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誤算と決意②
しおりを挟む「ですが、あれは……」
「ジャクリーン。デューク様の視線は気にしないでください」
「まあ、そうよね。用があるなら自らフェリシアのところに来ればいいだけのことよね。今までフェリシアがそうしていたようにね!」
ジャクリーンとはさらに仲良くなって、今は互いに敬称なしで呼ぶ仲だ。
ちくっとデュークに対して嫌みを告げるそれは、私の立場を慮ってのこと。絶対的な自分の味方の存在に、ざわざわしていた心が少し凪いだ。
「デューク様の性格上周囲を振り切ってまでは難しいかと……」
「まあ、隣国関係は気を使うのでさすがにそれをしたらダメよね。ちょっと同情します。殿下もかなり疲れているようでしたし」
水の出し方や交通ルールなど、文化の違いもあって使っている物を含めた説明が思ったよりも必要になっている。
ベリンダの事故も認識の違いと不幸が重なって起こったようだ。
「少なくとも私からはもう動きません。それよりもデューク様の態度も関係してか、周囲のほうが私たちの動向が気になるようなのが困ります」
「フェリシアがウォルフォード様のもとに訪れなくなって一か月、その変わりようにほかの女性がそばにいるとなるとどうしても気になるのでしょうね。しかも、ウォルフォード様はフェリシアをしょっちゅう熱い眼差しで見ているし。今までの関係性が変化したのは誰が見てもわかりますので」
「そう、なんですよね」
誤算だったのは、デュークを挟んで私対ベリンダの構図が出来てしまったことだ。
ここにきてデュークは何やら熱っぽく私を見るし、彼の周囲にはヒロインとなるベリンダがいる。
正確には彼の、ではなく彼らなのだけど、あまり人と、特に女性と話さないデュークが私以外の女性と話すことが周囲の関心を引いた。
デュークの立場を私はわかっているつもりだ。周囲の好奇心による噂のように、私の代わりに彼女と話しているなどとは思っていない。
この国の王子クリストファー殿下の側近として、隣国の王子パーシヴァル殿下の従妹であるベリンダをデュークが気にかけるのは当然のことだ。
パーシヴァル殿下も彼女も国賓となるのだから、心を配り安全にこの国で楽しんでほしいともてなしているにすぎない。
しかも、デュークは彼女が来訪したその日に彼女の危機を救ったヒーローである。ほかの側近よりも二人の関係が強調されるのは当然のことであった。
「あまり気にせずフェリシアはフェリシアの思うように動いたらいいわ。今まで頑張ってきたのだもの。これからはフェリシアの好きにしていいのよ。少なくとも、私はフェリシアを応援しているからね」
「ありがとう。ジャクリーンと友人になれて、そして好きなこともできて今とっても楽しいの。だから大丈夫」
興味本位の人もいるけれど、周囲の大半は心配してくれている。
フェリシアがデュークのことを好きであることは態度で周囲も知っていたし、婚約しているので当然のように受け入れられていた。
よくデュークのもとに通っていたのは事実なので、通わなくなって一か月はどうしたのかと聞かれることはあってもここまでではなかった。
――なかなか思うようにはいかないものね。
デュークを諦めたいのに心を乱される。
前世の物語の記憶がちらちらと脳裏をよぎり、二人を同時に視界にとめると突きつけられる。
けれど、そればかりを考えていられない。
隣国というワードを思い出した時から隣接している五つの国の歴史とこの国との関わり、我が家やウォルフォード公爵家にどんな関わりがあるかどうか含め情報収集はしていた。
そして、今回の国際交流の国のことも当然調べてあるけれど、交流を絶っていたこともありわからないことが多かった。
だけど、新たな記憶を思い出し、来訪者が誰かがわかった後すぐに情報は仕入れてある。
このたび、この国にやってきた人数は十五人。男とあったので、王子はさすがに除外。女性も除外すると十人。
性格まではわからなかったけれど、家柄や彼らの関係性はある程度はわかった。
それだけでは足りないだろうと訝しまれたけれど家族にも訊ね、さらに詳しいことがわかるように情報ギルドにも依頼してあるので、その情報が揃えばもう少し見えることがあるのではないかと思っている。
いつ、誰が、私を殺そうとするのかと考えると怖くて、恋心だけでなく背後から忍び寄る恐怖に心がすくみ上がりそうになるけれど、運命に立ち向かわなくては物語に呑み込まれてしまいそうなので頑張ることに決めた。
あと、いざという時のお守りとして武器にもなりそうなアクセサリーをポケットに忍ばせている。
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