。
『死に役』『盛り上げ役』となる未来を知ることがなければ、それはずっと変わらなかったはずだ。
「ああ、フェリシア。そんなことは言わないでくれ。もちろん、職務は疎かにしないが、それ以外はフェリシアのために、何より俺が少しでも長く一緒にいたいんだ」
「私は……」
今までのように放っておいてくれてもいい、とはさすがにここ最近のデュークの行動に助けられてきたので言えない。
今までと違い、婚約者としてではなく私を思って言われているのだとわかる言葉に嬉しい気持ちと、毎度心を乱されて苦しかった日々を思うと今さらなのではという気持ちの両方がせめぎ合う。
好きだからどうしても切り離せなくて、動かれるたびに揺れる。
期待しないでおこうとそうできていたはずなのに、心の奥がとくんと音を立てる。
やっぱりずるい。勝手な人だ。
好きをやめさせてくれない相手に腹も立つ。
ふんすっと自分でもよくわからない息が口から漏れた。
思うこと感じることがぐちゃぐちゃしているけれどその息は今までのものより軽くて、気分もそう悪くない。
それもまた腹が立つ。
「可愛い」
むぅっと自然と頬が膨らんでいたらしく、頬を繋いでいないほうの手でつんつんと突かれてデュークの口から幻聴が聞こえた。
押された頬が時間差で温もりを感じる。
「えっ?」
「俺の婚約者は可愛いな」
デュークの口から出た言葉とは信じられずがばりと振り仰ぎ凝視すると、密に揃った睫毛が自分のすぐ目の前で瞬き彼の笑みが深くなる。
それから、ゆったりと言い聞かせるように繰り返す。
「フェリシアは誰よりも可愛い。俺にとってはフェリシアが絶対だ」
「なっ!? 今までそんなことは一言も」
「口にしたことはないが、ずっと思っていた」
ぼぼぼっと頬が熱くなる。
火が噴いてしまったかのようで、熱の逃がし方がわからない。
――こんなの、どうしたらいいの?
顔を扇ぎたいのに、両手を掴まれて膝をついたデュークに顔を覗き込まれた。
周囲がざわりと色めき立つのを感じたがそれどころではない。
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